80 宴会。
『お邪魔致します』
「あ、ルーちゃん丁度良かったですね、これからウムトさんの身の上話を聞く所なんですよ」
「末席ですまないけれど、どうぞ、僕が調理した土耳其と摩洛哥の料理だよ」
あ、やっぱり。
けど、少し疑問が。
「あの、土耳其と突厥って」
「良く聞かれるんだけれど、所謂農耕民族や商業の者として残ったのが土耳其、突厥は遊牧民であったり狩人としてその土地に残った、と言われているね」
「成程」
前世で学が有ったら違いとか本当かどうか、とか分かるんでしょうけど。
あ、薔薇姫様の横にルーちゃんに座られると、何か嫌ですね。
でもコレって嫉妬なのか、利益が害される事への嫌悪、所謂執着なのか。
んー。
コレどうやって判断してるんでしょう、他の人って。
『あの、この催しは』
「あぁ、君と仔猫ちゃん、それに兎ちゃんを勧誘しようと思ってね、商隊に」
「姿を隠さずそこそこ働くだけで食える、条件は良いと思うぞ」
『ですけど彼女には家族が居ますし』
「そこなんですけど、私が最も安心して幸せに暮らす事が親の望みだと思うので、色々と模索中なんです、はい」
それにぶっちゃけ、ココまで大事になるなら、髪を染めて適当に暮らしてれば良かったかなと。
自分の我儘で大勢を振り回してる気が。
『花霞、大丈夫』
あ、玉牌握り忘れてた。
全部筒抜けちゃってましたか、どうしましょう、流石に恥ずかしい。
「そろそろ、僕について話そうと思うんだけれど、良いかな」
「あ、はい、お願いします」
花霞が少し嫉妬してくれた。
その後に考えていた内容については否定したいけれど。
花霞が嫉妬してくれた。
「とまぁ、そう言うワケだよ」
「おいお前、聞いて無かっただろ、ルー」
『あ、いえ、聞いていましたよ。結婚を慈善事業の様に行うだなんて、正妻の方はとても寛容なんですね』
「いや手厳しいねぇ、女として愛しているのは本国の妻だけ、土耳其の妻だけなんだけれど。理解の上に胡坐をかいている、と言えばそうだね、致し方無いとは言えど、最初からそう約束しての結婚では無かった。今でも悪いとは思っているよ」
『ですけど続けるんですよね』
「そうだね、中途半端に投げ出す事を妻も僕も嫌うからね」
『流石熟達してらっしゃいますね、言い訳が完璧に揃ってらっしゃる』
「おやおや、君は少し勘違いしている様だね。情愛を振り撒いたからと言って、その情愛が減る事は無いんだよ」
『成程、仕事の片手間なんですね』
「まぁ、身も蓋も無い事を言えばそうだね、僕は家族が1番だから」
『そうして寡婦だった女性の将来を弄んで、恩を売った気になっているだけでは』
「そこも熟考しての事、請われての事だよ」
『請われたら抱くんですか』
「そこだよねぇ問題は、けれど抱いた事は無いよ、そうした行為を我慢するのは対価だと持って欲しいと伝えて有る」
「また無闇に増える様なら、どうするつもりだ」
「最後の砦を自ら出たとして、子供を置いて女だけの場所に行って貰う事になる。ココで言う所の尼寺だね、自分の身も守れない者まで僕は守るつもりは無い、愚かさは時に移る事も有るからね」
「でも、それだと女媧教団みたいな事が起きたりはしないんですか?」
「その為の見張りは勿論、間者も居る。けれど完璧かと問われると難しいね、完璧にしてしまうと、中の鳥がかなり不自由を強いられてしまうからね」
どうやら僕は良い様に扱われたらしい。
体のいい、かませ犬。
だから大人は嫌いなんだ。
「あ、で、実際のお子さんは?」
「7人、いや、この前8人に増えてね、女の子が増えたんだよ、後は全て男の子なんだ」
「あー、凄い大変そうですけど」
「全て家を出ているよ、その女の子以外はね」
「お会いしてみたいと思う気もするんですが」
「実は四男を同行させているんだ、おいで」
ウムトさんに似ていると言えば似ている、様な?
