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75 先生。

「そろそろ、僕も良いかな?」

「あぁ、ウムト氏、世話になっている」

「えっ、ココとも繋がってるんですか?」


「千夜一夜物語をココの文字に編纂したのは俺だ」

「ぉお、凄い、何でもっと早くに教えてくれないんですか」

「内緒にと頼んだんだよ、あまり僕みたいなのがウロウロしていると知ったら、君が警戒すると思ってね」


「あー」


 僕の家は先祖代々転移転生者を支える役目を担っている、商隊(キャラバン)としての仕事では無く、家として。

 そして血族の中でも限られた者だけが役目を知り、関わる事が出来る。


 けれど僕らが直接神々に関われる事は殆ど無く、支える筈の手から零れる者も当然現れてしまう。


 それが彼、(ホン)緑晶(リュージン)

 転生後、完全に記憶を取り戻す前に悲惨な目に遭ってしまったせいか、前世を全て思い出すまでにかなりの時間が掛かってしまった。


 当時、転移者がココには居らず、陸の商隊(キャラバン)が彼を見つけ出したが。

 助け出すのが遅過ぎた、と言える状況だった。


 転移者が興した宗教、女媧教団の犠牲者。

 十数年前、中立地帯の安多(アムド)地区で勢力を拡大させていたが、何とかココの者だけで解散には追い込めた。


 けれど下手を打ち、関係者を四方へ散らばらせる事態となってしまい。

 四彩国においては教団の幹部数名が逃げ込み、西安と昆明の間、成都市に根を下ろしてしまった。


 そして女媧教団が支配していた尼寺に捕らわれていた彼は、最初から名前は無く、ただ参号とだけ呼ばれていた。


 子種袋として親から献上された者の1人。

 嘔吐を繰り返し歯はボロボロで、痩せ細り、無表情で。


「まぁ、コレは恩人だ、俺の」

「恩人とは思ってくれてるんだね」


「まぁな」


 助け出した陸の商隊(キャラバン)は全く信用されず、で僕へと任された。

 けれど問題が解決した後も尚、記憶の復活が浅い為か疑心暗鬼だけが先行し、僕らだけで信頼を得る事は非常に難しく。


 エレン・ルーカスと親交を深めるまで、彼は誰とも話さないままだった。

 そして花霞(ファシャ)に出会うまでは、どんなに困ろうとも、決して僕にすら頼ろうとはしなかった。


 彼はまだ30代にも満たない、所謂若人。

 僕の年下だからこそ、彼の達観ぶりは実に悲しい、最早悲劇だ。


「ルー、コレとは面識は有るか」

『いえ、殆ど有りませんが』


 ルーが心を読める事は知っている、そして僕らは読まれない為の道具、魔道具を所持している。

 コレは先祖から受け継がれた大事な品物、転移者の加護と拮抗する事が可能な神の魔道具。


「コレはね、先祖代々受け継がれた物なんだ、残念だけれどどんなに見つめられても渡せないよ、道士様」


 ただ、彼の師匠はココの人間、但し僕ら商隊(キャラバン)と繋がりの有る存在。

 けれども僕の家の者では無い。


 まぁ、要するに一枚岩では無い、と言う事だ。


「なら見せびらかさないで下さいよ、まるで夜空みたいで凄く素敵なんですから」

「同じ石なら用意してあげるよ、腕輪でも指輪でも髪飾りでも、きっと瞳と同じだから良く似合う筈だ」


「息子様に瑠璃(ラピスラズリ)付き、ですか」

「まぁ、そうだね」


 天藍石や孔雀石と間違えず、コレを一発で瑠璃(ラピスラズリ)だと当てられる子は、常人でも稀なんだけれど。

 どうやら彼女は、この毛色のお陰で未だに転生者だとはバレては居ないらしい。


 うん、それもこれも(ホン)緑晶(リュージン)の立場のお陰だろうね。

 物知りに愛された子、知恵も分け与えられて当然だろう、と。


「何をニヤついてる」

「いや実に君は有能だと思ってね、よしよし」

「凄い、先生が大人しく構われてる」

『僕も初めて見ました』


「顧客だからな、我慢してやっているんだ」

「はいはい、ありがとう、いつも助かっているよ」


 転移転生者に居着いて貰う為には、居心地の良い世界でなければならない。

 良い世界の円滑なる循環の為、当事者達の為、世界の為に。


