88 情熱。
いやー、ついうっかりって、本当に良くないですね。
うっかり串揚げの事を出しちゃったもんですから、麗江の名物にしよう、と。
しかも、その案に行きずりの鶺鴒を巻き込もうだなんて。
「いや、お店を出すならそれこそウムトさんで」
《なら協力して貰いましょうよ、例の件についても》
鶺鴒が引っ掛かった男が単なるクソ男か、詐欺師か。
万が一にも詐欺師なら四家全力で、それこそ総出でどうにかして欲しいんですが。
商隊の力を借りるとなると、何か、相応の対価が必要そうで。
「ですけど、協力には対価が」
《そこよ、串揚げの屋台の対価、よ》
「えっ?良いんですか鶺鴒、屋台って大変ですよ?」
どうやら独り立ちしたいそうで、全力で頷いてて。
まぁ、最初は誰かに手伝って貰うでしょうし。
《彼女の気が変わらないウチに交渉しなさい》
「はいー」
今日からウムトさんが同行して下さってるので、話は早いんですが。
「うん、良いよ」
「コッチも話が早い、良いんですか?お手間が掛かりますよ?」
「先ず、麗江に僕らの知り合いの店が出来る事が利点の1つ。例の男が単に酷い奴だとしても、小さな事からコツコツと、が僕らだから動く事は手間じゃない。そして僕ら商隊にも八つ当たりは勿論、発散する先が必要な場合も有る、のが1つ。他にも有るけれど、裏の事情だから」
「その辺で納得しておきますぅ」
裏の事情は気になりますが、脳内補正して聞かないでおきます。
勧善懲悪は好きですけど、厄介事や面倒は嫌なんですよ、上手く処理出来る自信が無いので。
《あら、ダメだったのかしら》
「3つ利点を挙げて頂き、了承頂けました」
だから三ツ辻では何も無かったんでしょうかね。
《ふむ、実を聞きたいか?》
やめておきますぅ。
「フライ、か」
『花霞に作って貰いたいんですけど、手間が掛かるんですよね』
『“僕が作りましょうか?”』
『出来るんですか?』
『“はい、元は料理人として何処かの港で働こうと思ってたので、フライも出来ますよ”』
『この、ソースは』
『“港で仕入れられるので、その時に作るつもりですけど”』
『港でソースが手に入ったら、作るそうですけど』
「おう、任せたわ」
『“はい”』
俺は子供が居た事は無いんだが。
再婚した夫婦の間に連れ子が居るって、こんな感じなんだろうな。
コレで良く何とかなると思ったな、ルーの両親は。
いや、まだルーは幼くてこうじゃなかったか。
「いい加減に信用ならんか」
『だって、僕が悪いんですけど、お風呂を覗いたら。あの人、絶対に体目当てですよ?』
「いやそこが少し違うだろうに、体も、だ。お前だってそうだろうが」
『ですけど』
「あぁ、両方か、そら衝撃的だったろうな」
『何か、大人って、麻痺し過ぎてません?』
「お前は潔癖過ぎだ、と言うかそもそも、お前も大人だろうが」
『先生と花霞が何でも知り過ぎなんですよ』
「器が大きいと言え、と言うか、何で覗いた」
『大きな湯殿が有るのに個室だなんて、浮気でもしてるのかな、と』
「はぁ、疑うのは結構だが、お前が衝撃を受けてどうする。それにだ、無理に関わる必要は無いと言っただろ、いつか痛い目を、もう今回ので見ただろ。そんなに俺が信用ならんか」
『信頼はしてます、けど色恋沙汰については信用してません。花霞が言ってたんです、幸せを知って、不幸も知るかも知れないって』
「幸せしか知らんかも知れんだろうが。おい、過保護過ぎたのかも知れないな、どうするんだコレ」
《いや根を曲げさせるワケにもイカンじゃろ》
『それにお考えを正すのは私達だけ、では無いかと』
「あぁ、師匠の所は、寧ろそうした事は得意だろうが」
『座学だけで良い、と』
「はぁ」
『すみません』
転移転生者、両方が居る理由が良く分かる例だな。
転生の場合は大概の者なら自然と成長し、実質2倍以上の知識と経験となるが、転移者は実質まだ1周目。
成熟度としては俺らの方が上になる、が。
能力差がな。
良い調整具合だとは思うが、コチラとしては実に不便だ。
「座学で何を教わった」
『色々と、心持ちについても学びましたけど。通じ合ってこそ、体を重ねるべきで、安易に致してはならない、と』
「そこは男女の場合、又は信用ならん者とヤるな、と言う事だ。そもそもアレは病気も何も無いと神々にも聞いてるんだろ、なら少しは信用してやれ、それともお前は疑われて楽しいか」
病気持ちかどうかは聞いていないが、そう止めない段階で、だな。
