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秋土用。

 兄上の配慮、と言うか。

 多分、藍家の血筋を考慮して、敢えて。


《あら、その玉牌は藍家の、ようこそおいで下さ》

《いえ、実は客人としてでは無く、下働きをお願いしに参りました》


《まぁ、左様で》

《書簡を、ご当主様へ、お願い致します》


《はい》


 単なる下働き、侍従では桂花(グイファ)に何か有っては、助ける事も出来無い。

 なら。


『藍家の四の宮、面を上げろ』


《はい》


 ココでもし、断られたら。

 俺は。


『お前は、変態か』


《そ、いえ、違っ》

『冗談だよぉ、藍の若君、四家が持つ性質の事は俺も良く分かってるって。だからしっかり者の嫁様に、ウチに来て貰ったんだよ、ねぇ凛風(リンファ)

「そうですね、しっかりお支えしないと朱家が崩壊し民が困る、と思い込まされ嫁いだ者としては桂花(グイファ)嬢には激しく同情しますわ」


『いや君が居るからこそ、俺は頑張れるんだよぉ』

「それで、私は東の方の性質を知らないのですが、知るべきで無いなら退席させて下さい。姫様方を迎え入れる準備をしなければいけないんですから」


『凛風なら知っても大丈夫だと思うよ、俺はね』


《雷や蛇、時に風の様だと言われており。詳しくは南西の(イェン)家の分家、(ホウ)家からお聞き頂ければ宜しいかと》


「ぁあ、稲妻の様に一目惚れをし、蛇や風の様に纏わり付く、との噂は藍家でしたか。五徳は仁ですものね、確かに」

『けれど万人を愛するのが仁とも言うよ』


「特例1つに万を平等に愛せるのなら、やはり仁でしょう」

『ほら、しっかり者の嫁樣でしょう』


「惚気る前に可否を教えて差し上げるべきでは」

『俺は良いよ、何か有れば捥げる権利も頂いたのだし』


「新作の貞操帯を付けて頂けるなら、許可しても宜しいかと」

『うん、流石俺の自慢の嫁様、抜かりない所が良いでしょ?』


「試すだかひけらかす為に敢えて不備の有る文言や中途半端な事を言わないで下さい、凄く面倒ですし困ります、私も彼も」

『だって、ご安全に自慢出来る者って限られるじゃない、ねぇ?』


《はい、奪われては困りますので、人を選ぶ必要が有るかと》


『でもさぁ、有能だったらウチが欲しいじゃんねぇ?』

《選ぶのは桂花(グイファ)です、好意を寄せれば叶うとも思っていません、ただ見守らせて頂きたいんです》


「他の家も回るおつもりなのかしら」

《はい、出来れば、はい》


『剛毅木訥は仁に近し、貫いてくれよ、面倒が有れば九族郎党迷惑を被る程度では済まされないんだからね』

《はい、この家の家訓を守り、決して破らぬと誓います》


『破ったら捥いだモノは食って貰うよ、そして趣味の者に春を売らせる、東だけに』

「アナタ専用に少し家訓に手を加えますから、先ずは準備を、表から宿に案内させますので。準備が出来ましたら裏口へ、ウチの玉牌です」


《はい、ありがとうございます》

『よっ!流石ウチの嫁様っ』




 朱家では皆さんと合同でお泊まりした後、全員が同じお仕着せを貰ったのですが。

 ココで言う帔帛、羽衣を頂きました、あの羽衣です。


 そして羽衣と同じ色の名札には、(あざな)が無く。

 ココでも紋様問題が。


 今回は家紋では無く、絵、色付きなのは良いんですが。


桂花(グイファ)なら分かるわよね?》

「まぁ」

『ココに詳しい方が居りましたら、彼女と共にご説明願えませんか?』


 ざわ、ざわ、しますよね。


 難易度SSS。

 花菖蒲や文目(あやめ)の見分け方、ですから。


