靈丹妙藥。
凄い、面の皮が万枚通り越して億いってるんじゃねぇですかね、火棘さん。
期限ギリギリまで謹慎して、今度は尚寝へ。
しかも余洗い担当。
この時期は辛いですよ、お水が冷えますから。
「春蕾さん、私、逆に見習うべきなのかも」
《長い目で見たら損にしかならないと思うので、止めておいた方が良いかと》
「ですかね?」
《はい》
「あ、龍鬚糖です、どうぞ」
《コレ、高いですよね》
「珍しいので買っちゃいました、見守って頂いたお礼です」
《あの、今回は何も、してませんが》
「いえいえ、相談する先が有ると思っただけで、とても気が楽だったので。それに押し花だけじゃ何だな、と」
《ありがとうございます、大切にしますね》
「いえ食べて下さいよ、その為に買ったんですから」
《じゃあ、半分こしましょうか、労いの分です》
「あ、黒ゴマ嫌いでした?」
《いえ、好きですよ》
「良かった、私も大好きなんですよぉ」
《次は黒飴を贈りますね》
「いえ、小銭でも無駄にしないで下さい、飴が入ってる箱だってタダじゃないんですから」
《ですけど、コレはちょっと、貰い過ぎですよ》
「あ、じゃあ、いつか雷鳴糖を一緒に食べましょう」
ココで言う雷おこし、ポン菓子とゴマを飴で寄せ集めた固いお菓子で、ガリガリ鳴るから雷鳴糖。
見た目そっくりな沙其馬を食べた時、凄くガッカリしたんですよね、美味しいけど。
《好きですね、固いモノ》
「殆ど嫌な事は無いんですけど、嫌な事が有ったらガリガリするんです、で食べ終えたら忘れる様にする。でもすんなり忘れられない時はもう、ひたすらガリガリガリガリ。で、顎が疲れたなと思った頃には大体忘れてるので、寝ます」
《お菓子を食べて直ぐに寝るのは》
「あ、夕餉の代わりにお煎餅とかで、ちゃんと歯磨きしますよ」
中央では私用に凄い硬いお煎餅を作って貰ってたんですけど、流石にココまで届けて貰うワケにもいかないですし。
飴は高いからちゃんと舐めますよ、噛まずに、勿体無いので。
《もしかして、飴より鮭の干物が良かったですかね》
「あー、干し肉とか良いですよねぇ、そっか、干物か」
《干し芋は?》
「干しより蒸しですかねぇ、あ、菱の実とか好きですね、特に割るの」
《もしかして、歯で?》
「ちゃんと気を付けてますよ、アレ本当に危ないので」
怒りに我を忘れて血塗れとか、アホ過ぎですからね。
《途中で帰っても良いんですよ》
「あ、そんなに嫌な事でも無かったので大丈夫ですよ」
向こうの世界、前世だったらもっと理不尽で不条理な事が有るし。
火棘のアレって、まだ少しは意味が分かりますし、全然チョロいですわよ。
《我慢はしてませんか?》
「はい、それより次の墨家が心配ですね、占いで、昔、この子は長く生きられない、とか面と向かって言われたんですよ」
だから信じて無い、と言うか、信じてたまるかと。
反骨精神と言うか、いや、反骨精神ですかね。
《そんな事を言う易者は、死ねば良いんですよ》
「ねー、死んでてくれたら嬉しいんですけどね、その占いの結果と一緒に消えててくれたら良いんですけど。もし墨家に居たら、多分毎日ガリガリしちゃいますね」
《それで雷鳴糖なんですね》
「あ、もしかしたら次は居ないかもですかね?」
《花霞が居て欲しいと思うなら、何処にでも行きますよ》
「えー、えへへ、じゃあ冥府までお願いしますね、もしかしたら結婚出来無いかもなので」
《どうしてですか?》
「生まれ付き陰の気が弱くて、もしかしたら子を成せないかもなんです。だから殿方にもそこまで興味を持てなくて、あ、だからって女性が良いワケでは無いですからね」
《それは、湯薬では》
「針とか太極拳、色々と試してみて、それでもどうかなと。ウチの家族は何とかなると思ってるみたいなんですけど、私は、そう思えなくて」
《それで難しい処方なのですね》
「はい、それにウチの親族は優しいので、きっと冥婚もしてくれるとは思うんですけど。そう想った相手も、理想も何も無いので、なら、友人知人に頼もうかと。同性で冥婚は無理でしょうし、忘れないでくれたら良いなと」
半陰陽、両性具有の場合、本当はどっちを選ぶべきなんでしょうかね。
あ、もしかして同じ半陰陽?