花霞(ファシャ)、少し話がしたい』

「はい?」

「よし、少し移動するか」

「僕はココで待っているよー」




 痺れを切らしたルーと天然花霞(ファシャ)を連れ、この家の商談部屋へ。

 良い家には良い結界が張られている、この家の結界は相当良いんだが。


「ルー、どうだ」

『はい、大丈夫です、良い結界ですね』

「結界」


「法術とも少し違う、風水的な結界だ、防聴の結界が張られている」

「へー」


「以降はこうした部屋なら、そうか、分からないか」

「さっぱりです、すみません」

《その守りに付けとくでな、以降は触って入れば分かるじゃろ》


「あ、ありがとうございます、何が食べたいですか?」

《そら手料理じゃよね、他の者には出せぬのが特に良いでな、コヤツらにも食べさせてやると良い》


「他の者に、ぁあ、はい」


 所謂、和食を所望するとは、ある意味で贅沢だが。

 コイツ、神々に色々と知られている事に抵抗が無さ過ぎる。


 それとも、気付いていないのか?


 なら、まぁ良いか。


「でだ、改めて言うぞ。もう気付いてるとは思うが、俺も転生者だ」


「ですよねぇ、今思うと、ですけど」

「お前なぁ、何で今まで気付かない」


「だって、貸本屋さんも物書きさんもしてるし、凄い物知りだから凄いんだろうなーって。はい、まさかと思って、考えたくも無かったんだと思います」

『無能過ぎて僕に殺されるかも知れない、って思った位ですもんね』

「バカ、アホ」


「すいましぇん」

「まぁ、周りにバレて無いなら良いが。アレは、ウムトは協力者だ」

『えっ?そうなんですか?』


「あ、ルーちゃん本当に知らなかったんですね」

『はい、僕の師匠は商隊(キャラバン)と交流が有りましたけど、陸の商隊(キャラバン)ですし、関わってる方の家名も違いますから』


「成程」

「困ったら頼って問題無い、アレでも義理堅いし情に厚い」


「了解です」


「で、こっから先はお前は聞きたがらない事を話すつもりだが、どうする」

「知らなくても死なないなら知りたく無いですぅ」

『じゃあ、先ずは僕が聞いてみますね』


「うん、お願いします」


 俺は疑心暗鬼のお陰なのか、他の転生者よりも法術への感度が有る。

 結界や法術は無理だが、明確に感じ取る事が出来る。


 神々のお陰で、と言うか埋め合わせだな、と俺はそう思ってる。


「ルー、アレの心が読めないだろ」

『はい、やっぱり宝貝(パオペイ)ですかね』


「アッチでは魔道具、らしい。アレは代々役目と魔道具を受け継いでるらしく、コッチを補佐すんのが役目らしい」

商隊(キャラバン)として、では無いんですね』


「そこも多少は有るらしいが。中央は東海と繋がっているだろ、ある意味でココは陸と海の合流地点、商隊(キャラバン)の大きな合流地点でもあるんでな、ウムトにこの地を任されたんだ」


『良き世界の為、悪しき転移転生者に対抗、拮抗する為にも、ですね』

「おう」


『それで、陸と海の商隊(キャラバン)は同じなんですか?』

「いや、別働隊なんだそうだ、いざとなったら連携するらしいが。アレに至っては家の役目、らしい。まぁ、かなりややこしいが、要は一枚岩じゃないって事だ」


 ルーが全てを知らないのは、そもそも時間が足りなかったからだ。

 新しく見知らぬ作法や単語を学び、歴史に勉強にココの常識に、それこそ法術の訓練や戦い方を学びつつ。


 教団を完全に壊滅させた。


 それに陸の商隊(キャラバン)の事だけで十分だろうとも俺も思う、と言うか商隊(キャラバン)の力を借りなくても、転移者には神々の恩恵と加護が有るんだ。

 羨ましいよ、マジで天馬(ペガサス)持ってるんだしな。


『ウムトさんが味方だと言う事以外、聞きかせないでおこうと思います』

「まぁ、だな、ただ生きるには知らんでも全く支障が無いしな」


『でも先生、ハーレムですよ?どう思ってるんですか?』

「俺に聞くな、全く分からん、人生たった2回目で何でも分かると思うなよ。ただ、アレが幸せだと思えるなら何だって良いとは思う、自他に害が無いなら、誰にも何も否定する資格は無いんだ」


