91 悪夢。
『この女はどうだ、って言って女を紹介すんの。で、そのまま飲んだり食べたりしながら持ち上げて、奥さんも良いよと言って承諾させて、その先どうするかを見るワケ』
『うん、私が知ってるのと同じですね』
「成程、妻もグルとなると、調子に乗ってたり軟弱者は直ぐに受け入れちゃいそうですもんね」
《凄いわね、その案》
『何か、元は別れる口実の為、だったみたいだけど』
『ですね、何処で聞いたか覚えてます?』
『四家に来てた講談師』
『あー、だから3人は知らないんですね、そっか、盲点でした』
「あぁ、月経の時期の事でしたか」
『でも鶺鴒さんも知らないってなると、青燕さんはどうでしょう?』
『私も、ついこの前まで知りませんでした』
《他にも聞き洩らしてる事が有るかも知れないと思うと、やっぱり悔しいわね》
『いえ、もう流石に無いかと』
「こうなると、商隊から流れて来た話っぽいですよね」
《他にも無いかウムト氏に聞きたいのだけれど、試す事について考える良い機会でも有るのよね》
『マジでされると思う?』
《だから先に私達にお聞かせになったんじゃない?》
『いや、一応要望は聞いとこうと思って』
「ならこの案は絶対に漏らさないで下さいね」
『おう』
で、帰ったら帰ったでもう。
マジでココからが最高に面倒臭かった、主に暁霧と兔子が。
「で、どうだったの」
『すっかりいつも通りだった』
『なら一先ずは安心ですね、で教えて下さい、答え』
『いやー、口止めされてるし』
「良いじゃないよ、ちょっと位」
『そうですよ、と言うか僕って信用ならないですか?』
『いやさ、色々と思い出したけど、本当、結構あっさり心変わりするんだよなと思ってさ』
「私は半ば信仰だもの、そうそう無いわよ?」
『けど改宗って言葉が有りますよね?』
「言うわねぇ」
『えへへ』
『何で知りたいの?』
「だって謎が過ぎるじゃない、ねぇ?」
『そうですよ、答えが有るなら知りたいじゃないですか』
『アイツらは余裕じゃん』
『三叔はそろそろお昼寝刻ですから』
「それに慌てて聞いたんじゃ外聞が悪いもの、ね?」
《僕らは知らない方が良い事も有る、と知っているだけだよ》
《金雉が知らないで欲しいなら知らないままで良い》
「ねぇ、なら私は別に良いんじゃない?」
『なら僕もですよ、翠鳥なら分かってくれる筈です』
『はいはい、分かった分かった』
で、また引き返して尋ねに行ったんだけどさ。
俺も眠いのになぁ。
「ひひへふほ」
『あ?良いですよ?』
「はい、兔子を信用してますし、細狗さんは半ば部外者ですから」
『はぁ』
「あ、すみません、思考停止したり右往左往させたり」
『いや、ココで投げ出すのクソ気持ち悪いし、結末は確かに知りたいから別に、俺のしたい事だし』
「鶺鴒はどうです?」
『言うと思った。けどアレは大猪みたいなのが良いと思うけどな。あんまり口が上手いと信用しなさそうだし、アレは寡黙だけど言う事はしっかり言うし』
「誰がお勧めだ、とか有ります?」
『青燕が男ならな、つかアレ言ったのか?青燕、夫婦の揉め事』
「あ」
『はい、夜伽についてです、回数ですすみませんね』
『蒸し返したからってキレんなよー』
「それはそれは、失礼しました」
『いえ、ただ若様に知られるのが恥ずかしかっただけなので、少し殴りたいですね』
『肩にしろ肩に』
『手を痛めたら困るので、何処が良いですかね』
「お尻か腿ですかねぇ」
『では、失礼します』