えー、居るのかな、他に。
《北朱雀や翠鳥では無く》
「2人は結婚出来、あ、春蕾さんが結婚出来無さそうとかじゃなくて、ココまでして下さるなら、偶にお墓参りに来てくれそうだなと、えへへ」
こうして優しい年上女性に、何処まで甘えたら良いか分からないんですよね。
引かれちゃったかな。
《良いですよ》
「おぉ、本当ですか?」
《はい、けど、お墓をどうしましょうか。出来たら少し東に寄せたいんですけど》
「あー、そんなお金無いですよ、家族の墓に入るので。アレです、閏年で良いですからね?偶にで良いですから」
《じゃあ、四家巡りが終わったら、骨壺選びをしましょうか》
「良いですねぇ、ちょっと大きいのにした方が良いって言われてるんで、柄が選び放題なんですよね」
《本当に、死を考えた事が有るんですね》
「若くても亡くなる方は居ますからね、昨日まで元気だったのに、とか」
本当に、宦官になってしまおうか。
そうすれば、ずっと一緒に居られる。
嫌悪される事も怯えられる事も無く、ずっと。
《私が先に亡くなっても、お願いしますね》
「じゃあ、次に会った時は髪を送りますからね?本当に」
《赤い封筒に入れて、交換するんでしたっけ》
「ちゃんと赤い糸で髪を結んでおいて下さいね、ダメですよ他人のは、そこまでするならちゃんと断って下さい」
《次までに用意しておきますね》
「ありがとうございます、優しいなぁ、春蕾さん」
髪の束1つでコレだけなら、小指でも何でも渡すのに。
どうしたらもっと要望を言って貰えるんだろう。
どうすれば、どうしたら。
『骨壺選びは、ちょっとキモい』
「そうねぇ、アレはちょっとドン引きだったわぁ」
《けど、花霞は、ちゃんと喜んでくれてて》
「同性として、なのよねぇ」
《もう、宦官に》
『それよりさぁ、次じゃない?』
「そうね、どうして占いを信じて無いかもだし。初めてなのよね?不安だって言ったの」
《あぁ、はい》
『毛色が珍しいからって、目立ちたい馬鹿が言っただけだろうけど、万が一にも言った人間が墨家に居たら。花霞が可哀想だもんなぁ』
「はいはい名を言っただけで睨まないの。取り敢えずは居ると仮定して考えてみましょう」
『どう信じて貰うかだけど、取り敢えずは顔を見た事が有る者を呼び寄せるしか無いよねぇ』
《宦官》
「はいはい、それは最終手段ね」
『あぁ、易者も宦官で良いんじゃん?男だったら、だけど』
「あぁ、女なら、そうね、勝手に男の易者だと思ってたけれど、女かも知れないのよね」
《花霞に子宮を食べさせる》
『いや食べて良くなるならそこら中死体だらけだよ?』
《子宮だけなら死なない筈》
『名医を引っ張り出す気かよ』
「けど逆に、毛色が違うからこそ、他と違うからこそ、アリかも知れないわよね」
『生で?何かクソっぽいし、病気を持ってそう』
「あぁ、そうねぇ、それは最終手段にしておきましょう」
《どうしたら要望を言って貰えるんでしょうか》
「恩を売る?多分、違う方向へ行くわよ、あの子」
『あー、ぽいぽい』
「取り敢えず、私も行こうかしらね」
『えっ?』
「あら、アンタ帰るでしょ?だったら春蕾の手綱は私が持たないとだし、金雉は心配は心配だし」
《今までありがとう、雨泽》
『えー、折角だし最後まで見守らせてよ?』
「青燕ちゃんから聞きなさいよ」
『いや、性質の事、少しは納得したけどまだ解して無いからね。暁霧さん、どんな相手に惚れた事が有る?』
嫌だわ、若い子ってコレだから困るのよ。
凄い黒歴史なのよね。
「アンタの思惑通りよ。悲哀、憂鬱さに怒り、それらが混ざって見事に玉砕したの」
『言わないのか言えないのか知りたいんだけど』
「人妻よ、夫の理不尽に遭ってるって相談を受けて、まぁ若かったからコロっといったのよ」
