62 騒動。
薔薇姫様達が話しに行った後、暁霧さんから茶館の一室にお呼び出しを受けました。
アレですかね、私は頑な過ぎたんでしょうか。
でも。
「そんな緊張して困った顔をしないで、私も困ってるのよ、どうしたら良いか」
「ですよね、すみません」
こんなんですからね、困るのも仕方無いですよね。
「私が包々を気に入ってるとしたら、どうする?」
「お邪魔をしない、とか?」
「けれど包々がアナタを気に入っている、となると?」
「それは困りますねぇ」
三角関係っぽいですけど、私にお2人のどちらへも好意が無くても、三角関係になるんですかね。
「もし、アナタが言ってた偽装結婚をお願いしたら」
「あ、そこは良いですけど、包々と私がややこしくなるだけでは?」
こうした出先では字で呼ぶのが通例なんですけど、気が抜けちゃう、包々て。
「そこは無理にでもコッチに振り向かせる、とか」
「なら円満解決ですねぇ」
「そうよねぇ」
「例え話でココまで考えて頂いて、すみません、ありがとうございます」
私のシミュレーション自体は未だに実行されて無いんですよね。
難しいですよからね、私をシミュレートするの、転生者で両性具有で金髪碧眼ですから。
「全く気が無いのね、私にも包々にも」
「好意を示されてませんし、好意が発生する理由も無いので」
「それもそうよね」
そう言って、暁霧さんに手を取られるまでは良かったのですが。
手に接吻て。
「ぉ、あ」
「私ね、凄く心根が悪いの。人のモノが良く見えちゃって直ぐに欲しがるし、そうして混乱されると楽しいし、兄の様に慕われてた子に照れて貰えるとゾクゾクしちゃうの」
苦労したがりのドMさんなんですかね。
「大変でしたね」
頭を殴られた様な衝撃って、まさにコレなのかしら。
少し嘘も混ぜて言ったのに、全てを受け入れられてしまって。
まるでお釈迦様を試したみたいで、思わず。
「半分は冗談よ」
「あ、成程、では私の腹黒さもお聞かせしますね。楽なら商隊に嫁ぎ先を紹介して貰うのもアリだと思ってますし、友人知人が居なくても貢いで貰えてる限りは困らないし、とか思って四家巡りで友人を作る気は有りませんでしたし。本当に今居る四家の方なら誰でも良いです、怠惰好きです、好きな事だけして好きな物だけ食べてたいです」
「あの」
「ぶっちゃけ、会わないで楽でした、緊張しないで済むし着飾るのも面倒だし。だからそんなに好きじゃないのかなーって悩んでます、はい」
「それは別に、女が着飾る大変さは私も知ってるし」
「好きですよ着飾るの、でも最初だけなんですよね楽しいの。いつもお仕着せだったから汚さないか破かないか気を付けないとだし、だから男装は楽で楽しかったです。コレでフるならフれよと、半ば自棄だったりもしました、付いて来られて楽しいし嬉しい反面、面倒だなとも少し思ってます」
何を毒と思うか、そもそも毒を知って毒と思えるのか。
浅はかだったわ、本当。
「ごめんなさい、そうやって素直に言えば良かったわね。アナタと包々で迷ってるの」
「両方試してみては?」
「もー、懐が広過ぎて怖いのよソレ」
「あ、違いますよ、包々と仲良くしてる姿を見るのは楽しそうだなと思っての事です。何も利が無いのに推奨しませんよ、それに男性同士の快楽も凄いそうですし、そこに文句は付けられません、だって与えられないんですから」
私、ずーっと、後光でぶん殴られ続けてる感覚なのよね。
お釈迦様も誰もそんな事はしないだろうけど、あんまりにも尊いって言うか、懐が深過ぎて溺れてる感じ。
「理解が有り過ぎて怖いわ」
「女性同士の性行為に興奮する方も居る様に、男色家を愛でる者も居るんですよ。皆違って皆良い、安寧が1番楽ですから」
「アナタの考え、理に適い過ぎてるのよね」
「細狗だからこそ、手に収まる様な侮れる相手じゃないと不安ですか、意外と気が小さいですね」
「そうなの、矮小で醜悪だから、暴かれると逆に安心しちゃうの」
「同じですね、分かります」
私、青燕は、人が落ちる様を初めて目の当たりにしたかも知れません。
恋に落ちたのか、何処に落ちたのかは不明ですが。
