51 相思。
少し波乱の有った翌朝、美雨が花霞に螺鈿細工を見に行くか寺院へのお参りか、と尋ねたら。
花霞は両方で、寺院を先に、と。
どちらかだけ、と言われて無いんですもんね。
なのに私はつい、どちらかだけ、と思ってしまって。
「翠鳥?」
『両方、ってどうして私は思えないんでしょうね?』
《それはアナタが謙虚で控えめだから、よ》
「うん」
『それにしたって愚か過ぎません?』
「いやいやいや、私を軸に考えてはダメですよ、学者と商人の考えが違って当たり前なんですから」
《そうよ、どれか、と考えて然るべきなのだもの。欲張りであっては却って信用を失うわ》
『学問にはそうかも知れませんが、生きるに際してですよ』
「そこは兔子様に補ってもらいましょうよ、そうして良い所だけを見倣っていけば良いんですから」
《そうそう、焦って性根を直そうとするより、私としては腕の良い薬師になって欲しいわ》
「そうそう、完璧を目指すなら薬師業の方でお願いします」
《そうね》
『良いんですか?隙あらば二者択一ですよ?』
《そこは提示する側が先ず考えるべき事よ》
「先ずはそこですよね、優しさが測れる良い機会だと思いますよ」
『それって何だか、試すみたいで』
《あら味見も試着もズルかしらね?》
「えー、それで失敗するならズルい子でありたいんですけど?」
《失敗か、見極めるか、よ》
「あ、薬草って味見したりとか無いんですか?」
『有りますけど』
「それそれ、それと同じです」
薬草なら試して当たり前。
それは私の為だし、周りの為にもなる。
『双方の為にも、見極める』
「そうそう」
《試す、だなんて下心が有る者の言い掛かりよ、誰に言われても気にしてはダメよ》
『はい』
寺院と螺鈿細工工房を周った次の日、出立したのは良いんですが。
合同での昼餉後、ついに私のシミュレーションになってしまいそうになったので、前段階として本を読んで頂きました。
幾ら四家の方でも、いきなり転生者の考えに至るのは難しいかと思い。
向こうで良く見た、虐げられ系婚約破棄属令嬢科の本、神話時代(異世界)の創話がコチラでも出ていたのでお出ししたんですが。
宿に着いてから、話は少し不思議な方向へ。
いや、妥当と言えば妥当だとは思うんですが。
『コレ、世がクソ過ぎてドン引きなんだけど』
ですよね雨泽様、私もそう思います。
《ですわよね、お里が知れる、なんて表現が生易しい程ですし》
『学が無いにしても酷過ぎですよ、仮に貴族だとしてもこのお考えでは。親御さんや周りは一体、何をなさってたんですかね?』
「そこは本当、何もして無いんじゃないかしら。衣食住だけ揃えた家畜や愛玩動物と同じ扱いだからこそ、こう、なんじゃないかしらね?」
『成程、まさに行間に何も無いんですね』
「じゃなきゃ整合性が取れないじゃない?」
《花霞、アナタはどう思うの?》
コレ、クソ難しい問いですよねぇ。
転移転生者的には当たり前、ですけど良く考えれば確かに学が無さ過ぎて国が滅びるよね、と。
前の私はそこまで考えずに読んでいたんですけど。
いざ、ココで生まれ育ってしまうと。
「コレは、ある意味、転移転生者様を見分ける本。だと、思うんですよ」
コレを私が言うのもなんですが、妖精の飴事件、密偵宦官事件と。
立て続けにアホちゃんの様な事を言ってしまってるので、コレなら私がソレだとは思われないかな、と。
「そう、どうしてそう思ったのかしら」
どっちにしてもそうツッコミますよねぇ。
「先ず1つ、異界の神話時代の有名なお話なのかな、と。であれば転移転生者様にとっては親しみ覚えると同時に、他にも似た方がいらっしゃる事を示すのでは、と。例えば私の様に毛色が違う者が突然この国に現れたら、直ぐに分かるでしょうけれど、黒髪黒目の方がココに紛れては私達には見分けが付かないじゃないですか。そして敵味方の区別も付かない、そこで第一関門として、この本が使われているのでは。と」
「転移転生者様が何処へ頼るべきか、そも善き転移転生者様かどうか。そうした呼び水や試金石だ、と言いたいのね」
「はい、だってこんなクソみたいな場所から来られるとなると心配なさると思うんですよ、ココもクソなのかどうか。そして何より、善人かどうか見極めるられると思います」
「当たり前なのかどうか、その事についてどう思うか、ね」