悲しみと憂いを帯びた人妻に、控え目でか弱そうな女に見事に引っ掛かった。
そこで白家らしいと言われて、喜んでしまった。
けれど全部嘘。
殴って貰ってたのは兄で、兄妹で詐欺師をしてて、結婚も何もかも嘘。
逃避行しようとして、待ち合わせに来たのは私の姉。
そこで全てを悟って、崩れ落ちた。
『何で誰も言ってくれなかったの?』
「私が聞かなかったから、どう思うか聞けば全て答えたって。知ってたのよ、それでずっと見守ってくれてて、お金も取り戻してくれてて。そいつらも居たの、家に」
泣き喚いたり懇願したり、罵り合ったりしてるのを眺めてても、無だった。
あぁ、コレが無の境地なのかと思ったわね。
もう食べないでも良いし、何も要らないと思ったけど。
泣きながら姉に殴られて、悟った、なんて錯覚だと気付いたのよ。
家族に恩返しもしないで無に帰そうだなんて、きっと仏様でも受け入れてくれない、冥府の川を渡れず彷徨う事になる。
そう思ったらすっかりお腹が空いて、お釈迦様と同じ乳粥を食べさせて貰って、そこで初めて生きなきゃって思ったの。
『その2人は?』
「そこの曼珠沙華の下よ、だから綺麗なの」
『あぁ、王族への詐欺行為は死罪だもんね』
「けど、本当に白家の者だって思わなかったんですって、それもそれでショックよね」
《だとしても、死罪は死罪、ですけど》
「冗談よ、そんな穢らわしいモノ家に置いておきたくないわ。剥皮刑、今でも刑部に有るわよ、兄妹の詐欺師として展示され続けてるわ」
『回収しちゃえば?』
「良いの、私が愚かだった罰だもの、見えない場所に行ったらきっと忘れちゃうわ」
世迷い言を吐かぬ様に刑の前に切り取られた舌は、今も一緒に展示されている。
私の恋心も多分そこ、そこで釘付けになって、永遠に動かないまま。
羨ましいわ、春蕾が。
『なぁ、どうにか移動させられないかな、展示品』
《ウチで借りる事にして災害に遭って貰う、そうして火葬して、終わりにさせる方が良いと思う》
『だよねぇ、だってもう10年でしょ?16の頃の情愛の失敗なんて、それこそ餓鬼の寝小便と同じだと思うけど、思ってたいのかな、その人の事』
《立ち入る事を素直に詫びて、当主に聞いた方が早いと思う》
『まぁ、そうだよね』
俺にとっては、春蕾も暁霧さんも羨ましい。
髪の毛を交換するとか気持ち悪いし、それこそ押し花の事は本気で意味が分からない。
暁霧さんは分かる、とか言ってたけど。
本当に分かんない、何でそんな事をするのか。
多分、コイツは本当に変態なんだと思う。
真面目で頭が良いのに馬鹿って、成立するんだな、本当に。
《恐れ入ります、ご当主様》
「あぁ、君達、入って入って」
『お邪魔します』
「コレどう?どうかな?どう思う?」
《はいはい落ち着いて、何かご用事が有っての事でしょうから、せめて要件を聞いてあげて下さい》
「あ、どうしたの?」
《実は、暁霧さんの詐欺の事を伺いました。ご家族はどう思ってらっしゃるのか、と》
「あぁ、あの事ね」
《俺達としては、もう10年も経ってるので、解放されても良いのでは、と》
「そうね、私もそう思う。思い続けるって事は縛り続けるって事、もうお互いに浮かばれても良いと思うけど。あの子の初恋だったと思うのよ、初めてあんなに人に夢中になって、だから家族で見守った。もしあの子の一途さに改心してくれたら、と、でもダメだった。悲しかったわ、救い難い者って、必ず出てしまうのよ」
当主は自分の事みたいに泣いてて。
春蕾も凄い眉間に皺を寄せてて。
前なら、どうしたら良いかを考えてたのに。
《雨泽》
「ありがとう、ウチの子の為に泣いてくれて、考えてくれて。あの子、恥ずかしいからって誰にも相談しないままでね、良かった、ありがとう」
多分、あの靈丹妙藥は、本物だと思う。




