ある下ブルティーノ税務署職員の憂鬱(la mélancolie)
「このピザ屋、何かがおかしい」
私は、シティホールと併設している税務署の下ブルティーノ出張所に働いている。冴えない公務員だ。公務員になったら人生が見渡す限り平坦な原野になったと感じて、目標も無く何となく生きてきた。最近、あるチェーン店のピザ屋の納税記録に不自然な点があった。お金の流れがマフィア組織が活躍するピエトリーノ市に行くことが多いのに加えて、そのピザ屋の本社の住所、実はピエトリーノ市でも他地域圏のどこでも存在しないことが分かってきた。強いて言えば、架空の会社だった。これはチャンス。チャレンジ精神を持てば、このルートから詳しく調べたら、昇進が目の前にあることだ。
「口笛で演奏した春の声 がうるさい」
「配達証明 つき書留を取りに帰ったばっかりだから、少しくらいさせてくれよ」
まだ決定的な証拠がないのに調子に乗った、危ない危ない。
「その早口言葉もうるさい」
文句を言ってくるのはレナーテ・フェルホフスタット 、同僚で珍しく女性でありながら公務員試験を突破して、私と同じ部署と配属された。
「エントシュルディグング」
「嫌がらせ?連邦語で話しなさい」
謝ったのに、なぜかすごっく怒られた。少しも謙虚でない女の子が長指と薬指を挟んでファイルを握る私を見下ろししているのかもしれない。
「ヴァー」
彼女に変顔をしてみた。だけど効かない。社会人になるまでに、周りの人を同じことやって機嫌なおしてきたから。自分の変顔にたっぷりと自信があったのに。
「エリートとしての自覚はある?真のエリートなら真面目な顔で真面目に働いなさい」
「働いていたよ。それにレナーテが窓からの風を浴びれるように数週間前からわざっと席をずらしといたのに、感謝の一言もなく、あなたは魔王より優れているのか?」
「…むむむ」
障害でも特殊な種族でもないのに、濡れた2手の親指だけガタガタとタイプライターのキーを打つ(もちろんこんな状態だとどんなに早く打っても書類の作成が遅い)人なんて、人をエリートらしさと強要してくるのは情けない。っと言いたがった。待って、情報共有が不足したのか?今朝私に経由した書類と同じものをまた作っているに見える。
しばらく自分の席に戻って、今朝のできことを振り返った。そして、数分後に、あの紙を彼女の目の前に揺らしながら、指を鳴らした。
「ミント水、飲む?あと、長指と薬指の打て方、手本を見せるよ」
「…ありがとう...」
彼女は、私の自分用持ち運び用の水筒を受け取って、豪快な飲み方を見せてくれた。
「長指と薬指の打て方、教えてくれる?…お名前を」
「また?マラカ!エマヌエラ・カステラナリス !」
「エマ、ちょっとサン=エティエンヌ所あてに電報送ってくれない?パン買ってあげるよ」
廊下つきあたりの部署の、男としての風采が良い同僚からのお頼みなら、断れないね。
「仕方ないね。任せておいて、行ってくる!」
電報をまとめるとき、その同僚が彼女に片膝を突いたのを見た。彼女は凡人の生活を体験する貴族だったのか?