87 螳螂蝦炸。
復讐が好きって言うか、勧善懲悪がなされる世が好き、なんですよねぇ。
私達はどう復讐するか。
もし自分達なら、と大いに盛り上がり。
着いちゃいました、特区珠海省。
名物は色々と有るんですけど、中でも牡蠣とシャコが有って。
「ダメなんですよぉ」
もう、本当に見た目が無理なんですよシャコ。
あ、味は好きですよ味は。
けど本当に見た目が無理、しかもココのは凄いデカいから更に無理。
《ふふふ、とうとう弱点を見付けたわよ》
『と言うか虫が苦手ですからねぇ』
『そう思って見たらダメですけど、蝦ですよ?』
「他の蝦はもう少し質素じゃないですかぁ」
《そう、なら、生の牡蠣か螳螂蝦の焼き物か》
「生牡蠣好きなので生牡蠣にしますね」
『偶に当たるそうですよ?』
『特区は特に水質が良いので大丈夫だそうですけどね?』
《あらあら》
『いえいえ、火が通った物が好みなだけですよぅ』
『そこは無理強いさせられませんから仕方無いですけど、成程』
あー、フライとか有れば良いんですけどねぇ。
それこそエビフライにカキフライ、あ、後はソースですよねぇ。
何で無いんでしょう。
アレですかね、保存技術の問題。
と言うか衣は包で何とかなりませんかね。
「あのー、衣を付けて揚げたのはどうです?」
『あー逆に嫌ですねぇ、少し経つとベチョっとするじゃないですか』
《しかも下手な物だと匂いや味も変わるものね》
『それはそれで美味しいと思いますけどね?』
小鈴は味覚の鍛錬が過ぎてて偶にズレた事を言っちゃうんですけど、塩辛とか納豆を食べてた民族としては、迂闊に否定出来無いし。
なにより、この体って大概は美味しく食べれちゃうんですよねぇ。
「少し良い方法を思い付きまして、ウムトさんにご相談しようかと」
《私達は三大焼鳥を買ってるわ、直ぐに行きなさい》
「ははっ」
三大焼鳥って、光明ウズラ、光明小鳩、光明ガチョウなんですけど。
其々に違ってて。
って言うか私に任せると美味しい何かが食べれる、と薔薇姫様は察し始めての事なのか、物珍しさなのか。
薔薇姫様ってこう言う時の決断力って凄いんですよねぇ。
「金雉ちゃん、何か忘れ物かな?」
「お料理のご相談です、ソチラの揚げ物について教えて下さい、美味しく魚介が食べたいんです」
「成程」
そしてフライに繋がる情報をゲットし、今晩のお料理が決まりました。
そうです、フライです。
ソースは今日、コレから仕込みます。
けど、圧倒的知恵不足。
果物が使われてるのは知ってるんですけど。
「何か、掛ける餡や、付け合わせについては?」
「そうだね、異国の物を出すのだし、何種類か用意させておくよ」
アナタが神か。
いえ、人間で、人間ですよね?