何で、俺、叩かれてんだろ。
あ、ダメだ、俺も眠いわ。
『もう、帰る、寝るわ』
「おやすみなさーい、良い午睡をー」
本当、すっかり元気なのな。
洗われる米粒だったのに。
『ねぇ、悪夢を見たんだけど』
「あら大変でしたねぇ、お尻を叩かれる悪夢ですか?」
『いや、米粒になって水が来んの、確かにあれはもう脱力するわ』
「いや想像力が豊かですね、私は大爆睡でしたけど、あら、皆さんも?」
《そうなのよ》
『私は子供の頃でしたねぇ、すっかり拗ねて脱力してる夢でしたよぅ』
『残念です、私は何も見てなくて』
「成程、鶺鴒さんも。え?毎回見てるんですか?悪夢」
『湯薬は飲んでて、ですか』
《アナタ按摩をしてあげたら?》
『唸ってたら起こします?それとも寝返りさせますか?』
私達に気を遣って言わないだなんて、本当、水臭い。
ですけど分かりますよ、暗い話題、心配させる様な話題を出すって凄く勇気が要るんですよ。
またか、とか顔に出されたり反応されたらもう、それだけで傷付きますからね。
傷付いてると繊細になって、過敏になるんですよ。
だって怪我してるのに鈍感とか、下手したら死ぬじゃないですか。
んー、コレはルーちゃんにお願いすべきでしょうか。
いやお願いしても別行動で。
でも、呼べば直ぐに来るって言ってましたけど。
うん、明日にでも欽州市に着くんですし、そこで頼んでみましょう。
「すみません私の事じゃないんですけど、と言うか本当に直ぐに来ましたね」
『えっと、花霞の事じゃない、とは』
「実は恨みと悪夢を抱えてる、新しい同行者の方なんですが、どうにかなりませんか?」
『それは、女性、で』
「あ、そうですそうです、少し質の悪い男の事で。本人も十分に選ぶ事については猛省してるので、どうにか出来ませんか?」
『その悪夢はいつからか、詳しく聞けますか?』
「はい、勿論です、けど、人払いをした方が良いですよね」
『でしたら地元の方を連れて来ますので、それからお願いします』
「はい」
他人の為に僕を呼んだ事は少し複雑だけれど、呼ばれて嬉しかった。
会えたし、話せたし、頼み事をされた。
花霞に頼られて、花霞の願いを叶えられる。
凄く嬉しい。
『失礼致します、中央の道教院から参りました、ご助力願えますでしょうか』
中央からいらっしゃる方は、特別である方も居る。
そうお伺いはしていたのですが、実際に遭遇する事は初めて、でして。
《私、この道教院の副管理をさせて頂いております道士ですが、どう言ったご用件でしょうか》
『コレから斎醮道を行いますので、蠱毒にお詳しい方にご同行頂きたい、払いは僕がしますので補佐をお願いします』
《成程》
残念ですが、蠱毒を詳しく知る方は出ていまして。
後は養生道の者か仙人道の者、私は房中術の房道の者でして。
管理長も出払ってらっしゃいますし、どうしたものか。
『既に下見をしてきましたが、悪夢を見せる程度の弱い蠱毒が若い女性についています、そうした者に慣れてる方でも構いません』
若い娘さんでしたら、良く養生道の者と共にお話をさせて頂いておりますし。
いえ、この方にお選びいただきましょう。
《では私、房道の者か養生道の》
『ではアナタで、宜しくお願い致します』
そうして中央の方にご協力出来る、と勇んで参ったのですが。
コレは、初めて蠱毒付きを見ますが、実に禍々しいですね。
コレで弱いとなると、実に恐ろしいですね、蠱毒は。
《コレは、少し》
