雉始雊。
早いもので、もうそろそろ1年が経ってしまう。
今は小寒、雉始雊頃。
「いやー、あっと言う間でしたねぇ」
《本当、こうなるともう1年は巡りたいわね》
『ですねぇ』
「いや小鈴には兔子ちゃんが居るではありませんか、ねぇ?」
《そうよねぇ、私家巡りに来る、だなんて相当よねぇ》
『それは、ほら、ウチに本が色々と有りますし、動物も居るので、ね』
コッチは違法ショタなので、暫くは様子見なんですが。
《そうねぇ、花霞にもお相手が居るものねぇ》
「はぃー」
とある四家の方、としか言えて無いんですよねぇ。
だって友人知人と親戚になるかもって、私からは言い出し難いので、臘月様にお任せする事にしました。
と言うか投げました。
お会いした時、ご説明するそうで。
《本当、勿体ぶるわよねぇ》
『ですよねぇ』
言って震え上がりませんかね、片や次期当主候補、片や藍家の先代末子様。
私は未だに震え上がります、何てこった、と。
《嬉しそうじゃないのよねぇ》
「顔は好きですよ顔は」
『ですけど、中流中位からはかけ離れますからねぇ』
《しかも家訓的にはギリギリだものねぇ》
「はぃー」
結局、金絲雀に付き添いをお願いする事になり、案の定面白そだから手伝うと言われ。
まぁ、浮かれられる程の余裕は有りません、絆される心配しかしておりません。
お2人共に顔も性格も、なんなら声も好みです。
そう、私の好みは結構幅広なんです。
《何で断らなかったのかしらねぇ?》
『そうですよねぇ、条件だけ、なら断っててもおかしくは無い筈なのに』
片方は良く存じてしまっているからですねぇ。
けどコレ言えないんですよぉ、宦官だと思って存在を秘匿していたんですから。
まさか貞操帯を付けて女装していた藍家の方、とは言えませんよねぇ。
凄い変態扱いされてしまうでしょうし。
「えへへ」
『あー、笑って誤魔化しましたよ』
《もう暁霧様が相手でも驚かないわよ》
「じゃあ驚いたら何か下さい」
《何かって何よ、せめて指定しなさいよ》
『美味しいもの、鮮花餅ですかね?』
鮮花餅って、要は薔薇の花ジャムのパイの事なんですけど。
「え?雲南まで来るの?」
《はい、行程表よ》
前に話した通り、葉赫那拉様の家、小鈴の家に行って、ウチへ。
か・ら・の、雲南。
一旦朱家の有る昆明に寄って、麗江へ。
「いや、いやいやいや、長旅になりますよ?」
《私も小鈴も気が付いてしまったの》
『花霞が居れば何とかなるって』
《しかも今回は殿方も付いて来るのだし》
『子が居ない若い時だからこそ、出来る事だと思うんですよね?』
いや、まぁ、そうですけども。
「団体旅行はちょっと、初めてでして」
『私もですよ、楽しみですね』
《楽しいわよ、慣れよ慣れ》
大きい事柄が大きい事に。
「何で許可しちゃったんですかね?」
突然の来訪は初めてね。
と言うか結構余裕が無いわね、花霞ちゃん。
「まぁまぁ、落ち着いて、先ずはお茶を淹れるから待ってて」
「あ、それは私が」
「じゃあ白い筒のでお願いね」
この状態だと、雷魚の燻製と倫教糕かしら。
「すみません、急に押し掛けました」
「良いのよ、はい、お菓子」
「ぅう、ありがとうございますぅ」
食べろと言われると取り敢えずは食べるのよね、素直。
この合間に早く来ないかしら、春蕾ちゃんか雨泽ちゃん。
2人きりは流石にね。
「どう?」
「おいひいです」
「それ雷魚なのよ」
「ぉお、麗江に雷魚火鍋が有名なお店が有るそ、ぁあ、互いが隠れ蓑ですか」
「まぁ、そうね」
「コレ白茶でしたし、多分、麗江雪茶ですよねぇ」
「あら良く知ってるわね」
「コチラの蔵書で勉強させて頂きました」
南域道中記かしら、それとも雲南道中記か。
「どうだった?」
「美味しそうでした、けど絵が欲しいですね」
