65 夢。
《悪夢、と言うべきなのかしらね》
『花霞は、どう思ったんですか?』
「嬉しそうだったので、嬉しいな、と」
《なら悪夢じゃないわね》
『さ、朝餉に行きましょうか』
花霞ってば、解せぬ、みたいな顔をしてましたけど。
私達としては寧ろ安心、と言うか。
好意を抑え込んでいる説が有力だ、と確信させられた出来事で。
報告すべきなのか、と思うと同時に、花霞から報告するのが1番じゃないかとも思ったり。
ただ、やっぱり。
《余計な事かも知れないと思うと》
『何を言うにしても、腰が引けてしまいますよねぇ』
美雨は臘月様に注意された事を、かなり気にしていて。
《はぁ》
『この前の事は詳しく知りませんが、爵位を得るならば、って脅しただけでは?』
《花霞を賢いと思うなら、そう振る舞うべきだ。見誤るな次は半殺しだ、って感じだったのだものぉ、怖いわ、無理》
『どんだけ、そんだけ、だったって事ですよね』
《背中に虎か獅子が見えたわ、血塗れの獅子よ》
もし半分でも本気でらっしゃったなら、もしかしてご自分も侮られた経験が有ったから、かもですよね。
『そこは、玄武では無いんですね?』
《だって、亀は優しいに決まってるもの》
『世にはスッポンなる凶暴な亀がおりましてですね……』
私と小鈴、兔子様と共に街へ。
私の仕事の為、でもあるのだけれど、花霞の為でもあるのよね。
でも、こう離れたら離れたで、花霞が心配だわ。
《どうしてるかしら、あの子》
『僕が聞いておきましたよ、そう心配なさるだろうと思って』
『流石兔子ですね』
前半はお茶について、後半は座学かお作法につて、だそうだけれど。
《あの子、お茶はそこそこ詳しいわよね》
『贈答品で良く貰うそうですし、お作法も別に、私達が気になる点は無いかと』
『ならゆっくりなさってるかもですね?』
《まぁ、それなら良いのだけれど》
あの子、大丈夫かしら。
『黄茶もですか』
「ほんの少しですよ、目の前の茶館で出して頂いただけですから、見分けとかは無理です」
裕福そうなお爺さんに招かれて、縁起が良さそうだから1杯、と。
クセが無くて飲み易いお茶でしたけど、別に、他の茶葉を薄く出せば良くない?
とか思って、しまいには希少茶葉マネロンについて考えてたんですよね、その時。
『その、贈答品で贈られた物は』
「職人さんと分けたりしてるので、正直、何処の青茶か、とか聞かれても無理ですね。そんなに飲みませんし、飲む時は味も香りも無くなるまで使い倒して、最後は炒め物とかにして食べちゃいますから」
『それは、農家の方も本望かと』
「だと良いんですけどねぇ」
『そう興味は無いのですね』
「販売には興味が有りますよ、高級路線を突き詰めると危ないけど大丈夫か、と」
『と言いますと』
「私なら希少価値を高める為に更に売り絞ったり、更に規制を強くしたり、と考えますけど。その点はどうなってるのかなーとか」
『有ったそうで、今は管理官が適時見回ってらっしゃるそうです』
「賄賂を渡すか脅すか」
『クジ引きで決められ、その日に出立なさるそうです』
「なら安心、ですかね。そうなると量産茶葉農家としては、一旗揚げたいですよね」
『ですので四家が毎年選考会を行っております、箔が付きますから売り上げも品質も向上します』
「アレ正式なものなんですね、そっか、適当に飲んじゃってました」
ほら、凡庸な転生者の入る余地皆無。
『座学を、と思ったのですが。天気も良いですし、春蕾様に太極拳をお願い出来ますでしょうか』
忘れてた。
「ぁ、はぃー」
春蕾、クソ嬉しそう。
『イチャイチャしてる様にしか見えない』
《そうだね》
『臘月は良いの?』
《僕は出来るし、触るなら他の事で触るよ》
『ガッツリ欲が有んのな』
《まぁね》
澄まし顔で言う。
けど多分、1番腹黒いのが臘月だと思う。
そう思うと春蕾は。
いや、アレもアレで骨まで食うとか言うからなぁ、流石に目を見開いてたし。
で、暁霧にはちょっかい出されるし。
可哀想かよ。
『暁霧はいつまで謹慎なの?』
《ココを出るまで》
『厳しくね?』
《守る為だよ》
『何を』
《色々と、そう暇ならこの家でも手伝ったらどうかな、下働きの良い経験が出来ると思うよ》
深追いすると巻き込まれそうなんだよな。
『へいへい』
甘かったわ、本当。
春蕾ちゃんの、あんな嬉しそうな顔を。
邪魔したのよね、私。
だから今はもう、食事の際に男性陣と顔を合わせるだけ、雨泽ちゃんとも誰とも喋らず。
ほぼ軟禁状態。
その謹慎のまま、ココを出る事になるだなんて。
「あ、暁霧さん、数日ぶりです。謹慎明け、おめでとうございます」
白い糸菊の刺繍、菊は白家の四君子。
花言葉は。
「清浄、高潔、ね」
「はい。ご自分への理想が高いからこそ、高潔なのだと思います」
「醜悪な私は貰えないわ」
「低俗な者は自覚しませんよ、気付かない分からないまま。そして不満を喚き散らしながら一生を終えて、また地獄の様な輪廻転生が始まるのだと思ってます。だから暁霧さんは綺麗な方だと思いますよ、この程度で醜悪だなんて、真の畜生にウンコを投げ付けられませんか?」
私、今度は後光で刺されたの。
まだ私は私を許して無かった、愚かな自分を許せないまま、コレが私だと抱え込んだまま目を反らしていた。
救われたいと思ってはいけない、そう勝手に自分を誤魔化して、また目を反らしてたのよね。
「本気で救われる気が無いと、ダメよね」
「蜘蛛の糸って意外と丈夫だそうですから、安心して登ってこそですよ」
「道のりが長いわぁ」
「だから下を見ちゃいけないんでしょうね、もっと嫌になるから」
「もう嫌になったの?」
「全然、また美味しい物を皆で食べましょうね」
「そうね」
人に許されるって、こんな感じなのかしら。




