94 南寧遡上。
色々と有ったんですが、取り敢えずは欽州から南寧まで半日以上掛け、川を遡上する事に。
で、ココも人の手で繋いだ河川だそうで、名は茅欽江。
今回はお喋りが好きなのか定番なのか、船頭さんが観光案内をして下さって、改めて歴史や何かを知る事に。
「凄いですよねぇ、先人達って」
《アナタ、意外とこうした話が好きよね》
「いやだって自分達でヤレ、とか言われたら嫌ですもん、お金の為だとしても何にしても。でもそうして誰かが苦労しながらやってくれたからこそ、この楽さを享受出来るんですから、有り難いしか無いじゃないですか?」
『偶に年寄りみたいな事を言うよなぁ』
《本当、直ぐに白髪にならないか心配だわ》
「アリですね、白髪カッコイイじゃないですか」
プラチナブロンド越えてプラチナ。
染めたら凄い発色が良さそう。
《まさか、白髪になってから黒く染めるつもりじゃないわよね?》
「良いですねそれ、若々しく見えそうですし」
『アレが良いって言うかねぇ』
「あー、確かに、どうです?黒髪は嫌ですか?」
今回は男女で分かれず相乗りなんですよね。
向こうの船には翠鳥と鶺鴒と金絲雀、兔子と臘月様とウムトさん。
他の方も四家で、私がハレムを形成するって事は鶺鴒にはまだ言えてません。
落ち着いたら、昆明に着いたら、ご説明しようかと。
《無理をしないなら、黒髪でも赤い髪でも良いと思う》
「あ、確かに包々は少し赤いですもんね」
「可愛い色よね」
あ、そう言えば水仙さんの時はもう少し黒かった筈で、何か使ったんですかね?
『なに』
「色を黒くする整髪剤って有るんですかね?」
「あぁ、そうね、有るみたいだけれど、その綺麗な色がくすむかも知れないと思うと、お勧めし難いわ」
「大丈夫です、抜け毛の毛束を作って有るので」
『あぁ、刺繍用か』
「それも、ですね」
いざ染めてみても思ってたのと違う、とか、それこそまた元に戻したくなったらって時に。
あ、切って付け毛にすれば良いのか。
「じゃあ」
「切って付け毛にしちゃうのは?流行りだそうですし」
《それは嫌だ》
凄い、珍しく即答で拒否。
「嫌ですか」
《手入れはするから長く居て欲しい》
『そこは分かるわ、色気って言うか、ほら、平民の男は特に短いからさ、短いのは男って印象なんだよねぇ』
「そうねぇ、平民でも女性は長い子が殆どだものね」
「んー、ダメですか付け毛は」
《色が違うから大丈夫かも知れない、けれどもし黒くなったらと思うと、あまり自信は無い》
『それこそ後ろ姿が男っぽいな、とか思ったらアレじゃん?』
「それかお稚児さんよね、小さい子って短いじゃない」
「あー」
残念、私にも理屈が分かるのでココは断念するしか無いですね。
前世では髪が長い男って有り得ない、とか思ってたんですし。
でも慣れちゃったんですよねぇ。
しかも目の前の方々は似合う似合う、あの春蕾さんでも似合ってますからねぇ。
「まぁ、その毛束で先ずは試してみて、よね」
「ですねぇ。誰か短くしたい人って居ます?」
『したいわな』
《うん》
「なら付け毛にしては?」
『でもさぁ、そうなるとバッサリ行くワケにもいかないんだよねぇ』
「そうなのよ、付け毛を付けるのにそれなりの長さが必要なのよね、で結局お稚児さんみたいな長さになるの」
《うん、だから止めた》
「あー」
結い上げられる長さ、って言うと確かに。
精々セミロング、ショートとは言い難い長さですし。
『まぁ、世が変わるまでは暫く無理だな』
南寧から来賓、柳州へは約3日。
ココまでは良かったのだけれど。
「良いですね、不落夫家、子が出来るまで別居って楽そう」
《アナタ、それは壮族の風習よ?》
「あら良いじゃない、ハレムとなると常に誰か居たら、他が入る余地が無いんだもの」
「そうそう、別居と言っても敷地内別居、子が出来るまで、ですから」
私、何処かで誰かに決めるのだと思っていたのだけれど。
この子、本気でハレムを構えるのね。
《はぁ、心配だわ》
『なら補佐をするしか無いね。分かるよ、男側も怖いんだよ、もし子種の相性が悪ければ子は成せない。追い出されるのはコチラ側だからね』
《追い出しはしないわよ、それこそ兄弟姉妹の子は居るんだもの、別れる事はしないわ》
『僕も、最悪は男妾についても考えてはいるよ』
《あら、随分と勝手ね》