何でしょう、凄く優しそうなので。
「お母様似、で、らっしゃる?」
「そうなんだよ、良い顔だろう?それでいて男色家でね、彼との偽装結婚でも良いし、試しに愛を育んでみても」
『“父さん、僕はこの人が良いんですけど”』
指した指の先が、また、微妙で。
コレは、私なのか先生なのか。
「えーっと、もしかして、コチラの方?」
『“はい”』
「な、俺?」
「いやー、うん、分かるよ、流石僕の息子だ。やはり好みも似るモノだねぇ」
「いやコイツじゃないのか?」
『“一生大事にします、共に様々な場所へ赴きましょう”』
先生の手を取って、キラキラと。
あー、コレは完全に惚れた顔ですねぇ。
後は先生の方、なんですけど。
「ウムト、面白くない冗談なんだが」
「いやマジなんだよねぇ。取り敢えずは商隊の見習いって事で、僕と一緒に仕事をしながら相手探しもしていたんだけれど。君に会わせるのは最終手段だ、と思っていてね、うん」
「いや、どう見ても男らしい男は流石に」
「“女の格好は嫌かい?”」
『“別に拘りは無いのでどんな格好もしますけど、そんな事だけで良いんですか?”』
「おいルー、コッチに来て通訳をしろ、何を企まれてるのか分かったもんじゃないんでな」
『あ、はい』
で、どうやら女装程度で良いのか、と。
「あー、他に何が出来るんですかね?」
「最悪は宦官の様に全て取り去っても構わないと言っていてね、いやね、流石にそれは僕も反対していて、それこそ最終手段にと説得しての事なんだよ」
「だとして、何で俺で、どうしてコイツじゃないんだ」
『“どうして彼なのか、どうして彼女では無いのか、だそうです”』
『“確かに彼女から男の要素も感じますが、僕は男が好きなんです、なので彼なんです。アナタには分からないかも知れませんが、彼は男だけれど凄く可愛い、そこに惹かれました”』
そしてルーちゃんが通訳してくれたんですが。
「いい加減、顔を焼くか」
「あ、ダメですダメです勿体無い」
『髪を染めるのもですよ。髪が好きだから、同じだから、では無いですけど。自分を変え、偽ってまで生きるのは間違っていると思いますよ』
あー、聞こえてたんですよねぇ、心の声。
ココで言いますか、その事。
「お前、どうせ大事になっただ大勢を巻き込んだだの思ってるんだろうが、それは間違いだ。分かるだろう、本来なら、どんな人間が生きていても良い世こそ理想なんだ」
「はぃー、ご尤もだとは思いますけど、けどだってコレ、凄い大きな騒動化してるじゃないですか?」
《すまない、出来るだけ小さく収める、だからどうか姿形を変えたり自分を曲げないで欲しい》
『元の原因はアナタですよね』
「はいはいはい、ウチも兄弟喧嘩が一時は酷くてね。うん、分かるよ、同じ思いでも方向性が違うと揉めてしまう。船頭多くして船山に上る、先ずは少しずつ整理しようじゃないか」
「何か、ちょっと見直しました」
「ありがとう。じゃあ少し席を整理しようか」
そうして席順を変えた結果、ウムトさんの隣には息子さん、その隣は先生に私にルーちゃん。
ついで兔子さんに小鈴、美雨に金絲雀に青燕さんに続き、雨泽様に春蕾さん。
そして暁霧さんに臘月様。
ほぼ円形、給仕用の出入口以外はお膳がすっかり並んで、圧巻ですね。
「いややっぱり大事にしか思えないんですが?」
「まぁウチの子も絡んでるからね、先ずはそこから整理しよう。宦官の様に切り取るのは、出来るだけ避けたいんだけれど」
「そこに至る前に色々と考えさせろ、そもそも楽な相手をとは言った手前同性が考慮に入るのも分かるが。お前、最初からコレが狙いか」
「いや、彼の事を相談されたのは君と関わってから、彼なりに色々と模索し、子女を受け付けないとなってから相談されたんだ。けれど流石に男ばかりの商隊に彼を単独で置くのは為にならないと思ってね、本来は一緒に行動するつもりは無かったのだけれど、彼を守る為にね」
『我愛你』
「いやそれは分かったから他の事を話させろ」
「そこは受け入れるんですね先生」
「いや、この顔が可愛いから、は俺は受け入れられんぞ」
「“彼の何が可愛いのかな?”」
『“全て、仕草も話し方も、気の使い方も好きです”』
僕に被害さえ無ければ何でも良い、とは思っていたけれど。
『全て、仕草も話し方も、気の使い方も好きです。だそうです』
「正直に訳してくれて助かるよ」
「待て、気の使い方って、どう言う事だ」
『“多少は聞き取る事が出来ますから”』
『聞き取りは多少なら出来るそうです』
「はぁ、で、細かい事はお前が言っていた、と」
「まぁそうだねぇ」
『先生、無理に誰かと一緒になる必要は無いんですよ』
僕も最初は1人で生きるつもりだった。
男も女も、兎に角大人が嫌で、出来るだけ。
「ルーちゃん、何か有ったんですか?」
忘れてた。
花霞は僕の心が読める指輪を、けど、知られたくない。