 受容と寛容さは紙一重、否定されたくなければ否定をしない。


 ウムトが信用出来ると思った切っ掛けは、その言葉だったんだが。

 アイツ、俺までハーレムに入れようとしたんでな、どうしても距離を取りたくなる。


『何で、僕だけじゃダメなんでしょうか』


「仮に、だ、仮に神々の恩恵を得て子が成せたとする。それが転移転生者だから、だとしたらあまりにも不公平じゃないか?アレは絶対気にするぞ、果てはその幸運が負担になる、重石になる。相当上手くやっても、命を選ぶ立場にさせるんだからな」


 貰ったら返す。

 商人だからこそ、とアイツは言うが、良い子だからこそ恩を重く受け止める。


『それでも、もし』

「もしお前だけを選んで、何事も無しにすんなりとポンポン生まれたとして、次に病や怪我が起きたら何処まで頼るつもりだ、その境目は何処までだ、その境目を誰が決める。そう付き詰まるより、互いの願いを叶える為にも、周りを目眩ましにでも思っておく方が良いんじゃないか」


 なまじバカなら次々に欲し、願いを叶えまくって、果ては不老不死でも欲するだろう。

 そして、それが叶わないとなると神々を逆恨みし暴れるか、悲劇の被害者ぶり他の神に縋るか。


 だが、なまじ賢いと責任だのプレッシャーだので自滅する場合も有る、特に人が良いとなれば苦労する。

 結局は、持つ苦悩か持たざる苦悩が、人を悩ます。


 どちらにしても物語のありふれた典型的パターンだ。


 後はどう選ぶか、結局はルーがどちらの道を良く補佐出来るか。

 誰にでも、得手不得手は有るからな。


『中心には、軸は、花霞(ファシャ)の為を』

「どう思うか、どう考えるかはお前の好きにすれば良い。ただ相手を変える様な考えは捨てろ、人はそう変わらないし、そもそも変えるべきじゃない。変わるとしても一時的、いつか無理が何処かに出る。愛と執着は違う、良く考えろ、良いな」


