93 南園茶楼。
早茶。
巷の流行り、それこそ港の定番でして、夜明けと共に起き庭園へ来たんですが。
「凄い、何でも有りそうですね」
点心は勿論、お粥や炒め物に煮物まで有るんですよぅ。
《取り敢えずは、老火靚湯よね》
「それと五目腐皮巻と茸粽、東坡肉包と蝦餃、それに青檸檬鶏も」
『後は青菜ですね』
「あ、お茶を選ばないと」
《南山白毛茶ね》
『決まりましたね』
味が濃くて甘い風味。
コレは何度でも煎じて飲める良いお茶ですねぇ、黄茶より飲み応えが有ってコッチの方が好きなんですけど、コッチの方がまだ安いんですよねぇ。
白茶は白茶で高いんです、って言うか黄茶が高過ぎ。
《はぁ、目が覚める美味しさね》
『濃厚な味わいで色も鮮やか、新緑の季節に相応しい逸品ですねぇ』
「流石、詩に長けた翠鳥、緑が素晴らしく表現なされてますねぇ」
《そう分かるアナタも中々なのだけど、まぁ、良いわ》
麗らかな小春日和、目の前には綺麗に手入れされた庭園が広がって。
もし海外に旅行が出来てたら、ココを知ってたら、超オススメするんですけどねぇ。
《お待たせしました》
料理は、可愛いですねぇ。
「あらあら、噂通り可愛らしいですねぇ」
《まだ働き始めたばかりの子達だもの、ふふふ、懐かしいわ》
『綺麗に包むのって大変ですからねぇ』
味は良いんです味は、なんせ材料はプロが用意していますから。
けど包みや注文取り、品出しは勿論、接客等は全て初心者。
四家巡りに行かない子はこうした茶楼へ下働きに出て、技術や礼儀作法を学ぶ。
巡るにも相応にお金が掛かりますし、読み書きや礼儀作法も最低限を。
四家巡りも推薦と抽選にしたら良いんじゃないですかね、それこそ予備校とか作れば。
おぉ、もしかして私、天才に一歩近付きましたかね。
いやでも、既に案は出てて、実行出来無い何かが。
「あの、ちょっと卓を移動しますね?」
《何か思い付いたのね》
『何で言ってくれません?』
「いや、浅慮な思い付きなので、結果はちゃんとお知らせしますから」
《しょうがないわね》
『盛合せは後で差し入れさせますけど、出来るだけ直ぐに結果を聞かせて下さいね』
「はいー」
で、提案してみたんですが。
『じゃあ誰に任せるか』
「あー」
《何度か前段階の家を、それこそ予備の家の案は出たけれど。任せる者で揉め、場所でも揉めてね》
『それ、家の領内?』
《成程、特区とまでは言わないけれど、何も家の領内で有る必要は無いからね。それこそ南寧や掲陽でも構わない》
『山東省なら済寧、北と東と中央の間。四川省なら、やっぱり成都かなぁ』
「あの、なら、重慶にもどうでしょう?」
『何で?』
「問題の有る子を隔離出来たら、と、偶にどうしてこんな良い親にって子も居ると思うので。流石にそこに送り返すのは、損失かな、と」
全く別の場所に、とも思ったんですけど。
そうなると、西安送りだ北京送りだとバレてしまいそうなので、はい。
『あぁ、僻地にそれだけ有ったら、送り出す側が大変だからか』
「はい、予備の、仮に予備舎としますが、その場所に行くとなれば集まるかと」
《俺も案を1つ、そうなると男用も欲しい》
《そうだね、開墾送りまではいかないにしても、ある程度の者を送る場所は欲しい。それこそ鶺鴒の様な事が起こらない様にする為にも、どうだろうか、暁兄》
「その先なのよねぇ、私も考えたし調べてみたのだけれど。どう選別するか、そして選別が正しいかをどうやって判断するか、なのよ」
「そこは私が。科挙より簡単な問題に答えて頂くんです、ただ字の読み書きが不得手な方も居ますから、読み聞かせて迷路の様な先に進んで頂いて、良い子には良い職場を、悪い子は僻地送り。とか、まぁ、形はいかようにも変えて頂いて、と」
あやふやなのは仕方無いんですよ、なんせコレ思い付きですから。
アレ、SPIだか何だかって言うアレ、適性検査で篩い分けをと思い付いただけで。
ぶっちゃけ問題とか内容は全く覚えてもいないので、まぁ、先生とかを頼ろうかなと。
「でも、あまりに厳しいと殆どが僻地送りじゃない?」
「そこは先生とかに頼もうかなーと、それに皆さんやお姉様達にも協力して頂ければ、出来るかな、と」
