68 道士。
神の配剤って本当に有るんですね。
道士様、向こうで言うイタコさんが真夜中に来て下さったそうで、遺骨からお住いとお名前を聞き出して下さったんだとか。
なので、午前中で事は殆ど片付いた、そうで。
「暁霧さん」
「そうなの、また同行出来るわ」
「良かったぁ、相談相手が減ってしまうなと心細かったんですよぉ」
「あら意外と頼りにしてくれてるのね」
「勿論ですよ、当たり前じゃないですか、嫌ですか?」
「嫌じゃないから困るのよねぇ、寧ろガンガン聞きたいわ、恋の悩み」
「是非お願いします、小鈴も薔薇姫様もまだまだですから」
怯えて何も出来なかった、と凹む小鈴を宥めるのも大変でしたし、薔薇姫様には未だに何も無かったのかと疑われてますし。
これからの道中、何が有るか分からないですからね。
『まぁ、急に動き過ぎてもアレだし、予定通りにココで過しても良いんじゃない?』
「そうね」
「大丈夫なんですか?帳尻合わせ」
「そこもご協力頂いたの、道士様に」
何でも、本当に殺されてしまった方が何人かいらっしゃったらしく、マジで警備隊の者が関わっていたそうで。
クソ宦官を急いで剃髪させ舌を切り、骨と共に夜明け前に池にブチ込んで、犯人を心臓麻痺に追い込んだんだそうです。
「ちょっとだけ、見たかった」
『アレはマジで怖かった』
「本当、お陰で眠れなかったわ」
『書類仕事でな』
「あらあらお疲れ様です」
「いえいえ」
「あの、何故なのかは」
「あ、そうそう」
家族の難病を治す為、薬として食べる為に。
人の生き肝、肝臓や心臓、それこそ脳を食べる為に殺していたんだそうです。
なので単なる連続殺人犯として、一族郎党皆殺し。
『まだ処刑はしてないけど、刑を軽くしとく?』
「いえ、流石に罪人の介護を無償で喜んでする者が居るかどうか分かりませんし、虐げられないかどうかの監視が、人手と費用が掛かりますし。人肉は薬となる、その部分だけが流布しても困るので。事情を知りながらも沈黙しているであろう関係者への見せしめの為にも、妥当かと」
「そうね、もし広まれば、とんでもない事が起きるもの」
「はい」
プラセボは偉大です。
そして時に人は珍しい者が好き、珍味として食したがる者も出る筈だ、とも思ってます。
それに無知だった私でも知ってます、アルビノは薬になる、そうして一部地域では狩られる存在だって。
だから私、ココが凄く平和だと信じるしか無かったんですよね、大きくなったら食べられちゃうと少し心配してたので。
『後は謝礼な』
「アナタへの謝礼目録、はい、どうぞ」
渡された紙には、暁霧さんの名が目録に。
「コレは?」
「ほら、偽装結婚の事よ。今回の謝礼金は結納金、って事で渡そうと思って」
「あぁ、成程」
受け取らない選択肢も考えたんですが、白家から朱家へのケジメを示す為にも、私に十分な謝礼金を渡す必要が有るんですよ。
それと口止め料、白家としては受け取って貰えないと安心出来無い、要は脅さないと示す為には受け取る必要が有る。
どう足掻いても、受け取るしか無いんですよね。
「どうかしら?」
「はい、署名をすれば良いですかね?」
『あのさぁ、偽装結婚に突っ込めよ』
「私を隠れ蓑に、独身を貫きたいのでは?」
「ふふっ、そう受け取るのね」
「あ、違うんですか?」
「実は、雨泽ちゃんと連れ添う為の偽装結婚をお願いしようと思って」
『は?』
「あ、気が向いたら花霞ちゃんも相手をしてくれると嬉しいわね」
「私が言うのもなんですが、凄い欲張りですね」
『いやそもそも俺にその気は無いんだけど?』
「どうにか落ちて貰うわ」
『無理、面倒、有り得ない』
「気楽そうで良いと思いますけどね?」
「そうそう、下処理は私が頑張るわ」
『病気になるとか聞くんだけど?』
「それは下処理処理が甘いか元から病気を持ってたんでしょうよ、大丈夫、任せて」
「ハレム入りって、本気なんですか?」
「そこなのよねぇ」
雨泽ちゃんが居なくなった時、もっと構い倒せば良かったわ、と思ったの。
その次、花霞ちゃんが犯人と相対したって聞いた時、傍に居れば良かったって思ったのよね。
次にじゃあ、どちらかしか救えないってなった時、どうするか。
どっちも、って思ったのよね。
『俺は無事だし、そこまで生きたい執着は無いんだけど』
「そこが可愛いのよねぇ、凄い執着させたくなる」
「なら私は横に置いといて貰って良いのですが」
「雨泽ちゃんが好きなモノは私も好きでありたいし、嫌いじゃないし」
「何でこうなるんですかね?」
『気が合うのが気に食わないんじゃね』
「それは無いわよぉ、何なら2人がイチャイチャしてても私にはご褒美だもの。寧ろ花霞ちゃんと居ない雨泽ちゃんって、魅力半減だと思うのよね、って言うか他の女に行かれる位なら花霞ちゃんが良いのよ」
