78 恋。
恋文を頂きました。
それこそ臘月様からも、春蕾さんからも、ルーちゃんからも。
でも、敢えて読みません。
だって、本当に気持ちを受け取ってしまったら、答えを出さないといけなくなってしまいそうなので。
「なので、麗江に着くまでは開封しません」
「まぁ、俺は仕方無いとは思うが」
《私も、仕方無い事かと》
『私もです、最後の最後に決める為の切り札だと思います』
『まぁ、条件で決めるのは最後にすべきですからねぇ。今回は珍しく英断だと思いますよぅ、気持ちを大切にするつもりなんですし、ねぇ青燕さん』
『そうですね』
「ちょっと、反対されるかと思ってたんですが」
《真摯に向き合おうとしての事でしょう、なら反対しないわ》
『少し可哀相かもとは思いましたけど、そもそも決断を迫っているのは向こうなんですし、嫌なら去るしか無いのだと思います』
『そうですよ、困らせてるのは向こうなんですし、そも困ってるのはお互い様ですしね』
「良かったな、コレで俺の肩の荷も」
「そんな死ぬ間際みたいな言い方をしないで下さい、そもそも今回は月経が終わるまでココに居るんですから、まだ暫くココに居ますからね?」
「その事だが、マジで子が欲しいならさっさとヤった方が良いぞ、そう簡単に気の道が太くなるワケが無いんだしな」
「えー、じゃあルーちゃんを選ぶ以外に無いじゃないですか」
「そこはアレを信用しろ、今頃は秘儀を教えてるかも知れんぞ」
「秘儀なのに」
「全てでは無い筈だ、最後の一手はルーに任せるつもりだろうな」
「ルーちゃんを説得って、凄く難しそう」
「なら諦めるか。難しい道を選んだのはアイツらだ、お前に思いが有っても無くても見定めるべきなのはアイツらも同じ、お前はお前で見定める方法が違うだけで同じく悩んでるんだ。気にするな、嫌なら、無理なら諦めれば良い、死ぬワケじゃないんだしな」
『そこですよねぇ、死ぬってなったらまた別の問題ですし』
「そうなったら恐喝と認めて、脅し返すだけだ」
『ですよねぇ、死ぬ死ぬ詐欺に付き合ってたらコッチの金も身も持ちませんからねぇ』
「不意にお2人に同調されると凄く不思議なんですが、そこそこ似た考えをお持ちなのだと、考えさせられますね」
『いやアナタが良く言ってる事じゃないですか、大概の事では死なないんだし、と』
「そこは俺の影響かも知れんが、何が変なんだ?」
「どうやら他の方って生き死にで物事を決めないらしいんですよ」
《そうね、寧ろ快不快で選びますわね》
『常に突き詰まる考えは少し、珍しいかと。最初はどんなに悲惨な生育状態なのかと、心配になったものです』
「平穏だから、だそうです」
「そうか、まぁ確かにな、ココは平穏だからな」
単なる勘、なんですけど。
先生、前は成都市にいらっしゃったのかな、と。
お言葉が正確なんですよ先生。
もし噂で知ってる場合だと必ず、らしい、とか付けるので。
多分、女媧教団に関りが。
いや、知らないで欲しいのに知ろうとするって、裏切りですよね。
うん、探らず考えずで、なんせ前世での得意分野なんですから。
「先生、今日は私の料理する日なんですけど、何が食べたいですか?」
「変わった料理だが美味いもの、複雑な味や香りでは無いものにしろ。甘味は複雑でも構わない」
「了解で」
花霞が実家に帰りお料理をしている間、私達は先生に暫しお相手して頂く事に。
先ずは小鈴から。
『先生、どうしたら先生の様になれますか?』
「俺の様に、か、具体的に何処の事だ」
『そうした部分です、もっと物事を細かく捉え、機微を見逃さない部分で有ったり、冷静でらっしゃる部分です』
「さっきの理屈と同じだ、死ぬか死なないか、我慢は意外と体にくるんでな、コレを成さなくても死なん。そう思うと大概は悩まず選べる、生きるか死ぬか、だが、お前は何になる気だ?」
『あ、はい、医師や薬師を目指しています』
「それで出産もか、産婆ではダメか」
『産婆、ですか?そこまで具体的には考えて無かったんですが、どうしてでしょうか?』
