44 月経。
誘引物質が出てるらしい。
とは前世での知識なんですが。
「ココまで日付が被りますかねぇ」
私に月の物が来て寝込んだ翌々日に、薔薇姫様と小鈴が。
《もう、一心同体ね》
『私、今回は軽いんですよねぇ』
「お相手が出来たからですかねぇ」
《私も一応は見繕ったのだけれど?》
『安定かと言えば、不安定かと?』
「そうなんですか?」
《いえ、多分、来てる筈よ、今日にも》
『えっ、見に行きますが?』
《良いわよ、好きにして》
「蕭さん、お願いします」
『はい』
『直ぐに戻りますからね、楽しみにしてて下さいね』
ストレスで月経過多だ不全だ、と。
時に繊細なんですよね、体って。
「ぉお、ある意味で絵姿と同じだ」
『優しそうなんだか怖そうなんだか分かりませんね?』
鋭いですね、私もそう思います。
と言うか、薔薇姫様より強そう、上手そう。
「何か、ウチの姫が弄ばれそうで不安」
『ですよね』
「でも、臘月様も同行したんですよねぇ」
『何も言わなかったって事ですよね』
「先に真意を問いただしてみましょうか」
『ですね』
ただ、素直に答えて頂けるかどうか。
個人の事ですから。
《アレは情欲に弱いから問題無いよ、寧ろ乗り気なのは向こうの方だからね》
「胸、ですか」
『大丈夫ですよ、山羊乳を飲みまくりましょう、まだ私達は若いんですから』
「そこそこのお胸に言われてもなぁ」
『もー、拗ねないで下さいよ、お相手が2人も居るんですから』
「申し訳ないですが、普通が良い、羨ましい」
本人を目の前にして、凄く酷い事を言ってるのは百も承知です。
けど、本当に願っていたんです、私は平穏で平凡な人生が良かった。
この外見でも、半陰陽でも、転生者でも。
《君の願いに沿える様に、鋭意努力させて貰う、だからもう少しだけ期待をして欲しい》
「すみません」
《毛色は勿論だけれど、心根が良いからこそ惹かれた、好いているし大事にしたいと思っている》
「私が半陰陽だからですよね、私に子が出来てアナタに出来ないなら、今度はアナタに嫌な思いをさせてしまう」
《その時は僕の情を汲んで、傍に居させて欲しい》
私なら浮かれてしまう状況なのに。
花霞は先の先の先を考えて、自分を良く理解しているからこそ、素直に喜べない。
喜びたくても、喜べない。
「お心が強過ぎでは?」
《強がりかも知れない、その時になって離れると言うかも知れないけれど、今はそう思っているよ》
「そこまでは見通せませんか」
《自分の事となると易者は皆そう、それに僕らの事も、姉上ですらも見通せない。だからでは無いけれどね、君の良さは僕にとって得難い心地良さなんだよ》
「小鈴も良い子ですよ?」
《君はこの毛色で、ココまで真っ直ぐに育つ自信はあるかな》
『私、今は14才頃まで考えてはみたんですけれど。この家しか知らないので、きっと、四家巡りには行って無いと思います。そして適当な方と逢瀬を繰り返して、諦めて、子種の無い方と縁組みをして仕事ばかりすると思います。花霞の様には、頑張らないと思います』
「そんな頑張ってる気は無いんですが」
『湯薬、美味しくないのに頑張って毎日飲んでますし、半陰陽としての弱音は一切言わない。私、多分、もっと、嫌味の一つも言ってしまうと思います。そう嫌な者にならない様に人を避けて、もっと親や兄弟に守って貰って、もっと世間知らずだったかもと思ってます』
「意外と親って柔軟なんですよ、多分、小鈴の親も」
『私の両親は凄い過保護なんです、お見合いも何も嫌だと言えば2度と言いませんし、本当にやりたい様にさせてくれて』
《君が賢い子だと理解しているからだろうね、そう悲観しなくても花霞は意外と苦労はしていない方だよ》
「まぁ、はい、私も結構甘やかされてはいる方ですよ。店を持たせて貰ったのも私から言い出した事ですし、初めての店番だって結局は誰か傍に居ましたし、本当に困ったらどうにかしてくれるだろうとは思ってはいますから」
《ただ、良いご家族だからこそ、迷惑を掛けたく無いんだよね》
「ですねぇ。何が違うんですかね、私と小鈴」
《僕の慧眼を恐れない所じゃないかな》
『すみません、怖いとは思いませんが、どうしても不安にはなってしまいます。何処まで見透かされてしまっているのか、と』
「私も不安は不安ですよ?」
《量だろうね、度胸が違うとも言える。けれど薔薇姫の度胸の良さに惹かれる事は無いよ、彼女は持っていて然るべきだと思うし、そう育てられたに過ぎないだろうからね》
