46 家具。
好いた相手と一緒に買い物に行く事が如何に大事か、理解した。
《花霞は螺鈿細工が好きなのね》
「コレ嫌いな方って居ます?」
『居ない筈ですよねぇ』
俺を嫌がってもおかしくはない他の子女まで、協力してくれている。
俺の為ではなく、花霞の為に。
「男性はどう思います?」
『例えばですが、武官だとすると嫌いますね、敵の目に触れ易いですから』
そして葉赫那拉・美雨の婚約者、薬羅葛・浩然も協力してくれている。
俺も花霞も恵まれていると思う。
『あぁ、そうしたお考えも有るんですね、成程』
《でも野営地に置くワケでも、戦時中でも無いのよねぇ》
『程良い格式と言うなら妥当かと、ココからココまで』
「成程、コッチ側と区別が付かない」
《アナタ家具にそこまで興味が無かったものね》
『好みを言って頂ければコチラで用意し、ご説明するのが基本ですね』
《まぁ、安いと木が柔らかくて傷付き易いから、硬い黒檀は高いのよ》
『しかも生育が遅いですから、貴重なんですよ』
「成程、傷付くのを前提に考えたい位ですが、ココで買っても運搬に気を付けないといけませんもんね」
『はい、そうなると殆どのお客様は現地調達が多いのですが、偶に分解して品物を持って行く事も有りますね』
《どれを売りたいのかしらね?》
『運ぶ事を考えると、職人を運んだ方が楽でしょうね』
《そこよね、ある程度の材料と人を運んだ方が楽そうだもの》
「それでどうにかなります?」
『成り手次第ですね、居なければ根付かずに国に帰るのが殆どですから』
《まぁ、偶に機会を利用する者も居るでしょうし、取り敢えずは声を掛けてみてくれないかしら?》
『はい、そうしておきますね』
「えっ?」
『僕は準備が有るので行けませんが、目が確かな者を何人か先に向かわせるつもりですので、品物の目利きはお任せ下さい』
《お願いね》
「あら頼もしいわ、ありがとう」
『いえいえ、美雨の為でも有りますから』
何でそこまで葉赫那拉様にぞっこんなのか、ご本人様に聞いたんですけど。
前から知ってて、もしかしたら機会が有るかも、と待ちわびてたんだそうで。
まさかとは思いますけど、火棘や元婚約者を焚き付けてたのは。
とか思っちゃいましたよね、どう見ても腹黒紳士なんですもん。
《彼の事、そこまで歓迎して無さそうね?》
「物語だったら、彼こそ黒幕ですからねぇ」
『まさか、彼が全て仕組んだ、と?』
「完全にお顔とかで判断しちゃってますけど、だったら怖いなぁ、とか、ね?」
《あら、逆に嬉しいわよ?》
「まさかの答えが返って来た」
《そこまで策を弄して私が欲しいとか、最高じゃない》
「えー、流石にちょっと引く」
『あの花霞が引きます?』
「えー?そうした物言いになります?」
『人生最低の贈り物を制覇してそうな花霞が引くって、相当ですよ?』
《しかも女装や貞操帯は平気なんだもの、解せないわね》
「いや害が有るじゃないですか、本当に黒幕だったとしたら、傷付けられた要因の1つになるんですよ?」
《それか元婚約者を殺すか、なら今回の方法の方が妥当じゃない?》
『何か、黒幕説が濃厚になってますけど、何故そう思ったんですか?』
「前から、って、いつからなんだろ、と」
《ふふふ、面白いから花霞の説に乗りましょう、愛を感じるし》
『美雨も美雨で物好きですねぇ』
《そう仮定してお話を進めた方が、彼とも楽しそうなんだもの》
『あぁ、確かにそうかもですね』
「おや味方が減ったぞ?」
『絵姿に一目惚れをされるより、前から知ってて大好きな方が良くないですか?』
「まぁ、はぃ」
《やったわ、私達の勝利ね》
『圧勝してやりましたね』
失礼にも程が有る筈なんですけど、馬車が家に着いて直ぐ、嬉々として男性陣にもお話に行ってしまって。
《流石だね、花霞》
「いやいやいや、冗談になりませんからよして下さいよ、臘月様」
《まぁ、君がそう思いたいなら、そう思っておいた方が良いかも知れないね》
いやいやいや、いや、いやいやいや。
だとしたらクソ怖いんですけど、あの人。
『桂花さんは面白い人ですねぇ』
《そうなの、今回の事で思ったわ、少し物を書かせてみようって》