「はい」
そして転移者の見極め、導く事が転生者の義務、だとも思います。
私が完全な善人かどうかは別にしても、ココと向こうを知ってるのは間違い無い、最悪は悪しき転移者が来たなら転生者だとバラし成敗するつもりです。
世界を、国を守る為に。
《僕も尋ねて良いだろうか》
「はい、どうぞ」
《君は四彩国が好きなのか、世が好きなのか》
「少なくとも四彩国と文洲国は好きです、他も噂通りなら好きです」
前世の私は勿論、今世の私でも志と意識が高いな、とか思いますけど。
幾ら平和でも、いつか転生者だと名乗る事が有るかも知れない。
だからこそ綺麗に生きてきたつもりだし、これからもそうするつもりです。
信用マジ大事ですから。
『マジで真実だと思って考えて、そこに至ったワケ?』
「神様仏様は勿論、仙人様に妖精だって信じてますからね。例えどんな文献でも文字は文字、誰が言ったのか記したのかは大事ですが、結局は信じるか信じないか。逆に、ですけど、見えないから信じない、ならお気持ちを測るにはどうすれば良いですか?」
信じたいと思えばこそ、ただの水でも薬になり病気が回復する事は有る。
どうにかプラセボの立証をして貰って、認知度を広めるべきなのか。
そう転生者っぽく悩んだ時期も有ったんですけど、私より優れた賢い転移転生者様が考えた上でコレなら、何もしない方が正しいのかなと。
だって、ある意味では神様達を否定しかねない論証に繋がるでしょうし。
『自分なら、どう証明すんの?』
「そこですよねぇ、私も未だに分かりません、だから信じるか信じないか、なんですよねぇ」
向こうでもココでも、その判別が難しいから問題が起きる。
嘘が分かる魔道具とか有れば良いんですけど、それもそれで体制側に悪用されたら終わりますし、個人所有でも国が乱れそう。
だから無いのか、とも思いますけど。
多分、有る筈、と言うか寧ろ有るべき。
善き転移者は持つべきだと思うんですよ、見極めの為にも、身を守る為にも。
「転移転生者様にも親身なのね」
「親身と言うか、こんなクソみたいな世に行きたく無いじゃないですか、だから良い子にすべきだなと本気で思ってます」
『だけ?』
「地獄行きを逃れるには何を悪とすべきか、私は異界であり地獄に関わる本に悪が書かれている、としました。だからこそ、ですね」
『異界と地獄、別々に2つ有るって事?』
「あー、ですね、けど異界だと思って実は地獄かもですし、その逆かも知れない。ただ、どちらにせよ、どちらにも行きたくない」
もしまた転生するにしても、転移してしまうにしてもココが良い。
向こうに戻るなんて有り得ない、どんな条件でも絶対に嫌です、あんな世界。
『皆が皆、そう信じてたらな、悪行がもっと減るんだろうけどさ。神仏なり仙人様なりが現れてくれたら楽なのに、とか思わない?』
「私は逆ですね、もし現れたら凶事の先触れだとすら思います」
「そうね、便りが無いのは無事な証。もしお姿を見てしまったら私も落ち込んでしまうわ、コレから悪い事が起きるのか、神々が介入しなければならない悪しき何かが既に蔓延してしまっているのでは。と考えてしまうもの」
「ですよね、お姿が見えない間は許されてるんだ、と思います。けど、そう油断するべからず、あくまでも見守って頂いてるに過ぎない」
「本当、常にそう思う子が居れば、ね」
「そんなにですか?」
「私に来る相談は、ね。好いた相手の気が変わってしまった、だとか詐欺ギリギリの相談が集まる程度よ」
『それさ、天罰が下って無いな、とか思う事って無いの?』
「私はそこまで年を取って無いし、そこは天罰についてどう思うか、なのだけれど。無くは無いわね、けどまだ、ってだけよ、今世でかあの世でなのか」
『あの世、それこそ地獄が無いと思ってるヤツが今世で罰を受けなかったら、結局は居ないのかよって思うけどなぁ』
前の私もそう思ってました。
けど異世界に私が転生したんですから、死んだ先に地獄が無い、とは言い切れない。
ぁあ、だからこそ神様も転移転生者も居るって示した方が本当は良いのか。
でもなぁ、少なくとも私の周りでは示すべきって事が起きて無いのに出張ってもなぁ、と言う感覚も有るんですよね。
だって、マジで平穏無事に過ごしたいし。
となると、神様もそう思ってる?
