34 四家巡り終了。
「えー、お相手の1人は、臘月候補です」
いやー、とうとう説明せず当日になってしまいました。
この素晴らしい門出に、私が、爆弾を落としました。
ですけど理由が有るのです。
臘月様のお姿を他の者に容易にはお見せ出来ませんので、墨家の馬車に乗ってから、ご紹介となったのです。
はい、ごめんなさい。
『えっ、えっ?』
『彼は僕の叔父、三叔なんです』
《臘梅当主は僕の異母姉です。慣れれば直ぐに見極められるかと、どうも臘月と申します、宜しくお願い致しますね》
《えっ、えっ?》
「薔薇姫様、落ち着ぅう」
何で私の頬を鷲掴みに。
いや、分かりますけども、手が大きいですね薔薇姫様。
《花霞、アナタはココまで大きな事を、アナタは》
「言い出しじゅらかったんでしゅ」
『似過ぎでは?双子では?』
『母や三叔が勘繰られない為にも、僕が表に出て、三叔は裏方にいらっしゃったんです』
《ふとした出来事で花霞に会う事になり、半ば運命の出会いでしたね》
《花霞?何故なの?》
「しょろしょろ放してくだしゃぃ」
『兔子、ご説明頂けます?』
『はい、喜んで』
いやー、兔子ちゃんが居てくれて助かりましたねコレ。
うん、良い緩衝材です、最高。
《で、運命の出会いって何よ》
「あー、そこは臘月候補に、お願いします」
《構わないよ、コレも少し長くなるのだけれど。ココは少し狭いし、花霞をもう1台の方へ移動させても良いかな?》
『あ、はい、私は構いませんが』
『侍女も同行させるから大丈夫ですよ』
《あぁ、そうなのね》
「ごめんなさぃ」
『いえ、コレは少し、納得しましたので、追々で』
《そうね》
「はぃー」
花霞を許す許さない、では無くて。
ちょっと、状況が吞み込みきれないわ。
だって、もしかすれば友人と友人が姻戚関係になるのよ?
あぁ、そうよね、そこよね。
私でもちょっと言い出すのに躊躇いが、凄い躊躇うわね、確かに。
『運命の相手、ですか』
《誰にでも居るワケでは無いんだ、けれども偶に、稀な命運持ちには》
《運命の相手が居る、寧ろ、限られた状態だからこそ》
『はい、三叔はこの外見ですが21才なんです』
それは私だからこそ分かるのかも知れません、彼は発育不全と呼ばれる状態。
花霞も女性的な面で悩んでいた事。
でも。
『私達は花霞の事も理解しているつもりです、だからこそ』
《だからこそだよ、後で知った事だけれど、だからこそ運命の相手だと思ったんだ。分かるかな、君達は一見すると不妊かどうか分からない。けれども僕も花霞も、とても思い当たる節が有る、とてもね。だからこそお互いが負担にならない、追い詰められる事も、追い詰める事も無い穏やかな日々が過ごせると思うんだ》
私達が知るよりも、花霞を知っている。
そして私達と花霞は、圧倒的に違う、と。
《ですが花霞の見た目からは、そう不妊だとは》
《すまないけれど、僕から言わせて貰う、あの子は半陰陽なんだ》
全く、意味が分からない。
いえ、言葉は理解は出来てはいます。
けれども、あれだけ長く過ごしていたのに。
いえ、私達こそが毛色に翻弄されていたんでしょうか。
手が大きい事が自慢の美雨よりも手が大きく、声は誰よりも低い。
体躯の割に骨盤が少し狭く、背も高く、月経も不順。
何より、入浴も就寝も出来るだけ一緒になる事を避けていて。
1人で、ずっと。
私だからこそ気付けた筈なのに。
きっと、ずっと、花霞は1人で。
《あら、もう体を重ねたんですの?》
《いえ》
《なら見ても居ないのに、ですか。少なくとも私は四家巡り初日に湯殿ですれ違いましたけど、男性が持っている筈のモノは所持しては、おりませんでしたわよ?》
《けれど》
『いえ、確かに少し体の構造が違うかも知れませんが、月経不全かも知れませんが。方法は有る筈です、きっと』
『三叔は一応精通はしています、ただ子種が薄いかも知れない、と。それと同時に花霞さんも同じかも知れない、と。僕は診させて頂いてはいませんが、僕も墨家も、絶対に無理だとは思ってはいません』
《つまり、似た境遇にも運命を感じたに過ぎない、と言う事ですわよね》
《ですね》
『ただココから先が、もう少し刺激的になってしまうので、どうか花霞さんの事を誤解しないで下さい』
コレよりももっと、衝撃的な事が?