「体感が可能だろう、幾らでも改良が出来る、自分で試せる。しかも女だけの特別な仕事、手は多くても困らない、なら取り敢えずの目標としては妥当かと思ったんだが、具体的には医師として何を成したいんだ」
『私は……』
どうして花霞がしっかり者なのか、お話を聞けば聞く程、納得が増し。
私達も教えを請いたくなってしまう。
不思議な魅力と言うのかしら。
少し、神や仙界に触れている様な、不思議な安心感と信頼。
お顔を未だに拝見出来てはいないのだけれど。
いえ、寧ろ、だからこそなのかしら。
「そうか。なら、まだ若いんだ、違うと思えば都度方向を変えれば良い、産婆としての知識が無駄にならないなら、だがな」
『いえ、繁殖も行いますので、はい、無駄にはなりません。はい、ありがとうございました』
「おう」
『お茶を淹れますねぇ』
《では、次は私も》
「その前に忠告するぞ、俺の話を全て鵜呑みにするな、専門の者の知識を超える事は決して無い。良いな」
『はい』
《はい》
「で、何だ」
《私達があの子に出来る事は、何でしょうか》
「分かり易い処だと、変えようとはしない事だ。悪癖は勿論変えさせるべきだが、それが本当に単なる悪癖なのか、そもそも己の物差しだけで考えてはいまいか。そう考え、諫言するかどうか選べば良い。そもアイツの心持ちもだが、完全に相手の考えに同調する必要は無い、お前なら分かるだろ、違う事が却って良い場合も有ると」
『はい、それこそ金雉の養殖ですね。他の個体と違う子を掛け合わせて出来たのが今の金雉なんです、そして今は銀雉も、銀川の銀雉が最初は目標だったんですけど、はい、違いは良い事だと思います』
「まぁ、そう言う事だ」
《先生は実を読み解けてらっしゃると思うのですが、知識だけでしょうか、経験も有っての事なのでしょうか》
「両方だな、本だけで読み解ける者は玄人か相当の知恵者か。だが経験だけで得られる事は少ない、小さいとも言える、経験を生かすのは知識や知恵だ。だからこそ知って損は無いとアイツに本を読ませまくったんだが、どうやら少し常人とはかけ離れてるらしいな」
『いやあの毛色ですから仕方無いと思いますよ?皆さんアレがオボコいと心配なさってますけど、私は実を理解しての事だと思うんですよね。四家で色々な方のそうしたお話を聞きましたけど、やっぱり病の怖さだとか情愛の恐ろしさを甘く見て考えてるな、と思ったものです。如何に掃除こそ宿の要かとアレに説教されたんですよ、お仕置きで洗濯させられ愚痴った時、目が覚めたんですよね』
『もしかして、私の知らない色恋の話を?』
『まぁ、宿の者だと言うと、そうしたご相談も受けましたね』
《そう、例えば?》
『虱なら、夜間のお布団でしたら布も捲り上げれば、居るかどうか分かりますが。お相手に他のお相手が居るかどうかは、ぶっちゃけ地元での聞き込みですね、それこそ宿を泊まり歩いてお聞きするのが1番かと。阿呆は御用達の宿を作りますから、ですが知恵者は宿を転々としますので、そこから先はご友人を頼るしか無いので。ご紹介頂けなかった時点で、はい、遊び相手はご自分なのだとお考えになるべきですね』
きっと、私にお話して下さった方々も、もしかすれば金絲雀にご相談してらっしゃったのかも。
《でも、友人まで組んでらっしゃったら》
『だからこそのご婚約なんですよ。ヤりたいだけの者程、婚約こそ慎重に、だとか言って先ずは体の相性をとつまみ食いして果ては綺麗に捨てるんだそうです。と言うかそう捨てられたと思わず未だに未練タラタラの方が何人かいらっしゃいましたけど、まぁ、アレこそ知識の無さや甘さを感じたので、女官長様にご相談したので。はい、四家での居残りって、実はその事なんですよ』
『あ、そうだったんですね、体調不良だとか聞いてたんですけど、成程』
「お前は俺の専門外を良く知っているな、アイツを頼んだぞ」
『そんな、私だって色恋には疎いんですから、変わらず補佐をお願いしますよぅ』
「それをアイツが望めばな」
『望みますよ、私達は若輩者なんですから、お知恵は幾ら有っても足りませんですよ。はい、お茶をどうぞ』
