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蓮池にいた君(サイドストーリー)

〜美蓮視点〜


今年もこの時期がやってきた


もう何年になるだろうか

私は山奥の蓮の池、そこで村の人、

とは言っても亡くなった人たちだ


その人たちをお盆の時期になると

上の世界から生者の元へ案内する

役目を担っている精霊だ


案内といっても蓮池を桃色の光で光らせ

降りてくる場所を示すだけ

降りてきたらあとはそれぞれが自分の

生家の方へと向かう

帰りもそれぞれ時期が過ぎると

上に帰っていく


あるお盆の初め、いつものように

池を光らせると、人がやってきた

生きている人間だ

よくみると小さな少年だ


子供は純粋だから、光をみて

導かれることもあるのだ


その男の子は不思議そうに私をみると

話しかけてきた

精霊は人と関わりを持ってはいけない

そういう掟があるのだ


だから私は冷たく突き放した

もうここへは来ないで

でもその男の子は次の日もやってきた

その日は結局日暮れまで喋りかけてきた

私はずっと無視しているのに


3日目、とうとう我慢できなくなった

私はその男の子に話した

どういう役目でここにいるか、

どういう存在なのか、そして掟で

人と関われないこと


男の子はポカンとしている

意味が分かってないのだろう

話しかけて、なおさら気を惹いて

しまったのか、質問攻めだ


君、君ってうるさいから

私は自分の名前をつい

言ってしまった


名前には独特の力がある

呼ばれると引き寄せられるようになるのだ


そんなこともつゆ知らず

綺麗な名前なんだねと褒めてくれた

そして男の子は一緒に遊ぼうと

私を誘ってくれた

正直、池しか知らなかったから

退屈さも感じてた

そんな感情も後押ししてその日から

その男の子と池の周りで遊ぶようになった

ある時は役目をさぼって池から出て

山をかけてまわったりもした


その子と遊ぶ時間は新鮮でとても楽しかった

そのうちにすっかり気を許してしまい

私はその男の子を好きになっていた

無邪気で、時々男気を見せて

何より、私にこんな楽しい思いを

させてくれた


だけど、そんな時間はずっと続かない

お盆が終わりに近づく

時期が過ぎると私はこの姿では

いられなくなる

蓮の中に魂として戻ってしまうのだ


私は男の子に言った

もう会えなくなる

だから、


もうここへは来ないで、


男の子は不思議そうな顔をしている

理由は言わない方がいいだろう


掟で、時期が過ぎれば

関わった相手から自分の記憶が消える


そんなことは言えない

君がどんなに悲しむか、悲しむ君を

みて私がどれだけ苦しむか

想像するだけでも嫌だ


だからその日はそれだけ言うと

男の子を無理やり帰らせた


お盆最後の日の夕方、

もう今年のお盆が終わる

あの子は私のこと忘れちゃうのか、、、

寂しいな

そう考えていると男の子がやってきた

もう来ないでって言ったのに来た


なんでなの、そう聞いてくる

だけど私は言いたくないの一点張り

そのうちに時間が来た


私の体が淡く光っていく

男の子が必死そうに私に手を伸ばす


私は最後にありがとうっと言って微笑んだ

それがその男の子と最後だったから、、

お礼を言った、話しかけてくれたこと

連れ出してくれたこと、そして楽しい時間を

くれたこと

涙ぐみながら言った


それ以来男の子が池にやってくることは

なくなった、、、


あれから何年たったかなあ、今年もお盆か

私はあの子のことを忘れたことはなかった

忘れられなかった、、


私は精霊だけど、人と同じように成長する

もうすっかり背も高くなって体も

すらっとした


あの子は今の私を見ても

きっと分からないだろう、、、

そもそも覚えてないよね、、


そんなふうに考えていると

足音が聞こえた


あれ、だれか来た?

私が驚いているとその人が

こちらを向く


その瞬間私は胸が熱くなった

あの子だった

いやもうすっかり男性になっている

そしてずっと前よりカッコいい

だけどしっかり面影がある


気づくと声が出ていた

やっと忘れられそうだったのに、、



嘘だ、全然忘れられない


するとその人が


、、美蓮、、、


そう呼んでいた


私は涙が溢れてきた

と同時に色々な感情が芽生えた

なんで覚えているの??

