薬局、タバコ、愛(L’amour)
薬局で働いていた頃、ある日、大家のおじさんと縁石に立って話していた。通りの向かいに宅配ピザの店があり、おじさんは突然、向かいの店の制服を着ている若い男を指差して言った。どうなっているのか聞いてみたら、おじさんは、嘆いて、話を取り上げた。
「運命が人をもてあそぶね。あの男の子には1歳年下の妹がいる。幼い頃に両親が離婚して、離れていた。彼の妹は令嬢のように育ったのに、彼はあそこで働いているのよ」
「あの人のことに詳しいね。」
「俺の甥の話だから」
他人事に凝り固まる趣味はないが、暇つぶしにしたいから、しばらくおじさんとおじさんのタバコパイプと付き合った。
2人は決して覗く悪い趣味ではないように向こうの店に見ている。
「タバコ、吸う?」
「けっこうです」
「サリンジャー様」
例の令嬢が店に入ろうと来た。制服姿の若い男は令嬢に顔を見せないように逸らしている。
「この店にサリンジャーが居りません。ご注文は?」
「ジャン=ミシェル…お兄ちゃん?」
「ご注文、ランティーはバカで宜しいでしょうか」
「私への態度に気を配ろ、平民」
「それは兄への態度か」
若い男の子が令嬢の頬をつねた。あまりにも面白かったから、一瞬、おじさんから吐き出す煙を気にしなかくなった。
「口が裂けるー」
「タバコをやめるのは考えています?」
「俺の年になったら、ストレス解消にこれよりいいものはないよ」
「タバコをやめるのなら1年で建物のルーム1室の建築費用を節約できるって言ったらお考え」
「2000年分の喫煙代を節約としても、魔王城も買えないなー、あはははっ」
あの魔王城を買う?なんと狂気的な考えだ。確かにあの巨大な敷地にたった一人が住んでいるけど、魔王の一族だったぞ。外見に翼がある以外一般の人間と変わらないが、如何にも魔力を持っているとこの街のみんなも暗黙の了解している。
「すみません。処方箋を見てください」
いつのまにお客さんが薬局のドアの横で俺を呼んでいる
「はい、すぐ参ります」
再び店を出たら、大家のおじさんはもういない。翼の生えた女の子が物凄く勢いで自転車を漕ぎって、宅配ピザの店の前にとまった。あの子がうわさのこの街を支配してきた魔王の一族?力を持っていなければ、どうにもならないと思う。
「ごめん、ジェニーちゃん、トランプクラブでベルトードに負けて、ジェニーちゃんがプレゼントしてくれたトランプが彼に取られたんだ」
「大丈夫だわ。そういえば、妹の片思い相手と出会ってどうだった?もっと話してよ」
「すみません、先週もらった薬、効かないけど」
「はいー、医者にご診断頂きました?」
また別のお客さんだ。せっかくタバコの匂いが消えたフレッシュな空気を味わいたいのに。
 