「あぁ、字だけだものねぇ」
「お金持ち様は絵を買うんでしょうけれど、お客さんを煽るには、やはり絵が必要だと思います」
「なら包袱を売り出しちゃいなさいよ、道中記の」
「あぁ、良いですねそれ、けど絵師にお願いしないと」
「そこは大丈夫、絵師の侍女を付けてあるわ」
「流石ですね、はぁ」
「そう心配しないでも何とかしてあげるから大丈夫」
「全員に捨てられたら流石に縋りますからね」
「それは困ったわぁ、予定外だもの」
「あぁ、どなたか良い方が出来ましたか?」
「まぁ、居ないから私も少し困ってるのよねぇ」
「も?」
あら、失敗したわ。
「実は知り合いもね、良いと思える相手を見付けないと、5件、非常に断り難いお見合いを設けられてしまうのよ」
「あらー、大変だぁ」
「まぁ、私は10人紹介される程度だから良いのだけど、まぁ、この年だと気が引けるのよねぇ」
「もう1人の方も男性で?」
「そうなの、誰かオススメは居ない?」
「その方と、お互いを指し示せば良いのでは?」
あら、確かに良い案だわね、性別は指定されなかったのだし。
「良いわねそれ」
「いや半ば冗談だったんですが」
「ふふふ、相性が良い者か、婚姻を成立させても良いと思う者か。だもの、問題無いでしょう」
「本当はどちらでも良い派でらっしゃる?」
「まさか、今までは女性だけよ」
「あ、すみません、ココに水仙さん居な」
『隣に居りますのでご心配無く』
「ごめんなさいね、隣で仕事を任せてたの」
「あぁ、良かった、すみませんでした」
「いえいえ、良いのよ、少しは落ち着いたかしら?」
「はぃ」
「まぁ、暫くは遅くまで起きていても良い日だから、ゆっくり食べていって大丈夫よ。後で女官に送らせるわ」
「いえ、もう下がります、ありがとうございました」
「そう、じゃあお菓子は持って行って、女官室に人がまだ居るから送って貰いなさい」
「はい、ありがとうございます、失礼致します」
俺が来なかったら、どうするつもりだったんだろ。
『暁霧さー、俺が来なかったらどうしてたのよ、春蕾今は風呂だよ?』
「まぁ、隣に居るって誤魔化して終わりね。にしても肝っ玉がデカいと思ってたけど、意外と、アナタ何処から聞いてた?」
『お互いを指し示せば良いじゃん、らへん』
「アレ凄く良い案だと思わない?」
『思わない』
「流石に男色家だとは思わない、筈よ、多分」
『多分じゃんかー』
「じゃあ私より相性が良いと思う子でも居るの?」
『んー』
「考えるフリするんじゃないの、どうせ居ないでしょうよ」
『ぶっちゃけ、別に花霞でも良いかなと思ってる』
「あら意外、地味で目立たない大人しそうな子が好きそうなのに」
『中身と外見は違うじゃん、それこそ小剌月の相手なんかもう、向上心の塊じゃんよ』
「で、良く見知った花霞ちゃんの方が良いってワケね」
『少なくとも男色家の心配はされない』
「別に何かされるワケでも無いでしょうに、心配し過ぎよ」
『そうマジで仕向けられたらどうすんの、超面倒臭いじゃん』
「下準備が」
『そっ、そっちもか、二重に面倒じゃん』
「だからって適当な相手を選んだらダメよ、絶対にバレる日がいつか来るんだから」
『そんな面倒な事しないよ、面倒臭い』
「じゃあ、私が下準備をする方で」
『何でする前提なんだよ、しないしない、同じもん付いてんのに何が楽しいの』
「なら花霞ちゃんだってそうかも知れないわよ?」
『胸は有る』
「あらじゃあ鍛えるわね」
『絶対に柔らかさが違うでしょうよ』
「って言うかアレで盛ってたらどうすんのよ」
『それは無い』
あ、ヤベ。
「アンタ、何で知ってるワケ?」
『ウチで、呼んだ時、ちょっと胸当てが透けてた』
「あらもー、アンタも男の子だったのねぇ、そうよねぇ嫌だわぁ」