「凄い好きじゃないですか」
「女装姿とか超アリだと思わない?」
「正直、焦ってて良く覚えて無いんですよ、お顔」
「あらじゃあ」
『絶対にもうしないし俺は嫌だ、無理』
「大丈夫よ、何もしないで気長に待つわ」
今は、肉欲より傍に居たい時期なのよね。
今回の事で凄く離れ難いと思って雨泽ちゃんの案に乗ったの、偽装結婚。
「あの、じゃあ私は」
「アナタは尊過ぎてちょっと、けど支えたいのは本当よ、いざとなれば抱けると思うからこそのハレム入り。謂わば予備よ予備」
「そして雨泽様の女の相手なら、私が良い、と」
「そう言う事、それに3人でするのも楽しそうじゃない?」
純粋に願望を叶える事だけ考えた時、どっちも、が私の願いだったのよね。
どちらとも離れ難い、欠けて欲しくない、となったらコレが1番でしょ。
「流石にちょっと、考えさせて下さい」
「そうね、もう少し私はココに残るから、雨泽ちゃんと先に帰ってて」
「はい、失礼します」
花霞は暁霧の言った事で赤くなる、ってより真剣に考えてんの。
ずっと。
『マジで考えてんの?』
「冗談なんですかね?」
『半分本気だと思うけど、俺を巻き込もうとしてる様にしか思えない』
「あー、確かに何かしらは半々だとは思いますけど、ぬるま湯的には良いんじゃないですか?」
『受け入れんの?』
「ハレムって謂わば大家族になるって事で、そこに親戚が加わる、みたいな。友人知人よりも近くに居たいってだけじゃないですかね?」
『あー』
「まぁ、もしかしたら本当に雨泽様を好きなのかも知れませんけど、そこはもう、お好きにして頂ければ良いかと」
なら友人知人で良いじゃん。
と思ったんだけど、無責任でいつ離れるか分からない立場は嫌なのか、と。
けどだからってハレム、って。
『そもそも春蕾達が受け入れるか』
「受け入れるしか無いですよ、私がお願いすれば。断るならハレムは無し、解散」
『脅しじゃん』
「ですねぇ」
『受け入れて貰う為に受け入れんの?』
「拒絶する理由が有りますか?」
『口煩そう』
「お互いの理解が足りない間は仕方無いのでは」
『その後も煩そう』
「なら減らして頂けば良いだけでは」
『で、改善しないなら追い出す』
「残念ですが、そうなりますね」
『情が絡んでそう上手く行かないから揉めるんじゃん』
「そこは他のお2人に何とかして貰います」
『それも上手く行かなかったら、追い出す』
「ですねぇ」
『そう上手く行くかね』
「それでもダメなら周りに頼みます。雨泽様は優しいし面倒は嫌いだし、ですよね、でも片腕が無くなってもそれが叶いますかね。苛立つし不快だし、きっと他人を求めると思いますよ?」
『そこまで考えられる程、俺は賢くないんだけど』
「程好く不快になる薬でも塗って、手を拘束してみたら良いんですよ」
『そこまでしないと分んないか』
「かもですね」
だよな、不便さをそこまで経験した事が無いし。
《それで腕を吊り上げているんだね》
『翠鳥の湿布薬もな、痛くなるのだとかを今後色々と貼り替える予定、今は何か痒い気がする』
『名案ですね、不便さが分からないと傲慢になり易いそうですから』
《俺も経験した方が良いんだろうか》
《君は大丈夫だよ春蕾》
彼は異性装は勿論、今までの病や怪我で独り身の不便さを十分に理解している筈。
問題は雨泽だけ、思い遣りは有れど浅く広い、そうした覇王の性質にはこのやり方は合うと僕も思う。
『で、ハレムに入れんの?』
《僕は構わないよ》
《俺は、少し、考えさせて欲しい》
『だよなぁ』
そして、やっと花霞のお茶を飲める事になった。
暁兄が問題行動を起こさなければ、もう少し前に飲めていたのに。
「どう、でしょう」
《美味しいよ、ありがとう》
《毎日飲みたい》
「麗江に着いたらじゃぶじゃぶ飲ませますね」
全ては麗江に着くまで。
花霞はそう思って行動しているけれど、もし、万が一にも思惑が外れたとしたら。
彼女はどんな顔を見せてくれるんだろうか。
『機嫌良いじゃん』
《君は、待つのは嫌いなんだね、待てばもう少し良い返事が貰えたかも知れない。その事は分かっていた筈だ》
『春蕾にはちゃんと考えさせるべきでしょ』
《そうだね》
優しい覇王とは、世には優しくとも本人が苦労してしまう。
実に難儀だ。
《桂花、何も無いと言ったわよね?》
「本当ですよ、少し不思議なおじいさんに水仙さんが」
『ならこの号外は何だと思いますか?』
白家から戻って直ぐ、コレで。
号外には私達が行った園じゃない場所で、でも確かに警備隊の方が処断された園では有るんですが。
何で幽霊騒動が?