私つい考えてしまったんですけど、先生は凄く美形なのかも、とか。
若しくは先生のお声は若いですけど、浅露の下はお年を取ってらっしゃる老人で、実は私達にお知恵を貸して下さってる仙人様なのでは。
とか。
コレ、花霞みたいですね。
成程、こうして考えてるからこそ、花霞の考えは幅広いのかも知れません。
見目に騙されない。
花霞が自ら実践しているからこそ、実を考える癖が付いていて、常に実を見抜こうと努力しているのかも。
例え突飛な考えだとしても、必ずしも不正解では無い。
莫迦と天才は紙一重と言われる所以も、この一足飛びに正解を出す面を表してるんですから、成程。
成程。
「おい、あまり深く考え過ぎるなよ、実は浅い場合も有るんだ。考えるのと深読みは少し違うからな」
『成程、助かります』
真面目なんですよねぇ、皆さん。
小鈴さんも美雨さんも、それこそ先生も。
請われたら簡単には退けられないからこそ、お人払いをしてらっしゃったのかな、とも思います。
『つかお顔が見たい』
「お前は本当にアレの言う通りだな、自制と言う言葉を知らんのか」
『お宿代をタダにする為、とかはどうですか?』
「残念だが金には困って無いんでな、その話には乗らん」
『えー、じゃあどうしたらご尊顔を拝見出来ますかね?』
「どうして気になる」
『どうしてあの子が惹かれなかったのかが気になるんです、普通に顔の良し悪しには五月蠅い子ですし、お声からして美形っぽいので』
「焼け爛れてるかも知れんぞ」
『なら小鈴さんの勉強に良いと思いますけどね?』
「だからお前とは会う気が無かったんだ、好奇心の塊め」
『ちょ、凄い美形じゃないですか、勿体無い』
「アレにも言われたが、何が勿体無いんだ」
『何処に行っても特別待遇が受けられますよ?』
「金には困って無いし騒がれるのが大嫌いなんだ、分かれ」
『あー、お子さんのご予定は?』
「無い、が、アレ程の頭と大人しさを倍増させたのなら紹介を受けてやるぞ」
『あら?薔薇姫様?』
《ちょっと、想像だにしてなくて、正直、困惑しているわ》
『はい、お声だけ艶やかなのかと、下手をすればご老人なのかとすら、はい、驚きで声が出ませんでした』
「要らんものを持ってる苦労を、まぁ、お前達が味わった事が無いなら幸いだな」
『持つ苦悩ですかぁ、何であの子は先生と結婚する考えが無かったんでしょうね?何か特殊な趣味をお持ちで?』
「そも抱く趣味が無い、勿論抱かれるのも。アレだ、メシに頓着が無い者も居るだろう、そう言う事だ。コレはアレに少し前に言ったばかりなんだが、あまり広めてくれるな、お節介で押し掛けられたらお前達からも逃げ出すからな」
『しませんしませんよ、でもなぁ、勿体無いなぁ』
《失礼ですけど、本当、私もそう思いますわ》
『お体に不調が?』
「いや、出来るがしたいと思えん、全くな」
『そう、ご自覚なさったのって』
「あぁ、お前らの相手は大丈夫だろう、そう恋文すら書こうと思えんからな」
『あー、分かります分かります、定期的に致さないと無理とか言われたら無理っぽいなと思って悩んでるんですよね』
《ちょっと、アナタが一番に重要そうな事を言うじゃないの》
『いやね、お妾さんを作って貰えば良いかなー、なんて思ってまして』
「流石に不健全が過ぎるだろう、幾らアレが相手だと言ってもだ」
『あ、そうだ、先生は何も手を打たなかったとは思いませんが、どうして彼らを御さなかったんですか?』
「どうしてだと思う」
『出張って先生が注目されてしまうと、周りも困るから、と』
『まぁ、この場合だと縁談の邪魔になりますからねぇ、なんせ男女の事ですから』
《そうね、下手に庇い立てをすれば騒動になる事も有るのだし、どんな縁でも繋がって良い場合も有るでしょうし》
「まぁ、そう言う事だ」
『サボりますねぇ』
「効率的だと言え。と言うか知ってるぞ、アレを通して俺に相談していただろう、今までの利用賃と顔を見せた代金を支払え」
『あはー、バレてましたか』
「見込みが有ると思って今まで黙っていたが、こうなると一度は取り立てるべきだと思ってな。ほれ、アレに渡そうと思ったが、お前達に渡しておく」
