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救い

「……これで、全部だ」


 手持ちの結晶を、呪い結晶以外はすべてビニール傘に注ぎ込んだアタルは、閉じた傘をいまだにけたたましい音を鳴らす扉に向ける。


 扉の前ではルルが待機し、アタルの方を向いていた。


「作戦は大丈夫だよな?」


 アタルの問いかけに、ルルは力強く頷いた。


 今からアタルたちは、部屋の外にいる『悪意に濡れた獣』との戦闘を決行しようとしている。


 そのために現在の主要武器であるビニール傘を可能な限り強化し、良くお世話になっている栄養バーの『一本朝食バー』で補給をしてHPも回復して今できる限りの準備を行った。


 緊張で震える体を無理やり抑えて、気合を入れなおす。


「ルル、やってくれ!」


 アタルの言葉に頷いて、ルルが飛び上がるとドアノブを掴んで捻った。


 すると勢いよく扉が開かれ『悪意に濡れた獣』が部屋の中に飛び込んできた。


「ぶっとべえぇぇぇ!!!!」


「きゃうぅん!!」


 ルルがすでに射程範囲外に逃れたことを確認してから、すぐ目の前まで迫る獣に対して傘を開く。


 すると初めて強化後のビニール傘を開いた時と同じように傘の目の前に暴風が吹き荒れ、あたりの壊れた椅子や床を転がる小物と共に獣を吹き飛ばした。


「よし、これで……」


「グルルゥ…… バウッ!!」


「まだか! ルル!!」


 アタルの傘と共にボロボロになっても、獣の闘志は折れなかったようだ。獣は再び立ち上がり攻撃手段を失ったアタルに食らいつこうととびかかる。


 だがそのことも想定していたアタルの掛け声とともに、ルルがとびかかる獣の横腹に水球をぶつけて吹き飛ばした。


「『修復』! ……悪いな」


「ギャウッ……」


 アタルはビニール傘を両手で握りしめ、思い切り獣の頭に振り下ろした。


 目を背けたかったが、相手の命を奪うのであれば最期まで見届けようと目は逸らさなかった。


 打ち所がよかったのか悪かったのか、一撃で動かなくなった獣は、やがて塵となってその場に結晶を残すのであった。


「……これで、終わりか」


 獣を倒し、残った結晶を拾い上げる。


 たとえ自らに襲い掛かってきた、灰となって消える存在であっても、生き物の姿をした存在に手をかけた感触が残るのはアタルにとってあまり気分のいいものではなかった。


 だがこうやって考えていられるのも、生き残れたからだと気持ちを切り替えて、周囲を見渡す。


「……終わったぞ、これでよかったのか?」


 そして目的の幽霊を見つけて声をかける。


 彼女は先ほどまで獣が貪っていたものの傍で呆然としていた。


 なんとなく何かを察しながらも幽霊に近づくアタル。彼女の見つめる先には、ボロボロになった制服のようなものも見え隠れしていた。


「これは、お前…… いや、君なのか」


 アタルの問いかけに、再び血の涙を流す幽霊。


 その光景を見て事情を理解したアタルは、傘を置いてそれの前にしゃがみこむ。


「『霊術:霊傘』」


 アタルが祈りを込めて呼び出した半透明の傘を、彼女だったものにさしてやる。


 すると薄暗かった部屋の中が優しい光に包まれ、光は彼女だったものと傍にいた幽霊に集まった。


「どうか、安らかに眠ってくれ」


 光り輝く彼女に手を合わせ、祈るアタル。


「……ありがとう」


 光に包まれた彼女は最後に、生前の素朴な少女の姿を取り戻して天に昇っていった。


 ともに塵となって消えた彼女だったものがあった場所には中くらいの結晶と、先ほどの少女の顔写真が写った、赤黒く汚れた生徒手帳が残されていた……






 『雨野 中』


 HP8/12 MP7/9


 術式 『霊術:霊傘』


                


『生徒手帳』


 生前彼女が通っていた中高一貫校の生徒手帳。中には学生証が挟まれていた。


 メモの部分には、もしものために書いておけと言われた遺書が綴られている。


 そんなもしものことだけは起こってほしくないと思いながら書かれたページには、涙の跡がいくつも見られる。


 ■い雨が降ったとき、雨宿りのために入った建物の入口が獣の罠だと気づけなかった。


 彼女が最期に想ったことは両親への謝罪。その想いが届いたのか、遺書にかかれた両親への感謝ともしもの時の謝罪文だけは、血に汚れていなかった。


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