42 刺繍。※
※誕生日、日付修正しました。
「おはようございまーす、はい、昨夜の絵姿で思い出せる方は?」
花霞って本当に、巧妙よね。
《そうね、薬羅葛氏、かしら》
「思いっ切り暁霧様に影響されてません?」
『他は無骨な絵姿ばかりでしたけど、珍しく美しく描かれた絵姿でしたからね』
《もしかしたら縁談を断る為か、注目されたいか、どちらにしても興味を引かれたのは彼ね》
「興味を抱いて頂けただけでも僥倖です、朝食は何でしょうね?」
《見に行きましょうか》
「はいー」
大概は羊の骨付き煮込み、なのだけれど。
《あぁ、やっぱりコルダクね》
「コルダク?」
《羊の骨付き煮込みと、薄餅よ、浸して食べるの》
「絶対に美味しいじゃないですか」
『美味しいですよぉ、水分多めの薄餅ですよね?』
《そうそう》
「モチモチそう」
『モチモチですよぉ』
花霞が頑張るのだから。
だからと言うワケでは無いけれど。
私は言い訳が欲しかったのよね、前を向いて進む理由。
だって、愚痴愚痴と止まってるのって楽と言えば楽だもの。
《さ、チャイを飲みましょうか》
「大好きなんですよチャイ、いやー、贅沢ですねぇ」
『偶に飲める程度には稼ぎましょうよ?』
「ですねぇ、贅沢を知ってしまいましたからねぇ」
《安くても良く煮出せば、そう、乳が手に入り難いものね》
「ですねぇ、殆ど加工品ですから」
《山羊を買いなさいよ、アレって結構楽よ》
『あぁ、ですね』
「確かに、成程」
この子はずっと、最悪は1人で生きる、と考えてたのよね。
私の想像以上に厳しく考えていて、なのに諦めず、着々と準備をしていたのよね。
『どうしたら、花霞の様に強くなれるんでしょう?』
歓談後、色々と考えてはみたのですけど。
今まで花霞の様な目に遭う事も無かったですし、コレからも無いでしょうし。
《金髪のカツラを被ってみたら?》
『えー、美雨には悪いですけど、死人の毛なのでは?』
《あら、だとしても、毛皮と同じじゃない?》
『まぁ、そうですけど』
《冗談よ、一応は生きた人間の毛を合意の元で売買している、と契約している場所から買い取っている所の品よ》
『でも、本当かどうかは、信用問題なんですよねぇ』
《私達の長さ程では無いのなら、まだマシだと思うわよ、付け毛が流行ってるそうだから》
『疫病対策ですか?』
《それが違うのよ、お産となると髪を洗うのも大変でしょう?抜け毛もだし、それでよ、切って置いて付け毛にするんですって》
『良いですねそれ』
《でも夫が許さない場合が多いらしいのよ》
『あー、けど邪魔ですよ?寝る時とか』
《そこよねぇ、お互いに便利だと思うのだけど》
「ただいまー、スッキリしたわぁ」
《ねぇ、付け毛が流行ってると知ってるかしら?》
「あー、中央でも増えてますね、知り合いの知り合いが店を出してましたよ」
『男性は反対してないんですか?』
「なら洗え、心地良く、って黙らされてましたよ。慣れてないと毛も皮膚も痛みますし、不快なだけですからねぇ」
《あらあら?》
「金絲雀ですよ、練習台になってたんですけど。アレ、私の毛を採取して売ってたんですよねぇ」
《それで良く幼馴染で居れるわね》
「若い頃ですし、問題が起きた時はしっかり謝ってくれましたから」
『跟踪狂問題ですか?』
「惜しい」
《待って、彼らとも当てっこしましょう》
『良いですか?』
「良いですよぅ、コレ難問の筈ですから」
《じゃ、準備しましょう》
『はい』
そして男性陣と合流し、耳打ちで3回まで答える権利を与えられたんですけど。
私も美雨も当てられず。
だったのですが。
「凄いですね春蕾さん、正解です」
『いやもう絶対に変態案件じゃん』
《いや、多分、暁霧さんなら》