「先手を打ちまくりますねぇ」
《必死だからね、兔子も、四家が負担になると改めて理解して不安がっているよ。話に行ってあげたらどうかな》
私の嫉妬心を見抜かれてのお気遣いなのでしょう。
恥ずかしい、目の前の方は臘月様なのに。
「あ、ごめん小鈴」
『いえ、慣れないといけませんね、もう少し』
《すまないね、もう少しだけ付き合わせてしまうけれど、決して君達の邪魔はしないと誓うよ》
『すみません、ありがとうございます』
私は、こんなにも幼稚で恥ずかしい。
多分、こうして人が離れてしまうのでしょう。
それこそ恥ずべき行為なのに。
『三叔、どうやって翠鳥を虐めたんですか?』
「それは私のせいかと、ぶっちゃけ兔子様の事を忘れておりました」
《離れて過ごすのが不慣れでね、すまない》
『いえ、私の方こそ不慣れで、すみません』
ココまで予見なさってたでしょう、三叔。
《僕もそれなりに必死なんだ、本当に。だから予見しきれなかったのは本当だよ》
『では早く慣れて下さいね、僕も僕で必死なんですから』
「ですねぇ、では、失礼致しますぅ」
『あ、花霞、ごめんなさい、いつもウジウジしてしまって』
「優しくて真面目だからですよねぇ、けど私の事は適当に考えても大丈夫ですよ、意外と何とかなる世ですから」
多分、こう言う人だからこそ、三叔は惹かれたのだろうと思う。
髪の色と同じ様に、明るくて眩しい事を笑顔で言える方。
陽の気が強い方だからこそ、共に居る相手を選んでしまう。
影が濃くなってしまう。
『僕は殆ど易は分かりませんけど、今ので納得しました。大丈夫ですよ、翠鳥が考えるより、思い悩む方では無さそうですから』
「それはそうです、皆さん苦労してるのではと心配して頂けるんですけど、殆ど苦労してませんし。そう苦労とも思わぬ性分なんですよねぇ、流石、臘月様と一緒に居るお方ですね」
《僕の教育も褒めてくれないかな?》
「はいはい、凄い凄いですね」
『こう見ると違うのに、すみません、重ねてしまいました』
《いや、以降はもう少し慎重に行動するよ、すまないね小兔、翠鳥》
『いえ、以降は気を付けて下さるなら結構です、ね?』
『はい、すみません、ありがとうございます』
「はい、じゃあ私は部屋に戻りますので、青燕さん、宜しくお願いします」
『はい』
《僕も失礼するよ、じゃあね》
『はい』
『はぁ、すみません』
三叔と僕を重ね、嫉妬してくれた事は嬉しいのだけど。
『中央に行ったら離れよう、三叔も相当の人だから』
『それは嫌です、失礼だから嫌です。私は私の弱さが嫌なんです、だからこそ花霞は大丈夫だと思えるまで私は離れません、貫き通させて下さい』
『有る筈も無い暗い部分が見えてしまう、そう思い悩む事が増えるかも知れないよ?』
『それはいつか出て来る部分だと思います、後か先かなら私は先が良いです。それに、このままでは臘月様に失礼です、アナタの叔父様なんですから、しっかり向き合わせて下さい』
『僕は、程々に真面目な翠鳥でも十分に好きなんだけれど』
『他は適当にしますから安心して下さい、この縁を大事にしたいんです、応援して下さい』
『落ち込んでも直ぐに跳ね上がる所が翠鳥の字と同じだね、凄く素敵な部分だと思う』
『性質なんでしょうかね、思い悩むと底まで落ちてしまって、どうにも止められず、ご迷惑をお掛けしました』
『嫉妬してくれた事は凄く嬉しいですよ』
『でもです、慣れないと花霞に会い難くなっちゃいますし』
『次は目の前で嫉妬して欲しいな』
『煽らないで下さいね?』
『僕は幼いから、無理かも知れない』
『はいはい、ご年齢以外はそうは思えませんから大丈夫ですよ』
『早く年を取りたい』
『そうなると私も早く年を取ってしまうんですよねぇ』
『悩ましい所だね』
『ですねぇ』
痛みで寝込むしか無いだなんて、本当に時間の無駄だわ。
《はぁ、何かに集中出来れば楽なのに》
「頭痛が無いなら、御簾越しにでも何か語って頂いては?」
《嫌よ、まだ面倒だと思われたくないわ》
「辛い時こそ、甘えた方が可愛げが有ると思いますけどねぇ」
『ですね』
《もう、胡湖まで》
『弱さが大好物な者にしてみたらご褒美かと』
「ほれぇ」
《分かったわよ、お願いしてみて》
『はい』
「薔薇姫様、好意を寄せられたからって靡いたらダメですからね?」
