70 同士。
『花霞はやっぱり、あの方もハレムに入れるんですか?』
私が聞き辛い事を、小鈴が茶館への馬車に乗ってから直ぐ、花霞に尋ねてくれたのは良いのだけれど。
「同じだから、と言うか、はい、そのつもりです」
『何故ですか、こう、急に現れた方なのに』
「何年も前から私を知っていて、私の為に努力なさって来た方なんです、何も無しにお断りは出来ません」
《例の幼馴染跟踪狂の事も知ってらっしゃるのよね?そこはどうなの?》
「ご職業と見目がアレなので、知っていても表立っては何も出来なかったと、謝罪頂きましたし。私は特に気にしていないので、はい、大丈夫です」
《良い年の大人よ?》
『そうですよ、揉め事を恐れず守って下さる度胸が無いなんて、私は嫌です』
「そこはハッキリ聞きませんでしたけど、多分、陰ながら守って頂いてたんだと思います。ずっと、そこまで本当に害が無かったのも、もしかしたら彼のお陰かと」
証が無くても信じる程、信頼出来る方なのね。
《道士様を、共通するお知り合いの方を信じてらっしゃるのね》
「まぁ、ですね」
『でも私はまだ信じませんからね、後から来てずっと前から知ってた、だなんて都合が良過ぎます』
「お仕事も有りますし、事情がウチから漏れてもいないからこそ、今なのかと」
《確かに、内々にとの事だものね》
『何だか、中庸のお立場を取ってません?』
《まぁ、そうね》
『何でですか、毛色の事ですか?』
《馬と驢馬の間の子、騾馬は繁殖力が無いのでしょう?本来を考えるなら、馬は馬と、驢馬は驢馬と、そう考えるのが本来じゃないかしら》
『毛色が違うだけで同じ馬、芦毛や栗毛なら別に』
「毛色だけと言うより、思いの強さです、何年も待っていたと言われたら、流石に悩まれるかと」
《私は、ね》
あの人に言われたら、凄く私は嬉しいもの。
けれど小鈴は。
『私は、私だったら』
《まぁ、色々と聞いてみたいのは私も同じ、だからこそ、もう少し様子を伺いましょう?》
『正直にお話し頂けるなら、まぁ、考えても良いかなとは思いますけど』
《そうね、今回は西安に暫く居ましょうか》
「それこそさっさとウチに行きましょうよ、もしかしたら私の知り合いが会ってくれるかもですし」
『うん、そうしましょう』
《けれど道士様は大丈夫なのかしら》
「それこそ聞いてみましょう」
夕飯前、本来なら僕にとっては朝食の前に花霞が来てくれた。
ハーレムの原因、墨家の臘月と共に。
『良いですよ、ただ同行は嫌でしょうから僕は先に出ます、今から』
「え、もう日暮れですよ?」
『はい、本来は日没から動き始めますから』
「何で起きてたんですか?」
『会いたかったのと、牽制したかったんです』
転移者は役目をこなし、初めて帰還か残留かを選べる。
僕は女媧教団を壊滅させ、魔王には僕がココを守ると約束し、その時初めて何処からか声が聞こえた。
帰るか、残るか、と。
僕は残る事を選んだ。
残った理由の半分は花霞、半分は僕の家の事情、もし戻ったら僕は母の再婚相手の餌食になる。
選択肢は2つ、逃げ場と魔法の無い地獄に戻るか。
昔からの知り合いも親も居ない、少し不便で文化が全く違うけれど、好きな人と尊敬出来る人が居る場所に残るか。
僕はどんなに大変でも、最初からココに残り続けるつもりだった。
けど居たいと思えたのは、頑張ろうと思ったのは花霞が居たから。
なのに。
《君の気が読めない、だから僕は全く君を信用出来無い》
『別に構いませんよ、アナタなんかの信用は必要無いですから』
「強い言い方はちょっと、出来るだけ仲良くして欲しいんですが」
『僕の何がダメですか?』
「ダメと言うか、知り合う長さも大事ですけど、順番もですけど、私の心持ちとしては既にハレムを受け入れるつもりだったので。考えたいんです、もう少し、色々と」
花霞は子供の事を考えて躊躇ってるのは分かる、けど僕の相手となるなら、妊娠出来る様にして貰える。
例え靈丹妙藥が無くても、女媧さんなら。
《君は》
『ハレムに加わるか、ですよね。凄く嫌ですけど、花霞がハレムでしか僕を受け入れてくれないなら、仕方無く受け入れるしか無いですよね。仕事も有るのでずっと一緒に居るのは難しいですし、寂しく不便な思いをさせるのは、不本意ですから』
「不本意ですよね、ハレム」
『花霞が、ではなくて彼ら、主に提案者に対してですね。弱みに付け込んでるとしか思えませんから』
もし僕なら、僕だけなら、直ぐに子供は出来るし。
そもそも、こんなに悩ませなかったのに。
「言葉が強いのは、あまり好ましく無いんですが」
『すみません、でもそれだけ思いが強いと分かって下さい、本当なら少しずつ知り合う予定だったので、苛立ってるんです』
《僕らのせいで。意外と幼いんですね》
『かも知れませんね、アナタの見た目程度に』
「もー、マジで争われると困るんですが」
《すまない、正直、彼は凄く苦手なんだ》
『気が読めない程度で苦手だなんて随分と臆病ですね、そんな事で本当に花霞を守れるんですか?』
《随分と腕にも自信が有るんですね》
「もー、このままなら全員の前から逃げ出しますよ?」
『なら僕だけのものになるから良いですよ、何処に逃げましょうか』
凄い、真のストーカーだ。
あ、ごめん、違うのルーちゃん、ごめん。
こう強く思われた事って無かったから、慣れて無いんですよ、ごめんなさい。
《君達は、もう心が通ってるみたいだね》
コレが嫉妬ですかね。
意外と嫉妬深いのかも、臘月様。
『かも知れませんね』
どっちの問いに対してなんだろ、不思議、難しいなぁ。
ニコッて、いやどれに対しての微笑みですか。
あ、宝貝を貰ったんだっけ。
でもなぁ、見られたら絶対にもっと険悪になりそう、だって翡翠の指輪ですよ?