「ありがとうございます、お礼はどうしましょうか」
「肩揉みをお願いしたいんだけれど、頼めるかな?」
「はい、喜んで」
「なら交渉成立だ」
ココは本場ですからね、いざという時の為に按摩も嗜んでましたから、マジのガチで本気で揉みますよ。
この手って男性向けだそうで、しかも握力って関係無いんですよ、如何に体重を指に乗せるか。
久し振りだなぁ、本気の按摩。
父上様を本気で揉んだら大絶叫された程で、だから全力って封印してたんですよね。
「あ、みんな~何とかなりましたよ~」
金髪碧眼に対して少し良い雰囲気は無い、と商隊のウムト氏に教えられていたのだけれど。
凄いわね、花霞が四彩国の言葉を叫びなら大手を振ってるのを見て、一気に緊張感が和らいだわ。
あの子、ワザとかしら。
《もう、大声を出すだなんて、そんなに良い案なのかしら?》
「そうなんですよぉ、試しにご相談したら直ぐに方法が出て、そのまま頼んじゃいました。夕餉をお楽しみに」
『なら我慢しないとですね』
『いや助かりました、どうもどうも』
「いえいえ、持ちつ持たれつですよぅ」
コレ、どうやら分かって無くてコレなのかどうか。
気付かないのか敢えて無視なのかは分からないけれど、不憫だわ。
《あんまり早いから買い物の途中なのだけれど、少し混んでいるし二手に分かれようと思うのだけれど》
『金雉は金絲雀と待ってて下さい、良い場所を見付けたんですよ』
『あらあら、ではお言葉に甘えまして』
「ならお茶でも淹れて待ってますねー」
そうして私達には青燕。
あの子達には道中で出会い、今は侍女をしてくれている鶺鴒に付き添いをお願いして、最後の鳥を買いに行く事に。
《それにしても、随分と雰囲気が違う筈なのに、慣れかしらね》
『そこですよねぇ、どう思います?青燕さん』
『慣れかどうかは分かりませんが、気付いてらっしゃらない事は幸いかと。ただ、珍しいと言うか、気付かない事が確かに少し不思議ですね』
《何も嫌に思わないでくれていれば良いのだけれど、分からないのよね、どう思っているか》
『大概の事は気にして無い、で終わらせちゃいますからね』
毛色が違う程度で、ココまで雰囲気が変わるって初めてなので、正直どうしたもんかと思っていたんですが。
『アナタ、気付いていて敢えて無視してます?』
「そら見慣れぬ毛色が、しかも女だからじゃないですか?男なら商隊だ、と、男装しときます?」
『そうなります?』
「いや警戒して貰っても別に良いんですけど、気を遣うのが大変だろうな、と思って」
『そこは開き直りましょうよ、ねぇ?鶺鴒』
困った顔をしつつも、大きく頷いて、ですよね。
彼女って口数が少ないんですけど、しっかり意思表示をしてくれるので助かります。
優しいんですけどね、同時に気安さも滅茶苦茶溢れちゃってるんで、だから餌食に。
と言うかこうした方ほど、それこそ神様の加護が必要だ、とか思うんですけど。
何してるんですかね、神様。
「んー、どうしたら雰囲気が変わりますかね?」
『アナタが大声で駆けて来た時は雰囲気が変わりましたし、毎回アナタが四彩国の者だと分かれば良いんじゃないですかね、クソ面倒そうですけど』
「それか、ウムトさんと一緒に居る、とか」
『あー、けど何か悔しく無いですか?』
「いえ、全く」
無いんですよ、この子、女の矜持ってもんが無い。
いやまぁ、子女全員が持ってるワケでも無いんですけど、商家なら大概は持ってるもんでして。
そうなんですよね、自分を女だと思えないからこそ、持てない。
いや、半陰陽だって知ったのつい最近ですからね。
この子私にも言わないで、全く、どうするつもりだったのかと思えば適当に嫁ごうとしてて。
何ですかね全く、全く、まだ私は許してませんからね色々。
『まだ色々と許してませんからね?』
「どれの事です?」
『一番に大きい事です』
「あれ?言ってませんでしたっけ?」
『残念ですけど最近他人から聞かされましたが?』
「あー、いや、言ったと勝手に思ってて」
『は?』
「ほら、当たり前過ぎて伝え忘れちゃうって有るじゃないですか?それで失敗も起きるワケで」
『アナタ、そう、また、何を言ってます?』
