79 宴。
「本日はお招き頂き」
「お仕着せ以外はやっぱり新鮮だね、さ、おいで、君の席はココだよ」
絨毯が敷かれたお座敷には私達が日頃使ってる枕の形に近い、筒型円形状のクッションが並び、御膳は円卓状に並んでて。
ぽいな、とは思いますけど。
「はい、どうも」
私、ウムトさん苦手かもです。
そう苦手と感じる人ってあまり居ないんですけど、何だろ、何か苦手。
「うんうん、後は好きに座ってくれて構わないよ」
とか言って誰よりも先に私の隣に座って。
もう片方の隣には、予約席って有るんですけど。
「あ、先生」
「何だ、早かったか、コレでも遅れて来たつもりなんだが」
「君には敢えて早い時刻を教えたんだ、さ、金雉の隣を明けておいたよ」
「何を考えてるんだか」
「まぁまぁ、全ては楽しんで貰う為だよ」
何を考えてるのかさっぱり分からない処が、苦手、なのかも。
「はぁ、お前はソッチだ」
「あ、はい」
「流石、良い男は違うね、先生」
先生は私を横に押し、ウムトさんとの間に座った。
何か、コレも全てウムトさんの計画通りなのかと思うと、警戒心しか無いんですけど。
「では、宴を始めようか」
そして先ず運ばれたのは、チャイ。
山羊乳だ、ウマ。
それと飲むヨーグルト塩味バージョン、乾物、果物。
「前菜としては少し変わってますね」
「コレは断食後の食事の始まりなんだよ」
「あ、そっか、宗教が違うんですもんね」
「ただ戒律が厳しいかと言うとそうでも無い、現に僕は異国でならお肉は何でも食べちゃうからね」
「魚介もだろ」
「魚介にも制約が有るんですね、大変そう」
「処理が甘いと良く当たる食べ物を避ける為の戒律、衛生観念と呼ばれるモノと同義だと僕は考えているよ」
「あー、成程」
「確かに制約は有るけれど、守らなかった場合の罰則は僅かだ、要は問題を起こさせない為の制約だからね」
「ベールは絶対に家族か同性だけの前でしか外すな、どうしてか分かるな薔薇姫」
《攫われる危険性は勿論ですが、横恋慕の防止かと》
「そうそう、商隊の街ともなれば人の出入りが激しいからね、気に入ったからと言って攫ったり夫を殺したり。勿論人殺しは重罪だ、けれどももし唆したとなれば、殺させた者も同罪となる」
「境目は違うが、要はココや諸外国との線引きはそう変わらない。寧ろ女の魅力や情愛について良く知っているからこその戒律だと俺は思う、何を何処まで隠すか、それがベールか服か」
「先生は行った事が?」
「無い、がコイツがアホみたいに聞かせてくるんで覚えた」
「勝手に喋り通してみるものだよねぇ」
「先生を籠絡してまで私を?」
「と言うか最初は彼だね、良い顔をしてるんだ」
「はぁ、もう邪魔だし取るが、口外するなよ」
やっと先生が浅露を外し、扇子を広げいつも通りの格好に。
うん、私の先生自慢ポイントもココです、凄い美形。
「先生ってやっぱり仙人の分類だと思うんですよね」
「コレは聞き流して良いぞ、俺は人間から生まれたんでな」
「凄い美男美女の」
「残念だが普通だったな、そこは確かに不思議だ」
「いや美男美女だからと言って上手く混ざり合うワケじゃないんだよねぇ、それこそ一見すると平凡な顔同士から生まれる事は良く有る、時に美男美女はクセが強いからね」
「成程」
「だから君は良いと思うよ、意外にも平凡顔だからね」
「そこ、そうなんですよ、毛色は変わってますけど顔は平凡なんですよねぇ」
「特に俺と比べるとな」
「あ、先生、その為に、ありがとうございます」
「いや、まぁ、半々だ」
「こうして暫く歓談してから、汁物になるんだけれど、まだまだ早いだろうから菓子や干物を用意させたよ。さ、召し上がれ」
花霞ちゃん、すっかり干し肉が気に入っちゃって。
本当、可愛いのよね、齧り付いてる姿。
「ラクダって意外とクセが無いんですねぇ」
「干し肉にすると特にね、煮込みも美味しいんだけれど、焼きは微妙だね」
「お前、コレ食った事が無いのか」