『僕が本当に策を弄していたらどうするんですか?』
《アナタに似た者を探して、劇を上演させるわね》
『逆恨みされてしまうかも知れませんよ』
《仮に、アナタの策にあの人が乗せられたにしても、それだけ愚かだって事でしょう?なら賢い人の方が良いわ、商談で失敗されたら困るもの》
『情愛は無かったんですか?』
《そうねぇ、どう思う?》
『無かったと言って欲しいですけど、有ったとなったら、もう少し追い落しますかね』
《少しは有ったかも知れないけれど、凄いお手本を見てしまうとね、無かったと言っても良いと思うわ》
『春蕾さん、ですかね』
《そうそう、1年も見守れるだなんて相当よ、なのに近くに居ても手を出さない。まぁ、手を出せないのも有るでしょうけど、あの執着の仕方を見てしまうとね、私の情愛なんて毛程の重さも見い出せないわ。可愛いのよ、手作りのお菓子を食べさせられただけで、すっかり生き返るんですもの》
『ヤキモチを妬かせようとしてますね?』
《あら失礼、他意は無いわ、ふふふふ》
『四家の中で選ぶなら、どなたか良かったんでしょうね』
《暁霧様ね、お金と数字に強い四家の方だし、誰にでもお優しいから。でも敬愛の念だけよ、寧ろ見習うべき同性とも思っていたわね》
『格好だけなのでは?』
《だからよ、私は表面しか知らないし、それで十分だったもの》
『どうにか縁談を組みましょうか』
《ダメよ、もしかすれば花霞の最後のお相手になるかも知れないの、だから優しくてあげてね》
『なら先ずは僕に優しくしてくれないと』
《はい、お菓子で良いかしらね?》
『食べさせてくれるなら』
《指を食べたら怒るわよ、ふふふ》
待っていて本当に良かった。
けれど本当に僕が策略を巡らせていたのだと言ったら、美雨は本当に喜んでくれるんだろうか。
『臘月さ、アレって』
《冗談だと言ったら信じるかい?》
『んー、微妙』
《なら、半分は冗談、にしておこうか》
『殆どマジじゃん』
《なら本当だと言う事にしておくよ》
『調べたら分かるかな』
《そこはどうだろうね。ココまで計略を練ったのなら、バレても良い部分も残しているだろうから、真実に辿り着くには少し難しいかも知れないよ》
『あー』
《それにしても面白い事を考えるよね、どう思い付いたんだろうか》
『どっちが?』
《どちらも》
『花霞は妖精の飴、宦官密偵、で今回の事だからなぁ。寓話や神話を良く知ってるからじゃない?』
《僕も知ってる方だし、それこそ暁兄も、けれど思い至らなかったよ》
『なのに分かるの?本当かどうか』
《薔薇姫が本当でも構わないと言うんだ、なら本当と言う事にした方が良いだろう?》
『どうしたら教えてくれんの?』
《教えても良いけれど、どう確かめるのかな、相当面倒だよ》
『それなー』
《このままなら、春蕾が居なくても、花霞だけでも楽しいかも知れないね》
『お、遂に追い落とす?』
《いや、彼は何をしても離れないだろうね、蛇か亀の様に》
『あ、土蜘蛛族の事は?』
《良い所を少しは書けたのかな》
『はい』
《随分と小手先を使うね、どれが誰のか》
『口が上手いのは一緒、ウブいのは花霞、慣れてそうなのは暁霧』
《あぁ、それで中央は2人が持つ特徴なんだね》
『そうそう』
《扶桑国の血が入っているのは本当だよ》
『だけかぁ』
《コレだけならね》
『扶桑国ってどんなんなの?』
《名の通り、桑の葉も実も豊かな場所、らしいね》
『そんなん俺でも知ってるんだけど』
《寧ろ詳しいのは商隊か、東の藍家の当主か》
『あぁ、なら春蕾か』
《暇なら君も刺繍をしてみたらどうかな、水仙》
『もうバラして良いかな?』
《いや、折角だしこのままにしておこう、また花霞から面白い話が聞けるかも知れないんだし》
『あー、じゃあ何か有ったら臘月のせいにするわ』
《そこは暁兄で、きっと同じ意見だよ》
貰っちゃったんだよなぁ、水仙の刺繍。
女同士なら刺繡で返すんだけど、俺した事無いんだよなぁ。
『飴にしとくか』
《なら僕のも頼むよ》
『へいよ』
明日から天津へ向かって移動すんだけど、月経が終わったら直ぐに動くのな。
大丈夫かね、体。




