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村の生贄になりました

去年妹が地元のドラゴンの生贄にされた。


妹は生前、「そもそもドラゴンが存在するとは思えない」や「存在していたとして毎年一人だけ食べるだけで生きていけるわけがない」などドラゴン批判を繰り返していて、とうとう去年生贄になってしまった。


村長からすれば厄介払いができるし、毎年頭を悩ませる生贄が解決するのだから万々歳だろう。

しかし、唯一の家族を失った私からすれば堪ったものではない。

妹は確かにドラゴンの批判を声高々に叫んでいたし、村長をはじめ、村の老人衆から疎まれていたのも知っている。

だが、生贄にされなければならないほどの罪ではないと思っていた。

妹が生贄にされ、孤立無援になった私が無事に今年生贄に捧げられたという訳だ。


生贄の洞窟の前に立ち、妹は苦しまずに一口で食べられただろうかなどと思いつつ、重い足取りで洞窟を進む。

どれくらい歩いただろうか。疲れを覚えだしたくらい進んだ先に開けた場所に出た。

日差しが差し込み、緑が生えているその中心地にドラゴンが眠っていた。


おとぎ話のように真っ赤な鱗ではなく、純白で神々しさすら漂わせる姿だが、村の馬を近くで嗅いだ時の動物臭が現実に存在する生物だと認識させた。


ドラゴンは実在した。妹は私と違い間違ったことを言わなかったが、一番当たってほしい推論が外れてしまった。しかし、ここまで来て逃げ帰るわけにはいかない。


「ドラゴン様。今年も村を反映させていただきありがとうございました。矮小なる身ではございますが、御身に捧げたいと思い、こちらに参りました。重ねてのお願いとなりますが、村のご守護と繁栄をお願いしたく・・・」


いつも教会でお祈りをするポーズで、村でたたきこまれたセリフを寝ているドラゴンの前で宣言する。

あぁ・・・これから食べられてしまうのか。一飲みで食べてくれるといいなぁ。いろんな所をかじられると痛そうだなあぁなどと思いつつこっそりとドラゴンを見ると蛇のような目がこちらを見ていた。


『今年の生贄は貴様か。』

頭の中に響くように声が聞こえる。

「は!?はい!!。どうぞ痛くしないでください!!」

緊張のあまり言わなくていいセリフを口走った気がする。


『ワシは人間は食わん。有事でもない限り人間との接触も神から禁じられておる。』

「・・・はい?」

『80年ほど前かの。大雨でこの洞窟をはじめとするいくつかの地点が水没した。洞窟の水抜きの力加減を間違えた先におぬしらの村があり、そこの水没も併せて解決してしまっての。それ以降毎年ここに生贄を送ってきよる。神との約定があるため、いらんとも伝えられずにな。』