桂花(グイファ)、私が許可しますわ、やっておしまいなさい》

「はっ、では咲く順からご説明しますね……」


 燕子花(かきつばた)、又は杜若は白い線が。

 文目は文字通り網目の模様が有り、花菖蒲は黄色い線が。


 コレ、前世の知識無双だったらカッコイイんですが。


『はい正解です。どうも、総女官長の(シュエ)薫風(シンファン)です、薫風自南来と覚えてください』


「『宜しくお願い致します』」


 雀家って、確か名の通り何処にでも、各地に散らばってた様な。


『はい、それでアナタ、良くご存知でらっしゃる』

「ウチは布や糸の商家ですので家族に教えられました、花言葉が微妙に違いますので、取り扱いは特に慎重にと」


 そうなんです、マジでココでの知識なんです。

 意外と無双って難しいですよねぇ。


『そうですか、成程、ありがとうございました枇杷(ピィパァ)。では各人は自分の棟へ』


 枇杷て。

 ココは果物の(あざな)を使うのかしら。


 にしても枇杷て、響きもちょっとアホちゃんぽいし、どちらかと言えば縁起が悪い。

 枇杷の実は勿論、葉に病人が群がる、とされてるんで。


 いや、それを縁起が悪いと思うかどうかは、間柄次第なんですけども。


《あら目を付けられちゃったかしらねぇ》


「ふぇぇ」

《大丈夫、離れていても私達は味方よ》

『そうですよ、何か有ったらちゃんと私達にも言って下さいね』


「ぁりがとぅ」




 (ラン)家からの報告書には、特筆すべき点は無く普通で平凡だ、と。

 そして四の宮様からも、色柄や花には多少詳しい、とは聞いてはいましたが。


『奥様、あの子が平凡でしたら、私達平民出は超無能、になってしまうのですが?』

薫風(シンファン)、アナタは凄く優秀よ。それに、中央の商家の娘としては平凡、なのかも知れないわ」


『ぁあ、あぁ?他の中央の子は牡丹と芍薬の見分けが付きませんでしたよ?』

「その子は商家でもお塩や、いえ、居たわね、居たけどアレは超箱入り娘。枇杷ちゃんはしっかりお店に出てる子なのでしょう」


『あの見目ですから、強制的に看板娘にさせられてしまってるのでは』

「そうね、しっかり者の後ろには必ず苦労が有る、はぁ」


『ドンマイですよ奥様、なんせ当主の真は我々にも分からなかったんですから』


 長兄様は更に南のビルミャー共和国にお婿に行き、二兄様は扶桑国の方と結婚し、奥方と共に歴史研究の為に国内を巡っており。

 三男である夫と、少しばかり病弱で気弱な四男が居り。


 この時点で私は気付くべきだった、彼のご両親は最初から三男に継がせる予定だったのだ、と。

 1度奥様に聞いた時は、考え過ぎだ、と微笑まれてしまいましたけど。


「クソぉ、絶対に私と同じ轍は踏ませないわ」

『はい!頑張りましょう!』


 謀られた、とマジで1度だけ頬を叩かせて頂きましたけど。


 惚れた弱味で、あれよあれよと。

 まぁ、今は大事にして下さってるから良いんですが。


 惚れるより惚れられろ、ココでご納得して頂くのが、第一の私の使命。




「あら良いですねー、小李子(シャオリィズ)ちゃん」

『ふふふ』

《私、また薔薇(チャンウェイ)なのですけどぉ》


『薔薇に実は、付かないのでしょうかね?』

《そんな事は無いけどぉ、そうすると秋なのよねぇ》

「なら西で実の名前が付くんですかね?」


《まんま、薔薇の実になりそう》

「お似合いですし、看板としては一貫してて良いと思いますけど、こうなると他を楽しみたいですよねぇ」

『あ、蘋果(りんご)ちゃんは、もう、居そうですし』


山査子(さんざし)も実は秋ですしねぇ」