「まぁ、そうね、誰かだけが決めるんじゃなく投票で決めても良いのだし」
「そう一極集中さえ回避すれば、まぁ、良いかな、と」
『やるかな、地元の貴族が』
《全ての子が優秀とは限らない、もしそうした者が優先的には入れるとすれば、協力した方が得だと分かる筈だよ》
「あら、そうした相談も、成程ね」
《あの、お待たせしました》
「あ、コレ頼もうか迷ったんですよ、千枚春巻」
包まず油に入れず、熱い油を掛けて揚げるんだそうで。
だから超パリパリだってウムトさんが。
あれ、そう言えば居ないですね。
「ふふふ、アッチに持って行きなさい」
「あのー、結果としては、どう、でしょう?」
《良いと思うよ、ただもう少し煮詰めたい、だから彼女達にも相談してくれると助かるね》
「はいー、頂きますー」
四家予備舎と隔離舎、やるわね花霞。
《流石ね花霞》
「えへへ、やーっと、少しだけ天才に近付けましたかね?」
『ですね、早く先生に聞いて頂きたいですね』
「でもなぁ、今までは凄いダメ出しって無かったんですけど、今回は沢山の方の人生を左右しますから。何か、凄い、怒られるかも?」
《なら改良すれば良いのよ、割り振りに無駄が無くなる、より様々な子が活躍出来る様になるかも知れないんだもの。そうよ、それこそ茶楼の方にご相談なさっても良いじゃない、きっと振り分けに悩まれた筈よ》
『それこそ下働きを多く抱えてる場所で聞き込みをすれば、完璧では?』
「はぁ、天才にはやっぱり届かないですね、きっとそこまで先生は出す筈ですから」
《アナタね、天才への垣根が高過ぎるのよ。それに、私はこの世の殆どは凡人で回ってると思ってるわ、その凡人が居てこそ天才の才は発揮される。凡人で結構じゃないの、世を回してるのだと胸を張っても良いじゃない?》
「いや薔薇姫様は非凡側ですって、特にその胸と色気が。あ、もしかしてウムトさんと一緒なんですかね?」
《今頃気付いたのね、そうなのよ、今日は一緒に出掛けると言ってて》
『あら、凄いですね、噂をすれば何とやら』
あら、でも、どうして従業員の出入口から。
『どうだったかな、僕の包んだ蝦餃は』
「あら」
『可愛いと思ったらそうだったんですね』
『だけ、だけれどね。僕も点心は好きだから見学させて貰っていたんだ、北朱雀の為にね』
もう、美雨は嬉しさを嚙み締め過ぎて絶句してらっしゃって。
素晴らしい演出ですね、流石ですウムト氏。
《ありがとう》
「何だか、妬ましいです、私もそうしたかった」
『もう、拗ねて顔が肉包になっちゃってますよ?』
『ごめんね、可愛い北朱雀を奪ってしまって』
実に憎らしくも潔い方です。
うん、美雨に相応しい方ですね。
「んー」
『あらあら駄々を捏ねてもダメですよ、私達は席を移動しましょうか?』
「いやいやいや、彼らには良い席を用意したから、僕の相手を頼むよ?」
《そう、ありがとうございます》
『では行きましょうか、失礼しますね』
そして向かった先には、蒸されたばかりの点心の湯気が。
成程、美雨と2人で食べる為に、今まで裏で仕込んでたんですね。
『素晴らしい策ですね』
「嫌いですウムトさん、折角の団欒を壊したんですから」
「そうかな?茶楼で働く子にも、良い見本になると思うけどね?」
『成程』
「もー、今度は翠鳥の懐柔ですか?本当に大事な話をしてたのに」
「あぁ、それはすまないね、どんな話なんだい?」
『あのですね、四家巡りについてなんですけど……』
そうして私が説明している間も花霞は、ずーっと浩然さんを睨む様に窓辺を見て。
ですよね、ココまで親しくなった者はそう居ないと聞きますし。
「成程ね、実に良い案じゃないか」
「別に、どうせ誰にでも言ってるんじゃないですか?」
「いやいやいや、本当に感心しているんだよ。人の選別、篩い分けは何処でも課題なんだ、それこそ商隊の篩い分けの厳しさを知ったろう?」
『緊急事態に動けなくなってしまう者、指示を正しく理解し行えない者、不真面目や不誠実な方も弾かれる。ですね』
