92 食在広東。
広東省の欽州にて、薔薇姫様と婚約者様が合流したのは蠱毒が解呪された日、なんですが。
相次いで月経となり、騒動も有ってすっかり忘れてまして。
で元気になってから昼餉時に対面して驚いちゃいましたよね、何で糸目の浩然さんが居るの、って。
なんですけど、まぁ、点心に夢中ですっかり警戒心も忘れちゃいまして。
何だったんでしょうね、あの無気力感。
あ、月経前だったからかな。
まぁ良いか。
で今回のお宿も二手に分かれてるんですけど、病害リスク管理の為だけなので、侍女役の鶺鴒と青燕さんと金絲雀は別のお宿。
そして男性陣の中でコチラに泊まっているのは、薬羅葛・浩然様は勿論、春蕾さんと臘月様と兔子。
ちょっと向こうが心配かな、とも思ったんですけど。
それこそウムトさんはほぼお父さんですし、暁霧さんは無性別主義者って感じで、雨泽様はもう、興味が無さ過ぎて逆に疑う方が失礼って感じでして。
と言うかコチラですよ。
広間を借りて3組が其々にお相手と夕餉を共にしているんですが、うん、私の方が逆に恥ずかしい。
キャッキャウフフ、からかけ離れ過ぎてますね、私。
「何か、すみません」
《いつも僕らの方が彼女達に世話になっているのだし、寧ろ今日は僕らが見張り役、と思っておこう》
《うん》
「あぁ、はい」
あ、因みにココのお料理なんですが、広東料理でして。
老火靚湯、白濁した具無しスープが最初に出されるんですが、もうクソ上手いんです。
それから特徴的なのはお粥、ココのお粥は殆ど粒が無いんですけど、味と具がしっかりしててコレもある意味でスープ。
だから種類も豊富で肉のお粥は勿論、豆粥に半生の魚を頂く魚生粥、モツ入りやレバー入りなんかも。
そうそう、名物の及第粥。
レバーと肉団子とモツが入ってるんですけど、この三元及第粥に腎臓と心臓とタン、それから魚を淹れて七及第粥とか言って具沢山粥が名物で。
具合が悪い時の粥、が定番だったので、子供の頃は食わず嫌いしてたんですけど。
家でコレが出てお粥の常識が覆ったんですよねぇ、懐かしい。
あ、それと米粉料理が超豊富。
腸粉って言う米粉の蒸しクレープは、巻筒粉とも言うんですが、どうやら薄いのが腸で巻筒が厚いらしい。
それに米粉の麺。
細いのから太いの、平たいのから乱切りともう色々と有って、太麺はモチモチして正にうどん。
他にも米粉の点心、アレです、半透明の海老餃子。
モチモチのぷりぷり、翡翠餃子もココが原点なのか、凄く綺麗で美味しい。
他にも米料理が有るんですよね、色付けしたお祝いの品、五色米。
3月3日のお祝いに食べたりするんだそうですが、今日の夕餉に出して頂けまして、実にカラフル。
しかもその日って何やらイベントが有ったらしいんですけど、惜しい、過ぎてる。
「あの、知ってます?抛绣球の行事」
《最初から自分で作り、1人だけに投げる、婚約の儀式に近いそうだよ》
「あー、じゃあ、あの売り物はお土産用なんですね」
《それか見栄かな》
「あぁ」
お土産用は綿が入ってそうですけど、本物は婚約の儀式で使うとなると、やはり穀物が入ってるんですかね。
面白そうだから作ってみたいんですけど、何個も作るとなると。
あぁ、小さくすれば。
いや小さいのは小さいので大変なんですよ、細かい作業になりますから。
ぅうん、面白そうなのに。
《食欲があまり無いのかな》
「あ、いえいえ、美味しいです美味しいです」
特にこの焼味三肉、要は皮付きバラ肉なんですが、表面の皮はパリパリでバラの方はジューシー。
それと脆皮鴨、コレもう北京烤鸭、って言うかコレが元祖なのかも。
そして豉油鶏、丸鳥の醤油煮って感じなんですけど、敢えて冷めてるのが逆に最高のおかずになるんですよねぇ。
で青菜、ココで一周して、またお肉に行ってお米が消える。
夜に炭水化物だなんて太るの気にしそうなんですけど、太り難い、そして瘦せ易いんですよこの世界。
だからもうムチムチこそ至高、みたいな感じなんですけど。
私みたいに体や内功に異変が有る方は勿論、病気でも太れませんし、法術を使う為の気や功が足りなくても瘦せてしまう。
向こうとは違って、コッチで瘦せは不良品に近いんですよ。