「言わないぞ、ってワケでも無かったですし、そもそも言う機会が無さ過ぎて、言った気で居た、みたいな?」
『本当ですか?私の口の軽さを気にして』
「いやマジですって、言った気になってたので、だからさっき、どの事かも分からなかったんですからね?」
『言わないつもりで』
「いやだから適当に嫁ぐって、あ、この毛色だからと思って?」
『あー、こうして思い違いが起こるんですね、成程』
「ですねぇ」
何だ。
もう、返して下さいよ、私が憤ってた間を返して欲しいんですが。
『あぁ、こんな感じなんですね鶺鴒は、成程』
花霞の事で金絲雀から少し相談されていて、幾ばくかの間をと思ったんですけど。
どうやらお互いに思い違いをしてたみたいで。
「いやすみませんでした、本当、つい、うっかりで。それこそ三ツ辻の事も、すみません」
《分かるわ、偶に私も失敗するもの》
『薔薇姫様は言葉の壁が少し有りますからねぇ』
『分かってるだろう、って実は思ってしまってる事って色々と有りますからねぇ』
それこそ撒撇、牛肉苦胆湯が良い例ですよね。
苦ければ苦い程に良いだろうって、多分、アレは本気で良かれと思って当草を使って仕込んだんでしょうし。
思い込みと信じるって難しい境目だって、先生も仰ってましたし。
『だとしても、コレは少しどうかと思いますけどねぇ』
「今日の美味しい料理で忘れて下さいよ、きっと美味しい筈ですから」
《先ずは食べてからよねぇ》
『その前にお店を見て回らないとですよ、お腹を減らさないと』
そして夕餉には、本当に香り高く、まさに黄金色のお料理が卓上でキラキラと。
『あの、コレは』
「コレは黑醋酱油、異国ではウスターソースと呼ばれる品だよ」
コレですよコレ。
しかもタルタルソースまで。
あぁ、故郷の味とかどうでも良かったんですけど。
やっぱり揚げ物とウスターソースって強い、ズルい、勝てない。
「うん、ウムトさんに尋ねて正解でした」
「そんなに気に入ってくれるとは、この後が楽しみだよ」
「そう含みの有る事を言わないで下さいよ、大丈夫です、完膚なきまでに揉み解しますから」
『あー、大丈夫ですかねウムト氏、この子、按摩のお師匠様に弟子入りしないか聞かれる程の怪力ですよ?』
「アレは力じゃないんですってば、要は私のこの指の強度です、斧折指ですよまさしく」
強肩ならぬ強親指さん。
いざと言う時の為にしっかり習ったモノの1つ、按摩、目が見えなくなっても稼げるだなんて凄い職業じゃないですか。
だから本当、最悪はコレで生きて行こうかと。
けどこの毛色なので嫌厭されそうだな、とか思ってたんですけど。
居ましたねぇ顧客要員、しかもピンポイントで、商隊は盲点でした。
ジプシーの方なら大丈夫だろうとか思ってたんですけど、そう肩凝り知らずでして、それこそ月経の際に呼ばれるかどうか。
しかもそれだって全力は流石に苦痛過ぎでしょうし、この強親指さんを生かせない。
となると。
「うん、僕、少し不安になってきたんだけれど」
「大丈夫ですって、加減はしますから」
それに、忘れられなかったんですよねぇ。
背中が痛いから行った先で更に痛くさせられて、けど凄く軽くなったんですよね、しかも何回目かで直ぐに良くなっちゃって来るなとまで言われて。
毎週通わないといけないのは術士の腕が悪い証拠だ、とかマジで言ってて、それがマジで父の腰痛も軽くなって。
お陰で兄弟姉妹が増えて、盛大にお礼を送ったもんです。
元気かなぁ、あのおばあさん。
「うぅん」
「はい、息して下さい、止めないで下さい、叫んでも良いんですからね」
付き添いには俺と青燕。
男の矜持なのか知らないけど、凄い我慢してんの。
良かった、俺は凝らない方で。
『凄い、背中に指がめり込んでんじゃん』
「あ、素人が真似したらダメですよ、お相手の方も怪我しちゃいますからね」
「まるで、ケガ、してるような、痛み、なんだけれど」
「変に抵抗するからですよ、この先に楽が有るんです、この一撃で崩し解放されると思って下さい。はい吸ってー、吐いてー」
何かもう、まさに獣みたいな唸り声。
アレだわ、男色家の睦合いを思い出しちゃったわ。
「何で、君、そんな、変な、顔を、してるんだい?」