『コレは?帳面?ですかね?』
《あぁ、金絲雀が花霞に使う代金で賄え、と言う事ですかしらね》
「そうだ、俺は金にも物にも人にも困って無いんでな。だが最後を見ろ」
《ご紹介代金ですね、成程》
あー、家が建つ金額ですよコレ。
でもご紹介すれば半額に、けどあまり下手なお相手をご紹介すると、逆に倍額。
『デカい賭けを持って来ますねぇ』
「アレのお人好しを見抜いての事だ、どうせお前達にも相談するだろうからな」
『しっかり見抜かれてますね』
《ふふふ、流石ですわ、花霞が敬うだけの事は有りますわね》
「おう、本当に大事な事は口伝だ、後は書に残すかどうかは聞き手に任せている」
『良いご商売ですよねぇ、そら困らないワケですよ』
『そうなると、白家に教える義理が無いですもんね、成程』
《あぁ、そうね、四家は良い知識を広めるのが役目ですし》
『食い扶持を減らされますからねぇ』
「いや、四家から正式な申し込みが有れば受けるぞ、ただコレ位は最低限の金額として請求するがな」
『金の亡者も驚きの額なんですが』
「お前が言うか、既に幾ら儲けてるか広めても良いんだぞ」
『うっ、それは、ご勘弁を』
「なら口封じ代も加算だな」
あぁ、だから余白が有ったんですね。
流石です、花霞の先生。
《ふふふ、まさに中央の天才ですわね》
「褒めても知恵すら出んぞ、はぁ、もう帰れ、喋り疲れた」
『あ、長々とすみませんでした、青燕さんを最後に』
『いえ、私は大丈夫ですのでご心配には及びません、今までのお言葉で十分です』
『あ、もしかして描こうとしてませんか?先生のご尊顔』
「それだけは止めろ、全力で潰しに掛るぞ、九族をな」
『承知致しました』
凄い残念そう。
どんだけ書きたかったんですか、青燕さん。
「おいお前、同じ様に心を返せないなら止めておけ、どう足掻いてもバレる、面倒になる前に似た様なのと一緒になれ」
『はい、考えておきます』
似た者って。
雨泽様かぁ、無いなぁ。
『っチュン!』
「あら、何処に雀が居るのかしら」
『クシャミした事を心配しろよ』
『悪い噂ですかね?』
『兔子、嫌な事を言うな』
『覚悟しとかないとですよ、そもそも読んで貰えるとは限らないんですし』
「あぁ、確かにそうよね」
俺も考えてたけど言わなかったのにさ。
もう凄い絶望した顔してんじゃん、春蕾。
『よし、泣いても良いぞ』
《いや、寧ろ良い方向とも言える、条件では無く実を見ようとしてくれているなら手紙は最後の手札と言う事。何も恋文を読まず受け取らないワケでは無いんだ、心持ちを伝えたいなら書いて渡せば良い》
『いやでもさ、同じ文言を何度も、あ、ごめんてば』
《いや、確かにその通りだと思う》
「莫迦ねぇ、だから漢詩が有るんじゃないの。あの子ってそれなりに知ってるそうだし、良い漢詩を選んで書いて、そうそう、良いお店を見付けたのよ、凝った紙が揃ってて中には花を入れ込んでる物も有ったわよ」
『行きましょう、あ、お花屋さんも、組み合わせて色々とお渡ししましょうね』
で、出掛ける間際に、文が届いたんだけど。
「あらウムト氏からね」
明日、宴を開くから来いって。
『対岸の月湖かよ』
「若水菜館、縁起の良い名のお料理屋さんね」
『扶桑国の変若水って、やっぱりコッチの若水と関係が有るんですかね?』
「あら良く知ってるわね、雲南や海南、南の行事。正月や節句の日の出と共に汲んだ水に御利益が有るとして、年長者に振る舞うのだけれど、私はね、実は毒味だと思うのよ」
『お、面白そうじゃん』
「でしょう、さ、続きは馬車で」
『はーい』
で暁霧が言うには、汲み上げる日も時刻も決まってるから、恨まれてそうな家は当然毒を入れられるだろうって。
だからこそ恨まれない様に生きましょう、じゃないとぶっ殺されるぞ、って。
『で何で若返りだとか長寿に繋がるワケ?』
「口減らしは勿論、毒を毒で制する事になる場合も有るって事よ、それこそ供物を井戸に入れる場合も有るの。その時、その毒が混ざって健康になるのは勿論、家で盛られた毒が打ち消し合う場合も有るんじゃないのかしら。と思ってね」
