38 船旅。
私達は相変わらず船です。
でも今は川船に乗り換え、瀋陽市の奉天地区に行く予定で、夕暮れの川を遡上しております。
にしても水仙もですけど、ココの言葉に凄い影響されてるんですよね、扶桑国の言葉って。
すいしぇん、ふぉんてん、無花果。
《物思いに耽ってるのか、景色が珍しいのか》
「両方ですねぇ、いつもは渡るだけで、遡上は初めてですから」
やーっと、ココで魔法、久しぶりに法術が有るんだなと実感しましたね。
法術で風を起こして帆船を進ませてるんです、凄いですねぇ。
因みに海船では、子女には寒いし危ないから、と甲板に出させて貰えずで。
こうしてたのかどうかは分かりません、残念。
《もう日暮れなのだし、冷えるわよ、戻りましょう》
「はーぃ」
長旅になるので当然屋根付きなんですが、襖と、垂れ幕と言うかカーテンだけなので船内が冷えます。
でも炬燵が有るので大丈夫、ですが焼いた石を投入してるだけなので、毎回船着き場で休憩と共に交換が必要。
そう、川船には厠は無いし、火鉢は船尾で徹底管理。
となると寝るのが1番。
と言うか寝るしか無い、なんせ夜間航行ですから。
『ぅう、冷えますねぇ』
「水上ですからねぇ」
《やっぱり移動なら春と秋よねぇ》
「もう春なんですけどねぇ」
まだまだ寒い時期。
男性陣はどうしているんでしょうね。
「はー、暖かいわぁ」
最近、本当に遠慮が無いんだよなぁ、暁霧。
《抱き付かれているのに抵抗しないんだな、雨泽》
『暖かさの理を取った』
『じゃあもう皆で寄り集まりましょうよ、ね?三叔』
《僕は別に良いけれど》
《どうぞ》
《ありがとう》
同性だの異性だの、寒さには勝てない。
侍従も侍従で団子になってるし。
でもコッチは人数が多いから、その分だけ中が暖かい。
けど寒いもんは寒い。
「あら、向こうも消灯してるわね、消すわよ灯り」
『へーい』
向こうもこんな感じなんだろうな。
《雨泽》
『ん?クソか?』
《いや、前に言っていた、相性の良い相手は、どうなったんだろうかと》
『あぁ、それね、暁霧か花霞って言ったら免除された』
《お前》
『いや結婚とか女とかの指定無かったんだから別に良いじゃん、つかどんだけ自信無いんだよ』
《凄く無い》
『まぁ、女装変態押し花跟踪狂野郎だしなぁ』
『女装変態押し花跟踪狂野郎、とは?』
「あぁ、まぁ、色々と有ったのよ、藍家の時から」
《まさか押し花を貰ったのかい?》
《はい、それと刺繍入りの》
『宦官として、な』
『あぁ、成程』
「面白さ半減させるんじゃないわよー、そこ匂わせなさいよ面白く無い」
『いや察しは付くでしょうよ』
《一瞬羨ましいなと、宦官としてでも貰えていますからね》
「そう?ある種の同性として渡したに過ぎないのよ?」
『急に攻撃的になるよなぁ?』
「勘違いして暴走されたら、私が杖刑でぶっ叩かないといけないんだもの。それこそ閨で拒否した時も同じく、ぶっ叩くって約束したの、だから無理なら無理でさっさと帰って頂戴ね、2人とも」
『それさぁ、そこまでなのかね。だって女子達が平気なんだしさ』
「まだ絵姿が手に入って無いから何とも言えないけれど、そこって大事なのよ、少なくとも同性同士はね」
『例えば?』
「薔薇姫様は豊乳で女性的だけれど、花霞ちゃんは控えめでしょ?あんまり控えめだとダメって子は多いのよ、同性みたいで無理って子や、病人や老人みたいだって」
『あー』
「もう少しお肉が付いてくれたらね、けど私達と体調が似てるから直ぐにお腹を壊しちゃうらしいのよ」
『留める力が弱いんでしょうね、薬湯や湯薬の処方を見せて頂いたんですけど、手は尽くしてる状態でした』
《後は土地も関連していると思う、あの毛色は北や西に多いそうだから》
『なら銀川市とか最適じゃん』
《いや、乾燥に弱い子だから西安市の方が良いんだけれど、あそこは人の出入りが激しいからね》
『あぁ、疫病か、宮の外は商隊の拠点だもんなぁ』
「住むには少し落ち着かないでしょうね」
《花霞が目を付けられても困る》
《そうだね、行方不明が最も多い地区でも有るし》
「そうなのよねぇ」
『それさ、多分、異国に行きたくて行ってるのが大半だと思うんだよね』
「あら、詳しそうね?」
『アレだよ、地元でモテ無いから他の地区へ、それでもダメなら異国に行くってヤツは何処にでも居るからさ。少なくとも、男はそうなんじゃないのってだけ』
「まぁ、そうでしょうね」
