尚寝。
次の日から通常業務へ。
また尚寝でした。
洗濯物は冷水で洗うのか、とビビったんですけど、汚れが落ち難いので30℃位のぬるま湯洗い。
助かりました、真冬の冷水手洗いは死ぬる。
けどココはユルガバ、人に優しい世界。
『はい、休憩して頂戴』
「はいー」
そう、子女が身体を冷やすのは御法度。
お陰でマメに休憩が貰えるんです、けど私の冷え性はホルモン由来っぽいので。
《わぁ、本当に冷たいままじゃない》
「夏場は喜ばれるんですけどねぇ」
『本当に戻りが悪いねぇ、ちゃんと食べ物は気を付けてるのよね?』
「薬湯も湯薬もカマしてるんですけど、コレなんですよねぇ、何か変わった方法とか知りません?」
《そらもうアレよね》
『女の不調は大概男で何とかなるもんだよ、本当』
《そうそう》
思春期なら余計にそうでしょうねぇ。
将来が安定すれば不安も減って、元気になる。
「でも妊娠しなかったら、と思うと」
『だからこそ、惚れた相手に抱かれるべきなんだよ』
《暫く子は要らない、とか言ってる間に致しまくって直ぐに出来ちまうか、忘れた頃に出来るか》
『そうだよ、そう言ってくれる相手が1番さね』
《それか手練手管を磨くか、だねぇ》
確かに。
まだか、より、まだ要らないの方が圧倒的に良いですもんね。
「凄い、目から鱗が」
《房中術の本なら有るよ、見てみるかい?》
性教育本の中でも中〜上級者向け、謂わば応用編なんですが。
「ココに有るんですか?」
《そら尚寝、だからねぇ》
『後は尚儀だったかね、まぁ、それっぽい所には置いて有るんだよ、こっそりね』
まだまだおぼこい方も居るんでしょうし、成程。
「成程」
仕事の合間、一通り殿方を見回ったのだけれど。
何かもう、全然、ダメだわ。
《良いのが居ないのだけど?》
『ですねぇ』
「薔薇姫も小鈴も暁霧さんが良いんですもんねぇ、いっそ思いを告げてしまえば?」
《連れ回せるならアリよね、交渉事が上手そうだし》
『あー、そうなると確かに、私はもう少し専門的な方が良いですねぇ』
「王族でも?」
『そこですよねぇ、どうにも敷居が高いと言うか。最早、壁ですよ壁、凄い高く聳え立つ壁』
《そこは情愛で、向こうに飛び越えて来て貰ったら良いじゃない》
『成程』
「えー?受け止めきれます?」
《そこも向こうの情愛で、身軽になって貰ったら良いじゃない》
「あー、ぅんー」
《王族だって結局は私達と同じ生き物よ?何がダメなのよ》
「ウチの家訓なんですよぉ、政に関わる様な縁は繋ぐな、と」
《まぁ、厄介事を抱える事になるから避けるべきだとは思うけれど。破ると縁を切られるの?》
「あー、多分、身1つで嫁がされるかと」
《厳しいわねぇ》
『そうなるとウチは楽なのかもですね、父は政に関わらない文官なので、好きにしろって感じですから』
《確かにアリよねぇ》
「私は中流中位が良いんですけどねぇ」
あら、あらあら。
《花霞》
「あ、四家から目を付けられたら嫌だな、と」
『この前、何も無かったって、命賭けられます?』
「ふぇぇ」
《壊れた山羊で誤魔化しても無駄よ》
『言わないとお鍋にして食べちゃいますよ?』
「ふぇぇ」
《くすぐっても、効かないのよねぇ》
『こよりを鼻に突っ込みましょう』
「マジで拷問じゃん」
《怪しきは罰せず拷問へ》
『ですね』
「朱家の四の宮様では無い四家の方から、内密に好意を示され、ウチの家と交渉中なんです」
『四家中二家ですか、凄い』
「いや何も言いませんからね?合意に至らないでしょうし」
《あらヤダ暁霧さん?》
「それ否定したら絞られません?」
《勘の良い子ねぇ》
『何処で見初められたのでしょうね?』
確かに、そこよね。
藍家の方との関わりは無い筈、朱家では四の宮様だけでしょうし、墨家の方か。
もしかして、本当に暁霧様なのかしら。
《あの夜、もしかして花霞を》
「もー、暁霧さんでは無いです」
『ココの方ですか?』
「マジで破談にすらならないかもなので、忘れて下さい、命を狙われたく無い」
《ぁあ、四家の方を狙う者って、一定数居るのよねぇ》
『向上心って言うか頑張り屋さんと言うか、凄いですね、まだ政に関わらない貴族の方が楽そうですよね』
「ほらー、ね?」