『蠱毒をしましたか?』
「えっ?」
してない、となると。
『妬まれる、若しくは恨まれる様な心当たりは?』
寧ろ恨んでいる事は有っても、妬まれる程な目立った覚えも無い、と。
コレは、ウチの蠱毒に詳しい者が探っている件と絡んでいるのでしょうか。
所謂、無差別な蠱毒か、あるいは。
《成程、では少し、方法の検討等を致しましょうか》
『はい。大丈夫ですよ、僕らで直ぐに解呪は出来ますから』
「あ、そうなんですね、良かった」
『なので少し、コチラへお願いします』
「はい」
今回の場合も術者は不明、だそうで。
ただ、私にも何となくは分かりました。
蠱毒の狙いが定まっていない、と申しますか、そう鋭い殺意の様な何かは感じ取れなかったのですが。
『やはり無差別ですね』
《その様ですね》
「えー」
『偶に有るんだそうです』
《力の誇示、それや宣伝、ですね》
「あぁ、こわっ」
『なので不用意に虫を殺したり、それこそ蠱毒の入った壺の上を踏んだりしない方が良いんですけど。虫の場合は大概は毒虫ですし、壺は道端、馬車に乗ってても馬車が踏んでしまうと呪われますし。そうなると弱い心根の人に憑くので、もしかしたら、問題が起きてから呪いに掛ったのかと』
《でしょうな、気からして良い心根の方でしょうから》
「成程」
『通った道は勿論ですが、宿の記録もお願いします』
《そうですね》
「大変ですね、お仕事」
『いえ』
《いえいえ》
「コレって、道士様に頼んで大丈夫でした?」
『はい、コレは道士の仕事ですし、蠱毒師の管理も僕らの仕事ですから』
《ですね》
「管理」
《伝承は禁じられてはおりませんが、実際に蠱毒の使用となると別、本来は禁じられているのです》
『こうして害が有りますから。ただ、伝承を禁じないのは』
《伝統、でございますし、高度な蠱毒の場合は術者に解呪を頼む事も有りますので、はい》
『薬草や毒草、毒虫の知識もそうですし、滅ぼすのは得策ではない、と』
「滅ぼす」
『あ、すみません、強い言葉ですよね』
「いえ、まぁ、こうなると滅ぼしたくなるのは分かりますので」
『すみません、ありがとうございます』
どうやら、お慕いしてらっしゃる方、のようで。
神々しいお方でらっしゃいますからね、万物が惹かれるのも無理は無いかと。
いえ、私には妻が居りますし、妻一筋ですから。
《では、参りましょうか》
「はい、宜しくお願いします」
いやもう超展開ですよね。
マジで有るんだ、蠱毒。
って感じで。
って言うか不幸が重なるって、こう言う事を言うんですかね。
弱ってる時に蠱毒の呪いを受けて、悪夢て。
きっと絶対に精神がガリガリ削られてますよ、毎日の悪夢ってマジで辛い。
私も受験の時に3日連続で見てキレそうになりましたもん、追い掛けられる悪夢。
っていうか、この蠱毒、例のクソ野郎に擦り付けるとか出来無いんですかね。
『コレなら僕でも出来ますね、解呪も擦り付けも』
《あぁ、ええ、まぁ、そうですね》
『彼女から少しだけお伺いしたんですが、誰かを恨んでるなら、コレで終わらせてみてはどうですか?』
あー、筒抜けだったんだぁ。
すみません、さして性根が良くなくて。
あ、承諾した。
「ですよね、お願いしちゃいますよねぇ、分かります、私も同じ事を考えてましたから」
凄いですね、三ツ辻はコレを見抜いて。
なら教えてくれても良いじゃないですか?
《あんまり介入してはマズいんじゃよねぇ》
あぁ、けど、どうにかなりませんかね?