『つか少なくとも商隊は何かしないでしょうよ、信用商売なんだし。奴隷とか都市伝説でしょ』
「あら純真ね?」
『いやさ、絶対にいつか反逆するじゃん。家族を人質に、とかなら分かるけどさ、大概は単身でしょ。良くて通訳、悪くて病人の寝床相手、なら自業自得』
「アンタは異国に行きたく無いの?」
『面倒、昆明で事足りる』
「新鮮な魚介が殆ど食べれないじゃないの」
『種類は無くても川魚も、乾物だって有るし、雷魚とかタニシ美味いよ?』
「私が言う魚介は二枚貝」
『じゃあ乾物のアワビは食うなよ』
「アレは別」
『ほら、メシ大事、異国のメシが合わなかったら苦痛しか無いじゃん』
「アンタ無頓着だって聞いてたんだけど」
『味がハッキリしてればね、けど臭いのはマジで無理、臭豆腐は無理』
「お子ちゃま」
『なら寝かせれ、もう小剌月が寝てる』
「あら、じゃあ寝かし付けてあげる」
『ほっといて、本当』
花霞なら、もう少しほっといてくれそうなんだけどなぁ。
「長旅だからって、今」
「殆ど顔を合わせないでしょうから、はぃ」
明朝に、もう絵姿を。
川船で別々だけれど、だからって。
「もう少し後でも良かったのよ?」
「銀川市への移動ともなると、途中で引き返すのも大変なので、今かな、と」
まぁ、理屈ではそうだけれど。
「見比べてみた?」
「はい、暁霧さんのと、後、誰のでしょうね?」
「あぁ、雨泽ちゃんよ」
「女装姿で?」
「じゃないと描けないんですって」
「あぁ、ぁあ?」
「ほら、朱家から来たでしょ、青燕ちゃん」
「あぁ、にしても不敬では?」
「大丈夫よ、私のだって顔が無いんだもの」
「まぁ、暁霧さんが良いなら良いんですけど」
「と言うか本当に見せて良いの?」
「あ、完全な全裸では無いですから、はぃ」
それもそれで卑猥そう、と言うか。
いえ、私は見ないのだし、春蕾ちゃんの制御を考えるべきよね
「そう、分かったわ、直ぐに返すわね」
「はぃ」
春蕾はちょっと見て、直ぐに臘月に渡して。
ウロウロウロウロ、昼餉直後の陸地だから良いものを、船の中だったら殴ってたな。
『それさぁ、何ウロウロなワケ?』
殆どの時無表情なんだよなぁ。
何考えてんのかマジで分かんない。
《まさか色が付いてると思わなくて、動揺してる》
『あぁ、マジで描いたヤツか』
《凄く、淫靡で卑猥》
『そう言われると見たくなる』
《嫌だ》
『でしょうね』
まぁ、こんなんだし、そう心配しなくても良いと思うんだけどなぁ。
「想像通り、春蕾ちゃんには響いてるわね」
《僕は抱きたいなと思いました》
『率直』
「けどねぇ、直ぐに直接感想を伝えるワケにもいかないわ、こんなんじゃ」
『まぁ、だろうねぇ』
このまま直ぐはね、口を滑らせて何を言うか分かったもんじゃないし。
「ねぇ、アンタも付いて来てよ」
『えー、女装面倒なんだけど』
「私や青燕ちゃんの意見でも足りない時の為の予備よ、この2人の反応を直接は見せられないのだし、数で安心させたいの」
『分かった』
で、次の休憩で青燕と一緒に、会う事に。
他のまで居て気まずい、バレたら死ぬ。
「全く、大丈夫そうよ」
「他の女性の絵と見比べて無いからでは?」
まぁ、確かにそうかも。
あの真面目2人組は見た事無さそうだし。
『私から1つ、宜しいでしょうか?』
お、青燕。
「あ、はい、どうぞ」
『他を知らずとも、別に問題無いのでは?』
「そうよ、比べる必要が無いのに比べさせる方が負担じゃない?」
うん、そう、確かにな。
「ですけど何かでうっかり見ちゃった時、後から、やっぱり違うなってなっても嫌なんですが」
この世に女が居る限り、絶対に無い、とは言い切れないもんなぁ。
『胸の事を気になさってますか』
「それはそうですよ、豊乳の薔薇姫様が居られるんですよ?無いよりは有った方が良いじゃないですか、抱き心地からして、あ、抱き締めてって意味ですからね?」
凄い語るじゃん。
『些事、些末な事です。それに揉まれても大きくはなりませんが、愛されると大きくなるのは本当です。それにお尻にお肉は有るんですから、揉まれる位置の問題だけ、気にする必要は全く有りません』
強いなぁ、青燕。
「何で言い切れます?」
『個人用の春画も請け負っていました、お金の為に』
それで男の裸を見慣れてんのか、成程ね。
「んー、体系が女性なら」
『どう見ても尻が男らしいし者も居ますし、逆に男なのに尻が女より綺麗で豊満な者も居ます。それとも目の前でお見せして反応を確かめますか?』