「流石に変わり種は贈り物から排除してたので、無いですねぇ」
「ココら辺では珍味だからね。けれど食文化としてはココやイスタンブールには負けるよ、どうしても野菜の種類や味付けは限られてしまうからね」
「番茄は暖かい地域の野菜らしいしな」
「野菜?」
「甘く無い実は全て野菜だバカ野郎」
「玉蜀黍は物によっては甘いよ?」
「アレは野菜だ」
「翠鳥」
『木に成る実は果物、他は全て野菜だ、と私は教わっているんですけど』
「はー、じゃあ西瓜は野菜か」
『はい、白い部分を塩漬けにして食べてますよ?』
「先生は赤い部分の特に甘い場所だけ、食べたい人ですからねぇ」
「アレは果物だ、実際に成り具合を知ってるヤツなんてたかが知れてるんだ、甘いか甘くないかで良いだろうが」
「なら青い木瓜はまさに野菜だね」
「でも熟した乾物は甘いですよ?」
「野菜から果物になるヤツも偶に居る」
『ふふっ、その考えも良いかも知れませんね』
「木瓜も番茄も、実は商隊が探し当てて広めたんだよ」
「美味しい物が食べられますよ、って事ですか?」
「それに、そうした色々な場所にも行ける、って事だよ」
「お前、商隊としても勧誘する気か」
「道士様と一緒にね、顔を隠す必要は無くなるよ」
そこよね。
私達が気付かない、若しくは花霞ちゃんが慣れてしまっている煩わしさを取り除けるのよね、この人にお任せすると。
「でも、観光船や客船と違って、商業船は大変なんですよね?」
「物によるね、それこそ僕らは人も運ぶ。それこそ君達の様にその国で生きるのが少し難しい者、外交として遊歴する者を運ぶ事も有る、その際に君達が居れば客人が安心する場合も有る。人はね、あまり孤独であったり暇が過ぎるとね、何をしでかすか分からない。そうした行動をコチラが抑えるのも商隊の仕事、安全に送り届けるのが仕事だからね」
コレは確かに、花霞ちゃん達には良い案だわ。
仕事の内容もキツくないでしょうし、例え同行する仕事が無くても他で何とかなるでしょうし。
そうなると有利よね、道士様次第だけれど。
「その逆、私達の子がココの子と同じ様な子が産まれた時は、どうするんですか?」
「それは君達に任せるよ。ただ、そう容易く子供が出来たら、この世の悩みは半分になっているんじゃないかな」
「アナタ、どちらの味方、と言うより桂花ちゃんの味方なのね」
「桂花か、良い字だね」
「それなんですけど、厠、御不浄の近くに植わってる事が多いので、私としては微妙なんですよねぇ」
「それな」
「あら、あぁ、香りが強いものね」
「僕らの国では良い香水なんだけれどね?」
「季節を感じる良い香りだとは思いますけど、食べるのはちょっと」
「だよな、分かるわ」
《すまない》
「あ、いえ、他の方は、まぁ、違うと思うので」
「だな、中央がそうなんだ、殆どの家に植わってる」
「他に四季に強く香る花を植えてて、主に三方に何かしら植わってるんですよねぇ」
「で、必ず桂花が何処にでも植わってるんでな、どうにも。だから桂花入りの菓子を買う地元民は少ない」
「風流と言えば風流だけれど、御不浄だものねぇ」
「それと肥料置き場」
「あ、近いな、とか直ぐに分かるからな」
「それで君達は胡麻菓子が好きなのかな?」
「あー、そこなんですかね?」
「春は沈丁花、夏は梔子花、秋は桂花、冬は蠟梅。がココらの基本だからな」
「あらあら、庭園の四大香木ってそこが元祖なのかしら」
「だろうな、風情で誤魔化したんだろ」
「あ、でも、春や夏は他の種類に分かれてますよ、紫丁香や茉莉花、夏は香南加や夜香木に夜来香。けど曼陀羅華の香りがした時はビビりましたね、直ぐに先生に言いに行きましたもん」
「あら、天使喇叭とか言われてる毒草じゃないの」
『暁兄さん、正確に言うと薬草、ですよ。麻酔効果も有りますから』
「あらごめんなさい、どうにも危ない植物って印象なのよ」
『その考えで構わないんですが、有用な事も忘れないで下さいね』