指輪ってココでも特別なんですよ、次に耳飾りや髪飾り、腕輪。
それこそ服だって。
《花霞、そろそろ失礼しよう、出立の準備も有るだろうからね》
「あ、はい、ではまた」
『はい』
ぁあ、寧ろ、心が読まれない宝貝を願えば良かったかも?
《お嬢さん、忘れ物ですよ》
花霞に声を掛けたのは、道士が世話になっている寺院の僧侶。
けれど手に持っている物に、僕も花霞も見覚えは。
「あ、えっ」
《まぁまぁ、お受け取りを、ではでは》
道士からの贈り物だろうか、彼の瞳の色と同じ様な翡翠の飾り佩玉、半月型は対となる存在を示す。
だとしても、僧侶を使うのはどうだろうか、しかも包みも無しに。
「コレ、高そう」
《混色も殆ど無く、小さい、そこまででは無い筈だよ》
「でも、対の片方ですよね、半月型ですし」
《そうだね。ただ急いで渡すにしても、包みもせず、僧に任せるのはどうなんだろうか》
「ぁあ、ですよね」
《取り敢えずは割符として受け取っておこうか》
「はい」
いやー、また貰ってしまいましたね。
コレ多分、宝貝ですよ。
今の方、臘月様には僧に見えてたらしいんですけど、私には恵比寿様に見えてたんですよねぇ。
どうしましょう。
《アナタね、もう贈り物を貰ってしまって、お礼はどうする気なの?》
「あ、そっか、ですよね、お礼しないと」
『お心を受け取っちゃうんですか?お礼をしたら、お心を通わせてる事を認めるも同義なんですよ?』
「ぁ、そこは、もう少し悩みます。祈願の、道中祈願の陰膳を頼んできますね」
コレで少しは借りを返せるかどうか。
ギブアンドテイクを成立させるにしても、ココは先手必勝で、1番良い品をお宿にお願いしましょう。
例え強引でも、神様に受け取って貰ってから、交渉で。
花霞ちゃん、贈られちゃった物を気に入ったのか、道中もちゃんと付けて眺めてるのよねぇ。
厄介だわ、だって春蕾ちゃんが怒りを超えて泣きそうなんだもの、ずっと。
まぁ、私も原因の1つだから、どうしようも無いのだけれど。
『陰鬱と苛立ちと。分かるけどさ、最初にハレムを提案したの自分らじゃん』
雨泽ちゃん、流石に2人が面倒で私と2人で馬車に乗ってるのよね。
「想像と実際が違って当たり前よ、誰もが直ぐに実を読み解けたら、面倒も苦労もこの世には無いわよ」
『つかこうなるって分かってても、アレか、やっぱり読み取れないのが嫌とかか』
「でしょうね、まさか自分より数段も格上が来るだなんて思ってもいなかったんでしょうし、居てもまさか自分より深い思いを抱いてるだなんて。流石にね、殆ど負け戦だわ」
『負け戦?』
「道士様は既に身を立ててらっしゃるし、同じ容姿、年も上でこなれてらっしゃる。お相手の方が強いじゃない」
『でも桂花は気が有るって感じじゃなくない?』
「そこよねぇ、同じ毛色だから靡いちゃうかしら、と思ったけれど、意外と即決はしないのよね」
幾らウチの当主が信用してても、花霞ちゃんが信用出来るか、は別。
そこが冷静なのよねぇ。
『心配してんの?』
「まぁ、少しはね、あの雰囲気だと仲良く出来そうに無いんだもの」
『つか元から無理が有るんだよ、欲が出ていつか奪い合いになりそうなのにさ』
「そこはどうかしらねぇ、場合によっては、我慢の方が心情が伝わり易い事も有るのよ」
『ふーん』
部外者。
みたいな顔をしてるけれど、絶対に巻き込んで翻弄させてあげるんだからね、雨泽ちゃん。
 