それこそ他の転生者も、転移者も。
「もし、もしですよ?神様も私達と同じ気持ちで、平穏無事に過ごしたいから関わらない、って場合はどうなるんですかね?」
少なくとも。
『そう言う所が頭が良い感じがすんだよなぁ』
「いやそう言うのは良いから答えて下さいよ、雨泽様。もしかすれば転移転生者様も本当は居るけど、平穏だからお姿を現さない、神様も現れないのかもですよ?」
『けど不幸は有るワケじゃん』
「それはココの人が補うべき事、本当に私達に補えない事って、有ります?」
『不幸な事故で家族が死んだら?』
「その先で生き延びたとして、家族が野蛮な人々に連れ去られてもっと酷い事が起こってたかも知れない、とすれば。事故や死は悲しむべきですけど、後悔するなら直ぐにでも孝行すべきかと」
『それ、平穏無事に過ごしたいとか言ってるけど、相当に高度な考え方だからね?』
「だとすれば皆さん勉学やお仕事が忙し過ぎなんですよ、私は店で暇な時を使って考えたりもしてますから」
『だとしても、だよ』
「そう思えるのは雨泽様に考える間が有ったからでは?」
忘れてた。
サボってた、って前提だったんだわ。
「花霞ちゃんの勝ちね」
「おー、四家の方に勝てた」
《そうね、ともすれば、余裕とは本当に大事かも知れないわね》
『美雨はせっかちさんですからねぇ』
「作業で忙殺される事も勿論大切だとは思いますけど、余裕、余暇は本当に大切だと思います」
「けれどねぇ、雨泽ちゃんみたいに余裕が有り過ぎるのもねぇ」
ぁあ、俺が単にサボってたの、コッチにもバレてんのか。
《そこは僕が反論させて貰うよ》
『おっ、頼んだ臘月』
《本人に自覚の無い欺瞞や嘘に気付くのは、実は結構な苦痛なんだよ。だからこそ、賢さ故に引き籠っていただけ、だよね?》
『それに返事すんのって逆に恥ずかしくない?』
『ほらやっぱり包子さんは恥ずかしがり屋さんなんですよ』
『本当にヤメテ小兔。確かに不満は有るけどさ、解決策を出せない時点でそこまで賢くは無いんだよ』
「本当に無いんですか?極端な答えなら幾らでも出そうなのに」
『それは莫迦って事?』
「いえ逆ですよけど、先ずは、ヤる気の問題かと」
「あー、分かるわ、最後まで考え無さそうだもの」
『それさぁ、最後って何処よ?』
「花霞ちゃんはどう思うのかしら?」
「最後って、殺すかどうかなら、優しいから至れないんだと思いますよ?」
『僕もそう思います、何だかんだ優しいんですよ包子さんは。って言うと、優しいと思われるのが面倒だからヤメテ、って言うと思います』
『お前さぁ』
『えへへへ』
『春蕾ェ』
《雨泽は優しいし頭が良いと思う、だから、花霞を好きになっても》
「は?」
《ちょっと、聞き捨てなりませんわよ》
『いや、別に、好意が有るとは』
《花霞が困る事になれば家に、と》
《あらあらあら?》
『好意は無いってば』
「あら抱けるわよね?」
『それ本人の前で』
「どうぞ」
「ほら」
『どう答えてもじゃーん』
「私は大丈夫ですよ、好意が無い方に抱けないと言われても、どうとも思いませんし」
『臘月』
「神様仙人様に誓って本当です」
《嘘は無さそうだよ》
『それで抱けるって言われても嫌じゃない?』
「別に、若い男性なら仕方無いのでは?」
『えー、嫌がれよぉ、嫌だよな?薔薇姫は』
《周りに花霞しか適齢期の者がいらっしゃらない、となれば、どうですかしらね?》
コイツ。
