四家勢揃い。
「中央から参りました、姚・花霞。字は御柳梅を頂きました」
《今までの字は?》
「東から桂花、枇杷、金雉で御座います」
《大変な時にすみません》
「いえ」
仙女みたいに儚げで、なのに弱さが見受けられない。
男らしい度胸や凛とした姿勢、女性的な柔らかい雰囲気と品。
《確かに中央の性質通り、半陰陽的ですね》
「申し訳御座いません、ほぼ女の半陰陽で御座います」
《いえ、謝らないで下さい、半陰陽にも様々な者が居るそうですから》
「身内でも知る者は少ないので、どうかご容赦を」
誰かに嫌われる覚悟も、それこそ死ぬ覚悟もしている。
けれど決して怯え過ぎないし、媚びない。
欲しい。
《母上を見て来たからか、良く居る女性を見ても足りないと思い、かと言って男にも物足りなさを感じていたんですが。アナタは完璧だと思います、結婚して下さい》
欲しい。
子が出来無いとしても欲しい、傍に置きたい、傍に置いてずっと眺めていたい。
欲しい。
「子が成せないかも知れないのですが」
《子が成せなくても完全な者は居るんです、それに僕の子種から絶対に次の当主候補が生まれるとも限らない。ですけどアナタの負担になるなら家の期待にも答える努力はします、どうかずっと一緒に居て下さい》
色は白い、けれど白魚の様な手とはかけ離れている。
苦労を知ってる手、けれど大事にされている。
「あの、毛色に騙されては」
《苦労を知っているけれど大事にされている手、家族からしっかり教育されているからこそ弁えているし、自分自身を良く理解している。外見も中身も僕には完璧な人なんです、アナタが欲しい》
「得意分野等は無いのですが」
《才が有れば確かに得かも知れません、他の、常人にしてみたら付加価値が有る方が良いでしょう。けれど既に各家に人材は十分に揃っています、後は時間が必要なだけ。維持し、向上の機会を待つだけ。どうか一緒に居て下さい》
完璧に言い包めた。
春蕾が言いたかっただろう事も全て、それ以上に、完璧に反論を封じた。
コイツ、本当に14なのかよ。
「えーっと」
《本当は直ぐにも僕を好きになって欲しいんですが、難しいですよね。僕の事を殆ど何も知らないでしょうし、今さっき会ったばかりですし》
「お幾つでらっしゃいますか?」
何で間が有るんだ。
《本当は21、身体の成長が思う様にいかず。精通はしてますが、僕も子が出来るのか怪しいんです》
「えっ?」
《もっと言うと臘梅は異母姉、この見た目なので偽装して頂いているんです》
「えっ、でも私、確かに臘梅の子に」
《暁兄が会ったのは確かに姉の子です、今呼びますね》
まるで双子だわ、知らなかった。
『初めまして、剌月と申します』
「お元気そうなお名前でらっしゃる」
本当、跳ねる月だなんて。
『ありがとうございます』
あら、コッチの方が柔らかく笑うのね。
《この見た目ですから、一時は姉との仲を疑われる事も有り、僕は病気で臥せっている事になったんです》
「ごめんなさい、じゃあアナタが三の宮なのね」
《正確には姉が継いだので今は三叔ですが、まぁ、そうですね》
「でもじゃあ、臘梅姐さんが言ってた当主候補って」
《僕ですね、剌月は薬学が得意分野なのと、家を出る相を持っているので》
あぁ、跳ねる月。
擂潰機で不老不死の薬を作っている、月の兎の事なのね。
『母は父と仲が良くて、この前も産ま』
「大変申し訳御座いませんでした」
「あ、そこは大丈夫よ花霞ちゃん」
《僕らは辛酸に漬からされたので、寧ろ姉は嬉々として行ったのでしょうから。ありがとうございます、良い機会を与えて下さって》
彼の場合、一目惚れ、と言うべきなのかしら。
審美眼、特異な慧眼持ちの当主候補は、花霞の手を取り。
『もう、ダメですよ三叔、ご婚約もしてない方にベタベタ触れては』
《じゃあ婚約して触る理由も作ろう、軟膏をおくれ剌月》
『お姫様のお気持ちは?』
《コレから育めば良いと思うのだけれど、どうだろうか》
幾ら頭が良くても、今日で2回目の求婚。
さぞ心情は混乱の極みでしょうね、花霞ちゃん。
「まぁまぁ、今日は色々と有りましたし」
「はい、なのでお時間を下さい」
《即答して貰えない理由は、彼の事かな》
怒りで頭が真っ白になった後、春蕾さんから結婚を申し込まれて。
怒りより混乱になっちゃって。
って。
コレは、何もかも筒抜けなのか、お見透しでらっしゃるのか。
凄い、凄い事になりましたよ姉さん兄さん。
「はい」
《君に好意が有るとは思えないのだけど》
「敬愛や尊敬の念は有ります、それに先に、私から冥婚を申し出て、婚姻を申し込んで頂いたばかりなので、はい、只今混乱の極みで御座います」
だってもう、出会って秒で求婚されるとか。
しかも当主候補様、実質墨家の王位継承順位1位の方から婚姻のお申し込み。
で、合法ショタ。
しかもしかも可愛い合法ショタって、実質違法ショタ、脱法ショタも良い所ですよ。
あ、ヤバ、コレも筒抜け?お見透し?
《僕は人より少し、見る目が有るだけだよ》
おぅ、筒抜けでお見透しでした。
でも、逆に、私が転生者なのもお見透し?
