67 水仙。
私は薔薇姫様との問答の後に、警備隊の方に納屋の場所を全て教えて貰い、見失った場所から1番近い納屋へと向かわせて貰たんです。
「警備隊の方には合図を待って頂いてたんです、ヤバいのなら私の姿を見ても直ぐには水仙さんを人質にはしないかな、と思って」
『で、何であんな寓話みたいな事になんの』
「雨泽様じゃん、と思って、じゃあ何で逃げ出さないのかな、と。なら雨泽様も慎重になるヤバいヤツなのかな、じゃあヤバいのはヤバいので、毒には毒を、と」
『扱いが上手くてドン引きしたわ』
「正直、上手くいってビビりましたね、相当じゃん、って」
『それな』
「で?」
『臘月にやらされた』
「楽しかったですか?」
『イヤ、クソ怠いしか無い』
「ですよね。なので取り敢えずは水仙さんにはココで脱落、と言う事にしましょう」
『おう。怒らないの?』
「理由が有ったんでしょうから、別に。あ、怖かったフリって出来ます?」
『震えるとか無理だな』
「じゃあ、あのまま寓話風で怖くなかった、って事にしましょう」
『だな、納屋の骨は見なかった事にするわ』
「えっ?」
『半分が池に落ちてたらしい』
「何それそっちの方が怖いんですけど」
『それな、最初はアイツがヤッたのかと思ったわ』
「違うんですよね?」
『池のはね、もう半分は死体だったっぽい』
「そっちの方が怖い」
『それな』
そして白家では、おじさんは全て暁霧さんに話してくれたそうで。
実際に水仙さんと言う方は居たんですが、白家の宦官だったらしく、直ぐに臘月様が見抜いて下さって探し出せたのですが。
大昔に、遊びで誂っただけだ、と。
その宦官には取り敢えず出家して頂いて、暫くは他の園の池の底をさらって頂く事に。
おじさんは害は成さない方なので、死体を肥料にしない事を条件に、引き続き園で働いて貰う事に。
事実は四家の方と私のみ、殆ど闇に葬る事になりました。
だって事実を皆が知ったら、誰も園に来なくなるでしょうし、おじさんを罰しろとか言いそうだし。
でも当の被害者雨泽様は平然としてますし、面倒がお嫌いなのもあってお咎めの要求は無し。
後はただ、クソ宦官の尻拭いをするのみ。
「お父さん、実はお母さんからの伝言が有って来たんです」
『もう死体は要らない、栄養は十分になったんだって』
「そうそう、神様や仙人様に助けて貰って、もう大丈夫だよって言いに来たの、ありがとうお父さん」
《そうかそうか、コレだけ大きくなったんだ、そうかそうか、もう十分なんだね》
「今度はいつ会えるか分からないけど、いつも見守ってるからね、ありがとうお父さん」
《良いんだよ、君達が大きくなってくれたからね、うんうん、綺麗だね桂花、水仙、木蓮》
心根が優しくて純粋で、しかも成果が出てしまったから、ずっと死体を肥料にしていただけ。
おじさんは水仙の為に、頑張ってくれてただけなんです。
そして納屋の骨はクソ宦官の出家先に、内密に弔って貰う事に。
ただお喋りクソ宦官が心配なので、舌を切り取って白家の者が永久監視、漏れる事は無さそうです。
そして問題の、薔薇姫様達へは。
「私達が名を呼んでたので、水仙の妖精に本当に間違われたそうです」
《確かにいっぱい植わってたけれど》
『本当に大丈夫なんですか?』
『はい、桂花様のお陰です。ですが暫くは家に戻ろうかと』
「長旅でしたからね、いつかまた遊びに来て下さい」
『はい、ありがとうございます』
どれが1番緊張したかって、ココですよ。
薔薇姫様達の為にバレない事こそが、1番だ、と。
騙す事については、考えるのを止めました。
だって、他の園でも起きてたら、楽しくお散歩が出来無いじゃないですか。
と言うかなんなら嘘なんですよ、清掃の際に出た骨を集めただけ、そも死体を肥料として撒いた証拠は出せないんですから。
そっとしておきましょう、全員の為に。
『上手くやったよなぁ』
「えへへ」
「ウチの、白家の尻拭いをして貰ったのよね、2人に」
しかも雨泽ちゃんの女装の件まで、綺麗に片付いちゃって。
『おう、俺にも感謝して、以降は見合いとか無しで』
「永遠に1人で生きるつもりですか?兄弟や義理の姉妹に迷惑を掛けない方法、考えてます?若くても病に罹ればあっと言う間にあんな風になりますよ?」
『自分だって1人で生きようとしてたクセに』