「私?」
「あぁ、ですねぇ」
「コレで分かるのって、何かちょっと、不服だわね」
『あ、分かったかも』
「じゃあもう、皆さんの前で言ってみましょうか」
『それ何か、逆に嫌なんだけど』
「まぁまぁ、外れるかもですから」
『毛を使って刺繍して、花霞に貰った、ってヤツが出た』
「はい正解」
『嬉しくねぇ』
ドン引きしてしまいましたけど。
良く考えたら有り得なくも無いんですよね、例の恋文事件も有ったワケですし。
「欲しいですか?」
あ、俯いてしまいましたけど。
《欲しぃ》
『出た変態』
《アナタ、それでよく金絲雀と》
「いや、成程なと思ったから金絲雀を許したんですよ、髪の毛は時に御守りにもなりますから」
「まぁ、そうだけれど、呪具と言えば呪具よ?」
「込める願いの差なのでは?」
「まぁ、そうだけれど、アンタ本当に欲しいの?」
《欲しい》
『ほら変態だぁ』
『そうですかね?』
『兔子?欲しいですか?』
『だって結婚するまでは髪に触るのって、はしたないんですよ?遠慮無しに触れるってなったら嬉しいに決まってますよね?』
《うん、はい》
『仲間が増えて良かったな春蕾』
『あの、本当に欲しいですか?』
『無理だったり嫌なら要りませんけど、普通の刺繍より僕は嬉しいですよ、ね?』
《一生大事にする》
「何がそこまで好きですかね?」
《存在》
こうお答え頂いた時点で、私はもう、花霞を委ねても良いのかなと思ってしまったんですが。
「軽い内容ですと?」
《見ていて飽きない、髪も目も、表情も仕草も》
花霞が真っ赤に。
「忘れてましたけど、私の絵姿を見ちゃってるんですよねぇ」
あ、違った。
《確かに、私も忘れてたわ》
『そっちで赤面ですかぁ』
「コレだと、まだまだ道のりは長そうねぇ」
『ですねぇ』
毛を使って刺繍を、と思ったんですけど。
図案で詰みました、花とか刺繍しちゃうとシモいじゃないですか。
どうしましょうねぇ。
《図案で悩んでるのか、やっと冷静になったのかしら?》
「冷静は冷静なので図案ですねぇ」
『お花はダメってこ、あぁ、はぃ』
「まぁ、そう言う事です」
《開き直って花で良いじゃない、絵姿に下を詳しく描いて無いのだし》
『刺激が強過ぎません?』
《コレからもっと刺激が強い事をするんだもの、慣れて頂く方が良いんじゃない?》
「まぁ、ですよねぇ」
『そうなると、やっぱり桂花ですかね?』
《それか、四君子としては蘭よね》
「蓮、と思ったんですけど、相談するのって色気が無いですかね?」
『まだまだ知らない事は有るので、私なら相談したいですけど、どうなんでしょう?』
《小剌月様と春蕾様だけお呼びしましょうか》
「ですねぇ」
『あ、ありがとう、ございます?』
向こうにも思惑が有り。
小鈴と小剌月、青燕さんがお買い物へ。
コチラは薔薇姫様とこの家の侍女蕭・胡湖さん、私。
男性陣からは春蕾さん、臘月様と水仙さん。
「すみませんどうも、今回は予定通り、そろそろ月の物が来そうでして」
《このままだと次は私達なのよねぇ》
「ですねぇ、あ、で刺繍の花の事を、と思いまして」
《私は臘月様にご相談を、と思いまして、コチラの方に興味が引かれましたの》
《成程。僕はどんな花でも好きだよ、けれどウチには梅は多いから、それ以外だと嬉しいね》
《確かに、ウチは蘭が多いので》
「あ、じゃあ、嫌いなのは無いですよね?」
《何か良い案を思い付いたのね?》
「はい」
《僕らに嫌いな花は無いよ》
《ですね》
ハレムなら当たり前なんでしょうけれど。
やっぱり不思議ですよね、私を好きだと言う2人の仲が良いの。
《で、どんな図案を思い付いたのかしら?》
「あのですねぇ」