「で・・・ですが、帰ってきた人間が一人もいないのですが!?」

『おぬしの村で生贄になるのは村長の不興を買ったものだと言っておっての。帰って言いといってもそちらに帰ることはせんかったようじゃ』


どうやら村長の人望のなさ、というか選定基準が毎年の生贄が止まらない理由のようだ。

それより、生贄は食べられないのだとしたら、妹は生きているのではないかと思いだす。


「で、では去年の生贄の娘はどうなったかご存じではないでしょうか?私の実の妹で唯一の家族なのです!!」

一縷の望みを託し、問いかけを行うが、答えは望んだ答えではなかった。

『知らぬ。散々質問した挙句に去っていきおった。知識欲が満たせて満足です。ありがとうございましたと言いながら帰っていく娘は初めてだったからの、よく覚えておるわ』

なぜ妹は帰ってこないのか。まさかどこかで死んでしまったのか。


目の前にいるドラゴンのことをすっかり忘れ、妹のことをかんがえていたら、

『そろそろ良いか?気が済んだのであれば、来た道を戻り帰るがよい。』

と言われ、追い出されてしまった。


来た道をとぼとぼ帰りつつ、これから先をどうするかを考えながら歩く。

村に帰る?いやいや、すでに家は解体されているだろうし、村に戻ったところで難癖をつけられて追い出されるか殺されてしまう。

別の村に行く?村の外の地理を全く知らない私がやみくもに歩いて村にたどり着ける保証はない。

また、村に行けたとしても、生活できるとは限らない。


重い足取りで洞窟を出ると逞しい男性と弓を持った女性が立っていた。

恐怖で体が固まってしまった私に対して男の方が切り出した。


「よう。あんたが今年の生贄かい?ドラゴン様に追い出されて帰ってきたところかな?」

「そ・・・そうです。」

「あんた。警戒されてるよ。もう少し言い方ってもんがあるだろう。ごめんよ。私たちはここに生贄として連れてこられた人たちが作った村のもんさ」

弓を担いだ女性がにこやかに話しかけてくる。

「毎年この時期になると生贄が入って行って出てくるからね。村の掟として話しかけることにしてるのさ」


聞けば村の生贄にされた人たちが少し離れた場所に村を作っているそうで、毎年生贄が返ってくるのを見計らって村に誘っているとの事だった。と、いうことは

「きょ・・・去年生贄にされた女の子はいますか!?私の妹なのですが!!」

最初にあった恐怖心を忘れて、掴みかからん勢いで質問をしてしまった。

「去年・・・あぁ村長が引き取った娘さんか。いろいろ実験したり作物の作り方を教えてくれたりして助かってるよ。あんたの妹かい?たいしたタマだよ。あいつは」

男性が苦笑い気味に話してくれた。妹は生きてる!!

嬉しさがこみあげてきて後半の話は聞かなかったことにした。

「だからあんたは・・・まぁいいや、あの子の家族で確執がないのであれば、一緒に来るかい?あんたどうせ行く当てもないだろ?うちの村で生活をやり直してみちゃどうかね?」

「行きます!」

食い気味に応えた事で、女性にも苦笑いされてしまった。

「決まりだ。ついておいで。村まで案内するよ。」


村までは馬で半日といった場所だそうで、馬に乗せてもらいつつ村の説明をしてもらっていた。

毎年生贄にされた人を誘うが、半分くらいしかついてこないこと。新しい村になじめずにひっそりと出ていくもの冒険者になって出ていくもの等様々だが、平穏に村の生活を送れているとの事


私を案内してくれた二人は、別の町から来た冒険者だったが、居心地の良さに住み着いたご夫婦だそうだ。ゴブリンや動物などを狩って生計を立てているそうだ。

「小さい村だからねぇ。ゴブリンなんかが越えられないような壁は作れてないんだよ。だから俺たちのような冒険者が守ってるってわけさ」

「【崩れ】が抜けてるよ。すでに冒険者カードの更新もしてないんだから冒険者崩れだろう」

口論をしているが、仲の良さがにじみてる二人のやり取りに自然と笑顔が出てきた。

「それにしても、あんたも不用心だよ?私たちが人さらいだったらどうするのさ?」

「それも不安視はしたんですが、妹のことも知ってましたし、それで騙されたとしても妹と同じ場所に売ってくださいってお願いする予定でした。」

「あの子と一緒で肝が据わってるね。気に入ったよ!なんか困ったことがあったら私に言いな!」


そうこうしているうちに村の門が見えてきた。確かに門というには簡素なつくりだが、なわばりを示す分には十分な代物だろう。門番がこちらに気が付き、村の開錠の準備をしつつこちらを気遣うように

「今年もやっぱり生贄を捧げておったか・・・ようこそお嬢さん。辛かったろう。まずは体を休めなさい。それからのことは休んでから考えなさい」

「ありがとうございます。けど、妹を探しに来たので妹に合わせてください!!」

「去年の生贄がこの子の妹だっていうんだ。村長のところまでこの子を連れていくよ」

「そうか・・・姉妹揃って生贄とは、あそこの村長は相変わらずだな」


村に入れてもらい、馬を預けて徒歩で村の中を案内してもらいつつ村長の家へ向かう。

「村長。いるかい?今年の子を連れてきたよ。」

「今年も変わらず生贄を捧げておったか。あの村は変わらんの・・・災難じゃったの。とうちの娘に似ておるが親類かの?」

「村長鋭いね。姉だってさ。あの子はいるかい?」

「おうおう・・・そうじゃったか。あの子なら裏でよくわからん野菜の世話をしておるよ。あれは喰えるもんなんじゃろうか・・・」

裏庭に案内してもらうと去年まで毎日見ていた後ろ姿を発見する。泣きそうになり声が出なかった。

人の気配に気が付いたのか振り返り、とても驚いた顔でこう切り出した。


「ね。お姉ちゃん。私の言った通りドラゴンは人を食べなかったでしょ?」



爬虫類なのに動物臭・・・

人を食べないなんて言ってない妹

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