だから私の体系を好む方は相当の特殊性癖か、余程の世話好きか、ある意味内面を見て下さってるか。
こんなに、魔法の有る無しでココまで変わりますかね。
とか思ってたんですけど、やっぱり病気になると体力が必要で、瘦せてると瞬殺なんですよ。
本当に、風邪が流行ってしまうと瘦せ細った老人、子供から順に亡くなってしまうんです。
軽く病が流行った時はもう怖かったですよ本当、泣きながら食べてましたもん、死にたくないから。
なのに太らないからもうパニックで、砂糖とかじゃりじゃり食べたりもしましたけど、特に私はバランス良く食べないと太れないらしく。
一時は家で山羊を飼うか検討された程、でも何でか私は雌だけ飼うのは可哀想だと激しく拒否したそうで。
記憶が曖昧な時期なのでアレなんですけど、夫婦や家族について理解してたのか、既に思い出してたのか。
兎に角、賢い遺伝子で助かりました、本当。
《明日は、明朝、早茶に行こうか》
「良いですねぇ、早起き飲茶」
そして明朝、日の出と共に南園茶楼へ行くお約束をし。
解散。
はい、婚約してても体の関係は婚姻を果たしてから、ですから。
《本当に色気が無いわね》
『流石に傍から見てて心配になりましたね』
「あのですね、アナタ達が調情し過ぎなんですよ」
《あら体は清いままよ?》
『いや流石に美雨のイチャイチャは刺激が強過ぎです、兔子に見せない様に大変だったんですからね?』
「ほらぁ」
『そう言う花霞は真逆過ぎます、何ですかあの友人知人みたいな距離は』
《そこよそこ》
「いやいつもお世話になってますし、今日は私達が見張り役だ、と」
《どうせ臘月様から頂いた言い訳でしょう、何がそんなに恥ずかしいのよ》
「いや、いやー?恥ずかしいんですかね?」
《恥ずかしいワケでは無いのね》
「こう、機会と言いますか、どう、そう、なります?」
《まぁ、ウチの人は積極的だから、手に手を載せて来たら握り返したり、両手で触れたり。そうしてたら近くなるものじゃない?》
「まー、破廉恥ですわ」
『別に手で手を触れる程度なら、まぁ』
「良くそのままグングン進みませんね?」
《そこが、それこそ駆け引きなんじゃないの》
『あ、そうなっちゃいます?』
《まぁアナタの所は控えさせるべきだけれど。あまり控えさせ過ぎて、お気持ちが離れ過ぎてしまったら困るじゃない?》
「塩梅はどう分かるんですか?」
《分かると言うか、我慢して頂きたい具合を、その境をコチラに合わせて頂く気で居るわね》
「あー、成程、そうした具合を駆け引き、と言ってるんですね、成程」
『成程』
《私の場合は、よ?》
「参考にさせて頂きます」
『ます』
《ちょっと、どうしてアナタまでソチラ側なのよ》
『だってもう、可愛くて可愛くて』
「はいはい、惚気るならお駄賃を頂きます、今度から飴1粒」
『違うんですってば、我慢して下さってると分かるともう、つい、甘やかしてしまいたくなって。だから、どう我慢してるのかな、と』
「あー、まぁ、私は我慢も何も無いんですが」
《可愛いお姿を、例え花霞や小鈴でも見せたくない、かしらね》
「あー」
『成程ー』
《はぁ、もっと四家巡りの最中に尋ね回るべきだったのかしら》
「でも結局は身にならなかったかと」
『ですよねぇ、そうなんですね、としか思えなかったでしょうし』
《そこよねぇ、ご婚約者が既にいらっしゃった方で、四家巡りで情報収集された方に。昆明に行けば、会えるかしら》
「確かに」
『折角ですし、女官の方からどなたかご紹介頂いて』
《あわよくば侍女として来て下さったらもう、完璧ね》
例え的確な方がいらっしゃらなくても、もしかすれば鶺鴒の友人知人となる方をご紹介頂けるかも知れないのだし。
行ってみるしか無いわよね。
『鶺鴒さん、大丈夫ですかね』
「今日まで何も無かったのだし、何か有れば大騒ぎで金絲雀が来るでしょう。そもそも喋りが達者ですから、例え何か思い出したとしても、ぐっすり眠るまで話し続けてくれてるかと」
《期待が大きいわねぇ》
「その道の専門家だと思ってますから」
うん、無事に眠って頂けましたねぇ。
『麦茶です、どうぞ』
『ありがとうございますぅ』
ふと、眠る前、鶺鴒さんが思い出し怒りと悲しみに溢れてしまいまして。