あ、落ちたな、と。
御柳梅様は、天性の人誑しなのは間違い無いですね、確かに商隊に目を付けられるだけの事は有ります。
商家の娘と侮る事は身を滅ぼしかねない、臘月様の仰る通りでした。
「ありがとう。そう言えば朝餉は何処で?」
「翠鳥の好きなお店で羊雑碎を、羊のモツ煮を食べました、あっさりしてて美味しかったですよぉ」
「そうなのね、西のは脂っこい店も有るから避けたのよ。私達は酸奶面よ、酸っぱくなくて凄く良かったわ」
「遊歴と言えば食い道楽ですよねぇ、良いなぁ、後で翠鳥にお願いしてみますね」
「そうそう、アナタや翠鳥の料理を食べたがる者達が居るのだけれど」
「お任せを、香酥鶏を作る予定です、翠鳥のお父様が凄く上手なんだそうで、解体から教えて貰う予定なんです」
「あら怠惰を貪るんじゃなかったの?」
「そんな毎日料理はしませんよ、後はもう存分にダラダラ、したら大猪が寂しがりますよね?」
春蕾様を最早愛玩動物扱いですが。
まぁ、何の情愛も無いよりは良いですよね。
「そうねぇ、ぶっちゃけ蝦餃は平気そうだけれど、大猪はもうダメね、女装してまで付いて来ようとしたもの」
「似合うから困りますよねぇ、色気が羨ましい」
「まだ若いんだから色気なんて無い方が良いわよ、それに、今から出てたら直ぐに食べられちゃうわよ?」
「確かに、道中お互いに悶々としても周りが困りますしね、成程」
もしかして、御柳梅様は。
「まぁ、まだまだ道中は長いのだし、顔を合わせは様子見次第ね」
「はい」
そして船に乗り、小鈴様のご実家へ向かう事に。
その道中、どうしても気掛かりが有り、私は暁霧様と小舟へ乗る事に。
「叱るなら手短にお願いね」
『いえ、あの程度なら。今回は御柳梅様のお考えについてです、あの方、もしかすれば性行為と好意が繋がってらっしゃる方かと』
貴族令嬢にありがちな、性行為を経て情愛が非常に深くなる傾向。
女性側は女性に多い、男性側は男性に多い、と言うんですが。
寧ろ、致してから飽きるか冷める男性の方が圧倒的に多い、と思いますね。
相応の問題でも無い限り、女性で理不尽に冷める方は聞いた事が無いので。
「もしかして、致すまで、アレ?」
『と言うか、接吻をしてしまうとグングン進む方かと』
「快楽に弱い」
『ですが不備が有れば一気に冷めるかと』
「凄く、常人の貴族令嬢ぽいわね」
『そこははい、冷静でらっしゃいますから』
「本当に、貴族が過ぎるわ」
『庶民の出でコレでしたら、国の先は明るいかと』
「守りさえすれば良い、包々の言ってた通りね」
『となると些か繊細な采配が必要かと』
「そうね、少し迂闊だったわ、ごめんなさい」
『いえ』
幼さや疎いのでは無く、水位が常人とは少し違う。
器が違うのですから、当たり前と言えば当たり前なんですが。
私達は危うく見誤りかけていました、幼く疎いだけだ、と。
《親子だ、って良く分かったわ、子より記録なんですもん》
『折角思い付いた事は記録しないと、ですからね』
「けど気が良い方で助かりました、ぶっちゃけ気安いので凄く楽です」
『なんせ成金ですから』
ウチは金雉の養殖に成功して、学者から一気に爵位を頂いた家でして。
元庶民、もっと言うと子の私は庶民同然なんですが。
「でも私と同じ、貴族位を得るの確定なんですよねぇ」
『そうなんですよぉ、庶民に戻る気で居たので未だに気持ちが追い付かない、どうしましょうね?』
「その心持ち、わかる」
花霞もお相手が四家なので、爵位を得るんですが。
《私も中央に店を出しちゃおうかしら》
「外籍の方が爵位を得ても、利益って有るんですかね?」
《免税の割合等が変わるらしいのだけれど、そうね、国母樣に相談してみようかしら》
「そんなんで爵位を得られますか」
《向こうにも利が有れば、ただ外交の仕事は増えるでしょうね》
「絶対に面倒ですって、何ならあげたいですもん」
『ですよねぇ、美雨なら活かせそうですし』
《今度は私だけ持ってるなんて嫌よ、一緒にしようと思ったのに、投げてどうするのよ》
「可愛いですよね、こう言う所」
『お顔立ちと真逆ですからねぇ』
