45 黄鶯見睆。※
※日付、誕生日修正しました。
春蕾さんのお誕生日が来てしまいました。
《ありがとう》
「いえ、あ、桃か林檎で悩んだんですけど、桃で良かったですかね?」
《あぁ、うん》
小さい刺繍なんですけど、こんなに喜ばれるとは。
って言うか初めて毛で刺繍しましたけど、キューティクルの向きだとか力加減とか、少し大変でした。
後で金絲雀を褒めとこう。
「あの」
《髪を染めるのは、少し寂しい》
「止めはしないんですね」
《苦しんで欲しくない、本当は、諦めた方が良いとは思ってはいる。けど無理だと分かってるから、申し訳無いと思う、ごめん》
前世だったら、全てが好きだと言われて全力で喜んでたでしょうけど。
良い世界や良い親に恩返しをしつつ、平穏無事に生きるの、凄い難しい。
どれか捨てないとダメなんでしょうか、髪色か、平穏か良心か。
常人の立場か、幸せになろうとする事か。
「致す順番って、決まってるんでしたっけ」
《要望が無いなら、俺から》
喜びたいけど、喜べない。
出来無いなら出来無いって、する前に分かれば良いのに。
「あぁ、はい」
『最初に絵姿を見た時は大変でしたよ、ウロウロウロウロと落ち着きませんでしたから』
「水仙さんも見ました?」
『えっ、いえ、姫様の事なので』
「見て貰えば分かると思うんですけど、女性らしいと言うより」
《花霞が気にするなら見ない様にするし、それでも構わない》
「私が嫌なんです、うっかり全てを見て萎えられても困るんですよ」
『そこは婚約式後で、何かご希望は有りますか?』
「希望は無いです、婚礼も何も、して頂くだけで十分なので」
ぶっちゃけプレッシャーにしかならないんですよね。
こんなんして貰っても子が出来なきゃ意味が無い、無駄金だな、金をドブに捨て。
葉赫那拉様の美味しいご飯になるなら良いんですけど、なんなら何も無しが良いんですよね、プレッシャーにしかなりませんから。
《俺は見たい、絵姿を残したい》
「だけじゃダメですかね、貸衣装で絵姿だけ、お金も時間も勿体無いですし」
『出来さえすれば無駄にはならないのでは?』
「今回の月経も軽かったんですよ?人並みの出血量ですけど、結局は妊娠するか別ですし」
排卵してるかどうか、試薬なり顕微鏡でも有れば良いんですけど。
《ごめん》
「酷な事を言いますけど、ちゃんと他も見て下さいね」
『今日は、お祝いの日ですので』
「あぁ、ですよね、すみません」
《他は要らない、どうでも良い、出来るまで花霞としたい》
コレで傾いてくれたら楽なんだけどなぁ。
「し過ぎると飽きるそうですよ?」
《それは互いの技術が足りないからだと聞いたので、ココの房中術も勉強してます》
「あ、ココにも、そうか、成程」
《花霞は知らないで欲しい》
「何故」
そらね。
俺ら童貞だし。
《保つ自信が無いので》
「いや名器でも何でも無い、筈なんですが」
《そうじゃなくて、こう、上手くなられたら困るんです》
「そこが器用貧乏かどうかは」
『凝り性な方、では』
「あー、えへへ」
いや、練習してそうだなコレ。
『まさか練習してませんよね』
「流石に生卵の上に乗って練習まではしてませんよ、割れたら困りますから」
『してるじゃないですか』
「いやいや知識だけですって、乗馬をすると良くなるらしいので、追々遠乗り出来る位は慣れ様かなと」
《そんなに嫌ですか、俺とするの》
「何でそうなります?」
『上達されてしまうと、早く致し終わってしまうかと』
「あ、あぁ」
《嫌なら従います、出来るだけで嬉しいだろうから》
「いや、嫌とかじゃないんですよ本当、出来ないのも飽きられるのも嫌なだけでして」
『知識は構いませんが、お身体最優先、ご自愛頂くのが最優先かと』
《好きな事をしてくれて良い、けど怪我や病気は避けて欲しい》
「あ、はい」
コレ本当に靡くのか心配だわ。
「もう大丈夫なの?」
《はい、峠は越しましたので》
『ですね』
私達の峠は越したのだけれど、花霞の方は。
《向こうは、どうしてお葬式の様な空気なのでしょう》
『春蕾さん、お誕生日が嫌いなんですかね』
席を幾つかに分け、円卓を囲んで頂いているのだけれど。
花霞の卓から声が聞こえる事は無く。
「と言うか、まぁ、行き違い、すれ違いって感じかしらね」
