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降り注ぐ日差しに片目をすがめる。広々とした校庭には生温かな風が吹いていて、わずかな砂埃が立ちこめていた。
周囲を見まわすと、監視のためにいる数名の教員たちと、野次馬根性で集まった生徒たちが目につく。
昨日言い渡された、特別顧問との模擬戦がこれから行われる。指名された身としては、よくもこんな面倒事を押しつけてくれたなと愚痴りたい。
「リオン。無茶だけはしちゃダメだよ」
授業もなく、時間が空いているから観戦にやって来たルリアは、胸の前で手を組むと心配そうに声をかけてくる。
「やるからには、勝ちにいけよな」
ダインはボソボソと小声ではあるが、応援してくれる。
「リオンお兄ちゃん。わたしたちの愛の前に敵はいないよ」
ノエルは何を言っているのかわからない。
俺が友人たちからの声援を受けていると、周りにいる生徒たちのざわめきが静まり返った。
……どうやらお出ましみたいだな。
正面に並んでいた生徒たちが左右に割れていき道をつくる。奥のほうから数名の教員をともなって、歩いてくる人影があった。
夜の闇から抜け出てきたような漆黒の全身鎧を装着した人物がいた。華奢な形状だが、その動きは流れるようにすべらかだ。
先日装着したカナタノシロガネは聖騎士みたいな外見だったが、それとは真逆の印象。あの漆黒の鎧は、物語のなかに登場する暗黒騎士を彷彿とさせる。
勇者の鎧を装着しているので中身は確認できないが、見た瞬間に鳥肌が立った。他の生徒たちも同じようだ。みんな息を飲んでいる。それだけあの漆黒の鎧からは、底知れない力を感じる。
特別顧問だけあって、相当できるみたいだ。
模擬戦の相手が現れたので、ルリアたちは俺から離れていく。漆黒の鎧の周りいる教員たちも、距離を取っていた。観戦に来た生徒たちも危険を感じ取ったようで、後退していく。
「ん?」
視線を感じた。
正面に目を向けると、漆黒の鎧が値踏みでもするように、こちらを凝視している。
「……フッ」
鼻で笑われてしまう。どうやら高評価は得られなかったようだ。
そんなことでいちいち腹を立てたりはしないので、これといって反応はしない。
「クロノハオウ。外にいる勇者候補のなかでも、実力と功績を認められた者だけにしか授けられない最新型の鎧だよ。学生用のアオハガネとの性能差は、比べるのもバカバカしくなるね。まぁ、今回の模擬戦はクロノハオウの戦闘情報を収集するのも兼ねているんだろうさ」
いつの間にか傍らに立っていた怪しげな中年もとい、ヘーレスがニヤニヤと笑いながら、相手が装着している鎧について講釈を垂れてくる。
「そんなのと俺を戦わせようとしているんですか?」
両目を細めて湿っぽい眼差しで睨みつける。模擬戦に推薦されたことへの不満をぶつける。
「ルリアくんやダインくんでは一方的にやられてしまい、重傷を負う危険があるからね。誰よりも優秀なリオンくんが戦うのが、一番安全だと踏んだのさ」
どうやらヘーレスなりに、俺たちを気遣っての采配だったらしい。正しい判断だと思う。ルリアやダインでは、アレの相手をするのは荷が重い。
……ったく。このオッサンは腹の立つ言動をするわりには、生徒のことをちゃんと考慮してくれている。本当にムカつく。
おかげでやる気が出ちまったじゃねぇか。
「ありえないとは思うけど、死なないように気をつけたまえ」
ヘーレスは口元に怪しげな笑みを貼りつけながら、右手を差し出してくる。その手には青色の球体が乗っていた。これを俺に届けにきたらしい。
「こんなところで死にませんよ。卒業して、壁の外に行くんですから」
差し出された球体を手に取る。
ヘーレスは笑ったまま後ずさっていくと、周りにいる観衆のなかにまぎれていった。