《婿に来て貰ったら良いじゃないの》
「あー、でもですよ?生活水準を落とすって大変だそうですから、ね?」
『けど実際はどうなんでしょうね?一応四家は質素倹約だと思うんですけど』
「あー、でもでも、暁霧さんに店番させちゃえます?」
《良い看板よねぇ》
『家計を任せたら安心出来そうですよねぇ』
《アリね》
「えー」
『花霞は中央だからなんですかね?』
「んー、かもですねぇ、中央に王家は存在してませんし」
『私の地区は四家の合間なので影響も有り、意識しますけど。逆に、影響力が少ないからこそ、遠い存在に感じているのでしょうかね?』
《だけ、かしらねぇ?金絲雀ちゃんに聞いてみちゃおうかしら》
「もー、何処から漏れるか分からないんですから」
《あら聞き方は気を付けるわよ、ねぇ?》
『取り敢えずは暁霧さんの話題から入りますねぇ』
「だけなら良いですけど、匂わせも無しですからね」
《はいはい》
『拗ねないで下さい、変な事は聞きませんから』
「んー」
本当に拗ねてるわ。
珍しい。
『金絲雀さん、ちょっと良いですか?』
『はいー』
花霞が少し変わっているのか、中央では当たり前なのか。
検討するには比較対象が居ないと始まらないですよね。
《暁霧様って、良いと思わない?》
『あー、暁霧さんですかぁ。無いですねぇ』
《あら》
『無しですか』
『ウチの地区に凄いのが居たので、10才上は無しですねぇ、せめて6才差ですかねぇ』
《絶妙な線引ねぇ》
『じゃあ、もし四家の6才離れた方に見初められたら?』
『家に帰って適当な相手と結婚しちゃいますねぇ』
《あら、良い看板になりそうじゃない?》
『逆に、必死過ぎて恥ずかしい、みたいな?』
《ぁあ》
『控えめと言うか、謙虚と言うか』
『いえいえ、面倒が嫌なだけですよぉ。私の方が相応しいのよー、とか来られたら凄い面倒じゃないですか』
《まぁ、人気は有るものね》
『目立てば悪目立ちもする。中央だからこそ、程々に稼いで程々に暮らす、欲張るから身を崩すんだ。中央で豪商となるのは謂わば地区を背負う事になる、だから成りたがる者は少ないんですよ、他者の家も背負わなければなりませんから』
《流石にウチも親族だけだもの、そう、やっぱり少し違うのね》
『立地が他とは少し違いますからねぇ、異国に隣接しない守られた位置に有るとも言えるので、非常に保守的なんです。回りの目標が発展や開発なら、我々中央は維持、安定ですから』
『どうして、そうなったのだと思いますか?』
『やっぱり神話ですかねぇ、盛者必衰。権力の集中はいつしか中央政権となり、果ては端から蝕まれ、いずれは全てが滅びる。それに例えばですけど、墨家が何度も代替わりし書が焚かれ、果ては歴史も何もかもが消され、また新しい王家王族と共に新しい文化や風習が生まれる。コレって民にしてみたら凄く面倒だし、無駄が多いじゃないですか?』
《まぁ、新しく家を建てるのには日数が掛かるし、改装程度なら楽だけれど、壊すのは一瞬だものね》
『家も家族も商売も、維持が意外と1番難しい。盛り立てると言う事は、盛り立て無ければならない裏事情が有る、そう言う事かと』
『でも逆に、無いのが不思議だとも思うんですよね、中央に王家が無いの』
『王家とはなんぞや、王族とはなんぞや、かと』
《そうね、いつもありがとう》
『いえいえ、小噺でしたらいつでもお聞かせしますよ、なんせ宿屋生まれですから』
『あ、炬燵有ります?』
『あらー、アレ味わっちゃいましたか、可哀想に』
《そうなのよぉ、ウチにも欲しいわぁ》
『ゲル用も近く販売するそうで、シメは是非中央へ』
《行くわ、絶対》
『ですね、ありがとうございました』
『いえいえ、ではでは』
王家とは何なのか、王族とは何なのか。
『当たり前過ぎて、少し見逃していたのかも知れません』
《そうね、地区全体が王家と思うと、納得よね》
『民がいなければ国は成立しませんもんね』
民、治世者、国。
それらが支え合う様な形で存在してこそ、国を維持出来る。
けれども治世者が国の維持に固執し過ぎれば、民は離れ、結局は国が傾く。
それが地区単位か家単位か、国家単位かの違いに過ぎない。
その意識を持っているのが中央、と言う事かしらね。