『詳しくお伺いしても?』
まぁ、案の定、よね。
子が出来ないかも知れないからこそ、婚約式も何もかも無駄かも知れない、と。
《用意すればする程、花霞には負担になってしまうのよね》
『ある意味、もしかすれば、身1つで嫁がされるって、却って花霞の為になるのでは?』
《そうかも知れないわね》
「確かに負担は少ないでしょうけれど、別の負担になるだけじゃないかしら?」
《そうでも無いかと、何だかかんだ、嫁入り道具ですらも自分の好きな様には出来無いんですよ。家から持たされる物、相手の家を鑑みて用意される物、それこそお相手の家から用意させられる物も有る。となれば身1つで嫁ぎ、ゆっくり一緒に揃えていくのも、良いのかも知れませんね》
私は今回、全て相手方と両親に委ねたのだけれど。
どちらにも向き不向き、良い面と悪い面が有る。
全てにおいて、もしかすれば、花霞の願い通りにすべきなのかも知れない。
「まぁ、そうかも知れないけれど」
『あ、薬羅葛様ですよ、美雨』
《あら、お呼びして無いのに》
「私がお願いしておいたの、ほら、男同士で話したい事も有るじゃない?」
『ふふふ、お見事な采配ですね、暁霧様』
《もう、余計な事をしないで下さいね》
「はいはい」
お見舞い頂いたお礼もまだなのに。
『気の強さと胸ですね』
この家の侍女である私が居るにも関わらす、彼は明け透けに。
いえ、墨家の臘月様から彼は正直者とは程遠い、と聞いていましたし。
コレは、策略の1つでしょうね。
「正直ねぇ」
『中身はコレから知る事になるとは思いますけど、悪い噂は聞きませんし、弱い女を装われるより可愛いじゃないですか』
「そうそう、お見舞いのお礼の事を気にしてたわね」
『あぁ、それと良いご友人が居る所も気に入ったんですよ、とても良い助言を頂いたので』
「それ、どの子かしらね」
『桂花、とだけ伺いました。もし宜しければ変わりにお礼をお願いします、御簾越しでお顔を見せて頂く事も叶わなかったので』
「あの金色の子ね」
『あぁ、異国の方では、無さそうですね』
「興味が無さそうね」
『抱き心地が最優先ですから』
どうやら、何でも正直に言った方が得だ、と彼は思ったのでしょうか。
だとしても、結局はお嬢様が納得するかどうか、なのですが。
「肥やせば良いのよ」
『何となくですけど、手に余るかと。それに横入りは好みでは無いので』
「良く見てるわね」
『いえいえ、偶々目に付いただけですよ』
「あんまり弄ばないで頂戴ね?」
『勿論ですよ、寧ろ僕は手の上で転がされたい方ですから』
「そう見えないわぁ」
『良く言われます』
腹の底が見えませんが、私達侍女は絶対にお嬢様からは離れませんし。
四家の方とも深く関わったのですから、お守り出来るでしょう。
「あぁ、そうだわ、今日の主役にご挨拶へ行きましょうか」
『はい』
今は祝われても嬉しく無い。
けれど無愛想にするワケにもいかず。
「コチラ、薔薇姫様の」
『薬羅葛と申します、お祝い申し上げます』
《ありがとうございます》
『痴話喧嘩ですか?』
「実はそうなのよ」
「あ、いえ、違います違います」
「結納品の事で少し、もうお選びになってらっしゃるのよね?」
『はい、美雨のご両親とご相談させて頂いてる最中です』
「もう?」
『はい、早く夫婦になりたいので。本当は身1つでも構わないんですけど、これだけ大事なのだ、と分かって頂く為には必要な事ですから』
「美雨は幸せ者ですね」
『ご準備が難しいのですか?』
「あ、いえ、私の場合は事情が少し有りまして。ご準備して頂くのに気が引けてしまってるのですよ」
『あぁ、でしたら後から揃えても良いと思いますよ、僕も一緒に選びたいとも思っていましたから。何を省くか相談させて頂いてるんですよ』
「そこの兼ね合いが難しそうですね」
『となると、ご用意して頂くのが嫌なんですね』
「嫌と言うか、家の格式が違い過ぎて死にそう、みたいな」
『成程。ですけどそうは見えませんよ、礼儀作法もしっかりしてらっしゃいますし、良い助言も頂きましたし』
「アレはどの子女に対しても有効な事ですし、お産の時にも役に立つ事ですから」
『成程。ウチは家具が主なので、もし宜しければ見に来て下さい、古物でも良く売れる柄をお教えしますよ』