最初にお揃いの品を、と言い出したのも美雨なんですよね。
口調とお顔は姉御肌なのに、妹気質なんですよね、凄く可愛い。
《もう》
「はいはい、先ずはご無事に結婚する事が最優先ですよ」
『私もなんですよねぇ』
もう母が張り切ってて張り切って。
今でも四家の皆さんが捕まったまま、大丈夫でしょうか。
「そろそろ蒸气浴に呼ばれるでしょうから、大丈夫かと」
『あ、念の為に言ってきますね』
私達が入った後、清掃し今度は男性陣へと、親は把握してる筈なのですが。
話し出すと割って入るのが大変なんですよね、ウチの両親。
《お帰り》
『丁度良い間合いでしたよぉ、もう食らい付いて食らい付いて』
「成程、覗きに行くなら今ですよね」
こうして偶に面白い事を言い出すのよね、花霞って。
『なん、何を言い出します?』
「見分けですよ見分け、もしかしたらお体に特徴が有るかもですし」
《成程ね、油断してる今こそ、誤魔化しも効かないものね》
「お尻にホクロなら可愛いなーと予想してます」
《確かに可愛いわねソレ》
『もー、何で本気なんですか、それにどっちがどっちか分からないんじゃ意味が無いですよ?』
「そこは後で揺さぶってどっちかを聞き出します」
『私には無理ですよぉ』
《なら花霞の役目ね》
『ちょ、あ、ダメですってば』
「じゃあ小鈴が見る役目で」
『無理無理無理』
「じゃあ聞き出し役になります?」
『どっちも無理です』
《なら私が》
「確かに適任かもですね」
《大丈夫よ、アナタには何も教えないから》
『そこは教えて下さいよ』
「仕方無いですねぇ」
花霞の案で本当に覗く事に、と言っても外気浴の為に出る所を母屋から覗くだけ、なのだけれど。
ちょっと勇気が要るわね、コレ。
《見付かってしまったらどうしようかしら》
「正直に、見分ける為って言いましょう、実際に大事な事ですし」
『ですけどぉ』
《あ、戸が開いたわ》
私達の場合は直ぐに洗い場に行ったのだけれど、本当に出て来ちゃったわ。
「見えちゃってますか」
《残念だけれど腰巻きをしてるわね》
『お尻は見えないんですね』
《そうね、今、出て来たわ》
表情からして、臘月様が最初、次が兔子かしら。
特に違いは、無いわね、やっぱりお尻にホクロかしら。
『あ、動く時はゆっくりですよ、人は急に黒いモノが動くと気になるんだそうです』
《成程ね》
「あぁ、アレとかね」
『もっとゆっくりで』
《まるで太極拳ね》
「成程、覗きの秘技は太極拳でしたか」
《ちょっと、笑わせないで》
『そうですそう、ゆっくり』
「まるで罠を前にした生き物ですねぇ」
《鹿か羊かしら》
『白鳥にしておきましょう』
「香酥鶏、楽しみですねぇ」
《もう、本当に食いしん坊なのだから、はぁ》
「お疲れ様でした、どうでした?」
《見える場所に違いは無かったわ》
「残念」
『どの方が1番筋肉質でした?』
《やっぱり春蕾様ね、でもしなやかでゴツさとは縁遠い感じよ》
「成程、まさに良い体ってヤツですね」
『ふふふ、まさか覗かれるとは思って無いんでしょうね』
《アナタが1番楽しんでるじゃないの》
『えへへ』
「よし、バレる前に戻りましょう」
『ですね』
最初は少し迷ったのだけれど。
3人で悪い事をするって、正直、凄い楽しかったわ。
「雨泽様」
『花霞、次は何を企んでんの』
「お体の違いを教えて下さい、臘月様と兔子様の」
『何で俺』
「暁霧さんは面白がって教えてくれなさそうなので、利益優先の雨泽様に伺おうかと、何か欲しい物は有りますか?」
『無いんだよねぇ』
「ですよねぇ。実は他にも用事が有るんです、ウチの薔薇姫様も貴族位が欲しいって言ってて、後ろ盾になって貰えそうな方とか何か無いですか?」
『あー、1人だけ何も無いんだもんな、しかも外籍だし』
「お揃い好きなんですよ薔薇姫様、可愛いしか無い」
『でも自分もじゃん、春蕾とお揃い』
「まぁ、女物ですけどねぇ。あ、お揃いとかしませんよね男性側って」
『無いなぁ、先ず買い足すもんが無いし』
「玉牌に付ける飾りとか?」
『邪魔』
「髪飾り」
『コレで十分』