《もう、今になって言い返すなんて酷いわ》
「そこなんですよねぇ、聖人君主じゃないんですよ、下心満載で打算的なのに小鈴は心配するし臘月様は私に好意的だし。どうしたら良かったんですかね」
《小鈴は慣れてないだけよ、揉め事に慣れたら大丈夫》
「そこですかね、私は慣れ過ぎ?」
《勝手に厄介が舞い込んで来るんだもの、そう、麒麟児ってそう言う事なのかしらね?》
「と言いますと?」
《ある意味で試金石と言うか》
『失礼します、お呼び致しましたが』
「あ、ちょっと待って下さいねぇ」
思ったより早く来て頂けたのは良いけれど。
《胡湖、お茶を》
『お任せ下さい、コレでも慣れてますから』
御簾にお香にお茶に。
ダメね本当、痛いと何も考えられない。
「はい、お待たせしました」
『どうぞ』
『失礼致します、お加減はどうですか』
痛みの波が酷い時に限って。
「最悪ですよねぇ、臓物がもげそうな位に痛いんですから」
『私の語りでどうにかなるものですかね』
「そこを頑張ってみて下さい」
《麒麟児の、事を、お願い》
「あ、麒麟児について何かご存知ならお聞かせ願えますかね?」
『先ずは本来の伝承から……』
本来は凄く低いお声なんでしょうけれど、聞き手の為に少し高く、それでいてゆっくり過ぎず。
ぁあ、本当に花霞は人を見抜く術を良く知ってるわね。
《良いわね、好きな声だわ》
気絶したのかと思いましたけど、まぁ、それはそれで良いかなと。
夜中に痛みで目覚めてましたし。
「あの、薔薇姫様は眠ってしまったので、少し宜しいですかね」
『はい、何か』
「お声が気に入ったそうです、小声で仰って、それから眠ってしまいました」
『成程、ありがとうございます』
「それと、余計な助言だとは思いますが、腰をさする練習をお身内の方でした方が宜しいかと。下手だと誰もが苛立ちますから、ご親戚にご助言されたとでも仰って頂ければ良いかと」
『ありがとうございます』
「あ、眠りが浅そうなので、もう少しお付き合い頂けますかね?」
『はい、喜んで』
お話のチョイスが素晴らしいですね。
仙界や仙女のお話、良い夢が見れそうなお話ばかり。
私も、して頂けるんでしょうか。
ずっと、どんな時も、死ぬまで。
いつか奪うなら、与えないで欲しいんですよね。
美味しい物も情愛も、知らなければ知らないで生きていけるんですから。
程々で、適当に、適度に。
死なない程度で良いのに。
「ありがとうございました、もう大丈夫そうです」
『ご友人が付き添ってらっしゃるとは聞いているのですが、お名前をお伺いしても宜しいでしょうか』
「字で、桂花で通じるかと」
『ありがとうございました、失礼致します』
私の毛色、容姿がココの国の方にも刺激が強いのは理解している。
だからこそ、私も御簾越しなのに薄絹を被った。
万が一にも私に目移りされてしまったら、本当に申し訳が立たない。
もう、本当に、髪を染めるべきかも知れない。
《んんー》
「仙界の桃は黄金色だそうですよ、食べるのが楽しみですねぇ」
林檎でも良いですけど、桃も良いかも知れませんね、刺繍。
それかもう、丸刈りにしてカツラを被るとか。
いや、絶対に夏場は嫌になっちゃいますよね。
やっぱり、染めるしか無いですかね。
『どうですかー?』
「小鈴、姫は寝てますよ」
『あー、夜中に唸ってましたからね』
「痛み止めって使えませんかね」
『針は効かなかったって言ってましたし、やっぱり、薬ですかね』
「薬?」
『芥子です、麻酔薬にも使われますから』
「あぁ、それ以外で無いですかね」
『柳の皮が有るんですけど、胃腸に良くないので、そこを考えると合わせて使えば安全だとは言われてるんですが』
「妊娠、子に影響するかもですよね」
『はい、夜泣きの酷い子が産まれるとか、良い事はあまり聞きませんね』
とても危ないですけど、今ココではそれしか手段が無いんですよね。
ほんの数日、数時間でも、毎月の事。
心も体も消耗してしまう。
けど、でも。
《花霞》
「はいはいはい、腰ですかね」
《お願い》
『私も居ますよ、何を話しましょうか』
《楽しい事》
「さっきは仙界や仙女様のお話をして頂いたんですよね」
『羽衣って蓮の茎で出来てるそうなんですよ、蓮花塢の畔で……』
何で髪の事を俺に相談すんの、花霞。
『何で俺?』
「何でも真っ直ぐに言って下さるかなーと」
『まぁ、勿体無いとは思うわな』
