37 金雉冠羽糖。
我想吃一切……。
ざっと言うと。
肌も髪も瞳も何もかも、全て食べたい。
だそうで。
「ココまで直接的なのは、初め」
あ、処女達には刺激が強過ぎましたか、真っ赤。
《ちょっと、舐めてたわね》
「性的な意味で?」
『もー、ご自分に来たんですから、恥ずかしく無いんですか?』
「若い男性の性欲の強さを侮ってませんので、って言うかどんな返事が来ると思ってたんですかアナタ達は」
『こう、もう少し、比喩的か』
《遠回しに、書いて、下さるかと》
「婚約して無いだけで既に好意をハッキリ伝えられてるんですから、今更それは無いと思いますけどねぇ」
それが普通か、までは分かりませんけど。
お2人に添削を依頼しなかった時点で、誰かしらに検分さ。
されたんですかねコレ。
《何だか、花霞が一気に性的魅力に溢れてる様にも見えて来たわ》
『そう言われると、そう見えちゃいますね』
「それ私の下半身を見たからでは?」
《金雉の、金の龍鬚糖を》
『卑猥が過ぎません?』
「その発想は無かった」
《中の餡ってやっぱり、桂花かしら?》
「匂いがキツ過ぎそうなので枇杷か何か混ぜて下さい」
『金雉鬚糖、金雉冠羽糖、とかどうですか?』
《天才のそれね、ちょっと花霞、中央の菓子職人に知り合いは居ないの?》
「あー、んー、知り合い程度なら。でも実家に頼んだ方が確実で早いかと」
『えっ?本気で売る気ですか?』
《勿論よ》
「既存の龍鬚糖を白か銀として、対の金が有れば目出度さ倍増、朱色の鳳凰冠羽糖を足しても良いですね、絶対に流行ります」
《それも採用ね、朱なら薔薇かしら》
「そこは山査子餡で、ほんの少しだけ薔薇を入れましょう」
《良いわね、鮮花餅とも被らないのだし》
『なら、もう、棗や枸杞、赤醋栗も入れて朱五類にしちゃいましょうよ』
「あら良いですねぇ」
『で、金は胡麻等の金五仁餡か、季節の果物で作る桂花餡』
《秘伝の割合にすれば本家を名乗れるし、そうしましょう》
「よっ!流石大商家の娘!」
昼餉の後に花霞ちゃんが来てくれたのだけれど。
春蕾ちゃんの文の検閲、今回はしなかったのよね。
「ごめんなさいねぇ」
「いえいえ、私は大丈夫だったんですけど、お2人には刺激が強かったみたいで。コレ、過激な方、では?」
私も殆ど恋文とか書かなかったし、ココまでのを見るのは、ね。
うん、まんま過ぎだけれど。
情報提供の為の文通、としてはギリギリ。
「まぁ、ギリギリ、ね」
「あぁ、ですよね、流石に自分の感覚を少し疑いました」
「あぁ、跟踪狂からも恋文を貰ってそうだものね」
「殆ど読んでませんけど、ココまでのは初めてだったので。でももう婚約してないだけでお気持ちは知ってるので、良いかな、と」
「そこもごめんなさいね、婚約式って超面倒臭い行事が有って」
「いえいえ、今回は結婚式の代わりも同然でしょうから、楽しみにしております」
「それは良かったわ、コレで嫌になられたらってドキッとしちゃったわよ」
「あ、凄いの思い出した。白紙の紙が来た事が有ったんですけど、直ぐに兄が届け出て、どうなったと思いますか?」
「どう、って、何か、透かしか何か入ってたのかしら?」
「実はですね、男性の精液で書かれてたらしいんですよ、炙り出し式。凄いですよねぇ」
他人の事で絶句って、初めてしたかも知れないわ。
「アナタ、それ」
「大丈夫ですよ、兄に言われて直ぐにちゃんと手を洗いましたから」
「お兄様、それ」
「そうなんですよ、私の為に色んな所で情報収集してくれてて、有り難い限りです」
良く考えればそうよね、ご家族は単に守ってあげるだけじゃなくて、先んじて情報収集もしなければならない。
だからこそ孝行をと考え、果ては国の事まで。
「それなのに良く男を嫌にならなかったわね」
「悪人を性別だけで決めてたら世は回りませんし、私も少しだけ男ですから」
だとしても立派だわ。
教養が有っても直ぐに男嫌いになってしまう者も居るのに。
「そうだったわね、すっかり忘れちゃってたわ」
「ですよねぇ」
あら、暗い顔して。
「何が気掛かりなのかしら」
