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タイトルに偽りなしシリーズ

クランを受け継いだ新クラマスの俺がいつも酒飲んで酔っ払ってる役立たずの「酒豪」スキル持ちを追放したら業績が悪化したので「戻って来てくれ!」と頼みに行ったら相手に「もう遅い」って言われるだけのお話

冒険者のいるファンタジー世界なのに法律が日本準拠なのは気にしてはいけない、いいね?

「ビート! いつもいつもクランの交際費で酒飲んで酔っ払っているだけの貴様など我がクランには必要ない! 貴様は追放だ!」

つい一月程前に父の死とともに冒険者クラン「鋼鉄の誓い」を受け継いだ私、エイブ・ファーストンは古株のクランメンバーであるビート・ツヴァイにそう宣告した。

こいつは「酒豪」スキル等と言う戦闘に欠片も役に立たない、ただどれだけ酒を飲んでも体を壊さないと言うだけのスキル持ちで、父に命じられたクランの備品の仕入れ担当と言う立場を利用して交際費で酒を飲みまくっている男だ。一月に使っている交際費は平均的な平民の年収を越える程で、Aランククランであるウチにとっては端金ではあるが、だからと言って無視は出来ない。

「えー、付き合いには酒は必須だぜぇ?」

酒臭い息でヘラヘラと笑いながら答えるビート。ちなみに今は平日の昼間である。

「やかましい! 平日の昼間っから酒飲んでんじゃねーよ! こちらとら親父が急死して引き継ぎで書類まみれなんだぞ! 羨ましいんじゃゴラァァァッ!!!!」

「クラマス、本音でてるッス本音」

うっかり荒ぶって素が出る俺もとい私に、ツッコミを入れる補佐のシーザー。くそっ、冒険者として現場でやってきたのにいきなり管理側になって冒険者ギルドのお偉いさんとかと丁寧語で話さなきゃいけなくなったからストレスが……。

「とにかくお前は追放だ! おとなしく退職金を受け取ってクランから出ていくがいい!」

「……普通、追放って何も渡さず追い出すよな?」

「無一文で放り出すとかそんな事出来る訳がなかろう!」

「真面目かっ!」

? 何を言ってるんだ? 此方(会社)の都合で追放(解雇)するんだから退職金払わなかったら法律に反するよな?

「……まあいい、ただ俺が居なくなってどうなっても知らないからな。じゃ、俺はこれで……」

「まて」

立ち去ろうとするビートを、私は呼び止める。

「なんだ? クビになったんならもう関係ないだろう?」

「実際に追放(解雇)するのは30日後だ! 法令的に通告は30日前にしなくてはならないからな!」

「真面目だなっ!?」

「後、有給が残っているから消化しておくようにっ! 残ってると勿体ないぞ!」

「やっぱり真面目だなっ!? 俺の知ってる追放と違う!!」

冒険者クランだからって法令遵守しないなんて出来るご時世じゃないんですよ?


そうして他にも役立たずを追放(リストラ)をしてクラン経営のスリム化を果たした我がクラン「鋼鉄の誓い」ではあったが、数ヶ月もすると問題が出てきた。

「また依頼の失敗か……」

「どうも支給してる武具の質が悪くなってるっぽいッスね。前に使っていたのも損耗で状態が悪くなってるッス」

所属するメンバーの依頼成功率が目に見えて低下してきたのだ。今までは倒せていたモンスターが倒し切れなかったり、攻撃を受けて思わぬ重傷を負ってしまうなどの事故が多発しているのだ。

「武具調達とメンテはビートが担当してた業務だな……別に鍛冶ギルドから不良品を掴まされている訳ではないよな?」

「調べたッスけど全部規格内の通常品だったッス。ただ……」

「ただ?」

何とも言えない表情のシーザーに、私は続きを促す。

「倉庫にあった不人気で使ってなかった昔の支給武具(備品)を調べたら「最高品質」だったッス……」

「はあっ!?」

最高品質ってドワーフの名工でもなきゃ作れない逸品だぞ!? なんでそんなもんが支給品として倉庫に転がってる!?

「いやそのドワーフの名工でディーハルトさんって方がこの町にいるみたいッス。でも半隠居で気が向いた仕事しかしないそうなんスけど……めちゃめちゃ酒を好きで酒を奢ってくれてかつ飲むのに付き合える相手の依頼なら受ける事もあるらしいッス……」

「……!! そうか、「酒豪」スキル!!」

アイツは……ビートは「酒豪」スキルでドワーフの呑兵衛に付き合っていたのか。そうして品質の良い武具を仕入れクランに貢献していたのだ。恐らく交際費もそれに使われていたのだ。ドワーフの名工に満足させる酒を飲ませるならあれくらいは使うだろう。あいつら底なしのクセに味にも拘るからな……何て事だ。奴を追放したのは間違いだったのか……