「そうそう、それに異変に気付き難い者、自分で考えられない者、責任感が無い者や愛の無い者も。そうした者を選別するには、どうしても手間暇が掛かる、となれば育てる時間が遅れ多くの人手が割かれてしまう。大きな利益の損失だよ」
『となれば、何処も大概は協力して下さるって事ですよね』
「そうさせれば良い、個別の案件に合わせた問題を共同で作る、そうなれば進んで協力する筈だよ」
『かなり実現に近付きましたね』
うん、マズい時に彼を出してしまったね。
すっかり僕の咪咪は拗ねてしまって。
「私、後はもう、天才様方にお任せします」
「こんなにも重要な話を邪魔して本当にすまなかったね、けれど美味しい物を出させるから、許しておくれ」
『あ、もしかして蝦炸ですか?』
「そうそう、少し手間は掛るけれど、茶楼の上役がすっかり気に入ってね、暫く特別な顧客にだけ出すそうだよ。ほら」
うん、このタイミングは良いね。
「私は好きですけど、早朝にコレは重いと思います」
「コレは練習用だよ、昼か夜に出す特別な料理としてね、料理人に試しに作って貰ったんだよ」
『あー、相変わらずサクサクで美味しいですねぇ、コレって何処の料理なんですか?』
「僕が聞いたのは、ココから海へ出てグルっと回って、北欧辺り。そこで肉を衣に包んで揚げているそうだよ」
「それはそれで食べたい、赤身で」
『あぁ良いですねぇ、脂が無い方が合いそう』
「でも肉団子を揚げちゃっても良いと、あ、あ、芋、後で厨房でお願いしたい事が有るんですけど」
「良いよ、翠鳥ちゃんは何を揚げて食べたいかな?」
『今金雉が思い付いた料理と、お魚を揚げた物を食べてみたいです』
「良いねぇ、白身魚を用意させるよ」
『はい、ありがとうございますぅ』
僕らには、転移転生者からタイミングさえ合えば広めて良いとされる情報が、幾つか詰まっている。
その中でも豊富なのは料理。
ただ非常に悔しい事に、自分が食べたいからと言って作る事も広める事も出来無い。
そして広めさせるべきではない者にも、伝える事は出来無い。
それこそ性根が腐った者や既に利益を豊富に持つ者、利益や権利を持つべきでは無い者には、知っていても可能だとしても一切手を貸してはならない。
けれど、彼女は小さな商家。
片や相手は四家、となれば後ろ盾や本人の力を大きくさせなければならない、だからこそ僕は協力した。
うん、僕が食べたいから、だけでは無いからね。
そして万が一にもこの案がダメなら、神々から邪魔が入るとされている。
つまり、神々は彼女に力を持たせる事を許したワケだ。
やっぱり僕が選んだ娘もまた、実に素晴らしい子に育ってくれた。
うん、実に楽しみだね、串揚げ屋。
「邪魔されたから逃げて来ました」
『兔子に翠鳥が取られたもんな』
すっかりバラバラに座ってんだよな、他も。
鶺鴒と青燕と金絲雀の卓には、暁霧と臘月とウムト氏。
でコッチには春蕾と俺と花霞。
マジでムクれてんの。
でそれをニコニコして見てんの、春蕾。
俺、どっかの席に行こうかなぁ。
でもなぁ、行ける卓には金絲雀が居るんだよなぁ、アレ突っ込んで来るから面倒なんだよ。
「あ、鶺鴒はどうです?」
『無いなぁ、金絲雀も無い、ココの店のも幼過ぎて無い』
「何でダメですか」
『若いのって、俺みたいなのは不安になると思うよ』
「あー」
『まぁ、俺らの見立てを信用してくれるなら宛がうけどさ、結局は自分で選んだ方が納得すると思うよ、多分だけど』
「あー」
『真面目に話してんだけど?』
「真面目に聞いてますよ、確かになと、芯の強さが有りますから」
『まぁ、お前らの事を理解してくれんなら、コッチで弾けば良いじゃん』
「まだ、言えて無いんですよ」
『あぁ、だろうなぁ』
失敗させたも同然の四家とつるんでるのも知らない、しかもそれとハレムだしな。
言えないわな。
《こう、難しい事だと、良く分かった。甘く見ててすまない》
「あ、いえ、コレはまぁ、例外と言えば例外ですから」
『でもなぁ、子の相手の親がどう思うか、だよなぁ』
「そこなんですよねぇ」
『で思ったんだけどさ、もう孤児院で育てちゃえば?』
「流石天才、けど自分の子と他の子って区別しちゃいそうなんですけど」