「私は働いてましたし、蓄財で何とかしようとしてました。でもお金だけで解決出来無いだろうなと思ったから、それなりの人との結婚も考えてたんです、進んで一生1人で居るつもりは有りませんでした」
『結婚、大変そうじゃん』
「さして大変じゃなさそうな相手を選べば良いじゃないですか、全部何でもしてくれる、母親みたいな人」
「言うわねぇ、私にも刺さったわ」
「母親になりたい、って人に甘えれば良いだけでは?」
『それもそれでキモい』
「そうなのよねぇ、包容力は欲しいけれど、母親は要らないわぁ」
流石の私でも、身内は無理よ。
まだ男の方がマシだわ。
「私は私の言う事を殆ど聞いてくれる最高の侍従みたいな方が良いです、何でも先んじて何でもしてくれる、お世話してくれる人が良いです」
花霞ちゃん、私達に合わせて欲望を言ってくれてるのは良いのだけれど。
多分、隣の部屋で春蕾ちゃんが大喜びしてそうなのよね。
成程、そうすれば良いのか、って。
『それ春蕾に言えば?』
「それは少し違うんです、強いられたからとされても嬉しくない、率先して自ら甘やかして欲しい。そう、適度に甘やかして適度に動かして欲しいんです」
『そんなん皆が思ってんじゃないの?』
「そうなんですか?」
「私は、率直な子ね。素直で率直な子、可愛い子、異性装が似合う子ね」
「春蕾さん」
「可愛いの面が違うわよ」
『兔子』
「アンタワザとやってるでしょ」
『臘月か、凄いな』
「雨泽様には無理ですか?」
『アレこそ腹黒の真骨頂じゃん』
「成程、そんな面が有るんですね」
「そこは信用してるのね」
「少なくとも私の事を分かってるなら、私に策を弄さないかと、こう見えて疑り深いですから
「あらそう?」
「池の骨は警備隊が犯人じゃないか、とか思ってますよ」
「そこよねぇ、行方不明者と照らし合わせないとだから、暫く私はココに残るわ」
「あー、残ってお手伝いすると、騒動がどう伝わってバレるか分からないですもんね」
「そうね、池の骨の事が表に出る前に、ココを去ってほしいわね」
「もうお別れかもですよね?」
「本当は私ももう少し一緒に居たいのよ、色々な意味で。けれどコレは少しね、大事だから」
「ですよね、お疲れ様でした」
「お疲れ様、程々に頑張ってね花霞ちゃん」
「はい、ありがとうございました」
宿から白家に、俺も手伝いに行くから一緒に移動したんだけど。
凄い残念そうなのな、暁霧。
『そんな名残惜しい?』
「そらね、凄い楽しかったんだもの。それにこんなに長く家を離れた事も無いのに、まっっっったく寂しくも苦痛でも無かったんだもの、何なら勝手に一生アンタ達にくっ付いて回る気でいたわ」
マジっぽい。
無表情で淡々と言ってんの、マジか。
『結婚してから麗江に来れば良いじゃん』
「大事な一連の行事や儀式を見逃しちゃうでしょうよ、婚約式は勿論、初めての接吻に初めての夜伽。上手くいかないだの照れて赤面するだのモジモジするだの、コッチで結婚なんかしてたら良い所をぜーーーーんぶ見逃しちゃうじゃないの、莫迦なの?阿呆なの?折角やっとココまで来たのに、はぁ」
偶に分んないんだよなぁ、暁霧のこう言う面。
『なら終わってから』
「無理よ、結婚するつもりだもの」
『何で』
「幸せになろうと努力しない事も親不孝なの、家族に甘える事を止めるだけよ」
『なら暁霧もハレムに入れば良いじゃん、で支度金を謝礼にして、麗江で解散。別に本当は今回の件、暁霧が関わらなくても良いんでしょ?どうせならちゃんと見極めたら?』
「まぁ、アリね、いざとなればやっぱり違ったわ、で良いんだし」
『後は周りな』
「薔薇姫達には黙ってるか、偽装って事にするか、ね」
『花霞にも黙ってれば良いんじゃね、どうせ破棄すんだし』
「あら、しないかもよ?」
『そんなにあの毛色が良い?』
「違うって分かってるでしょ、良く考えてご覧なさいよ、今まで出会った中で1番楽じゃない?」
『だから、それは友人知人だからじゃないの?夫婦と友人は違うんだよ?』
「それは悪い意味でも言われるけれど、良い意味でも言われるのよ?って言うかそんなのは夫婦で築き上げるもんよ、絶対に同じ形なんて無いの、好きに形作っても良いのよ」
突き詰めたら自分に本当に合う者なんて居ないと思ってたのに、もしかしたら大丈夫、かもって。
けど、それも思い違いかも知れない、良く有る常人の思い違いと同じ。
何かを見誤ってるかも知れない。