いやー、でも何か言ったら墓穴を掘りそうだし。
《俺の為では無く、花霞の為に1度下がらせてやって下さい》
えっ、宦官の割に春蕾さんイケボ。
ギャップ萌え。
あぁ、打算的には圧倒的に春蕾さんなんですよね。
四家の方でも無いから当主候補でも無いし、妊娠の事も心配しなくて。
《剌月、当主様を呼んで来てくれないかな》
『はい』
えっ、何。
何ですか少年を下がらせて、何を重要な事を言おうとしてるんですか。
「あのー」
《春蕾、君が藍家の予備だとは、まだ、言っていなかったんだね》
「へっ」
いや、え、いやいやいや。
何してるんですか、藍家の若様、宦官密偵だと勘違いしちゃっ。
えっ、じゃあ。
何で、ずっと一緒に?
《何故、と聞きたそうだよ》
《ココでは言いたくありません、花霞だけに伝えたいんです》
まさか。
私。
転生者だってバレバレてる?
えー、詰んだ。
何処に逃げよう。
《ふふふふ、相当混乱しているね》
「はい、もう大混乱です」
《分かりました、けど逃げないで下さいね》
あぁ、行間を読むのが怖い。
九族郎党皆殺しは流石に無理だ、勘弁して下さい。
「気持ちは分かるわ、けれど各家に不足無く人材が居るのよね。なら、最悪はアナタを排除しちゃうわよ?」
《すみません暁兄、アナタと違って好意が湧いたのは初めてで。加減を誤りました、すみません花霞》
凄い、年上の暁霧さんにやり返した。
これ、もう。
《これこれ臘月、あまり手垢を付けない》
《どうもご機嫌よう、御当主様》
『また、もう、僕を呼びに行かせる前もベタベタしてたんですよ?』
《失礼しました、ウチの弟がすみません、下がって良いですよ》
「あ、先程はすみませんでした」
《あぁ、構わないよ、機会が無いとしたくても出来無いのが当主。寧ろお礼を言わないと、なのだけど、先ずは下がっておくれ》
「はい、失礼致します」
「あ、なら水仙、送ってあげて」
『はぃ』
どうしよう、どう逃げよう。
「ふふふ、どうだった?水仙ちゃん」
『別に、落ち着いてた、今はバラせば良かったかもと思ってる』
《似合うんだ勿体無い、雨君はそのまま暫く続けなさい》
『あー、はぃ』
ふと顔を上げると、全員の視線が俺に。
何を言えば良いんだろうか。
当主の次に当主候補が優先されて当たり前だと言うのに。
《何か》
《虐め過ぎだ臘月、見てみなさい、このしょぼくれ方を》
《僕は虐めてはいませんよ、手加減しなかっただけです》
『それが虐めって言うんじゃん、つか順番で言ったら何もかも全て春蕾が先で』
《お付き合いしてるワケでは無いですよね?》
《だとしてもだ、婚姻の約束をしようとしていた矢先にお前が口を挟んで追い込んだ、アレは話し合いでは無く強迫。良いのか、そんな手を使うなら早々に当主の座を譲るぞ》
《ではどうすれば良いですか、当主様》
《話し合いをしなさい、追い詰めず、脅さずだ》
《彼女は動じてませんよ、寧ろ余裕すら有る、だから凄く良いんです》
「強い女が良いのね、姉や母の様に強い女。か弱くない女が良いなら、寡婦にでも手を出したら良いんじゃないかしら」
《寡婦の様に打算や欲が無い所が良いんですよ、苦労を知りながらも美しさを保った心持ちが良いんです》
『アンタさ、好きって1度も言わないよね』
「確かに、良いとは言うけれど」
《初めて味わう味に直ぐ名が付けられますか、好意か執着か直ぐに判断が付いたら、もっと揉め事は少ないのでは》
《けど、お前は欲しいと思ったんだろう。どう欲しいんだい》
《取り敢えずは眺めて愛でられれば、と思ったんですけど。触れてしまうと止まりませんね》
『それヤりたいだけじゃないの』
《なら彼は違うとでも?》
《蕾ちゃん、ウチのコレを優先すべきだと思わなくて良い、立場としては対等だ》
《ですが彼は当主候補です》
「でもねぇ、情愛が絡んだ時点で、四家の全員が絡む時点で対等なのよ。ココで当主候補だから、と譲る事を雨泽ちゃんも私も望まない。その時点で、対等なのよ」
だとしても、俺は。
『こう比べるとさ、春蕾に貰われた方がマシに思えるんだよね』
《それはどうでしょうかね、彼女は情が深く厚いですから、妊娠に問題が無い者には引け目を感じるかと》
結局、問題はそこに有る。
即答して貰えなかったのは、子の問題、成せるかどうか。
《ウチとしては償いも含め、改めてあの子を見させて貰いたい。どうすれば子が成せるかどうかも含め、四家全体での補佐をと考えているんだが、どうだろうか》
『僕は若輩者ですが補佐がしたいです、宜しくお願いします』
「良い子ねぇ兔子ちゃん」
《お、気付いたか霧ちゃん、この子の幼名は兔子なんだ》
「って言うかそこよ、何で教えてくれなかったのよぉ」
《そこを話せば長くなる、そろそろ昼餉の時間だ、その後にしよう》
「あら、もうそんな時間なのね。じゃあはい、一時休戦」
《そうだな、あの子の部屋への配膳を頼むよ、水仙》
『良いけどさぁ、1人で食事は可哀想じゃないの?』
《御柳梅は孤独にも慣れ強いから、問題無い筈だよ》
《まぁ、気になるなら盆を下げる時に訊ねてやれば良い、そこで何も無いなら開放されるだろうさ》
『分かりましたぁ』
飴と干し肉を渡したかったけれど。
男と分かった以上、受け取って貰えないかも知れない。
もう近くに居られないかも知れない。