『ならお前は誰でも良いの?』
《四家の為、国の為にアナタ様しかいらっしゃらなかったら、致し方無く、ですわね》
『じゃあ俺もそれ』
《では花霞からお2人が去った場合は?》
『そうそう、それそれ、その場合にって事』
《では私が再び婚約者に捨てられたら?》
『暁霧を紹介する、つか俺の家だけじゃなくて俺の家か暁霧の家を頼れば、って言っただけだし』
《でも私には提案して下さらないんですよね?》
『絶対にこき使うじゃん』
《少し前は確かにそう思っておりましたけれど、余裕も大切だとなりましたので、余暇は適度に差し上げるつもりですわよ》
『だとしても、何か合わないから無理』
《であれば花霞なら合わないとは思わない、と言う事ですわよね》
『面白がるな面倒臭い』
《あらあら》
「はいはい、少しズレちゃったわね」
『それな、マジで俺の事を優しいと思うなら巻き込まないで』
「あ、ですよね、見てないから抱けるって言ってるワケですし」
『話を戻す?』
「あ、いやいやいや、外見だけなら女に見えてるんだなと思って安心しただけです」
『そんなに違うの?』
あ、ヤベ、失敗した。
「あらあらあら、一旦休憩にしましょうか」
《そうですわね》
『ごめん』
「いえ」
面白かったわねぇ、1人は微笑んで2人は赤面して。
1人は気まずそうに謝って。
「はぁ、まさに青い春だわねぇ」
『花見気分で俺も巻き込まないで?』
「アレは完全にアンタが悪いんじゃないの」
『最後のはマジで俺が悪かったけどさぁ、アレで麒麟児じゃないって、どんだけ中央は賢いのが揃ってんだよ』
《貴族との交流も有るとすれば、そうした理屈も分かるけれどね》
「そこよねぇ、向こうでの友人知人までは探って無いのよ、あんまり探るとご家族が心配しちゃうと思って」
『ぁあ、まぁ、金絲雀を辿れば良いもんな』
「あの子には中央で暫く準備と休養をお願いしてるから、もしかすれば気を回してくれるかも知れないわね」
『それさ、アイツのヤバい幼馴染とかどうすんの?』
「そこはねぇ、頑張って春蕾ちゃん」
《うん、はい》
『いやいや、刺されるとか洒落になんない事とか気にしないの?』
「そら気にするわよ、だから金絲雀ちゃんにお願いしたんだもの」
『それで何で春蕾が頑張るんだよ』
「だってこの中で1番強いのは春蕾ちゃんだもの」
『そんな?』
「あら腕試しでもしてみる?」
『無理無理、マジで無手の健康法の太極拳しかしてないもん』
「アンタねぇ、だから座学ばかりの頭でっかちなんじゃないの?」
《雨泽にも怪我は有るから、痛みを知らないワケじゃないと思う》
「あら、そう言えばアンタと一緒に入った事が無いわね?」
『何かされそうで怖いからズラしてんの、分かった?』
「分かんなーい、今日は一緒に入りましょうね」
『春蕾』
《兔子》
『じゃあ3人で入りましょうね』
『いやお前も案外悪ノリするから嫌だ』
《なら僕はしないと思われてるのかな》
『いや、けど1番真面目な春蕾と一緒じゃなきゃ無理』
『僕これでも真面目だって評判なんですけどね?』
『女には、だろ』
『えへへへ』
「兔子ちゃんは素直で可愛いわねぇ」
『可愛くなくても死なないし』
「死ぬってなったら出来るワケ?」
『そんな事しないと死ぬなら生き残っても大変なだけじゃね?』
「そこよねぇ。何処まで妥協して生き残れるか、だけじゃ、いずれは子孫が苦しむ事になるのよね」