『はい』

「戻るぞ」


 花霞(ファシャ)の為に飲むべき事、我慢すべき事が有ったとしても。

 呑めない、我慢出来無いなら、それこそ神にでも願って記憶をどうにかしたら良い。


 殆どの女媧教団の被害者は、そうして今も生きているんだしな。


「あ、お疲れ様です、私が知るべき事は?」


「コレに任せる、俺はもう帰る」

「あ、お見送りを」


「いらん、どうせまたいつもの場所に戻るだけだ。またな」

「はい、お疲れ様でした、先生」

『お疲れ様でした、先生』




 人は見た目によらない。

 先生の外見年齢は僕とそこまで変わらない、中身の年齢はかなり年上だからこそ、色々と知っているのだと思う。


 こう不確定なのは、先生は前世での名前も年も、独り身が珍しい世で結婚しない理由も。

 何も、詳しい事は教えてくれないままだから。


「少し、部屋でお話ししましょうか」

『はい』


 結界の存在を確認出来る者は、それこそ法術が使える者か、宝貝を持った者に限られる。

 本来、転生者は法力が極端に弱いらしく、寧ろ探知が不可能なのが当たり前。


 大昔、転生者と転移者が大きな騒動を起こしてから、転生者の能力は抑えられる様になったそうで。


 多分、先生には知らされていない事だと思う。


「先生とはどう、知り合ったんですかね?」

『寺院を訪れた時、ですね』


 最初に聞いた言葉は、心を読んだら殺す、だった。

 僕を転移者だと既に知っていて、先ずは僕が心を読まれない道具を提供する所から、先生との交流が始まった。


「殺すて」

『色々と有ったみたいで、凄く警戒されたんですよ』


 そして寺院で文字の勉強をしていた先生は、話さない代わりに、覚えていた寓話や神話を書き起こしていた。

 転移転生者の為に、道標や指標になれば、と。


 それから暫くして花霞(ファシャ)の居る中央へ居を移し、花霞(ファシャ)に懐かれてからは、良く話す様になった。


「先生、全然、減らず口なのに」

『僕には全然だったんですよ、ひたすら本を渡されるだけで、感想は文で。でも僕の事を分かってて、文字の練習にと、そうしてくれてたんだと、後で気付いたんです』


「答えないで欲しいんですけど、言語の壁を突破出来てますよね?」


 花霞(ファシャ)が言う通り、殆どの言語が何となく勝手に分かる。

 けれど分からない事も有る、そもそも元から単語の意味すらも知らないと、罵り言葉でも単なる音になってしまう。


『寝汚い、は初めて聞きました。何となくは分かりますけど、不思議な言葉ですよね』

「そうなんですよ、寝る子の猫に寝汚いって言わないし、寝る子は育つ赤子にも言いませんし」


『何だか早口言葉みたいですね』

「寝る子の猫に寝汚いと言う仔猫。デンマークにも有ったんですか?」


『知りたいですか?』

「あー、今は止めておきます」


『実はですね』

「ダメダメ、整理させて下さいよ、心の準備をしないと」


 好きな相手に意地悪をする人の気持ちが、少し分かったかも知れない。

 慌てられると、困った顔をされると、凄く可愛く見える。


『じゃあ、僕から質問を良いですか?』

「良いですけど、何が分からないですか?」


『指輪、してくれてませんよね』

「あ、コレ、喧々した雰囲気になるのが嫌なのと、付け慣れて無いので壊したら嫌で」

《壊れぬし他者には外せぬ。アレに似て心配が過ぎるヤツじゃの》


「あ、えへへ、すみません、ありがとうございます」

『どうぞ、何でも聞いて下さい』


「あ、そこですよ、聞きたいからって何でも聞くのは身を危うくするかな、と」


 僕は困っている人を助ける事も有る、けれど、大概は欲深い。

 そして欲深いだけじゃなくて、浅慮で、直ぐに僕の見目に騙される。


『実は』

「あー、もう、耳を塞ぎますよ?」


『先生も問題無いと判断した事だけですよ。ウムトさんは味方だから大丈夫、だそうです』


「やっぱり、商隊(キャラバン)って転移転生者の巣窟なんですね」


『実を知りたいですか?』

「止めときます」




 仲良く2人で帰って来たのを見て、春蕾(チュンレイ)超不機嫌。

 少し前までは平常心に戻ってたんだけどなぁ。


春蕾(チュンレイ)、顔、怖過ぎ』

《あぁ、すまない》


「ただいま戻りました、先生がお世話になってるのは本当の様で、いつもありがとうございます」

『ありがとうございます』


 共通の知り合いが居るの、強いなぁ。


「改まってお礼を言われると、何だか気恥ずかしいものだね」