《こうなったら寧ろ薔薇を維持する気でやってやりますわ》

「よっ、流石葉赫那拉(イェヘナラ)様、そこに痺れる憧れるっ」

『ですね、あ、私コッチなんです』


《小李子は尚義、私は尚食、枇杷ちゃんは尚寝。良い感じにバラけたけど、程良く気を引き締めて頑張りましょう》

「はーい

『はい』


 いやー、助かりました、布や糸の商家でとは言えど縫い物って苦手なんですよ。

 刺繍は少しなら出来ますし、綿の繕い物なら多少は出来るんですけど、服だの絹はどうにも苦手なんですよね。


 高いし、何でも専門家に任せるのが1番。


「宜しくお願いしまぁーす」

《あらアンタが枇杷ちゃんね、美味しそうだこと、早速だけれど繕い物を任せるわ》


「あの、布や糸の商家ですが綿が専門でして」

《なら丁度良いわ、お願いね》


 お、良いシーツ。

 ナイスシーツですねぇ。


「はい」

《はー、助かるよ、もうそろそろ目がキツくてねぇ》


「こまめにご休憩頂ける様に頑張りまぁーす」

《お願いねぇ》


 コレ、コレなんですよ困る所。

 一生、食いっぱぐれない仕事でも、コチラに限界が来る場合も有る。


 専門家に任せるのが1番だとは思いますが、私は専門家になろうとは思わなかった。

 前世は勿論ですが、子供の頃からも、今も。


 ココでは必ず親に聞かれるんです、何になりたいか。

 まぁ、私は元から特に専門分野も無かったので、何にもなるつもりは無い、と答えたんですけど。


 まだ、この世界の仕組みを理解していなかったので、アレは苦労する解答だとは思いもしなかった。

 そして私は見事に、器用貧乏に育てて貰いました。


 器用貧乏、とは。

 器用に何でもこなし、損な役回りをしかねない危険な特性なのですが、そこは世の立ち回り方も教えて頂いたので大丈夫。


 ココで少しだけ前世の知識も生かされ、見事な器用平凡へ。


 前世でもこんなに親に感謝した事は有りませんよ、共働きで家の中も親の仲も微妙。

 何もかも微妙だな、と、ココを知ってよけいに微妙さを痛感した位に微妙。


 ココ基準だと。

 ぶっちゃけ、有り得ない。


「こんな感じでどうですかね?」


《うん、良いわね、じゃんじゃん直しましょう》

「はいー」


 他の部門にも繕い物の部署は有るんですよね、尚服と礼儀祭事の部門、尚儀に。

 揉めない様にってのも有るんですが、普段着と礼服の違いも有って、けど尚儀から尚服に普通に人手を借りれば良いだけで済む。


 尚服より尚儀が上、と言うか優先順位が違う。

 祭事は遅らせるワケにはいかない絶対的な行事、ですから。

 

 けど派閥争いが無いんですよねぇ。

 と言うか、そんな暇が有るなら休憩か仕事をしろって感じなんですよ。


 四家巡りの最初は閏年だけだった、けれども大勢が押掛けパンク寸前に。

 なので2年に1度が、次は毎年になった、との伝説通り。


 忙しい。

 クソ忙しいからこそ、ケンカする暇が有るならクソか仕事をしろ、現場は止まってはくれない。


 だから四家に嫁ごうと思う者は少ない、例え四男の嫁でもクソ忙しい、と知ってる。

 と言うか体感、体験している、ナウ。


《無理するんじゃないよ、先は長いんだからね》

「ですねぇ、誰かケンカでもしたんですか?」


《いえね、まだ加減が分からない小さい子が多くて、まぁ元気で、ふふふ》

「あぁ、それで尚儀に人が多いんですね」


 祭事も礼儀作法も、尚儀。

 謂わば内々の私塾でもあり、お子様の教育部門でもある。


 良いなぁ、お子様と接したいなぁ。

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