友人。
《おはようございます、花霞》
「あの、春蕾さん、私には桂花と言う」
《ぁあ、すみません、お名前が良く似合ってるもので》
流石に私でも、と言うか私だからこそ分かってしまった、と申しますか。
いえ、問題はソコより、何故なのか。
もしかして、宦官だからこそ、こうして内務調査をしてらっしゃる?
凄い、ご苦労様で御座います。
「ありがとうございます、ご心配頂いて、申し訳御座いません」
私が家族に虐められていなかったか、は勿論の事、虐められない様にとの気配りを。
藍家のご配慮は目を見張るモノが有る、と、お父様にご報告させて頂きます。
《ぁあ、いえ、当然の事ですよ》
何に対して深く頭を下げ、コチラに感謝を示したのか。
つい若干の後ろ暗さから、気遣いに対しての謝辞だと気付くのに遅れてしまった。
「お心遣いに報いれる様、精進致しますので、ご指導ご鞭撻を賜りますよう宜しくお願い致します」
そしてコレも。
もしかすれば厳しい躾けにより、ココまで礼儀正しいのかも知れない。
だとすれば、誰かに娶らせるか、最悪は藍家で娶るか。
いや、だが。
《では、今日は少し頑張ってみましょうか》
「はい、宜しくお願い致します」
《はい》
藍家にコレ以上ご迷惑をお掛けしない為にも、友人を作らねば。
そう思い、昼餉時に声を掛けよう、と。
ですが時既に遅し。
もう仲良し組が出来上がっており。
ですよね、尚宮入りは私だけ。
なので部屋も離れてますし。
いや、ココで諦めたら余計に藍家や春蕾さんに、ご迷惑が。
頑張らないと、岐阜位に頑張らないと。
「あ、の、ご一緒させて頂いても?」
四男が気に掛けている子の様子を見に来てみた、が。
『何だ、馴染んでるじゃないか』
《長兄、何か》
『お前の様子も見に来た。似合うな、いっそ宦官にしてしまえば良かったか』
《五男なら呑んでたかも知れませんが、何か》
『母上の伯母上の若い頃にそっくりだな』
《ちょっと、本当に何なんですか》
『誂いに』
《他には何か》
『俺かお前の妾か嫁探し、以外だ』
《そうですか》
『何が気になる、容姿以外の理由を言え』
《いえ》
『なら手を引け、もう既に馴染んでいるんだ、他家にバレたら本気で宦官にする以外は無いんだぞ』
《表では仲が良く見えていても》
『燕も鴻も信用ならない理由は何だ』
《いえ》
『ぁあ、宦官になりた』
《なりたくは無いです》
『女を知らんなら別に良いだろう』
《冗談を真顔で言わないで下さい》
『その格好のお前が言うか、女装しコソコソと覗き見るのはどう見ても変態だろう、そんなに不満なら男を』
《男色家では無いので結構です》
《もう、その位になさって下さい、笑って食事が出来ません》
『そうですよ、四の宮様の春が来たと思えばこそ、ふふふ』
《俺は別に》
『何だ、抱けないか臆病者め』
「若様、あまり煽ってはケンカになりますよ」
『幾ら可愛いからと言っても男児なのですから、加減なさって下さいませ、ふふふ』
『悪かった春蕾、いつでも西域の宦官に推薦してやる、ココでの様子見はさせてやるからもう終わらせろ』
《はい》
この領域に侍従は入れない、宦官すらも、藍家の者でも迂闊には入れない。
万が一にも手付けにする事は両者にとって不名誉、両家の家名を貶め領民を裏切る事になる。
春蕾を例外としたのは、麒麟児かも知れぬ子の問題を見つけ出す為、最悪は本当に宦官にさせ言い訳が出来るからだが。
接近するな、関わるなと言った筈なんだが。
『見てて良いからちゃんと飯を食え、心配性が』
何とか奥の手を使わずに、お仲間に入れて頂く事が出来ました。
尚服のお嬢様方、ウチは布を扱ってますからね、何処の織物が良いだとかで直ぐに加われました。
「なのでご心配は無用ですからね、春蕾さん」
《奥の手とは、包み方の事ですかね?》
「はい、そう私は知恵者でも御座いませんので」
ぁあ、何だろう。
その表情は、同情?