過激だけど、理に適ってる面も有るけど。
「それはもう少し先にしま、あ、次は後ろ姿とかどうかしら?」
まぁ、確かにな。
「すみません青燕さん、宜しくお願い致します」
『はい、喜んで』
俺らの時とぜん違うじゃん青燕。
って言うか、春蕾居ない気がするけど。
アレか、聞き耳を立ててるけど見てない、とかか。
《今日は見ないんだね》
《顔が無い絵姿でも、俺には充分なので》
《いざ本物を見てしまったら倒れ、いや、押し倒してしまうのでは?》
あまり人を誂うのは良くない、と躾けられてはいるのだけれど。
コレは、楽しい。
僕より体躯の大きな男が小さくなって、真っ赤になった顔を抑えて。
『もー、あまり虐め過ぎたらダメですよ、と言うか三叔は平気なんですか?』
《少し誂っただけだよ。それに平気と言うか、実物はまた違うだろうな、と考えているだけ。どうやら人は目に見えぬ部分を勝手に補ってしまうらしいから、過度に期待していないだけだよ。絵姿は情報の1つ、それ以上でもそれ以下でもない、見るべきは本当の花霞だからね》
それに、僕には補える程の花霞の姿が身に染みてはいない。
有るのは手の触り心地と、戸惑う姿。
《あの陽に翳されて輝く髪は、ずっと見ていられる》
《どれどれ》
『もー、ケンカしないで下さいね』
《はいはい》
戸の隙間から見えたのは、緊張せず、暁兄と親しげに話す花霞。
この配置は、春蕾が覗く事を前提に席を振り分けたのだろう。
《覗き見る時は低く、出来るだけ動かない方が気付かれない、そうです》
《雨泽が?》
《うん、向こう側から確認してくれて、意外と気になる、と教えてくれました》
《成程》
変態とは言いながらも、2人の優しさを感じる。
と言うか呆れも有るのだろうけれど、蔑ろにはしないし、侮りも無い。
《乗っかっても良いですよ、寒いでしょうし》
《じゃあお言葉に甘えて》
世の中にはまだまだ、随分と悪心を抱え込む者が多いと言うのに。
彼らは非常に善人で、気が良い。
もしかすれば彼らも運命の相手、なのかも知れない。
「子亀を背負った親亀、かしら」
《暁兄、春蕾に覗き方を伝授して貰ったんだよ》
『いや伝授されんなよ』
《出会いは彼が先だけれど、あまり不平等も嫌だし、彼に合わせる事にしたんだ》
『それが覗きって不健全過ぎじゃね?』
《雅人は、貴族は良く行っているらしいよ》
『えー、貴族って変態だったのか』
「まぁ、お互いに覗き見て、合わないと思えば縁談は無し。お互いに少しは良いなと思えたら、次は偶然会った事にして、お話し合い。って感じだから、まぁ、全くお付き合い無しって逆に珍しいらしいわね」
『『へー』』
「あぁ、貴族との付き合いは殆ど無いのね」
『意外』
『僕もです』
『俺は宮を抜け出してウロウロフラフラしてただけだから』
『僕も似た様なものですね、買い出しとかだけで、主に三叔が貴族の相手をしてましたから……』
悪心が強い者とお会いした後は、必ず憂鬱になって、イジケちゃうんですよね。
ヒエやアワや豆を炒ったモノを、ひたすらポリポリポリポリ。
《小兔、あまり外で言う事では無いよ》
『他には言いませんけど、三叔の情報は少ないじゃないですか、それこそ不平等ですよ。って言うかいつまで乗っかってるんです?』
《暖かくて居心地が良い、このまま背負われていたい》
《良いですよ》
《優しいね、ありがとう》
『あまり甘やかさないで下さいね、本当に体力が無いんですから、少しは動いて貰わないと』
《夏には背負われ無いから大丈夫》
『暑いからでしょう。ほら、1度降りて下さい、船に乗るまでだけですよ』
《はいはい》
三叔の審美眼はどんな悪心持ちかも分かってしまう、仕事だからと、世の為にとお会いして憂鬱になってしまう。
どんな掃き溜めよりも汚くて、まるで地獄を覗き込んでいるみたいで、だから嫌になってしまうらしい。
生きるのも食事も嫌になる、だから炒った穀物だけを食す。
その日の夜だけ、穢れを祓い落とす為の粗食だと言い訳をして。
天国の様な景色だけ、見せられれば良いんですけど。
『あ、ちゃんと降りた』
《流石に船に乗り込む時はね、中でまたくっつけば良いのだし》
珍しい、いつもは他人に触れる事すら嫌がるのに。
『程々にして下さいね、春蕾さんは手炉じゃないんですから』
《はいはい》
ケンカしそうも無いのは良いんですけど、本当に大丈夫かな。