なんでまたここにきたの?

でももしかしたら

ほんとに私のこと思い出して

いや、ありえない


私はどうしていいか分からず、

つい声を荒げてその人を追い返してしまった

またわすれてしまったら耐えられない


これで良かった

もう来ないだろう、それで私も忘れよう

もう今年のお盆も終わる


もう時間も遅い

休もうかな


でも眠れなかった

あの人のことを考えている


気づけば早朝だ


その時、声が聞こえる

私の名前を呼ぶ声

もう近くにいる

彼だ、、

会いたい


でもふと我に返る

気づくと私は追い返そうとしていた

これで大丈夫、そう思ってたら

彼がやってきた


私は強い口調で思いの丈を

彼にぶつけていた

彼は優しく聞いている

そして2人の思い出を話してくれた

涙が流れてきた

そして話し続ける彼に抱きついた


彼と抱きしめ合う

私は今までの辛さを彼に預けていた


でももう時間がない

私は伝えた、消えてしまうと

そしてまた私のこと忘れてしまうのだと


そう伝えると

彼は私のことが好きだと言ってくれた

同じ気持ちでよかった

彼が忘れないって言ってくれている

すごく嬉しい、、、


私は最後に忘れないでと伝えて

彼の前から消えた、、、


はあ、今年のお盆も終わる

覚えていてなんて無理よね

そんな風に思っていた時、天にのぼっていく1人の老人と会った

優しい顔をしたおばあさん

そういえば最近村で亡くなった人がいた


その人が私に気づくと

近寄ってきてそっとささやく


精霊さん、

こんどは私が代わりに蓮池の精になるから

あなたはあの子のそばにいてあげて


そう言うとそのおばあさんは天へと消えていった


私は魂に戻った


彼に会いたい

ずっと一緒にいたいと

魂の世界、いわゆる精神世界のような所

そこでずっと願っていた


この世界には時間の概念がない

願ってどれくらい経っただろうか


叶わないよね、、、

そう思いながら私の意識はなくなった




目の前が眩い光に包まれる

気がつくと知らないたくさんの大人の人が

私を囲んで覗き込んでいる

私を抱えているのは若い女性

うっすら涙を浮かべて、安心しているのは

若い男性

夫婦だろうか


そして気づく、あれ、声がうまくだせない

もしかして、私うまれかわった?

自分の手をみてみる

小さい赤い手だ

私、赤ちゃんになってる!?

しかも人の!


でも、なんだろう、自分が自分だというのはなんとなくだけど分かる、分かるのにそれとは別に、大切なことが思い出せない感じがする、

なんだろう、、、


それが何か思い出せないまま、月日が流れ

私は来年の春、高校を卒業しようとしていた


あるお盆の夕暮れ

村から、少し離れたところに小さな街がある

その街で買い物をした私は両親の待つ村へとつづく道を歩いていた


ふと見上げると、夕焼けで雲が桃色になっている

きれいだなあってなんて思っていると



美蓮、、会いたい


前の方から声が聞こえてきた

男性がつぶやいてる

その声を聞いたとき、私の中で何かが

呼び起こされる

声がする方に引き寄せられるかのように

私は向かった


なぜか分かった

きっと彼だ、、、

おもいだせなかった大切な何か、いや誰か

きっと彼に違いない!


私は溢れる思いを抑えつつ

声に出す

だれに会いたいんですか?


だけど彼は歩いていってしまう

あれ、聞こえてない?

気づけば私は必死になって彼を呼んでいた


やっと彼が振り返る

彼の顔を見た途端、遠い懐かしい日々が、大切な何かが、誰かが頭を巡った


また彼に会えたんだ、、、

これからは、ずっと一緒にいて

彼のことをずっと覚えていたい、

そう心に決めた




夫の声が聞こえる

大好きな彼の声だ

息子に昔話をしている


すると息子が駆け寄ってくる

パパの話ってほんと??


私は答える


ほんとだよ、それはね〜



サイドストーリー

〜美蓮視点〜


fin


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