「でも友人の婚約者にどうにか思われてしまうのは不本意なんですよね」
真面目に悩んでるけど。
『なら諦めて貰えば良いじゃん』
「折角のご縁ですよ?」
『クソと繋がってても意味無いんじゃない?』
「だとしても、この毛色に揺らがない方ってそう居ないんですよ?」
『あぁ、だから友達が少ないのか』
「はぃー」
『それは、桂花が悪いワケじゃないんだし、別に良くない?』
「でも出来る事が有るのに、ある意味で私の我儘で」
『親兄弟だって悲しむんじゃないの?』
「顔を焼けば」
『なら髪を染めた方がマシでしょうが』
「両方」
『友達が居ないと死ぬの?』
「いえ、善人ぶりたいワケでも無いんですけど。少しは常人に」
『臘月の能力が消えても問題は残るんじゃないの?』
「あー」
『今は誰も望んで無いんだし、諦めてそのままの方が楽なんじゃない?変えても周りが変わらなかったら同じなんだし、それこそ元に戻そうとするヤツが現れるかもだし』
「あぁ、すみません、どうやら取り乱してました」
『俺らも付き添うから、何か有ったらボロクソに言ってやるから会えば良いじゃん、それで俺のせいにすれば良いんだし』
「お優しいのに面倒臭がりですよね?」
『そっちもな』
「そうなんですよねぇ、少し怠惰な普通の女の子なんですけどねぇ」
『だからじゃね?その毛色で常人ぶるから変に見える』
「あばばばば」
『そっちじゃない、そうじゃない』
「暗さも有るには有るんですけどね、出す意味ですよ、意味無いじゃないですか?」
『下手すれば漬け込まれるだろうしなぁ』
「どうにか目を覚まして貰う方法って無いですかね?」
『見誤ってそうに見えないから無理だな』
「その冷静さを爪の先に込めて煎じて飲ませてみてはどうでしょうか」
『効いたら寂しくなんないの?』
「そこはもう、全力で暁霧さんにおっ被せます」
『好意が無いから』
「ですねぇ、尊敬の念は有りますけど、抱くだ抱かれるだは考えてもいませんから」
『ふふふ、四家より四家らしい考え方ですね』
「青燕さんはもう少し市井を見回った方が良いですよ、ウチの地区でじっくり観察した方が良いです、コレは常識です」
『だとしてもさぁ、志が高く見えんだよね、毛色も相まってさ』
「やっぱり染め」
『絶対に春蕾に泣かれるからヤメテ』
「泣きますかね?」
『全部が良いって言ってんだし、絶対に泣くね』
「記憶を消す何かって無いですかね?」
『最悪はな、その方が良いのかもな』
「そこは反対しないんですね」
『大変な事になるだろうなとは思うし、それで死に掛けたの居るし』
「アレ、やっぱり本当の事なんですね」
『そこは半信半疑かよ』
「統治の為に、若干盛ったのかな、と」
『まんまみたいよ、で乳粥で元気になったらしい』
「まるで神話ですね」
『妖精だ神様だ宦官密偵だとか信じるのに、上手くいくとは思わないんだ』
「信じてるからこそです、神様や仙人様から加護を得られる程の何かをしてませんから、上手くいくとか無いですね」
『もっとそうやって暗い所も見せたら?』
「ウザくないですか?」
『ウザがられた方が良いんじゃないの?』
「不本意ですね、もう既に少し揺らいでますから」
『マジでチョロいじゃん』
「はい」
全部分かってて、分かってるから悩んでんだけど。
変に思い切りが良いから家族は心配になるんだろうな、コレ。
『其々に子を成せば忙しくなるんだし、今だけの良い思い出にして、忘れちゃえば?』
「お友達居ないですか?」
『多くは無いけどそれなりには居る、けど必要な繋がりって、実は凄く少なくね?』
「私にしてみたら全て失う様なものなんですよ、ちゃんと好いてくれる人も、体の事を知る友人も。だから嫌だったんですけどね、上手くいかない」
『四家の者に好かれなきゃ、適当に生きられたのに』
「ぶっちゃけ、そう思います」
『最悪は髪を染めて白家かウチで良いんじゃないの、物好きが来るのも四家だし』
「あ、まだ誤解を解いて無くてすみません」
『別にもうそのままで良いよ、あの程度の誤解じゃ死なないし、それが上手く使えるかもだし』
「ありがとうございます。ついでにこう小狡い所も伝えておいてくれませんかね?」
『どう言っても好意に繋がりそうだから、機会が有ればね』
「ありがとうございます、お手数お掛けします」
『お送りしますね』
「はい」
まぁ、春蕾達が隣で聞いてるから、手間も何も無いんだけどねぇ。