『君の子が見たいからね、最悪は、だ』
《私も、よね、そうよね、ずっとそんな事ばかり考えていたんですもの、あの子が常に少し後ろに下がった考えをしていても、仕方が無いのよね》
結局は、分かった気でいただけ。
いざ自分が、となると。
やっぱり嫌よね、他の女に触られるのは凄く嫌。
それこそ痴態を見られるだけでも嫌、なのに。
そうよね、散々に考えての事で、それでもまだ躊躇うのも当たり前。
この人の子供が見たいから、結婚する。
それが果たせないって、凄く嫌だわ。
『大丈夫、その為に悪行は避けていたんだし。君もそうだろう』
《だけ、で良いのかしらね》
河池市から黔南までは夜間航行なので、今日は柳州でお散歩する事に。
今回はいつもの三人、花霞と美雨と共にお寺に行く事に。
雨乞いをして下さったお坊さんの為のお寺、西来古寺へ。
『熱心に拝んでらっしゃいましたけど』
《子を成す為にはより善行を積むべきなら、どうかお示し下さい、ってお願いしていたのよ》
「いや鶺鴒の事もですけど、私の世話をしてる時点でそれなりに徳を積んでらっしゃると思いますよ?」
《でもだって、苦では無いんだもの》
「苦労の苦は長い歳月の事だ、と先生に聞きましたよ?そう長く手間暇を掛けても何の成果も得られないかも知れない、なのに労する、それが苦労だ。と」
《良い先生をお持ちでらっしゃいますね》
「あ、すみません、専門の方の前で」
《いえいえ、私達も常に広く正しく伝わる言葉を探しております、生涯学びの徒。苦労とは何か、苦とは何か、例えそれが分かったとしても、その答えだけが答えでは無い、ですから幅広く伝わる言葉を常に探しております。良いお言葉を聞かせて頂きました、ありがとうございます、どなたのお言葉ですか?》
「あー、そう名を広めたがってらっしゃる方では無いので、中央の先生、とだけで、すみません」
《いえいえ、そうですか、中央はやはり先を行っておられる。私が言える事としては、無理をなさる様な善行は善行とは言い難い、そんな程度です。どうかご自分の人生を大切に、心眼をもってして行いを見極められれば、自然と道は開かれるかと》
《はい、ありがとうございます》
『無理な善行は善行とは言い難い、改めてお坊さんに言って頂けると気が楽になりますね』
《そうね、善行を積む事ばかりでは、家を傾かせてしまう事も有る。でも、結局は難しい事に変わりは無いのよねぇ》
「まぁ、良く見極めずに通りすがりの出会った人に家を貸すなって事ですよ、母屋まで取られちゃいますから」
『軒下を貸し母屋まで取られる、それは仏の道にも有るのでしょう。為愚癡物語ですね、扶桑の諺は稀に怖い物が有りますよね』
《きっと妾に追い遣られた正妻の句よ》
「あー、怨念が篭もってそうですもんねぇ、お昼は煲仔飯が食べたいなぁ」
『良い匂いがしちゃってますからねぇ』
そしてお茶をしてから商店を見回り、煲仔飯屋へ。
南園茶楼以来、私達は婚約者と食事をする様になったんですが。
うん、確かに綺麗に食べないとと思って緊張するので、毎食毎日となると疲れそう。
暫くは不落夫家、敷地内別居が良いのかも知れません、どうせ互いに仕事部屋は分けますし。
『僕、少し心配になる噂を、と言うか率直に聞きますけど、不落夫家についてどう考えてますか?』
あ、この聞き方は、兔子は嫌なんですしょうか。
『場合によっては良いと思うんですが、嫌ですか?』
『寝所が別はちょっと、僕は嫌です』
『勿論寝所は一緒ですけど、仕事部屋には小さい牀榻は欲しいです』
寝転んで休憩したり、それこそ椅子は一つしか置かないので、誰かを迎え入れるのには座る場所が必要ですし。
『机を、月洞窓越しに向かい合わせに、と思ってたんですけど』
『そこは日当たり第一で、牀榻の窓を向かい合わせにしませんか?』
『それか、両方共に向かい合わせに、とか』
『結構、日当たりが限られません?』
『信じてるんですけど、その、個室は個室なので』
あぁ、浮気を心配なさってるんですね。
成程。
『三進四合院で考えてらっしゃいます?』
『はい、正房と北房とで考えていたんですが、二進四合院で考えてましたか?』
『寧ろ庭園付きの跨院を、と考えていたので、東西の房をどうするか、と。あ、北房は無しで、正房の左右を二人でと、思ってまして』
