49 簪。
「あはー、螺鈿細工ってやっぱり凄いですねぇ」
《私に付けて楽しんでどうするのよ》
「だって手頃なのは私の髪に吸い込まれちゃうんですよ」
『この黒い漆塗りでも、ぁあ』
《まぁ、髪が勝ってしまうわね》
「しかも自分で付けてたら見えま、あ」
《あ、って何よ、何を思い付いたのよ》
「いやー」
折角?ですし、春蕾さんに付けて貰うのが1番かなーと。
けど、こんな事を言ったら私も変態の仲間入りにさせられそうだな、と。
いや、良いんですけどね、変態扱いされても。
けど春蕾さんの事だから、喜んで付けそうなのがまた。
《何よ》
『遠慮は無用ですよ?』
「似合いそうなんですよね、コレ、あの人に」
《ぁあ、それで》
『女物が、ですかね?』
「はぃー」
《まぁ、そう、そう言う趣味がアナタに有ってもまぁ》
「私の趣味とは言ってませんが?」
《似合うかどうかの中に入ってる事がねぇ》
『私達、多分、しっかりとお顔を合わせて無いんですよねぇ、面紗越しでしかお会いしていないかと』
「綺麗ですよ本当、特にもう、夜間にお会いしたら絶対に分かりませんって」
《自信満々に言うわねぇ》
『ちゃんと見てみたいですねぇ』
「マジで?」
『《マジで》』
春蕾が、女性陣の前で女装姿を見せる事に。
『ぶふっ』
「流れで、すみません」
『いひひっ』
「あの、もし」
《いや、元は俺が撒いた種だから、直ぐにでも準備させて貰う》
『ひひっ』
「もう、そんなに笑わないの」
『ひゃひっ』
こんなん笑うしか無いのに、また、俺まで巻き込まれんの。
《本当に、上出来、と言うか》
『どうしたらそんな色気が出るんですかね?』
「ですよねぇ」
《何も出して》
「ダメですよ、前みたいに喋ってくれないと」
《特に、何も出しているつもりは無いのですが》
《分かったわ花霞、確かにコレは分からないわね》
『お化粧なんですかね?その色気』
「ふふふ、私にも無いモノですからねぇ、分かりませんねぇ」
「そう?花霞ちゃんもしっかりお化粧すれば、色気が出るんじゃないかしら」
「怖いって言われた事しか無いんですけど?」
《それは合わない化粧だったからじゃない?》
「そうよねぇ、ちょっとで十分でしょうから、やり過ぎただけじゃない?」
「そうなんですかね?」
《折角なのだし、試させなさいよ》
「そうよねぇ、ちょっとだけちょっとだけ」
他の女なら、薄化粧程度なんだろうけど。
《ほら》
『少しだけなのに、凄いですね。色気って言うか、まさに魔性、って感じですかね?』
「まぁ並の男にしてみたら、確かに怖いでしょうねぇ、食べられちゃいそうだもの」
確かに、手練れっぽそうだもんなぁ。
「色気と魔性って、若干違うのでは?」
「まぁ、並べると少し、違うわね」
《花霞、ちょっと恥ずかしがりなさい》
「無茶な」
「春蕾ちゃん、何か花霞ちゃんに囁いてやんなさい」
桃の様に色付いた唇が、凄く美味しそうだと、花霞の耳元で。
けれども花霞は照れるどころか。
「春蕾さんの春蕾さんを見せてくれたら良いですよ」
《アナタねぇ、やり返してどうするのよ》
『あー、照れてらっしゃる姿はもう、確かにすっかり女性ですねぇ』
「もう、まさに魔性、じゃないのよ」
「いやー、何かつい、反撃したくなっちゃって」
《つい、じゃないわよ、絵姿の事はもう忘れ》
「今度は照れ過ぎよもう、難儀な子ねぇ」
花霞は真っ赤になると俯いて、すっかり顔を隠してしまったけれど。
「はぁ、よしっ、もう大丈夫です」
《早いわね立ち直りが、もう少し良い具合に照れて欲しいのだけれどねぇ》
『他の文言でこう慣れてしまってもつまらないですし、難しいですねぇ』
「色気、欲しいですか?」
《色気を出すなら、2人きりの時だけが良い》
『あはー、惚気ですよ惚気』
《ほら花霞も何か惚気なさい》
「抱きたい。あ、抱かれたい?あれ?女の場合はどっちが正しいとか有るんですかね?」
「ぁあ、まぁ、決まりは無い筈だから、どちらでも良いんじゃ、ない、かしらね?」
《私、ちょっと、不思議な混乱を》
『私もです、何か、不思議な、違和感と納得が同時に訪れてる気がします』
「それ凄い面白い状態ですねぇ」
《アナタが醸し出してるのよねぇ》
「やっぱりアレですかねぇ、上品な女性の仕草に色気が籠もってるのでは?」
『確かに』
《確かに羨ましくなるね、コレは》
「あら臘月ちゃんもしたいの?」
《そうなると兔子を巻き込む事に》
『え、僕ですか?』
《最初は2人で、以降は別々の方が、お互いに気兼ねなく過ごせるだろう?》
『半分面白がってますよね?』
《勿論、ただ翠鳥が》
『言い出して頂きありがとうございます臘月様』
『翠鳥』
『可愛い筈ですから大丈夫ですよ兔子』
《では後日、今日は譲るよ春蕾》
《ありがとうございます》