いやー、まさに喋り倒してやりましたよ。
久し振りですねぇ、この感じ。
『あの、慣れてらっしゃいますが』
『妹が居るんですけど、まぁ感の強い子で、癇癪は起こさないんですけど寝付きは悪いわいつまでも夜泣きはするわ。子供って面倒だなって子供ながらに思ってたんで、先生が子を成すのを面倒だと思うのも分かるんですよ、だってそんな事に十何年も付き合うんですから』
『子によりますよ、ウチはまだ一人だけですが、凄く楽でしたから』
『そこですよねぇ、最初は楽で次が大変なら良いですけど、最初から大変とか絶対に萎えますって。下手したら子種袋に八つ当たりですよ、何で植えた、とかね』
『悪阻の酷い方はまさにそうなるそうで』
『そうなんですよぉ、ウチの家系って酷いらしいんですよねぇ』
しかもバラバラ、食べ悪阻が居たり水もダメだったり、西瓜しかダメだったり。
で、喋って誤魔化すか聞いて誤魔化すか、そこも家系っぽくて良く家に講談師を呼んでたんですが。
そう妻が頑張ってるのに、ある親戚筋が浮気したもんだからもう、女性陣総出で粛清ですよ。
そうして死ぬまで悪阻と同じ様に腹痛と吐き気に襲われ、吐いては飲み、飲んでは吐きを死ぬまで繰り返し。
本当に死にました。
アレは怖かったですねぇ。
死因は食中りだそうですけど、診ていた薬師も女性でして、あっさり病死で片付きました。
たった一回でも、心の臓を一突きされたら死ぬ、だからたった一回でも浮気には死を。
『成程』
『いえまぁ本当に食中りだったのを盛っただけかも知れませんけど、吐きながら謝ってる姿を見て、ざまぁみろって思いましたね。大好きな従姉妹が浮気されたので、死んで当然だな、と』
好き合って結婚してソレですからね、花霞が警戒するのも良く分かります。
だってほら、私達って繊細ですから。
『苦行してるって、何か有ったんかね』
《自責の念だけでこうした行動を取っている、とは思えないけれど、道士と接触した報告は無い。そもそも報告の日付からして移動も無理、けれどもし、万が一を考えるなら、商隊の誰かが何かを耳打ちしたか》
『道士がマジで転移者で、天翔ける馬に乗って移動した、とか』
「とうとう、アンタも花霞ちゃん信者ね」
《もし本当にそうなら、僕らをどうにかするとは思わないんだね》
『あー、それこそ記憶を消すか、そもそも消すか』
「けど良い子だとすると、そんな事はしないんじゃないかしら」
『けど読めないって言うし』
《全ての気が読めないワケじゃなく、一部は読み取れたんだ、重く濃い情念だけはね》
『ドロッドロしてそう』
《悪夢の蠱毒程度にはね》
「見えるって羨ましい気もするけれど、それで影響は無いの?」
《蠱毒の場合、あまり意識を合わせると寄って来るらしい。すまないね、君達が悪夢を見たのは僕が合わせ過ぎたからなんだ》
『いや笑顔でサラっと言う事じゃないんだよなぁ』
《すまないね、僕もあんな蠱毒は初めてだったんだ》
「無差別、だそうだけれど」
《そう、本来は誰かに向けられるモノで。迷子の子供や動物と同じく、困っている子に目を合わせると近寄って来るだろう、そう言う事が起きてしまったんだ》
『「あー」』
《しかも僕は狙われ蠱毒の呪いに掛かった者と、僕に来た蠱毒しか知らなくてね。あんなにも形が定まらない靄は、邪気としか認識出来なかったんだ》
『何か、またサラっと凄い事を』
《ウチには蠱毒返しが有ったからね、直ぐに術者に返ったよ》
「もしかして、先生が言ってらした恩が有るって言うのは」
《うん、蠱毒返しの事も含んでいるんだ、その術者の処分についてもね》
『大変だなぁ、能力が有ると』
《君も見える様にしてあげようか》
『絶対に嫌だ、流石に殴るよ』
「私には無理かしら?」
《器の種類が違うからね、見えたら何かが壊れると思うよ》
「止めとくわ」
例の事件のついでに貰った蠱毒返しの札が、何年もして効果を発揮した。
だからこそ僕も家も、本当に彼や道教者には頭が上がらない。
けれど、花霞の事は別だ。
何ものにも代え難い、きっと他には居ない、例え他に居たとしても違いに目が向いてしまうだけ。
どうしても、僕は花霞が良い。