「だが医学の心得も無い者が鉢植えで栽培していてな、全戸に一斉検問が起きたんだ」
「以降は夜回りに鼻が効く人が追加されたんですよねぇ、良い匂いなんですけど、じゃあ杏仁豆腐で十分ですよね?」
「暫く杏仁を食うのに躊躇いが出たけどな」
『滅多に死ぬ事は無いですし、大概は苦味やエグ味が有りますから、何も無ければ大丈夫ですよ』
「あ、先生、試したって言ってましたけど大丈夫だったんですか?」
「炭と嘔吐剤を混ぜたヤツの方が大変だったわ、コイツに飲まされた」
「薬草で楽しくなろうとするからだよ、見張って無いと直ぐに危ない事をするんだから」
「あー、先生は半ば浮世に飽きてらっしゃいますもんね」
「いやそうでも無いぞ、偶々だ偶々」
「本当に魔が差しただけですかねぇ」
「怪しいものだねぇ」
凄い、庇護欲をそそる方よね、先生って。
『私、桂花が凄い羨ましいです』
「翠鳥?」
『だって薬草って香りも大事なんですよ、それこそ銀川まで届いても直ぐに枯れてしまったりして、良いなぁ、羨ましいです、中央育ち』
「住んじゃいます?」
『いえ、出来るなら暫くは南ですかね、大概の薬草は南で育ちますから』
「いや兔子はどうなんですか?」
『僕も南か中央ですね、あまり湿気が多いと枯れたりカビが生える植物も有るので、出来たら拠点は2つは欲しいですね』
『ですね、湿気も管理が大変ですから』
「お前ら一応婚約してるんだよな、毎回こうか?」
『はい、成婚まで我慢しないとダメですし、僕は子供の本分を守らなくてはいけませんから』
「しっかりしてる子だね、どうかな、商隊の仕事にも関わってみないかい?」
『薬草の研究の邪魔にならないならお受けします』
「うんうん、しっかりしてる子は大好きだよ、後で契約書を交わそうね」
「お前、何でも手中に収めようとするな」
「彼は北の墨家の子なんだろう?なら殆ど関わりの無い土地、後ろ盾は有った方が安心じゃないかい?」
「あまり利用し過ぎる様なら手を引くからな」
『ありがとうございます先生』
最早兔子さん、とお呼びしますけど。
本当、しっかりしてるんですよねぇ。
これなら小鈴を任せられるな、と思うんですけど。
人って心変わりをする生き物ですから、最悪は、と考えないといけないんですよね。
惰性で一緒に居ても、生産性は落ちるばかりかストレスになる。
そうなると病気になり易いし集中力が落ちて怪我をし易い、そうして寿命は縮むしで、何も良い事は無いんですけど。
慣れに勝るモノも、そう無い。
慣れって良い事だし、悪い事でも有るし。
難しい、動物の方が簡単に生きてるんですよね、シンプルイズベスト。
でもなぁ、飼い猫の寿命って外飼いの倍なんですよねぇ。
飼われる動物最強。
但し、良い生育環境に限る、ってのがまた厄介なんですけど。
うん、飼われたいって先生の考え、分かるかも。
「ウムトさんは先生をどう思います?」
金色の咪咪は、また、不思議な事を。
いや、彼を思っての事かな。
「また、急に面白い事を聞くね」
「先生にも家族を、と思ってまして。あ、お嫁さんに限らずですよ、養子でも良いですし、気を許せる方をと思っての事だけですから」
「そうだね、彼は1人でも生きていけると思う。けれどじゃあ幸せかとなると、それは1人の幸せ、2人や3人の幸せとは違う。ただ、1人が良いと思う者も当然居るワケだけれど」
「俺は1人の幸せしか知らん」
「で、僕らは常に集団で行動している、本当に1人になる事は家に帰っても極僅か。それを窮屈だと思うか楽だと思うかは其々、だから先ずは集団行動が苦じゃない子や、直ぐに慣れた子だけが商隊に入れる。でも珍しい知識や変わった優秀さを持つ子も後々になって受け入れる事も有る、そうした子を受け入れられる者だけが、商隊でも更に上の仕事を任される。要は如何に寛容か、理解した上での寛容さなのかが重要視されるんだけれど。先生がどうしたいかが1番、どうしたい?」