「やむを得ん。実力と武具の質に見合った仕事に合わせて仕事のランクを落とそう」

「!! それじゃAランククランの座を維持出来ないッスよ!」

「どのみち依頼達成出来ないのなら同じ事だ。何よりこれ以上の怪我人を出す事は看過出来ん。クランメンバーの安全が第一だ……ほら、労災が続くと調査入って行政指導とかが……」

「メンバーの為だと思ったら保身だったッス!?」

こうして冒険者クラン「鋼鉄の誓い」は仕事の質を下げ、1月後にはAランクからBランククランへと格下げとなるのだった。


そして更に数ヶ月後。クランメンバーに武具の性能に頼らずに戦う(すべ)を身に付けさせ、どうにかクランを安定させた事でようやく暇が出来た私とシーザーは隣町へと訪れていた。

「ここがビートの今住んでいる所か……」

「……クラマス、ビートさんにあってどうするんですか?」

「無論、戻って来てくれるように頼む」

不思議そうな顔のシーザーの質問に、私は当然のように答える。

「! でもあんな風に辞めさせて戻って来てくれるんスかね?」

「当然戻って来てはくれないだろうな」

平然と言い切る私に、シーザーは虚を突かれたような表情になる。

「はぁっ!? じゃ、何でわざわざ来たんッスか!?」

┐(´ω`)┌ヤレヤレ、そんな事も分からないのか。困った奴だ。

「考えもみろ。実は重責を担っていた人物をそれに気付かず追放、その後業績悪化するクラン、これがどんな状況か……」

「……!! 追放ザマァ! 追放ザマァッスよこの状況!」

「ならば分かるはずだ! この状況ならばたとえ戻って来るはずが無いと分かっていても「戻って来てくれ!」とみっともなくアイツに懇願し「もう遅い」と言われる、それこそが物語の登場人物としてのノルマだと!!」

「確かにその通りッス!!

……でも発言がメタ過ぎないッスか?」

「大丈夫だ! ジャンルがコメディーならば登場人物のメタ発言はギャグとして許される!」

「超メタ発言ッス!?」

「まあ逆恨みからの襲撃とか言うパターンもあるがそっちは普通に犯罪だしな……」

「冒険者の暴力行為は普通より量刑が重くなりがちッスからね……法令遵守大事ッス」

こうして我々は意気揚々とビートの家へと乗り込んだのであった。


「良いぜ」

「「……え?」」

戻って来てくれ、そう懇願する私へのビートの返事はまさかの了承だった。

「な、何で戻って来てくれるんだ?」

「いや自分で頼んでおいて何言ってんだ?

ま、戻る理由だが……お前の親父さんに言われてたんだよ。もし自分に何かあってお前さんがクランを継いだら、どーせ短絡的に辞めさせてくるから下手に抵抗せずに辞めちまえ、ただもし考え直して戻って来てくれって言ったら戻る事を考えてみてくれってな。親父さんには世話になったからな、失業保険の受給期間中に来たら戻っても良いと思ってたんだ」

親父ぃ……何て事を、何て事をしてくれたんだ。素直に戻って来ちゃったら追放ザマァモノが成立しないではないか。タイトルに「もう遅い」って言われるって入れてしまっているというのに……

このままではタイトル詐偽になってしまう。その事に絶望した私の脚からは力が抜け、へたり込むように地に膝をついて落涙してしまう。

そんな私の姿を見て誤解したビートが話を続ける。

「ふっ、ダメ息子にも親父さんの凄さが今さら分かったか? まあ感謝しようにも亡くなってるからもう遅いが……」

「!! ねぇ今「もう遅い」って言った? 「もう遅い」って言ったよね!!!!」

「いや何でそこに食い付くんだよ!」

タイトル回収された喜びに思わず跳び上がって抱き付いたらドン引きされたでござる。

解せぬ(´・ω・`)

タイトル通りだなヨシッ!


エイブ

登場人物A。一人称「私」だったせいでいつも一人称「俺」ばっか書いてる作者を混乱に陥れた男。

ギャグ時空の住人のくせに真面目で有能。実はビートが戻らなくても普通にクランを立て直せてた。


ビート

登場人物B。ギャグ時空の中でまともな思考回路を持った異物。追放されたが失業保険の受給期間中に再雇用されたので長い有給休暇貰った気分。ちなみに就業規則に業務時間内の飲酒を禁じる項目があったので追放には何気に納得していた。


シーザー

登場人物C。エイブとの掛け合い要員。その為だけに生み出されたキャラなので特に設定は無い(ヒデェ)。下っ端口調なのは台詞だけで判別出来るように特徴付けられた為。


ディーハルト

登場人物D……いや登場してねーわ。半隠居で呑兵衛のドワーフの名工。ビートが必要とされる為のただのギミック(ヒデェその2)。

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