『あの異界令嬢悲恋集の事ですか?』
虐げられた女は救われても、虐げていた者の居た国は結局滅んでしまう。
単なる勧善懲悪とも思えるけれど、それは地獄をも指していたのよね。
「どうして魔王が国を滅ぼすのか、考えた事は有る?」
『悪い国だからでは?』
「魔王が少しの悪も許せないワケじゃない、なら」
『何処からの何処までの悪を許せないか、ですか』
「私、魔王が愚かならどこもかしこも破壊し尽くしてる気がするの。けど、それこそ神々が居て尚、魔王は未だに居る。なら、何かしらの軸や基準が有る筈、だとは思わない?」
『暁霧さんは地獄や異界を身近に感じてらっしゃるんですね』
「いえ、寧ろ地獄だけね。だって私は転移転生者様が居るとは思って無いもの、アレこそ神様の代わり、天網恢々だと知らしめる為の寓話。だと思ってるもの」
『そこは僕と逆ですね、神様は居なくて転移転生者様が居ると思ってます。包々はどうですか?』
『ほらコレだもん』
「年が近いなら仕方無いわよねぇ」
『ですよねぇ』
『コレだよコレ、心配になんのは。で話を戻すなら、俺は何も居ないと思ってる、ただ地獄は有ると思う。足元とか影とか裏側に有って、偶にその穴に落ちるのが居て、そのまま亡くなる』
「アンタ誰を亡くしたのよ」
『寝取られて自死。稼ぎたいから辺境の衛巡警士になって、稼いで帰って来て貢いでた途中で他のに取られてるのに気付いて、女の前で首を切って死んだ。女の腹には他の男の子が居るから、過労のせいで病んでたって事になって平和に暮らしてるらしい、理不尽だよなと思った』
「それ、同一人物ならウチの領地側に居るわよね」
『近くにね、流石に南側じゃ暮らせなかったらしいけど、親子3人で暮らしてるって聞いてる』
「月命日に必ず悪夢を見るそうよ」
『それがマジなら良いんだけどね、そう偽る事なんか簡単でしょ。マジで同一人物なら腹の子を結局は亡くしてるんだし、それを思い出しながら話せば、悲しい素振りは見せられるでしょ』
「最初は素振りで、それから本当に見る様になってしまった、としても」
『臘月が言うなら、いや、言っても信じないな。それならどうして酷い事をしたんだ、って思うし、でも生きてるじゃんって思うし』
「そこは私達の腕次第よねぇ」
『そこは信じる、生かすのは得意そうだもん』
「でも、よね、そう自死したくなる気持ちも少し分かるわ」
『少しなんだ』
「そら大きく騙されて怒りが先立ったもの、悲しみに打ち勝てるのは愛か怒りよ。アンタが何を言っても何をしても、その子は命を落としたと思うわ。まだまだ、この世は死に易いもの、簡単に死ねちゃうもの」
幾ら薬が有るとしても、ちょっとした事で人は容易く死んでしまうのよね。
だからこそ、大事にしなくちゃならないのに。
『そうやって嫌な事しか無いと思っちゃうと、雨泽さんみたいに達観しちゃうんですかね』
『別に俺は達観して無いし嫌な事しか無いとも思って無いんだけど?』
『えー?』
『美味いもんは好きだし面白いとか楽しい事は』
あら?
どうしたのかしら雨泽ちゃん。
「どうしたの?」
『いや、面白い事が確かに多いわ、花霞の周り』
「あらあらあら」
『いや、そう言うのじゃなくて、友人知人には確かに良いなと思っただけ』
「ふーん」
もう何押しかすれば落ちるかしらね。
『マジだからな?春蕾』
《今は、だと思ってる》
「そうねぇ」
いつ落ちるのか楽しみだわね。