『そこは何も完全に一緒にするんじゃなくて、建てちゃうんだよ、家と孤児院を敷地内で別々に建てんの。孤児院と院長の家が有る、で自分の子はお前の家の名、他のは院の家名。で少しややこしくして誤魔化せば、何とかなりそうじゃん?』
「ほら、コレですよコレ、コレが天才なんですよねぇ、完璧じゃないですか?」
『いやコレお前の案から取っただけだからな?』
「どこが、欠片も見当たりませんが」
『同じ省で二つの全く違う舎を建てるんだろ、それと同じじゃん』
「あー」
『その、あー、阿保い』
「良く言われますぅ」
コイツ、何が何でも自分に才が有ると認めない気だな。
まぁ、分かるけどさ。
認める弊害がデカ過ぎんだよ天才って、天才だろ、とか言って無理難題押し付けられても困るんだし。
《なら、予備舎に孤児院も併設するのはどうなんだろうか》
「あー、良いですねぇ、道で少し隔てて地区全体にしちゃえば良いんですし」
『まさにウチだな』
「周りが城下町ですよね、そこは違う方が良いかと、安全で広い遊び場も欲しいですし」
《見通しが良い方が良い、子供は直ぐに見えなくなる》
『マジでかくれんぼの天才だからなぁ』
「良く何処に隠れてました?」
『屋根の上』
《木の上》
「あー、ズルい、大猪は絶対に凄い高い所まで登ってそう」
《うん、一時期禁止された、落ちて》
『あー、端ギリギリ狙って落ちたんだ』
《二回、流石に自分の重さを自覚して、より高くに登って怒られた、見付けられなさ過ぎて》
『同化し過ぎ』
「けど何か分かります、木っぽい」
木て。
『ひひっ』
「あ、良い意味で、偶に風に吹かれて喋る、みたいな。私との話題って難しいですかね?」
《いや、ただ》
『触りたいとかばっかり考えて話題が出せないんだって、だせぇ』
「肉欲だけ、はちょっと嫌なんですが」
《触れば出る、筈》
「本当ですかね?」
『さぁ、試してみたら良いんじゃね?折角だし』
で、結局は金絲雀達の卓に行って、先に鶺鴒達を連れ出して。
コレ、流石にちょっとは駄賃が出ても良いでしょ、藍家から。
「えっと、炸丸子です」
うん、これぞ和食、和食?
いや、まぁ、懐かしい味って事で。
昼餉前に茶楼に行って厨房をお借りして、で、ついでに上役の方とも少しお話をさせて頂いて。
コレも気に入って頂けたんですが。
《凄い手間を掛けてるじゃない》
『美味しいですけど食べるのが勿体無い、コレ芋を潰したんですよね?』
「あ、コッチは荒く潰した方です」
『アナタどんだけ芋好きですか、美味しいですけども』
「いや芋って何しても美味しいじゃないですか?」
『素揚げでも美味しいですからね、魚炸の添え物としても最高ですよ』
《少し太いから蒸されたみたいにホクホクね》
『いややっぱり芋好き過ぎですよ』
「問題でも?」
『問題ですよぅ、麗江に芋が無かったらどうするんですか?』
「栽培すれば良いだけでは?」
『そこまでしますか』
「はい」
《けど、コレは流石に、柔らかいのだし串揚げには向かないんじゃないかしら?》
『いえ、コレはもう少し小さくするか、そもそも四つ切りにして串にさして素揚げにすれば良いんですよ』
『アナタも芋が好きに、なんて罪深い人ですか金雉、このままだと世から馬鈴薯が無くなってしまいますよ?』
「甘芋で、砂糖か蜂蜜掛け」
《罪人、極悪人だわ、絶対に美味しいじゃないの》
『とんでもない商売が誕生してしまいましたねぇ』
『問題は油ですよね、場所によっては高いですから』
「そこは大丈夫だよ、芋もね、麗江は綿花栽培が盛んで、寧ろ各所に売ってる位なんだよ」
「出た、名物百科事典おじさん」
「まだ根に持たれてるねぇ」
《もう機嫌を直しなさい、こうやって戻って来たでしょ?》
「でもまた行っちゃうじゃないですかー、夕餉はお外に食べに行っちゃうんですよね?」
『すみません、この子の世話をお願いしますね』
《お願いね鶺鴒、金絲雀》
『お任せを、なんせ慣れてますから』
何か、ルーちゃんって先生に対してこんな感じなんですかね。
そりゃ駄々捏ねちゃいますよね、今まで自分だけだと思ってたのに、他の人と仲良くされちゃうんですから。