「成程、ありがとうございます」
『いえいえ、では』
《花霞》
「一緒に揃える案はダメですかね?」
《君がちゃんと気に入ってくれる物なら》
「じゃあ、宮の品をお借りする、と言う事にします。その方が気楽ですし、気楽な方がお子も良く出来るそうですから」
そう言われてしまうと。
《分かった》
「ありがとうございます」
贈り物すらも負担になってしまう。
俺が四家だから。
しかも例え四家から抜けたとしても、四家であった事が覆るワケも無く。
一生、花霞にとって重石となってしまう。
幾ら俺が気にしなくとも、周りが気にせずとも、花霞が気にしてしまう。
《四家に産まれなければ良かった》
『泣くな泣くな、と言うか産まれた日に何て事を言ってんの、親不幸者』
《何も無しに花霞に愛して貰えない》
『婚礼品だ何だと準備出来無い程度で泣くなよ、他で示せば良いじゃんか』
《なにで》
『あー、んー、何だろうね?』
「一緒に買い揃えれば良いでしょうよ、但し相手に委ね過ぎず、押し付け過ぎず。だけど、こうなると凄い難しいわよね、寧ろ勝手に選んだ方が確かに楽だわ」
《それもそれで嫌だ、花霞の気に入る物だけ揃えたい》
「なら落ち込む必要は無いじゃない、花霞ちゃんに任せたら良いのよ、宮の品物も何もかも」
『あぁ、それで良いじゃん。好きに揃えさせて、買い取りは適当なのに口裏合わせて貰って、売れば良いって事にさせる。で、一緒に選べば良いじゃん、アレ自分だけで選ばないだろうし』
「そうね、必ず四家の意見は聞く筈だし。ね?落ち込む必要は無いわよ、少しやり方が違うだけ」
『成程ね、だから四家とは違う稼ぎ口をって、ちゃんと逃げ道作ってくれてるじゃん』
「まぁ、本来は違う意図でしょうけれど、そう思っても良いんじゃない?」
《宮の為に、後妻の為に買い揃えそうなんだが》
『そこは売却口を上手く利用すんだよ、売れるから気にすんな、って』
「薔薇姫様達にも根回しすれば、上手く行く筈よ」
花霞ちゃんの為にも、薔薇姫の為にもなるんだもの。
コレは計略を巡らす以外の手は無いわよね。
「あの、少し宜しいでしょうか」
あら、花霞ちゃんの声だわね。
「はいはいはい、はい、どうかしたのかしら?」
「凄い落ち込んだままでしたので、ご機嫌を取るのに、お菓子を作りまして」
「春蕾ちゃん、花霞ちゃんがお菓子を作って来てくれたわよ」
「あ、そんな大層なものでは無いですからね、材料を頂いて適当に作っただけですから」
のそのそと。
情けないわねぇ。
《ありがとう》
「あの、別に、春蕾さんが嫌だからでは無いんですからね?」
《俺が四家生まれなのが悪い》
「いや、悪いと言うか、それを言うなら私の半陰陽が原因なので、すみません。兎に角、春蕾さんは悪くないですからね」
『コイツ、さっきまで泣いてたんだよね、だから顔をあげらんないの』
「そんなに揃えたかったですか?婚礼品」
《贈り物を喜ばれたかった》
『けどまぁ、家の金だもんね。花霞にしてみたら、四家から貰った小遣いの無駄に思えるんでしょ?』
「まぁ、近いですね」
「けど宮の品物選びはお願いするわよ?四家全体のお金で、すっかり痛んでて殆ど何も無いそうだから、折角だから明日にも伺いましょう?」
「あ、それは、はい」
コレで、春蕾ちゃんが立ち直ってくれたら良いのだけれど。
『春蕾、貰ったんだから食って褒める位はしろよ』
《食べずに取っておきたい》
「ご好意は理解してはおりますし、また作りますから食べて下さい、じゃないと今後は何も受け取りませんよ?」
「あ、食べさせて欲しいんでしょう、我儘な子ねぇ」
「良い考えですね、はい、あー」
あら真っ赤。
ウブだわねぇ。
「指まで食べたら流石に殴るわよ」
『止まるな、良い考えだなとか思うな』
「アホですねぇ、どんだけ好きなんですか」
《凄く》
あら偉い、流石に先を言うのは止めたのね。
『はいはいはい、元気になったな、受け取れ下がれ』
《ありがとう》
「いえ、では」
花霞ちゃんも真っ赤になって帰って行って。
甘酸っぱいわぁ。
「頂くわね」
《あっ》
『俺も』
《なんで》
「アンタの補佐代よ、ねぇ?」
『そうそう、凄く食べたい、って言うか冷や冷やした代もね。美味いじゃん、良い塩梅』
「本当、良い塩梅ねぇ」