「花霞で随分と慣れたし、まぁ、試すのも吝かでは無いとは思う」
「でも無理しないで下さいね?私も延々大勢と行動し続けるのは流石に無理が有ると思ってますから」
《そこよね、桂花って偶に1人になりたがるのよ。まぁ、私達もだけれど、今までを考えれば無理も無いと思うわ》
「友人が殆ど居ませんでしたからねぇ、不慣れですみません」
《良いのよ、寧ろ私も分かるし、そうした子にも慣れてるもの。そう1人を好む相手に慣れている者は、どうなんでしょうね?》
「まぁ、良い案だとは思うが、常にとなるとどうもな」
「先生は猫を飼ってますからねぇ、逃げ出さない様に厳重な奥の間に居るんですよ」
「下手をすれば病気を広めるからな」
「だから僕は未だに会えていないんだけれどね、ほら、商隊も病気を広める者と成り得るからね」
『限られた人だけが固定の取り引きをなさってるって、本当なんですね』
「全ては病を広めない為、だから君の家の取り引きも厳しいんだよ、翠鳥ちゃん」
『あれ、私、家名は』
「止めてやれウムト、あまり情報網で脅すな」
「いやすまないね、悪しき養殖業者に目を光らせて欲しくて、悪かったね小鳥ちゃん」
『いえ、でもやっぱり居るんですね、悪徳繁殖業者』
「それこそもう小鳥でも馬でも何でもね、ダメだと言われても考えの甘い者にしてみたら、単なる脅し。それこそ最近だと熊だね、狩人なら素手でも勝てるだろう、そう放言した者の家に熊を放った者が居てね、大惨事だったそうだよ」
「熊に素手て、どんな修練者でも無理では」
「恐ろしさを知る者はそう思う、けれども実態を知らない者は警告を甘く捉える。実は曼陀羅華も死者が出ているんだよ、幼い子が嗅いでしまい池に落ち、溺れてしまってね。植えた者を罰したのは良いけれど、その家族が逆恨みをして家を焼き延焼し、何人もの死傷者が出た。火を付けた者は言った、殺すつもりは無かった、ただ脅そうと思っただけだ」
「究極の無知ですね」
「そう、無知だからこそ、明らかに死ぬ行為に対しても死なないだろう、と思ってしまう。だからこそ刑期が有る、正しく罪を知り、己の罪を知る。けれどまぁ知っててやる者も居るからね、だからこその死刑だよ」
「有るんですね、死刑」
「正確に言うと、仰向けでの一本鞭打ち五千回、だね」
「死ぬじゃないですか」
「嘆願が有れば回数も減るけれど、まぁ、そう言う事だよ」
「至ればどうなるか、誰もが直ぐに至れたら問題は極端に減るんだがな」
「そう中央でも悩まれるんですね」
「思い違いは勿論だが、知った気になる者、次に答えが1つしか無いと思う者が厄介極まりない。要は融通が利かないヤツだ、そうした者が上になると結局は誤った知識が広まり、困る者が出る」
『分かります、他の薬草を調合しても良い筈なのに、何故か頑なにその薬草しかダメって言う方とか』
『刺すのが蜂だから刺さない蜂は蜂から除外だ、とか、偶に居ますからね、本当、困ります』
「そう、直ぐに死には直結しなくても、いつか死に繋がる場合も有る。その事を甘く見ているんだよ、そうした者達はね」
「だから熊の移動を無視したんですか?」
「実を教えようか?」
「やめときますぅ」
可愛い仔猫ちゃんは賢い仔猫。
好奇心で死ぬ事は決して無い。
けれど相応の怯えも有る。
恋に恋する事への怯え、情愛が暴走する事への怯え、情愛は消えてしまう事も有ると知っているからこその怯え。
賢い者程、幸せの道のりは長く険しい。
まぁ、愚か者の幸せも時に険しいけれどね。
なんせ少し間違えば直ぐに死へと繋がるのだから。
「さ、歓談は程々にして、そろそろゆったりしておくれ。こんな風にね」
凄いな、あの商隊のウムト。
古馴染みだからって先生と呼ばれてるヤツに、膝枕させてんの。
「凄い、先生、良いんですか?」
「良いワケ無いだろう、退け、鼻に薄荷を詰め込むぞ」
「あ、僕の国では砂糖や蜂蜜を入れてお茶を飲むんだよ、薄荷茶にね」