異国の神話に出てくる、黄金の林檎ですね。
《成程ね、お2人はお楽しみにしてて下さいね》
「あ、すみません、用事は以上です」
《ふふふ、じゃあ僕は君に同行しようか、会いに行くつもりなんだろう》
《お時間に空きが御座いましたら、是非、既に先触れは出しております》
「お願いしますね」
実に卑怯ですよね、審美眼持ちの臘月様を利用するわ、私からのお願いをどう扱うかまで見るわ。
流石です、葉赫那拉様。
《良いよ、次は僕にも刺繍を頼むね》
「あ、取り敢えず何かお持ちします?」
《そこよそこ、色気が無いわねぇ》
『ですね』
水仙さんにも言われてしまった。
けど違うんですよぉ。
「一応、臘月様にと考えての物ですからね?」
《そう、では見せて貰うね》
《では、私は準備して参りますので、ごゆっくり》
葉赫那拉様に気を利かせて頂いちゃいました。
だって全然喋らないんですよ、お2人とも。
昨夜もですし。
《君の意見には賛成だよ、それに春蕾があまりに僕にばかり喋らせるからね、等分にしただけだよ》
「成程」
《刺繍が早くて上手なのは、包袱屋だからかな》
「いえいえ、四家巡りのお陰です。出来る事は限られますから」
知識チートはそれなりに有るので、一時は実態に合わせる為に本を読みまくってたんですけど。
今はそこまで必要無くなりましたから、ぶっちゃけ暇なんです。
もう、コレ、臘月様にはバラした方が楽ですかね。
《流石に僕でも何を悩んでいるのか、全てを見通すのは無理だよ》
「大柄と小柄、どっちが好きですか?」
《小柄だね》
《俺は大柄です》
「そこは違うんですね、成程」
《春蕾は何枚貰ったのかな?》
《1枚》
《なら僕は2枚》
「あ、春蕾さんのはコチラです、どうぞ」
《この並び順は、そのまま刺繍を終えた順なんだろうか》
「ですね」
あ、今度は1番手前。蘭なんですけど。
《柄で選んであげても良いんじゃないかな?》
《蘭が嫌いとは言ってませんし》
砕けた物言い。
もしかして。
「お幾つかお伺いし忘れていたんですが」
《黄鶯見睆、2月の11で19です》
「ちょ、お、もうそろそろじゃないですか」
《はい》
《なら3枚貰っておくよ》
「あ、やっぱり何かご希望を言って貰えませんか?」
何でココで赤く。
あぁ、私、ですか。
《見抜かれているよ春蕾》
《すみません》
「いえ、ですよね、19ともなれば良い年で。何でご結婚なさらなかったんですか?」
《良いと思えたのは花霞だけだから》
きますねぇ。
グッときました、もう全然抱かれても良いとか思ってますけど、段取りって大切ですからねぇ。
「ありがとうございます」
顔に出さない様に頑張りましたけど、多分、見抜かれてるんでしょうねぇ。
《ふふふ、そろそろ僕らも行こうか水仙》
『はい』
「あ、水仙さんにも刺繡したんですよ、いつもお世話になっております」
『ぁあ、あぁ、どうも、ありがとうございます』
「あ、嫌なら適当な布当てにしちゃって下さい、使い捨ててなんぼの物ですから」
《少し驚いてしまっただけだよね、水仙》
『はい、ありがとうございます』
ハンカチの枚数が少なくなったので、欲張り刺繡にしちゃったんですよね。
縁取りは緑、四隅に様々な種類の水仙を刺繡しちゃったんです。
《春蕾はココでゆっくりしてると良いよ、じゃあね》
「ありがとうございます、薔薇姫様を宜しくお願い致します」
《お気を付けて、臘月様》
私も同行したかったんですけど、この毛色を利用するのはもう少し先だ、とか言われてお預け状態なんですよね。
見てみたかったなぁ、切れ長細目イケメン。
「あ、いつもは何を?」
《本を、家には無い市井の本です》
「あ、コレ知ってます知ってます、面白いですよね」