「楽で良いですよねぇ、男性って」
『着飾るの大変そうだもんな』
「本当ですよ、今日は宴を催して頂くのでコレですけど、適当に結い上げてお仕着せが1番楽です」
『四家のお仕着せと似たもん?』
「いやアレでも装飾過多ですよ、庶民はもっと簡素で色が暗いです、汚れを目立たせない為に」
こうやって延々と喋ると、春蕾は拗ねるし暁霧は誂ってくるし。
面倒から進めるか。
『で、体の特徴ね、ケツにホクロが有るのが兔子』
「それマジで言ってます?予想と同じ過ぎるんですけど」
『おう、マジマジ。それから後ろ盾なら先ず朱家に聞いてみて、良さそうなのを紹介すると思う、多分、な?』
『薔薇姫様の意に沿うかどうかは別ですが、はい、条件次第ではご紹介は可能です』
「成程、ありがとうございました、失礼致します」
『あ、春蕾は良いの?』
「迷ってるんですよねぇ、もう少し会わなければ好意らしい好意が芽生えるかなー、と」
『それ、春蕾は気にして無いみたいだよ』
「成程、どう思います?」
『我慢させる方が面倒そう』
「では少しお会いさせて頂きます」
『おう』
もう凄い機嫌が良いの春蕾。
傍から見てもう、上機嫌。
んで引っ掻き回した主犯、暁霧は。
「何よ」
『少しは反省しな?』
「分かってるわよ」
素直で絡んでも来ない。
変だ。
青燕は余計な事を言わない役目だけど、絶対に何か知ってる筈。
言わないのは理由が有る、とは分かってるけど。
『青燕』
「気にしないで頂戴、私の事よ」
『だけに収まんないだろ、会うのを控えるって花霞が』
何だ、機嫌が良かった筈の春蕾が。
《暁霧》
クソ怒ってるじゃん。
「春蕾さん待って下さい」
『何をしたんだよ暁霧』
「私が間を開けろと言ったの、そして試す為に、手に接吻をしただけよ」
《暁兄、話し合いが必要そうだね》
「ごめんなさい」
「良いのよ、言うべき事だもの、コチラこそごめんなさいね」
《君が気にする事は無いよ、大丈夫、僕が何とかしておくから、だから花霞は暫く下がってくれるかな》
「はい、失礼します」
余裕の臘月は、全部知ってんのか。
《ココからは予測を話すよ》
『何だ、知ってるワケじゃないのか』
《だから確認をさせて貰う。先ず、花霞が自分から言うか試したんだね》
「そうよ」
《それから青燕も試した、しっかりと口が硬いか、言う線引はしっかりしているか》
『俺らは知らなかったもんな、で、理由は?』
「腹黒さが有って当たり前、腹の底に毒が有って当たり前、そう弱点や汚さが知りたかったのよ。どんなに清廉潔白だと評される子女だって欲には弱い、浅はかで愚かで、真に崇め奉られるべき子は一握り。あの子がそうなのかどうか、試したの」
『何の為に』
「全員の為よ」
《春蕾はコレで納得出来るかな》
《いいや》
《そうだね、好意についての説明が無い》
「まだ説明は無理よ、私もまだ分かって無いんだもの」
『も、って誰よ』
「花霞ちゃん、会わないでも平気だそうよ」
『あー、だから青燕は黙ってたのか、コレ言わなきゃならないから』
『はい』
《残念だけれど僕は落ち込まないよ、何も無いのにコレですっかり好かれても、どうかしてると心配になってしまうし》
《俺も、残念だとは思うけれど、仕方が無いとも思う。今は、条件が良いからと、気を、許してくれただけで》
『泣くじゃーん』
《出来るなら、好かれたい》
《そうだね》
弟みたいな臘月が大きい春蕾を慰めてんの。
すっかり仲良いのな。
『暁霧さ、コレどう思うの?』
「時期尚早だったかも知れないと思うし、でも距離を保つべきだとも思ってるわ、まだ未婚同士のただの赤の他人だもの。ただ、もう少し私は素直に問うべきだった、邪推は邪推を生むと知っているのに、奸計が愚策になって逆に迷いを生じさせてしまった、苦しめる気は無かったのよ、本当に」
《暫く謹慎して貰えるかな》
「そうさせて貰うわ、ごめんなさい」
コレで騒動は一旦は終わり。
けど、何か引っ掛かる、何かが気になる。
実は全部、臘月の手の上なんじゃないかな。
けど、マジで意味が分んない。
何でこんなややこしい事をすんのか。