「えー、甘い物を食べるのに甘い飲み物ですか?」
「常にでは無いよ、こうした祝いの席や断食明け、特別な日の特別な飲み物は特に甘くするんだ」
「おい、詰め込んで良いんだな」
「それにね、こうして家族にはベッタリ甘える、商隊は何ヶ月も家には帰れないからね。その隙間を埋める様に、お互いをとても甘やかすんだよ」
「成程」
楽そうだな、とか思ってそうだな花霞。
マズいぞ春蕾、常にベッタリしたがるだろうし、かなり不利と言えば不利に。
「もう良いか」
「いい加減に僕の家族にならない?」
「あ、そう口説いての事なんですね、成程」
「俺に男色家の気は無い」
「確かめた事が有るのかい?」
「いや、無いが、道理に反するだろうが」
「その道理、とは何だろうか」
「健全な男女が子を成し」
「その道理を通すなら、不妊の男女は死ぬべきだと思わないかい?」
「確かに、でもそれは困ります」
「蟻はね、働かない者も居るんだ、けれども排除しても排除しても必ず働かない蟻が出てしまう。だから先人は考えた、働かない蟻は予備なのだ、と。そして男色家もまた、働かない蟻と同じ、豊かで有れば有る程に現れる。なら幾ら排除してもキリが無い、とすれば予備として許容し、寛容で有るべきじゃないかな?」
「否定はしないが俺は違うと言ってるだけだ」
害が有ると思う者は、結局はその男に相手にされなかった女、だろうし。
熊を仕入れたり毒草を植える莫迦より害は無いんだしな、俺に激しく迫らないなら何でも良いわ。
「あの、疑問なんですけど。私は、私を好きな方って、半分男色家なんでしょうか?」
『確かにな、割合は分かんないけど半分だとすると、だもんな』
「おいおいおい、良いのかそこを突き詰めて、果ては男色家の気が有る事を認めさせる結果になるんだぞ?」
「あ、いや、そこと少し違って、じゃあ女装が好きな男性を男性が好きなら半分だけ男色家なのかな、とか」
「そうねぇ、逆もまた然り、男装した女性を好む者は半分男色家なのか、女装した男を好む女は半分女色家なのか。女を女と、男を男たらしめるモノは何か、ね」
不意に浮かんだ疑問を、つい、うっかり。
だっていつも先生には何でも聞いちゃってたから、いや、どうしましょうこの問題。
「あの、そう、別に本当、どうでも良いんですけど、つい、ふと、疑問に思ってしまって」
「いや、コレは面白い問題だぞ。お前の僅かな男の要素に惹かれたのかも知れん、となればコイツらは男色家の気が有る、そこをどう否定するのか、そもそも否定しないのか。篩い分けには良い問題だな」
「そう問題にしないで下さいってば、私は問題だとは」
「そうか?いつか男に取られるかも知れないんだぞ?」
「それは、凄く、困ります」
「そうかな?どう困るんだろうか」
「だって男たらしめる部位が無いと言っても過言では無いんです」
「なら道具に頼れば良いだけじゃないかな?」
「お前なぁ、それは日が暮れて子供を返してからにしてくれ」
『僕の代わりにお願いしますね』
『え、あ、はぃ』
「そうだね、そろそろ陽が傾き始めたのだし、先ずは汁物から」
そして異国味の暖かい豆のスープを頂いた後は、前菜が配られ始め。
「あ、コレ美味しいです」
「茄子の添え物だね。このままでも良いし、包に付けて食べたり肉に付けて食べたりもする、薬味とも言えるね」
「でコッチも茄子ですよね」
「番茄と茄子の炒め煮だね、辛く無い様にしたんだけれど、どうだろうか」
「寧ろ辛みが足りないな」
「あ、コレ、ウムトさんが?」
「勿論、上の仕事を任される内緒の条件は、料理の腕が良い事だからね」
「偶にウチで食ってた異国料理はコイツのだ」
「あらー、ご馳走様でした、いつも美味しかったです」
「ならいつでもウチに来れそうだね」
「お前の言うウチは何処の事なんだかな」
「あ、それですそれ、各地にご家族がいらっしゃるんですか?」
「そこはね、先ずは一通りの感想を聞いてから、だね」