「コレ私達が行った園じゃないですよね?」
《だって、アナタの言うおじさんが本当に居るかどうか》
『こう、もしかして、実は幽霊に連れ去られたのかと』
「私の思考に合わせ過ぎでは?会いに行きます?」
《幽霊じゃないのよね?》
「はい、50代のおじさんですが」
《あぁ、じゃあ違うわね》
『コレ、絵の通り、女性の幽霊が出たそうなんです、昼間に』
「昼間に?」
おや、私の知る幽霊騒動とは少し。
《だから、ほら、ね》
『水仙さんも家に帰るって、もしかしてコレのせいかな、と』
「あー、おじさんが幽霊を良く見る人かも、とかですか」
《もう色々と考えたらもう、恐ろしくなってしまって》
『けど違うんですよね?』
「全然、違いますけど、お祓いにでも行きます?」
この提案が、運命の分かれ道だったんですよね。
『お嬢さん、少し四家の事でお話ししたいんですが、良いですか?』
花霞の腰を抱き口説く様に話す彼は、一連の騒動に助力してくれた道士だろう。
だが。
《僕も事情を知っているが、すまないけれど少し弁えて欲しい、彼女は僕の婚約者になる者だ》
『それは大変失礼致しました、つい自分に似た姿だったので』
花霞には勿論、僕らにも予想外だった。
黒い帽から垂れる紗の隙間から、金髪碧眼の男の顔が。
「あ、異国の方なんですか?」
『知りたいですか?』
《桂花、大猪の後ろへ》
「あ、はい」
彼の気はどす黒く重く、感じ取るだけで不愉快極まりない、時に嫌悪すら感じる。
彼は、本当に死者を呼び出し操れる。
《では四家からも話しをさせて頂きたいので、お名前を伺えますか》
『盧・埃蘭』
彼は玉牌を差し出すと共に、名乗った。
けれども、この牌に見覚えは。
「何でこの牌を」
『見覚えが有りますよね』
「有るも何も、蝦餃様、コレは中央の、とある家の牌です」
『我が家は滅多に人とは関わらないんですが、易で西へと出たので、今回僕が出向いたんです』
『割って入って申し訳御座いませんが、人目も御座いますので、改めて場を設けさせて頂くべきかと』
青燕の言う通り、ココは。
『ではソチラの都合に合わせますよ、コチラはコチラで馬車を用意していますから』
「では1番高い茶楼に行きましょう、お茶を入れますね」
《ありがとう桂花》
春蕾は平気そうで、臘月は寧ろ悩んでて。
『マジで寒気がしたのって俺だけ?』
《いや、確かにゾッとする瞬間は有ったけれど》
《大猪は多少なら気を操れるから、身を守る為に意識せず気を遮断したんだろうね》
『僕は何にも感じなかったんですけど?』
《その方が良い、アレはそう良いモノでも無いからね》
『それな、もう吐きそうだし寒気凄いし、風邪かと思ったわ』
《多分、桂花の淹れるお茶で楽になる筈だよ》
とか言われたからか、マジで凄い楽になった。
何なんだコレ。
『何で?』
《桂花の陽の気だよ。アナタは陰の気の使い手ですね、盧・埃蘭道士》
『はい。美味しいですね、ありがとうございます』
「茶葉が良いんですよ茶葉が、何せ黄茶ですから」
『クソ高いヤツじゃん、マジか』
「あ、飲んだ事無いですか?」
『1回だけ、興味無いから味も何も覚えて無いけどな』
「そうなんですよねぇ、高いけど印象が薄い」
『気を使わせてしまってすいませんね、直ぐに抑えますから』
黄茶と同じ値段がしそうな翡翠の指輪を出して、付けて直ぐに。
「宝貝」
『はい』
『は?マジで?』
『はい、僕は転移者ですから』
途端に花霞が真っ青に。
だよな、地獄も何もかも信じてんだし。
いや、何で急に怒ってんだ花霞。
「なら何で脅かす様な真似を」
『すみません、少し彼らを試したかったので』
「何故ですか」
『アナタの為ですよ桂花、ある方に頼まれたんです、厄介事を背負わされているかも知れない、と』
「本当に?本当にそれだけですか?」
『彼らの前ではココまでで、そろそろ彼女達に顔を見せた方が良いかと、心配してらっしゃるでしょうから』
「分かりました、失礼させて頂きます」
いや、どうすんだコレ。