「何故、女装を?」
花霞の言葉に吹き出したのは、同じく女装している雨泽。
そして朱家から来た青燕まで。
『んんっ、水仙が失礼しました。一応、他の方の目も有るので、偽装させて頂きました』
「あぁ、成程、失礼しました」
《いえ》
この姿で地声で話したからか、また、雨泽が。
『ぐっ』
「あー、水仙さんは最初から知ってたって事ですよねぇ。しかも、あ」
花霞が固まった後、妖精の飴の話を始めてしまい。
『ぶふっ』
「やっぱりー、どうして言っちゃうんですかね?」
《流れで、すみません》
『密偵、宦官』
『ふふっ』
「あー、もー、青燕さんまで知ってるぅ」
いや、コレは多分、雨泽経由の筈で。
《いや、俺は言っていないんですが》
『すみません、ですがあながち無いとも言い切れないものですから、その秀逸さが却って面白いなと』
「もう良いんです、別に完全に信じてたワケじゃ。って言うか青燕さんは私より年上なんですよね?せめて前と同じに話してくれません?」
『侍女として同行するから無理ですね、器用さは全て手先にいってしまいましたから』
「あー、絵師様は青燕さんだったんですね。そっか、朱家の方でしたか」
『とは言っても奥様の従姉妹、実際には朱家には直接繋がってはいません』
「名は、本当なんですか?」
『はい、鳳・紅葉』
「どう聞いても朱家に繋がってそうなんですけどねぇ、竜の対とも言える鳳凰の姓なんですし」
『良く言われます、でも縁を繋いだのは墨家なんですよ』
「ほう?」
『従姉妹は四家巡りをするつもりは無かったのですが、墨家から彼女の居る地区にお触れが出たそうです、この地区の夏生まれの者が今年の四家巡りに参加しなければ不幸が重なるだろう。と、従姉妹は夏生まれでしたので、参加し、縁が出来上がったのです』
「上手く乗せられましたねぇ、不幸と言う文言に。不幸になるとは言ってはいない、しかも何処の誰の不幸なのか言ってもいない、けど外れるとは誰も思わなかった。ご当主様が案じたのでしょうかね?」
『お伺いした所、臘月様とご相談なさっての事だそうです』
「怖い、策士怖い。私も口が上手い方ですけど、このままじゃ負け一辺倒確実なんですけど?」
『それは御柳梅様が間違っているからです、先日も聞かせて頂きましたが、国が安定している分だけ王家の重責は軽くなるべきです。果ては王家が無くなろうとも揺らがぬ国こそ、目指すべき国の形。途方も無い時間が必要かも知れませんが、国民全てが政に関わり重責を担う方が、負担の偏りも不平等も少なくなるのでは?』
「不敬だと言われないなら、同意します。でも百年やそこらでは無理だと思いますし、今がその時かどうか、私には、今がその時だとは思えません」
『何故ですか?』
「脆いからです、疫病が流行ってしまえば人はあっと言う間に大勢亡くなってしまう。1人でも愚かで自分勝手な者が病に罹ったまま動き回れば、病が広がれば、万能薬が無い以上は安心出来ません」
『それは、異国から持ち込まれる病の事でしょうか』
「何処からかは分かりません。ですけど昔に何処かで聞いた事が有るんです、伝染る病に罹った者が軟禁から抜け出した、同時期に何も知らぬ者が友人の酒宴に参加した。その宴には逃げ出した罹患者が居り、何も知らず招かれただけの者が1人、亡くなってしまった。しかも育ての祖母にも伝染り、その祖母までも帰らぬ人に。ですが必ず死ぬ病では無かった、だから周りの者も伝染した者も言いました、弱かったから亡くなったのだろう、と。そして伝染した者は咎められる事も無く、亡くなった者は、ただただ忘れ去られるだけ」
『あまりにも理不尽で、不条理では』
「ですね、無知で愚かで身勝手な者に殺されたも同義、ですけど神様も仙人様もいらっしゃらない世のお話、だった筈。なので仕方の無い事なのだと思います、寓話や御伽噺ですし。ココにはいらっしゃいますからね、仙人様も神様も妖精さんも」
花霞は、暁霧さんが言っていた様な愛国者と言うより。
人の弱さや愚かさ、性悪説を理解している、そんな気が。
「あら辛気臭いわねぇ」
「あ、暁霧さん。すみません、昔に聞いた御伽噺の話をしていたんです、神様が居ない世で、恐ろしい病が流行った寓話」