春蕾ちゃんが欲しい視線とは少し違う感じだけれど、花霞ちゃんに見て貰えるだけで、嬉しそうなのよねぇ。
ちゃんと先に進めるのかしら、この子。
「ほら似合う」
「本当、似合っちゃってるのよねぇ」
《やっぱり、花霞には特注が1番無難そうね》
『私もそう思います』
「螺鈿の特注って高そう、なら美味しいご飯の方が」
「ダメよ、お式は控えめにするんだから、こうした品は良い物を使って頂戴」
《大丈夫よ、後は私達に任せて》
『さ、行きましょう春さん』
《桂花》
「ちゃんと守るわよ、全く心配性ねぇ」
《それと、嫉妬されたくない》
「まだ私のモノじゃないから大丈夫です、けど、ちょっと待ってて下さいね」
花霞ちゃんと薔薇姫が内緒話を少し、何か、悪戯の相談かしら。
《あら良いわね、そうさせて貰うわ》
「ではでは、宜しくお願い致します」
「悪戯の相談かしら?」
「お揃いに、とお願いしたんです、春さんにもお似合いですから」
「嫌だわぁ、超こなれてるじゃないの」
「いやいや独特過ぎません?頼んだのは両方女物ですよ?」
「にしてもよ、やるわね、私なら超嬉しいもの」
「女物を貰っても、ですか?」
「そもそも、半分は仕事だって事すら理解してくれない人が殆どなのよ。しかも私が正しい道に戻してあげる、とか言うのも寄って来たりで、女物を贈ってくれるってだけで親友に格上げしちゃうわ」
「あー、じゃあ、どっちが良いですか?」
髪飾りか、扇子か。
本当、良く分かってる子ね。
「選び難いわぁ」
「ですよねぇ、扇子ってずっと見てられますしね」
「本当、髪飾りは相手に選ばせるのが1番、扇子は友人に選んで貰うのが1番。通説通りね」
「白檀の扇子もお似合いですけど、偶にはコレも似合うと思いますよ」
「アナタ、ココのお店の子じゃないでしょうに」
「そこですよねぇ、もう少し頑張って稼いでたら、姫様達にも贈れたんですよねぇ」
「アナタの場合、無欲って良い事だと思うわよ、稼ごうとすれば幾らでも出来るでしょうし」
「いやいやいや、妬み嫉み、嫉妬を招かない加減って難しいですからねぇ」
「そうやって何でも我慢してる様に見えるのよねぇ」
「我慢出来る程度なんですよ、殆どの事って、痒いのとかお腹が減るのを我慢するより楽じゃないですか?」
「褒められたい、認められたい、愛されたい欲も無いとか言わないで頂戴よ」
「本音を言うと、ですか。そら凄い愛されてみたいですよ、何の憂いも無しに情愛の楽しさを噛み締めたいですけど、まぁ、コレですから」
眼前に突き付けられている、と言うか、身に沁み過ぎて骨の髄まで分かりきっているのよね。
自分と自分自身の体の事を。
「月経の事だけ、なのかしらね」
「流石です、欲が無いのが心配なんですよねぇ」
「触れたい、とは」
「寧ろコレなので、触れる事に躊躇いが有るんですよね、どちらにも」
「薔薇姫達にも?」
「真実を知って嫌悪されるのではと心配を、そう考えて自分を慣れさせてたんでしょうね。本当に嫌悪される練習のし過ぎで、少し変になってしまってるのかもですね」
暁兄が急に、ポロポロと泣き出し始めてしまった。
「ごめんなさい」
「ぉ、あ、何故泣いてらっしゃいます?」
《誰にも真に愛されないかも知れない、そう思って過ごしていたのか、と》
言葉にならないのか、何度も頷き。
「あ、ご同情頂いても、そんな、大丈夫ですからね?恋い焦がれた事は無いですから」
《暁兄は心根が優しいからね。思いを抑え込んでしまったのでは、と心を痛めているんだよ》
「ごめんなさいね、本当、代弁させてしまって」
《気にしないで、良い言葉は幾らでも口に出したいものだから》
「その、本当に、ご同情心が勿体無いので、どうか他にお使い下さい。私は耳年増で、情愛や恋いに憧れはしますけど、真の苦痛は知りませんから、大丈夫ですから」
《なら余計に気を付けないとね、僕らが教えてしまう事になるかも知れないのだから》
「ダメよ絶対に、知らなくても良い事だって有るのよ」
《そうだね、気を付けるよ》
「はぁ、ごめんなさいね本当」
「いえいえ、お優しいお心遣いに感謝するばかりです、ありがとうございます」
思い遣りを思い遣りで返す。
人が全てそうであれば、争いは格段に減ると言うのに。
《ただ、僕は少し傷付いたよ》
「え、あ、何か言ってしまいましたか?」
《触れたいとは思ってくれてはいないのがね、悲しいと言うか、寂しいと言うか》
「少しは有りますけど、歯止めが利かなくなるのが怖い、が強いですね」
《乗り越えるべき問題はそこだろうね、少し模索して欲しい。どうしたら受け入れられるか、もしもの場合の許せる方法や罰、君の身の振り方を再考して欲しい》
「突拍子も無い案が出ても良いのであれば」
《構わないよ、叶うかどうかも問わない。お願い出来るかな》
「はい、頑張ります」