『先生には僕も幸せになって欲しいんです、何も分からない中で支えて貰い、大変お世話になりましたから』
「なら良いんですけど、ちゃんと相談出来る人は居るんですよね?先生の他にも、居るんですよね?」
『はい、僕は大丈夫ですよ師匠も居ますし。大丈夫、嫌な事はもう何も無いですから』
「信じますからね」
『はい』
「いやそれにしても素晴らしいね、摩洛哥語も話せるだなんて、どういった経緯なんだろうか」
『師匠と各地を回る際には同行者も居ましたし、各地でも教えて頂けました』
「だとしてもだ、どうだろうか、商隊なら容姿を気にせず過ごせるよ。それこそ嫌になったら好きな場所に移り住めば良い、彼女の為にも悪い条件では無いと思うよ」
「出来るなら私は親の近くが良いです、孝行がしたいんです。孫も見せたいし、手伝える事が有れば手伝いに戻りたい、でも子供とも離れたく無い」
「流石に何処に行く予定なのかは知らないんだけれど、良いかな」
「麗江だ、川が繋がってれば完璧なんだがな」
『先生』
「そこは大丈夫、欽州から南寧への川は敢えて途中までなんだ、そして南寧からは少し大周りだけれど川船で昆明へは行ける、そうして同じく川船で麗江まで。と楽に向かえる筈だよ」
「流石です、そうするかどうか迷ってたんです、なんせ一気に麗江まで行ってしまいますから」
「時間が欲しいのかな?」
「と言うか道中で色々見たいじゃないですか?」
「なら寄港させよう」
「うん?」
「そりゃ僕らも同行するって事だよ、ねぇ先生」
「俺もか」
「あ、先生、嫌なら嫌って言わないとダメですよ?押され負けたらそこで試合終了です」
「終わると言うか、寧ろ始まってしまいそうだが、食わず嫌いはいかんだろうに」
「いや新しく目覚める必要も無いのでは?」
「俺は確かに男色家の気が無いとは言ったが、それはあくまで知らない、と言うだけだ。それに、試しに居てみてダメなら諦めてくれるだろう」
『“試しに傍に居ても尚、叶わない場合は諦めてくれますか”』
『“勿論、ただ出来るだけの事はする、切り取る事も女装も構わない”』
「うーん、実に親としては複雑な心境だけれど、子の為を思うと、まぁ、仕方無い。出来るだけの事はするそうだ、切り取る事も女装も、それでもダメなら諦めるそうだよ」
「うん、お前が覚悟した理由は分かった、思いに対する責任だな」
「責任と言うか、まぁ、はい、真摯に考えるにはいきなり拒絶は不誠実なのは分かりますけど、本当に良いんですか?」
「寧ろ何がダメなんだ?」
「お作法が大変なのでは?」
「それはコイツの方じゃないか?」
「父親の前で生々しい話は、うん、仕方無いかぁ。“準備が大変じゃないか、と、この子が心配してくれているよ”」
『“ありがとう、けれど愛されないよりはずっと良い、だから大丈夫、ありがとう”』
『愛されないよりはずっと良いので大丈夫だと、お礼を言っています』
「あ、いえいえ、先生を宜しくお願い致しますね」
私、初めて指輪を使って思ったんですけど。
玉牌と指輪の役割、逆では。
《うむ、ワシもそう思っておった所なんじゃよね》
ですよねぇ。
もう完全に油断して内心言いたい放題してしまいましたし、慣れるまで暫くは逆が良いかなーと思うんですけど。
《じゃよね、うむ、そうしておくかの》
あ、消えた。
《ねぇ、ずっと聞こうか迷っていたのだけれど、その指輪はどうしたのかしらね?》
「あ、お守りにと頂いたんです、はい」
「抜け駆けはどうなんだろうね?」
「何処のどいつのせいか知らないが、厄介事に巻き込まれたらしいしな、別にこの程度は良いだろう。受け取って欲しいなら相応の努力をすれば良い、お前もな」
「“君も品物を受け取って欲しかったら、相応の努力を頼むそうだよ”」
『“はい、頑張ります”』
あー、聞き取れちゃってるぅ。
有り難いですけどぉ、困る。
あ、触らなければ良いのか、指輪。
いやそうすると心の声を聞かれちゃうし。
微妙に不便にしますねぇ、流石です。
《じゃろ》
な、何処から声が。
「どうした、空耳か」
「あぁ、みたいです」
『あ、多分、僕のお腹の音かも』
兔子さんがお腹をさすってますけど。
多分、違うんですよねぇ。
「そろそろ焼き物を出すよ、少し待っててね。“さ、手伝ってくれるかな”」
『“うん”』
やっと、嵐が過ぎ去った、と言うか。
寧ろ台風の目に入っただけ、ですよねコレ。
「はぁ」
《あらアナタでも溜息なんて出るのね》
「いや怒涛が過ぎません?」
「だが情報が出揃うのは良い事だろ。商隊に入るか、四家と暮らすか、そもそも他を選ぶか。もう少し様子を見るか」
《そこよね、と言うかどう決めるつもりなのか正直気になるわ》
「そこで悩んでるから困ってるんですよぉ、皆さんならどう決めます?どう考えて結論を出します?」