『そんなガン見して無いし、春蕾も居たからね?』
「嫌だわもぅ、不潔よー、男すぃーだわぁー」
『もー、夜なんだから騒ぐなってばー』
「あー、もー、後で春蕾ちゃんを問い詰めて遊ばないと」
すまん春蕾、俺がしくじったばかりに。
うん、早く寝よう。
『そう、じゃあおやすみ』
「ちょ、待ちなさいよぉ」
風呂から出た直後、女官に花霞が暁霧の部屋に行った事を教えられ、急いで来たのだけれども。
雨泽が暁霧に床の上で羽交い絞めにされていて。
《コレは、どうするべきなんだろうか?》
「あ、お帰りなさい春蕾ちゃん」
『すまん、枇杷の事で少し口を滑らせてお前を巻き込んだ』
《花霞の、どの事か》
『俺が部屋に呼んだ時、汗で胸当てが少し透けてただろ、その事』
「急に脱力して、つまんない子ねぇ」
《どうしてそんな話に》
『話すと長くなる、任せた』
「ちょっとアンタ、少しは退こうとしなさいよ」
『説明したら退く』
「しょうがないわねぇ」
2人がお見合い回避の為、互いに相性が良い者として示す、と。
《男色の》
『無い、胸が無いし無い』
「で、そうなったって事」
《いや、微妙に中抜けしている気が》
『じゃあ枇杷で良いじゃん、って』
「で、何で胸が有るって知ってるのよ、ってね。ほら、説明したわよ、退きなさい、くすぐるわよ」
『別に平気だし、温かいし』
「アンタ小さいけどそれなりに重いのよマジで」
『鍛えろー頑張れー』
「コレでどうやって鍛えろって言うのよ、教えてみなさいよ」
『あー、えーっと』
《雨泽、本気なのか?》
『本気と言うか、楽そうじゃん、黒飴と干し肉あげてれば良さそうだし』
《確かに手間暇は掛からなそうでは有るけれど》
『あー、だから好きなの?』
「アンタ人の上に乗っかったままな挙句クソ失礼ね」
『だってさぁ、好意にも下心が有るワケじゃん?どっかで得するから好きになってるのばっかじゃん。例え敢えて苦労しそうな相手を選ぶヤツもさ、結局は自信が無かったり、偉いねって構って欲しいヤツばっかでさ。純粋な好意って何?』
「出た、思春期だわねぇ。それは後で分かる事よ、すっかり好きになって自分が不利益を被る事になっても、冷めないで居られるかどうか。女性ってある種の慧眼が発動するのよ、女にとって婚姻は命に関わる、だから女は急に冷めるの。このまま結婚していたら、いつか大きな不利益に繋がる、って。けどね、情に溺れると目が曇って慧眼が発動しなくなる事も有るし、予想が外れる事も有るの。結局は賭けよ、賭けても良いかどうか、そこで情が絡むの」
『予想、外れが多いじゃん』
「まぁ、大概は外れるけれど、それは他人でも親でも外れる。すっかり本性を隠してた火棘みたいに、危うく全員が騙されそうになる場合も有るのよ」
結局、あの火棘は閨の練習の為だけに、どうでも良い相手と月経直前に行為をしたらしい。
妾は嫌だ、不自由は嫌だ、そう全て計画通りに進めていたものの。
奪った楽しみが忘れられず、葉赫那拉・美雨にまで固執した事が暴かれる要因となった。
当主候補、千里眼持ちとも言われる臘月氏が対面し。
本質を見抜き、暴いた。
『けど、見誤るのは期待してるからじゃん』
「アンタみたいに心と理屈が分離しない者の方が多いの。寝かし付けてあげるから、いい加減に退いて頂戴、突っ込むわよ」
『炬燵で寝たい』
「ダメよ、火傷しちゃうんだから、はい、行きましょう」
『よっこいしょ』
「はぁ」
『春蕾は褒めて欲しいワケじゃないのは分かるよ、純粋に好きなのかな、とは思うけど。変態なのがさぁ』
「はいはい、そうね、ウブ男には分からなくて結構よ。さ、行きましょう、湯冷めしちゃうわよ」
《はぃ》
最悪は譲るとは言ったけれど。
こう、なるとは。