『他には何か、有りますかね。不調とか、僕に頼みたい事は』
「あ、こんな状態でなんですけど、良いお相手とか居ません?」
あ、鶺鴒、はにかんだ。
信用してくれてるんですね、私達や道士様を。
《ふふふ、それは先ず蠱毒の処理をしてから、でしょうな》
「ですよね、宜しくお願い致します」
で、私には何も見えなかったんですが。
ルーちゃんが何かを掴んで、道士様の持つ壺の中に入れ、お2人で封をして。
終わり。
《無害とする場合、百日弔いをするか》
『暫く情念を、憂晴らしをさせてあげると弔いの日数も少なく済むんです。それと解呪とは関係無いのですが、もしこの子達を思い出す事が有れば、お線香を上げたり、手を合わせてあげて下さい』
ですよね、犠牲になった子達が居るんですし。
それに私達の憂さも晴らしてくれるなら、それこそお礼も兼ねてお線香をガバガバ上げないと。
「うん、はい」
『では、これで終了です』
《お疲れ様でした》
宿の待合室で待ってて貰った青燕さんに、鶺鴒の付き添いを頼み。
ルーちゃんと道士様をお見送り。
「あの、お祓い後の作法を知らないんですが」
《私はあくまでも付き添いですので、もしお礼をとなれば彼に。何、お菓子1つでも大丈夫ですよ、頂ける場所からしっかり頂いておりますので、どうかお気になさらず》
『はい、ただ気になるのであれば、お野菜や乾物が喜ばれますから、立ち寄ったお店に道院の名をお出し頂ければ問題無いかと』
あ、寺院とかと同じで、ちゃんと第三者も挟んで暴利を貪れない様になってるんですね。
成程。
「ありがとうございます」
《いえいえ、では、失礼致します》
「あのー、コレから、どちらに?」
『付けに行くんですが、僕は次の仕事に行った、と』
「あぁ、うん、はい、ありがとうございました」
『いえ、じゃあまた』
「はい」
さぁ、どう言い訳しましょうか。
ルーちゃんが来てくれたのは都合が良過ぎですし、誰か他の。
《道士は邪気の気配も見抜けるでな、ふらっと立ち寄った者が払ってくれた、そう口裏合わせをしとったぞ》
「あ、すみません、ありがとうございます」
《あのフライなる物は実に良いモノじゃな、もっと様々なモノが食いたいのぅ》
「あ、ココら辺だと、筍とかどうです?お塩とかで頂いたりとか」
《うむ!》
上機嫌な返事と共に消えちゃいまいましたけど、良いんですかね、こんなお願いを叶えて貰ってお礼がフライて。
いや、気軽に、と言う意味でして。
うん、お料理しましょうかね。
「ただいま戻りまして、お菓子1つで大丈夫だそうで。ただ流石にお菓子はアレなので、快気祝い?に、お料理しようかと。呪いも無くなったんですし、きっと3倍は美味しく食べれる筈ですよ」
確かに嫌な気は消えていて、心持ちも僅かに持ち直していた。
そして何より、前よりも良く笑う様になり。
《うん、良さそうだね》
『いや蠱毒ってさぁ、マジなら見たかったわ』
「いや本当なんですってば、ねぇ?こう、何か掴んで、壺に、ほら」
『そんな都合良く道士が来る、か』
「ですよ、近くに道院有りますもーん」
《運が上向いて来たんだろうね》
気掛かりなのは、本当に野良の蠱毒師が居るかどうか。
流石に僕でも知っている蠱毒の掟、伝授は許されているけれど、決して力を奮う事を許されない術だと。
『今日から爆睡じゃん』
「念の為に私が寝かし付けますから大丈夫ですよぅ、良い塩梅が有るんですよ」
《そう直ぐには難しいだろうから、今日はゆっくりと。僕らはもう下がるよ、おやすみ》
「はい、おやすみなさーい」
彼女の悪夢が取り除けたのは勿論、花霞が元気な事が一番に嬉しい。
賢さ故の無気力は、本当に恐れなければならない事。
真に絶望してしまっては、本当に死が待っているのだから。
『アレさ、取り除いただけじゃないよね、絶対』
《ただ復讐に使うにしても、相手を探し出さなければならないだろうし、そこまで日が経てば、もしかすれば殆ど効力が失われているかも知れない》
『まぁ、コッチで見付け、次第情報が入って来る。よね?』
《生きていればね》
若しくは、彼だと確認出来る状態を保っているか。
《何で僕に、蠱毒の呪いが》