「ちゃんと体を、裸を見て、やっぱりダメだってなられたら困るな、と」
男色家の悩みに多いのよね。
気持ちが通じ合ったと思って営みまで辿り着けても、いざ、肌を見ると。
友人、父親、性的に見る筈が無かった同性と同じだと気付いてしまう。
分かってしまう。
そこで歯止めが掛かって、そのまま縁が終わってしまう事も。
「もし、あの子達がその程度なら、私が杖刑で五十回打つわ」
「流石に手を痛めるかと」
「勧めた私も同罪だもの、その覚悟もしてるって事よ」
「なら年の数でお願いします、同性と性行為を行えないのは、ある意味では当たり前ですから」
深く長く、ずっとこうして向き合っていたのよね。
自分の体とも、周りとも。
「それにしても大胆ね、普通は全て脱いで全部は見せないわよ?」
「あ、え、いや、一緒にお風呂とか入るじゃないですか?」
「あらあら、ご両親は凄く仲が良いのね」
「あー、あーぁ忘れて下さぃ」
あぁ、コレは確かに可愛いわね。
赤面にキュンっと来ちゃったわ、危ない。
「はいはい、もう忘れたわ」
「あ、アレですかね、先に見て頂くとかしますかね?」
「は?」
「あ、いや、紙に描いたアレです。心構えをして頂くにしても、こう、最悪は絵でダメなら途中退場して頂けば良いかな、と」
「アナタ、それ、その方が恥ずかしくないの?」
「恥より傷心の方が嫌なので、すけど、ダメですかね?」
はしたない。
けどそんな事を言ってる場合じゃないのよね、1番傷付くのは花霞ちゃんなのだし。
でも、ちょっと、刺激が強過ぎる気が。
「最初は、チラ見せで良いかしらね?」
「はい、そんなガン見、は、追々で」
「けど、そう見られちゃうのよ?」
あら。
「ぅう」
「そこまで違うの?」
「いえ、けど、全体的に、です。女性的な体付きが、半分位、なので」
「じゃあ、その、顔を描かずに、体だけを描いて貰ってから、の方が、良いんじゃない、かしらね?」
「やっぱり、最初はそっち、ですよね」
「そう、ね」
難しいわぁ、半陰陽問題。
「あ、あの、アレの返事って」
「あぁ、コッチから言っておくけど、返事を書いて来てくれたのね」
「あ、ありがとうございます。だけ、ですけど」
絶対、喜ぶわよコレ。
「そう、分かったわ、後は」
「いえ、はい、ありがとうございました」
急に年頃の子みたいな態度をされると、何だか可愛く見えちゃうわね、本当。
《羨ましい》
「そっちの感想が先に出る位なら覚悟を決めてさっさと会いなさい」
『そーだそーだ』
「って言うかアンタもアンタで何で検分してやんなかったのよ」
『だって恋文じゃなくて文通、情報だから良いかなーと思って。別に良いじゃん、婚約式をしたらどうせヤるんでしょうよ』
「順序」
『いやでもさ、結局は体の問題が出るんじゃないの?』
「あぁ、そうだったわ、そこよ。青燕ちゃん」
『はい、何か』
「この子を描いて、全裸」
何で俺。
『何故でしょう』
『それな』
「聞いてたでしょうよ、花霞ちゃんの全裸を描く前に、念の為に男の体も描いてみて欲しいのよ。どれだけ正確かが分からないと、考えるにも難しいでしょう?」
《全裸》
「お鎮まり」
真剣かよ。
まぁ、実際に見てダメ、とか傷付くだろうし。
『はぁ、はぃ』
「何よ、雨泽ちゃんは好みじゃないの?」
『単なる男性の全裸なら飽きる程に見て描いてますので、女装姿で良いですか』
「良いわよ」
『だから何で俺の返事の前に返事すんのよ?』
「何よ、当主候補様を全裸にさせる気?」
『小剌月が居るじゃんか』
『翠鳥様に嫉妬されたくは無いので無理です、それと、暁霧様のも描かせて貰えるのが条件ですね』
「あら、何で私もなのよ」
『対比は勿論、売ります、お顔を変えて売ります。売れない男の絵は基本的には描きません、つまらないので』
『凄い趣味持ってるじゃん』
「まぁ、顔が違うなら良いわよ」
『快諾すんなよ、四家の人間の裸を売るとか言ってんだよ?』
『一点物にしますので大丈夫です、量産とかしません、面倒なんで』
『急に個性出すじゃん』
『で、いつにしますか』
「今でしょう」
マジかよ。