『男色家の見ちゃったから思い出して微妙な心持になってんの』
「あぁ、確かに似てますね」
大事な先生が男色家になるかもなのに、随分と平気そうなんだよなぁ。
『何で平気なの?』
「それは、僕にも、聞いてるのかな?」
『あぁ、そうそう』
「じゃあ、少し息を整えましょうかね」
「はぁ、いやね、平気かと聞かれるととても複雑だよ。けれどね、ウチには子が七人居て、しかも既に孫も何人も居る。なのにあの子にまで子を成させるだなんて、かなり欲張り過ぎだと思うんだ。それこそ七人も居れば子が成せない者が出ても不思議じゃない、それこそ二人だけ産んでも同じだ、いつどうなるかは分からないんだからね」
『つまり、多いから、マシ?』
「そうだね、それこそ僕もただの人、全て亡くなって彼だけとなったら子を成して貰うと伝えて有るよ。それで良いと言ってくれたからこそ、未だに一緒に居られる面も有るね。親とて見返りは欲しい、それこそ幸せになって欲しいと思うのも一種の見返り、それを叶えようとしない子は親不孝者だと思うよ」
「ウムトさんって本当に人だったんですね」
「君は僕を何だと思ってたのかな?」
「神かと、だってあんなに美味しい料理を知っててしかも用意して下さるなんて、牡蠣が苦手な金絲雀が大喜びで食べてたんですから、もう食神ですよ食神」
『確かにアレは美味かったわ、揚げて少し経っててもサクサクしてんだもん、他のは直ぐにベチョっとするから好きじゃ無かったんだよね。アレどうやんの?』
「衣が少し複雑なんだけれど。先ずは包々を細かく砕く、おろし金で摺り下ろすんだよ包々」
『金雉、頑張れ』
「はい。って言うか今更ですけど、桂花の事って相当影響してます?別に字の事ですし、どうでも良いんですけど」
『いや俺の知り合いの家にも有ったし、確かになと思ったらもうね、呼ぶのに気が引けるんだわ』
「偶にふと香るなら良いんですけどねぇ」
んで油断してる時に押すとか。
コイツ、やっぱり良い性格してるわ。
「はぁ、うん、そろそろ」
「半端はダメですよ、ちゃんと脱力して下さい、暫くは痛くしませんから」
コレはちゃんと出来るのな。
他のは半端だ、とか言って進んでやんないんだけど。
あぁ、目が悪くなっても出来るから、か。
本当、堅実過ぎって言うか。
考えが常に地獄と隣り合わせなのがな、年寄りじみてんだわな。
「いや、初めて体感したけれど、確かに本当に楽だね」
「少し、目がお疲れで?」
いや、うん、少し早いけれど老眼なんだよね。
少し手元から離さないと見るのが大変なんだけれど、うん、遠くは平気なんだ遠くは。
「まぁ、少しね」
「それから、やっぱり心労、ですかね、背中の部分は大概が心労だそうでして」
「正直、ウチの子が粗相をしてないかと思うと、ね」
「あの、今更ですが、お名前の意味って」
「あぁ、トゥトクは情熱の意味で、彼は僕らの国では成人したばかりなんだ」
「またまた」
『マジで?』
「落ち着いて見えるけれど、うん、本当なんだ」
女性の相手は兎も角、男性の相手は向こうが非常に良心的で、だからこそ彼の貞操は未だに潔白なんだけれど。
どうして僕に似たんだろうか。
性欲が旺盛で旺盛で、しかも色気が出てるらしくてお誘いが絶えない、だからこそ手元に置いて見守っていたんだけれど。
まぁ、相手が紅ちゃんだからね。
うん、半ば投げさせて貰ったよ。
「ルーちゃんとも話したんですけど、私の想像と、理想と違うから受け入れ無いのは違うと思ったので。そう、色々と話してみたんですけど、真に納得したかどうかは不明なので、宜しくお願い致します」
良い子なんだよねぇ。
僕にとってはこの子が8人目の子供で、最初の女の子、なんだけど。
向こうも向こうで良い子だし。
うん、双方に幸せになって貰いたいんだ、勿論紅ちゃんにも。
「少なくとも僕は先生を信じているし、どんな道を選ぼうとも支え続けるつもりだよ」
『利益が無くなっても?』
「勿論、利益だけの繋がりじゃないからね」
家の使命だから、と言うより。
僕としても、誰かが不幸になるのは許せない。
そして幸せを振り撒くのが商隊、転移転生者によって平和を齎された世を守るのが僕らの喜び、だからね。