『いえ』
「親離れ子離れをしろ、それと俺ら以外の関わりも作れ。面倒なのは良く分かるが、アレの周りには女も居るんだ、花霞から信頼される為にも、円滑な関係を築くべきじゃないのか」
《じゃの》
『ですね』
『はぃ』
俺は同じ年に、こんなに子供だったか。
いや、やはり関わりの多さ、だろうな。
浅い関わりは勿論、深い関わりも程々には必要だ。
それがコイツには欠けている、それこそ四家に比べて大幅に下回っているんだ。
指摘を、どう指摘するか、だな。
「子供の為にも、人ともっと関われ。周りと円滑に過ごす為にも、花霞の為にも、その点をアイツも必ず評価する筈だ。お前なら今からでも十分に間に合う、良いな」
『はい』
アイツも俺を過大評価してるが、前世で俺は言葉は吐きさえすれば良いと思っていた。
言いたい事をぶつけて、相手が納得しないなら直ぐに諦めて、俺に関わろうとする全てに言葉をぶん投げていた。
理解なんぞ欲しくも無い、と。
だが単に親愛の情から近寄って来た者にまで、アレはもう、いきなり殴るも同然で。
アレは、勘違いにしても、まさに黒歴史だ。
理解し合えないんだと理解し合う為にも、話し合うべきだ、と。
アレが当たり前の様に言って、本当に自分が恥ずかしくなってな。
もう、猫が居なければ今頃俺は羞恥死していただろう、それ位に恥ずかしくて堪らなかったが。
表情筋が死んでてくれて助かった。
こう誰にだって欠点は有る。
俺はイキりクソ野郎だったし、ルーは未だに幼く人間関係が幼稚、アレはもう天然過ぎて。
あぁ、トゥトクの弱点を知るのも良いかも知れないな。
子供について話し合いも有るんだ。
ルーを間に挟まない方法は。
書かせるか。
いや、ある程度はコチラで答えを用意して、指差しで答えさせてから書かせるか。
面倒だ。
本当はすっかり通じるんだが、流石に数日居ただけじゃ怪しまれるしな。
『“エンヴィル、今日の夕飯はお肉で良いかな”』
エンヴィルの意味は、輝いている事を指すらしいが。
本当に、どう見えてるんだか、頭を覗いてみ。
『今日のお夕飯はお肉で良いですか?』
「魚介のフライが待ってるしな、肉にしとくか」
『“うん”』
ルーの様に覗いて驚愕する位なら、暫くはこのままで良いな。
なんせ船は快適だし、平穏だしな。
「“平穏だ、と思っていた傍からお前は何をする気だ”」
単に親愛の情を込めて抱き締めただけ、なんだけれど。
コッチでもしてる人はしてるし、何がダメなんだろう。
『“ダメ?”』
「“少なくともルーの前では止めろ”」
『出来るなら見えない所でも僕としては極力避けて欲しいです』
『“なぜ?”』
『僕の理想は女性が相手だったからです』
『僕もだよ、僕も理想の相手は女性だったけど、どうしても勃たないんだ、全く性的な魅力を感じないし興奮もしない。尊敬は凄くしてるんだけど、僕にとっては抱く相手じゃなく仲間、友人や兄弟姉妹。尊敬が強過ぎるのかも知れないって言われたけど、尊敬を削り取るのは難しいと思うんだ、どう思う?』
『難しいとは思います、でもだからって何も“先生”じゃなくても』
『一瞬、迷ったんだ、もしかしたら女性かなって、でも凄く良いなと思ってたら男だったから、コレは運命なんだと思う』
『一目惚れってだけで』
『他を確かめる為にも話し合うし色々と試すよ、匂いを嗅ぎたかったんだけど、意外と力が強いね』
「“ルー、長かったから掻い摘んで訳せ”」
『“話し合いは勿論ですが、色々と試したいそうです”』
「“それが抱き着く事か?”」
『ううん、アレは親愛の情を表したかっただけ。他でもしてるのを見たし、そろそろ良いかなと思って』
『“親愛の情を、と他もしてたのと、もう良いかと”』
「“ルーが居ない所にしろ、流石にお前でも両親の夜伽は見たくないだろう”」
『ルーは僕と君の子供なんだね、成程』
『訳しません、もう部屋に戻ります』
彼は素直で良い子で、ちゃんと訳してくれる。
けれど見た目よりも幼くて、情愛の揉め事に不慣れらしい。
「“子供、と聞こえたが”」
『うん、ルーは、僕と君の、子供』
「“莫迦だな、それは例えでも流石に失礼だ”」
『“ごめんね”』
「“謝る相手が違う、手紙を差し入れておけ、少しアイツに間をやれ”」
『うん』
彼は幼く見えるけれど、凄く大人びている。
そうした所も良いし、声も良いし、多分だけど匂いも良い筈。
早く分かり合えたら、傷も浅く済む筈。
ダメかどうか、早く分かり合いたい。