『俺に絡まないで?一応部外者と言えば部外者だから』

『噂とは違ってお優しいんですね、花霞(ファシャ)を守ってくれてるそうで』


『俺を使って当て擦るな』

「そうですよ、怒るなら即断即決しない私に怒って下さい」


 マジで惚れてんだな、道士様。

 凄い困ってやんの。


「まぁまぁまぁ、まだまだ寒いんだ、羹でもどうだい」

「蝦仁羹だ、好きなんですよぉ」


 良く食うんだよなぁ、なのに細い。

 いや、前より太ったか。


『前より少し肉が付いたんじゃね?』

「あー、ソッチなんですかね?寸法測れって、間食しまくってたからかな」


『あのガリガリか』

「偽炸灌肠(チャーグェンチャン)も良いんですけど、私専用の醤脆餅干も久し振りに食べたい」


『クソ硬そう』

「でも美味しいんですよ、後で届けさせますね」

金雉(ズィンシュィ)は、この子と1番気が合うんだね」


『おっさーん』

「照れない照れない」


『照れてない』

「そうですよ、良き友人なんですから止めて下さい、先生に無い事無い事言いまくりますよ?」

「それは困るなぁ、彼の信用を得るのは凄く大変だったんだよ。どんなに会いに行っても、どんなに贈り物をしても、いつも僕だけ喋っていた位だからね」


「私と印象が違うんですよねぇ、口煩いと言えば先生か金絲雀(カナリア)か、ですし」

『親は煩く無いんだ?』


「違う意味で煩かったですねぇ、どうしてお仕着せばっかりなんだ、って」

「それは僕でも悲しいけれどね?」


「いやでも実際にこんだけ伸びたんですよ?もう膝がギチギチ悲鳴を上げて大変だったんですから、春蕾(チュンレイ)さんも有りましたよね?」

《いや、痛みは無かった》

「アンタも無いわよね?」

『いや有ったんだよコレでも、マジで痛かった』


「えー、じゃあ伸びには関係無いんですかね?」

「ウチの子達もバラバラだからねぇ、運じゃないかな?」


「あー、栄養足りてそうですもんね、何か」


「この子は、いつもこんな感じなのかな?」

『いや、この塩梅の対応は初めて見たかも』

「そうねぇ、雑、って感じよね」


「何かもう、怒涛でしたし、何か、まぁ、良いかな、と」

「まぁ僕としては気を許してくれるだけでも嬉しいよ」


「あ、親戚のおじさんぽいんですよ、何か」

「最初から、そのつもりだったんだけれどねぇ」


「だって外見が珍しいんですもん」

「君が言うかね」


「そこですよねぇ、結い上げてるから自分の髪が目に入らないんですよ、で皆と同じだとついつい思っちゃう」

「少し目の色は違うけれど、ついに鏡を手に入れたじゃないか」


 あーぁ、道士が花霞(ファシャ)に微笑むと春蕾(チュンレイ)がムクれんだよな。

 コレ、おっさんワザとだよなぁ。


「ウチの子は相変わらずモテモテだ」

「いやウムトさんの子供になった覚えは無いんですが?」


「知り合いの子も僕の子も、(すべか)らく子は子なんだ、存分に甘えてくれたまえよ」

「ソチラに嫁がなくても?」


「勿論、良い子に育ったご褒美だよ」


「ありがとうございます?」

「よしよし、僕は催しの準備が有るから先に帰るよ、またね、僕の子供達」


 寡婦を片っ端から受け入れて、血の繋がらないのも大勢居るとか言ってたけど。

 コレ、マジっぽいな。


「すみません、矢継ぎ早に色々と」

《いや、花霞(ファシャ)の知らない事も有ったのだろうし、今日は僕らも先に帰らせて貰うよ》

「あら私は帳簿を、ってお願いされてるからココに泊まるわよ?」

『おー、じゃあ久し振りの1人か』


「あ、成程、それで」

「いえ違うけれど、確かにそうね、気付かなくてごめんなさいね?」

『何言ってんのか全然分かんないわ、なぁ?臘月(ラーユエ)

《すまない雨泽(ユィズーァ)、君に借りた本を返しておくよ》


『何の本?』

《房中術の本だよ》


 コイツ、ニッコニコで俺に八つ当たりか。

 だよな、一気に人が増えて俺でも驚いてんだし。


『はいはい、分かった分かった、受け取ってやるよ』

「受け取って、ヤる」

「若い子女って直ぐコレだから困るわぁ」


「何の事ですかね?」

「もー、後で覗きに行ってやろうかしら」

『乗るな、つかそんなしたくなるもんなの?』


「ナニを?」

『お前がノリノリなのが1番困るわ』


「分かってますよぅ」

『こう言う所はウブじゃねぇんだよなぁ』


 あ、コレには道士が反応すんのかよ。

 あー、クソ面倒臭い。

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