「それは、凄く恐ろしいわね」
「だから私は四家の方々を大切に思っているんですけど、どうにも分かって頂けないみたいで」
《いや、俺には良く分かりました、花霞は俺より王家王族の重要性を理解しています。そして性悪説への理解も、教育だけでは成し得ない問題の解決方法についても、良く、理解出来ました》
「いやいやいや、私には何を理解して頂いたのかさっぱりなんですが?」
私にも分かっちゃったわ。
どんなに教育を施しても、何をしても救い難い者が現れた場合、どう解決すべきか。
それは為政者としては当たり前に選ぶべき手段なのだけれど。
けれど、私達四家、為政者ならば最後の最後に選ばなくてはいけない方法。
「春蕾ちゃん、アナタには出来る?」
《花霞の為なら迷わず出来ます》
「何を?」
「そう」
「あー、あの、私は知らない方が?」
「花霞ちゃん、王家王族に、民にも害が有る者が現れたら?」
「殺す以外に手段が有る、と言う事でしょうか?」
意外とその結論に至れないのよ。
戦も無く安寧な世で、迷わず殺す事を選べる者は少ないのよ、花霞ちゃん。
「有ると良いわよね。さ。交代よ、彼女達の所へ、青燕もね」
『はい』
「はぃー?」
臘月ちゃん達は別の馬車へ。
こうして馬車は女性と男性に分かれたけれど。
「さ、何が有ったのかしらね?」
『アレ、ウチの家より性悪説を理解してるかもな、それこそ王家王族よりも。病の怖さも悪も、アレ本当に普通の家で育ったのか?』
「残念だけど、ご両親は至って常人だったわ。いえ、あの毛色の子を大切に育てられる時点で常人では無いのかも知れないけれど、子煩悩な良い親よ。他のご兄弟や姉妹にもお話を聞いたけれど、物静かで物分かりの良い子で、却って器用さが無いのが目立った。とだけ、常人の家の常人なのよ、残念だけれど」
『逆に、マジで麒麟児なんじゃん?』
《さっきの寓話を、そのまま伝える》
「ええ、お願いね」
あぁ、どうして麒麟児かも知れないと言ったのか、分かったわ。
『で、暁霧が入って来た』
「性的な意味で」
『あのさー』
「冗談よ、で、どう思ったのかしら?」
《麒麟児かも知れないとは思う、けど、認めたく無い》
「そうね、まるで優秀な者を嗅ぎ分けたみたいだものね、血筋が」
『それは悪かったって、ごめん、ちょっと心配して言っただけなんだけど』
《いや、本当に血筋が嗅ぎ分けたのかも知れない、少なくとも2つの家の者が、三家の血筋が反応した》
『いや俺は別に惹かれて無いって、楽そうだなと思っただけ』
「それも惹かれたと言う場合も有るわよ?」
『だからさぁ、マジで面倒は嫌なんだって。命を賭ける気は無いし、取り合いもしたくない、それこそ常人の娘で良い』
「分かってるでしょう雨泽、アナタが考えた様に、上を知ると下には満足出来なくなる。少しでも愚かな面を見てしまうと、やっぱり、と思うと同時に嫌気が差す。そして後悔する、もう少し高望みをすべきだったのかも、と。その後悔はいつか相手に届く、ならどうして私なんかを娶ったのか、と。楽って、凄く大事なのよ、四家と同じ高さで同じ様に見れる者は中々居ないもの」
《しかも花霞は俺達より遥か上から物が見れる、王家王族として育てられずとも、遠く高い所から見る事が出来る》
「しかも民のまま、民を知る王者、正に麒麟よね」
でも自覚が無いのよねぇ、無自覚な王者。
『愛国心に溢れまくってるのが麒麟って、まぁ、そうか、じゃなきゃ守護も加護もしないか』
「雨泽ちゃん、あの子が愛国心だけだと思う?」
『憎悪、悪への憎しみ、弱者の辛さを分かってるのが不思議』
「想像力が豊かなのかも知れないわね、賢い子は時に芸事ではなく、哲学や経典に進む者も居るんだもの。それか、仙人様が近くで見守るだけじゃなくて、何かを教えたか。妖精さんの知恵かしらね」
『適当な事を言ってさぁ』
「だって何が原因か私には分からなかったんだもの、反論するならアンタが見付けなさいよ、あの子が賢い愛国者の理由」
虐げられた形跡も何も無いのよ。
けれども賢いのよね、しかもその賢さを理解して隠す時すら有る。
歪で不思議な子。
危うい子。