『確かに、毒が却って体に良く効く場合も有りますからね』
『コレで死ななきゃ一年は生きられる、か』
「まぁ、そこで死ねば終わり、だけなら良いのだけれど。まぁ、大きな家って大概は毎年汲む場所が変わるのよね、平民や農家とはまた少し風習が違うのだけれど、大概はそうなんじゃないかしら、と思ってね」
『成程、先人の知恵の解釈って大事なんですね』
「まぁ、時と場合によるわね、却ってそのままの方が良い場合も有るのよ。何でも暴けば良いってもんじゃないのよね、色々と」
『あの先生の浅露の中、とかもですかね?』
『そんな興味有る?』
『隠されてると却って見たくないですか?』
『何か理由が有んじゃないの、色々と』
「でも、意外と理由なんて無いかも知れないのよね、単なる逃げ口上や思い付きが伝統に組み込まれちゃってるんじゃないかって時も有るもの」
『例えば何がそう思うんですか?』
「今は悪しき因習としている、試し腹ね。しかも親子で、なんて、明らかに嫁に相手にされなくなった耄碌親父の言い訳にしか思えないわよ」
『あー、血が濃くなって果ては子が成せなくなるんだもんな、マジで意味無いと思うわ』
「けどね、財を確保する為だけ、なら確実なのよ。血も財も外に流れ出る事は無いのだから、富を築き上げるだけ、なら有用なのよね」
『何の為に富を築き上げるのか、本末転倒ですね』
『そこなんだろ、どう考えても本末転倒な伝統だとか言い伝えに、言い訳だとか思い付きの匂いがすんでしょ』
「そうなのよ本当、嫌になっちゃうわ」
『巻き付くな懐くな髪が顔に当たって痒い』
「あの子のお母様は喜んでたわよ?」
『俺はお前の親じゃないのが分からない?』
「分からないわぁ、老眼かしら」
『あのさぁ』
『あ、お花屋さんだ』
誰もコレ止めてくんないの。
何で。
「あら可愛いわねぇ、迷っちゃうわね」
『俺は目の前の茶館に居るわ』
『本屋さんが少し前に有りましたよ?』
『じゃあソッチ居るわ』
「もー、じゃあ私も行くわ」
『いや護衛は連れてくし』
「良いから良いから、はいはい、行きましょう」
『行ってらっしゃーい』
女の子もそうだけれど、男の子も成長って早いのよね。
あの件以来、ちょっと色気が出ちゃってるのよね、この子。
って言うかコレ、私の欲目かしら。
嫌だわ、男色家の気はさらさら無いのに。
「げっ」
「あら先生じゃないの、丁度噂をしてたのよ、お茶でも如何?」
「本を求めに来たんだろ、俺は卸に来ただけでもう帰る」
「あら、ココで浅露の中をバラしても良いのかしら」
「はぁ、大して助言はしてやれないぞ、喋り疲れてるんでな」
あら、失敗しちゃったわね。
「でしたら明日に致しますわ、失礼しました、先生」
「おう、じゃあな」
『急に引き下がるじゃん』
「疲れてらっしゃるのは本当でしょうし、そも脅さなくてもって呆れられてしまったんだもの、仕切り直したいのよ」
『何でアレにそんな興味が湧くかね』
「アンタこそ、どうして興味が無いのか不思議だわ」
『あー、何かどうでも良い気がする、つか知りたい事ってそんな無いし』
「まぁ、今は実践有るのみ、だものね」
『それさ、不便だからって人に頼る為の婚姻って、何か違くない?』
「頼りたい、頼られたい者同士が一致してくっ付けば、別に良いじゃない?」
『あー、無いわ、そう思った事が無い』
ウブって言えば終わる事だけれど。
この子の場合、どうやら少し違うのよね。
「なら、あの子に頼られたら嫌なの?」
『アレが頼るとか有るかね、周りに人も居るんだし、それこそ先生だって何だって居るんだし。何とか上手くやるんじゃないの』
「なら最悪は家に引き取る話は、無しね」
『あー、いや、家で引き取るのはそのまんまだな。俺って言うより家、逃げ場は多くても良いんじゃないの』
「けど薔薇姫様達の逃げ場にはならないのよね」
『相性が悪い』
「好いて無いのよね?」
『肉欲は何も湧かない』
「私には?」
『何も湧かない』
流石に、少し構い過ぎたかしら。