『本当に心当たりが無いですか?』
《それは、確かに清廉潔白とは言い難》
『本当に恨まれる心当たりは無いですか?』
《ココまでされる様な事は》
『最後に尋ねます、本当に、恨まれる心当たりは無いですか』
《それは、女性に、少し、でも》
『何人の女性から恨まれていますか、大事な事ですよ』
《そんな、1人は居ますけど》
『では何故、恨まれている、と思うのでしょうか』
《それは、別れる時、揉めたので》
『詳しく言って頂かないと、困るのはソチラですが』
《向こうから言われて、でも、合わないな、と》
『では最初は合っていたんですか』
《それって》
『お祓いや解呪に必要な事かどうか、アナタに分かるんですか?それとも他に頼りが有るなら、その方に頼って下さって構いませんよ』
《いえ、すみません》
『それで』
《合うかどうかは分からなかったんですけど、でも、だからって無理に付き合うのも》
『そうお伝えしてから、お付き合いを始めましたか』
《いえ、ですけど、だからってこんな》
『本当に好きになった事は有りますか?』
《本当にって》
『分かりました、どうやらコレは女性を軽々しく扱い、無碍にした事への天罰ですね』
《そんな、そんな事で》
『いえ、凄く大事な事ですよ、男は子を産めませんから。だから男は大して居なくても良いんですよ、それこそ男が一握りでも子孫繁栄は成せます。なのにも関わらず、居ても居なくても良い様な程度の男が国の宝である女性を疎かに扱った、その天罰が下って当然かと。残念ですが、僕には無理です、なんせ天罰ですから』
《すみません、謝りますから》
『分かりませんか、アナタが少し謝った程度で許される、そう甘く見てるから天罰が下ったんですよ』
《そんな、彼女にもちゃんと謝るので》
『天罰が下る前なら、何とか出来たんですが。もう、死なない為には苦行を成してもどうなるか、残念ですが』
《苦行をすれば》
『どれだけの行いをすれば、どれだけ生きられるかは天の知る所ですので、残念ですが。では、失礼致します』
花霞は自分の事を性根があまり良くない、と思っていたけれど。
それは僕も同じ。
先生が苦しめられた女媧教団の者に何かする時も、僕は寧ろ清々すると思っていたし、何も悪い事はしていないと今でも思っている。
そして今も、彼には人を疎かにした罰が下った、だけ。
僕は神々の代行者では無いけれど、不真面目で不誠実な者に憤る神様や仙人様を知っている。
でも神様達は直接は手を下せない、特に命運、生き死に関わる事は絶対的に禁止されている。
けれど、何にで例外や抜け道は有る。
それが僕、転移者の僕。
先生は何でも出来るだろう、とは言うけれど、意外と出来ない事は沢山有る。
全ての仙人様や神様と仲良くなれないし、僕の体は1つしかない。
だから、どうしても限界は有る、どうしても手から零れ落ちてしまう人が出てしまう。
花霞の事も、鶺鴒さんの事も、完璧に救ってあげられない。
『本当にアナタは優しい子ですよ』
《じゃよ、苦行を行わせてしまえば蠱毒も早くに成仏してしまうじゃろうに》
『僕だけ手を汚すのが癪なだけですよ、四家にも手を出して欲しい、手を汚して欲しいからです。それに、単に恐怖だけじゃ人は理解してくれませんから』
《そこは大人なんじゃけどねぇ》
『そうですね、人には時間が必要ですから』
『今の、どっちに同意しての事なんですかね?』
『では、失礼しますね』
《アレでも反省しとるんじゃよ、構い過ぎてお主を人との関わりから遠ざけてしまったやも知れんと》
『僕は、そんなに未熟ですか』
《仕事や他は良いが、人との関わりは奥深いでな、ワシらも未だに一筋縄ではいかんと思っておるよ》
『心を操ってしまいたい気持ちを抑えるのは、大変ですよね』
《じゃよ、思い通りに動かんで偶に嫌になるが、ワシだけのモノで無い、しかも本来は操られるべきでも無い。あるがまま、じゃよ》
『そうですね、僕はまだまだ未熟で』
《ほれほれ、睡眠時間を削って来たんじゃ、宿に着くまで休んでおれ、眠りは何よりの栄養じゃよ》
『はい』
天馬の背で眠るのはいつぶりだろう。