《何か有ったら直ぐに言って下さいね》
「はい、諫言も家臣の役目だと心得ておりますので、もし何か有りましたら是非にもご相談申し上げさせて頂きます」
あら、また何か、悲しげ。
何故。
《そう、そこまで気を張らなくても良いんですよ、ご友人関係を広めるのも四家巡りの醍醐味の1つなのですから》
あ、健気に頑張ってる可哀想な子ムーブになってしまっていたのかも。
気を付けないと、普通が1番。
「はい、ありがとうございます」
優しい宦官に優しい女官長、素晴らしいお屋敷。
このままいけば藍家は花丸、100点満点かもですね。
「どうですか梓萱、四の宮様の様子は」
『霜菊、聞いて下さいよもう、ふふふ』
藍家の四番目の若君春蕾様は、すっかり桂花がお気に入りで。
お夕飯は毎回、コチラの女官長や次長だけの食事処に来て、桂花を観察して。
とうとう、男としてお会いなさる算段をなさっているそうで。
だと言うのに、自覚してらっしゃらないのが、もう。
「相変わらず可愛らしい方でらっしゃっる、ふふふふ」
『全く、大変ですわね、自覚が難しい家系でらっしゃっるって、本当なのですね』
若様はそうした性質が薄いそうですが、彼らのお父上が濃く出てらっしゃって。
まぁ大変だった、と両親が苦笑いしてらっしゃいましたけど。
「もしかすれば私達をも、ついでに観察してらっしゃるのかも知れませんし。残り僅かな日までは、そっとしておいて差し上げましょう」
『そうですね、物珍しさだけが残ってらっしゃるのかも知れませんし』
「であれば彼女が去れば、忘れるでしょう」
藍家の厄介な性質とは、好意を自覚し難い他に、もう1つ。
好奇心だけで有れば直ぐに飽いてしまう事、お気持ちの見極めが難しいと言えばそれまでですが、相まってこその厄介さでして。
『桂花も良い子ですから、好奇心でらっしゃらない事を祈るばかりですね』
お仕事半分、友情半分といった友人が私にも出来まして、連絡先の交換をとなったのですが。
この世界は実に警戒心が強いので、詳細な地図は貴族でも手に入れられない。
なので閏年に1回だけ、四家が合同で出す、四家巡り地図を私達は使うのです。
その紙に軽く点を打ち、詳細は別紙へ。
使い回しを持ち込む程に良いとされているので、新刷を出すのは成金か平民か、他国の者か。
面白い策だと思います。
ココで言う成金は良い意味なんですよ、商才や武功、何かしらを認められた素晴らしい成り上がりですから。
『私、最近貴族になったので、コレは後見人になって頂いた家の方から譲って貰ったんです』
そう、こうした繋がりが見える化するのが良い。
地図の外枠に来歴や、歴史が積み上げられていく。
《素敵じゃないですか、しかも綺麗に保管してて、凄いですわ》
「うん、ですよね」
貴族だからと必ず血筋が繋げられるとは限らないし、逆に何か有れば地図は簡単に使えなくなってしまうので、どの家も大事にしている。
それでも劣化には耐えられないので、使いまくってれば結局は交換に。
『でも、コレ、そろそろかなと』
《なら問題無く次の年は2枚受け取れますわよ》
「ですね、貴族位の確認なら直ぐですし」
『でも』
《失くした時、よね》
『はぃ』
「故意でなければ大丈夫ですよ、マジで」
失くした場合、次の地図を受け取る時に必ず理由を添えなければならない、どうして前年度の地図が無いのかと。
何時、何処でどの様に失くしたのか、届け出はしたのか。
地図の管理及び監督不行き届きは重罪です、ぶっちゃけ当主の首が飛びます。
が、私達が所持している期間に失くした場合、使えなくなった場合は殆ど無罪です。
人に遺棄されるのは勿論、風で飛ばされる事も有りますから。
《私の姉が見事に風に飛ばされて水溜まりに落としたんですけど、切れ端と絞った地図の残骸をお渡しして、何のお咎めもありませんでしたわよ》
『あぁ、有るんですね、実際』
「ですねぇ」
けど地図の売買に関わってたら死刑です、マジで、なのでお外でも滅多に出しませんが。
別にそこまで不便でも無い、要所を暗記してれば良いだけなので、殆どの者は仕掛け箱に入れて持ち運ぶか。
《以降は休憩の度に腕や手に墨で、がウチの常識ですわ》
『成程』
ウチは中央なので、ぶっちゃけ凄く楽なんですが、そうした移動日には中央には入れない。
出れるけども入れない、近道になる場合も有るので、混乱を避ける為に致し方無く。
けど、よっぽどの事が有れば近道させますよ、有事はウチにも少なからず影響しますし。
3親等までなら身内が亡くなった、とかでも通します、ただし後でしっかり証拠を頂きますが。
《そうそう、ずっと聞きたかったのだけど、移動日前まではどうなのかしら?》
「お陰様で潤わせて頂いております」
『あぁ、ふふふふ』
通行料とか無いので、品物も人も良く動く。
だからこそ、衛生観念大事、油断すると流行り病が一瞬で広まっちゃいます。
だからこその中央、なんだと思います。
封鎖した場合、遠回りの分だけ広まる時間稼ぎが出来る、そして対処法がウチから広まれば早く収められる。
《不誠実にも治世を疎かにすれば麒麟が死に、必ず中央から朽ちる》
「見た目から麒麟児扱いは良くされましたけど、ずっと凡人なのですよ、天は二物を与えなかったのです」
『そうですか?美しい髪と瞳をお与えになってますよ?』
《そうねぇ、嫌味だわぁ、自虐風自慢ですわぁ》
「バレましたか、流石です葉赫那拉様」
《好きねぇ、氏で呼ぶの》
「美雨は綺麗ですけど、葉赫那拉ってカッコイイんですもん、家紋も薔薇で完璧」
『西洋ではローズ、だそうですし、うん、完璧だと思います』
《小鈴の名の通り、可愛らしい澄んだ声、名付け親は先見の明が有る素晴らしい方よね》
「ですよねぇ、氏の玄と相まって品が有って優美さを、私はどうです?」
《花と言うか、蜜よねぇ》
『分かります、飴細工みたいで美味しそうですし』
「ありがとうございます、でも残念ですけど甘くないんですよねぇ、この髪」
《本当かしらねぇ?》
『ちょっと噛ってみましょうか』
「髪の毛は食べるんじゃなくて結い上げるモノですよお嬢様方」
『なら、この白い肌こそ』
《私は目にしておくわ、きっと空の味だもの》
何かデジャヴ。
ぁあ、春蕾さん、お元気かなぁ。
「じゃあ皆で西洋に行きましょう、きっと黒蜜味だって重宝されますよ」
《いえ醤よ、そして料理されちゃうんだわ》
「赤身肉と筍の醤炒め」
《青菜もちゃんと添えてね》
『あぁ、本当に小腹が空いてしまいそう』
《あら不思議、そう思うと桂花の不思議な小箱から》
「飴が出ちゃうんですよねぇ」
『しかも桂花飴、不思議ですねぇ』
本当に不思議なんですよ、無くなりそうになると増える。
多分、妖精さんが藍家に住んでるんだと思います。