『そうなると客間や客室は?』
『ですよねぇ』
『ただ跨院と庭園は凄く良いと思うので、場所次第では庭園を東西に配置するかどうかも含めて、職人の方に相談してみましょう』
『はい』
そうですよね、東西南北、何処に住むか決めて無いんですし。
「家の事を2人で考えるだなんて、微笑ましかったわぁ」
「家ですか、成程」
麗江の家がどうなってるかサッパリなんですが、確かに考えていても損は無い。
と言うか寧ろ、知識を入れといた方が良いですよねぇ。
『麗江は暖かいだろうし、三合院でも良いんじゃん?』
「おや、包々様は知識がお有りで」
『手抜きさせない為の見回りとか、見張りの駄賃、そこそこ良いんだよね』
「あぁ、成程、ではかなり知ってらっしゃる?」
『そらね、見逃したら俺の責任になるし』
「アンタそうした才をもっと使いなさいよ」
『家建てんの力仕事じゃん、不向き』
「ですねぇ。やっぱり気候で違いますかね?」
『南で北式の家を建てると暑いんだよね。南式の床は少し上げてるし、正面に影壁置いて門を開けてたり柵だけだったり、房を密集させないで渡り廊下多め、耳房が正房にくっ付いて無い』
「あー、そうでしたそうでした、確かに」
『マジで覚えてる?』
「覚えてますよぅ、ただ中央って色んな家が有るので、そう驚かなかっただけですって」
『あー、東西南北から集まってんだもんなぁ』
「はい、南北両方合わせた家は夏は涼しく冬は暖かくて、どの面にもお庭が有るんです」
『それ先生の家じゃん?』
「はい、からくり水車で水も循環させてるんで運気も上昇しまくり、アレが理想なんですけど、既に建物は有るんですよね?」
『まぁ、南式らしいけど、崩れてる所も有るって言うし、まぁ、考えておいた方が良いとは思うけど。北式作れる奴が居るかどうか』
「あぁ、けどまぁそこまで寒くならないなら、全部南式でも三合院でも良いんで」
「いえダメよ、北の奥の院は安全の為なんだもの、それこそ庭で囲んで堀を立てるのは賛成だわ。でも大門と垂花門は外させないわよ」
大門は正門、垂花門は謂わば第2関門と言った感じなんですが、暁霧さんが言ってらっしゃるのは最低でも二進四合院なんですよねぇ。
合、とか言ってますけど、つまりは棟。
何棟建ての家にするか、なんですが。
大体の平均は一進三合院が、3つの家屋と門と塀。
お金が溜まると道路側を増築して一進四合院にしたり、隣を増築、所謂袴院を作ったり。
偶に一進二合院も有りますが、ヤバい方か妾か、お触り禁止って感じで。
殆どの独身は長屋風に作られた二進四合院に雑居するか、結婚して何処かの家に入るか。
四家は何進と言うか、まぁ四家院と言うか、更に横にも広げた袴院が広がってる感じで。
寧ろ渡り廊下で繋がった長屋が何棟も有る、って感じでしたね。
因みにウチの実家は三進四合院、先生の家は回の字タイプの珍しい家なので、三回院とか呼ばれてましたが。
まぁ、堀を合わせると五回院なんですけどね。
『まぁ、家は見てからで、後は家具だよなぁ』
「あー、牀と榻と牀榻は別々に欲しいですよねぇ」
牀はソファー、榻は天蓋と言うか囲い付きのベッド。
牀榻だと囲い付きのデイベット、女の子用の寝台で子供の頃から使ってるので、本来は嫁入り道具の1つなんですけど。
私、あげちゃったんですよね、寝転ぶと足がはみ出るので。
嫁入り先で頂くか何かしようと思ってたんで、まぁ、良いんですけどね。
箪笥も無いし化粧台も無い、マジ身軽。
「けれど牀榻は無いのでしょう?」
「そうなんですよぉ」
「ならもう、作るしか無いわよね?」
「それなんですけど、造り付けでお願いしようかと、棚や箪笥。それに合わせれば素敵かな、と」
「アナタ、考えるのが面倒なだけじゃない?」
「そんな事無いですって、各部屋は違う模様で仕立てるつもりですよ?」
『まるで四家じゃん』
「あ、ダメですか?気に入ってるんですけど」
『いや別に良いけど、嫌なら他に頼めば?』
「嫌では無いですよ、ただ家を建てるとか考えもしてなかったので、逆に拘りが殆ど無いだけなんですよ。如何に過ごし易いか、お掃除やお手入れがし易いか、寧ろそこだけなんですよね」
『まぁ、着いてからだなぁ』
「ですよねぇ」
「そうねぇ」
既に建っている家に嫁ぐつもりだったので、本当、知識皆無なんですよね。




