飴。
《あら、白家にも妖精さんが居るのね》
『金絲雀飴じゃないですか、好きなんですよねぇ、この風味』
私、コレ、ダメなんですよ。
漢方の相性が悪いから食べるな、と。
「ぅう」
《あらあら、どうしたの?嫌いなの?》
『あ、もしかして湯薬との相性が悪いんですか?』
「はぃー」
《あら残念ね》
『あー、じゃあ次は紙を入れておいたらどうですか?食べれる飴、欲しい飴を書いて入れておくんです』
「何か、欲張りじゃないですか?」
《食べれないんだもの仕方無いじゃない》
『そうですよ、それに金雉の為の飴なんですし』
《けど、花霞の処方を知らない者の仕業、って事よね》
『流石に妖精さんも万能じゃないでしょうから、そこは、大丈夫なのでは?』
「ぁあ、じゃあ、黒飴をお願いしようかな」
『コレからの事を考えると板藍根飴が良いんじゃないですか?』
「あー、風邪のね」
《まぁ、私は黒飴も好きだし、好きな飴を食べるのが1番よね》
『北朱雀は控えないとですよ、黒飴は陰の気が強いんですから』
「そうそう、1日1個、いや3日に1個ですかねぇ」
《えー、そうね、そろそろ飴を買った方が良いわよね》
『ですね、少ししたら一気に寒くなりますし、乾燥しますし』
「在庫が切れる前に買わないと、流石にひび割れちゃいますし」
《そうね、明日は市が出るし、買いに行きましょう》
市井には出れませんけど、明日は月に1回、後宮内で市が開かれるんです。
アレですね、大奥でも有りましたよね、確か。
「居るんですねぇ、宦官さん」
『私、初めて見ます』
《そうね、私も》
他家では子女だけだったのだけれど、今回は宦官の方も一緒に市でお買い物をする事に。
物珍しげに見るのは失礼致だとは思うのだけど、花霞みたいに珍しいとなると、どうしても目が行ってしまう。
「私、ちょっとお話してきますね」
『あっ』
《凄い場面ね、宦官と金髪碧眼って》
何だか不思議な光景。
仙界や天界って、こんな光景が広がっているのかしら。
『不思議な光景ですねぇ』
《そうね》
『何をお話してるんでしょう?』
《あの子の事だし、商売の事じゃない?》
『あー』
《それか、あぁ、軟膏》
『難しい処方みたいですもんね、花霞の体質』
《女なのは同じだけれど、全く同じでは無いものね》
『そうですよねぇ、髪も目も黒い者の五行ですし』
《そこよね、きっと色々と苦心して来たのよね、やっぱりまだまだ想像し難いわ》
『私、西洋に凄く興味が湧いたんですけど、どうなんですかね、実際』
《私はね、お互いに攫われるって思ったままの方が良いと思うの、少し国外に足を延ばすだけで礼儀作法が全く違う場所も有る。私達、国内の事でも手一杯なのに、外で不作法をすれば国が悪く思われてしまう。まだ、私、自信が無いわ》
『北朱雀でも、ですか』
《私が知ってるのは北域以北だけだもの、西の最果ては想像も付かないわ》
その西洋の色を持つ花霞なら、もしかしたら。
「お待たせしましたどうもどうも」
《軟膏の良い情報は得られたのかしら?》
「だけじゃないですよ、飴もです、西の宮に良い飴屋さんが出てるんですって」
《よし、行きますわよ》
『はいー』
花霞って、美味しい物を食べてる時が1番良い顔をするんですよね。
「うまー、あ、暁霧さんだ、こんにちは」
「はいこんにちは、あら、妖精さんの飴は合わなかったのかしら?」
「あー、私の処方と合わなくて、なので友人に交換してて、黒飴を買って貰いました」
『半分こして、もう半分を選んでるんです』
《暁霧さんはココから出ないのですか?》
朱家の本館は南、白家なら西が男性の領域でもあるんですよね。
私達が普段は入れない場所。
「一応はね、接触は最低限に控えているの」
「男性とは思えない色気ですよねぇ、凄く似合ってる」
『ですねぇ』
《変わったご趣味、いえ、仕事着なのですか?》
「あら凄い、そう当てた子はそうは居ないわよ」
「えー、じゃああまり褒めない方が良かったですかね?」
「そこは褒められたら素直に嬉しいわよ。けど、良く分かったわね?」
《装いが全く一貫してらっしゃらないので、もしかしたら、と》
「おー、凄い、流石大商家の娘」
『言われても全く分からないんですけど?』
《そうね、翠鳥は殆ど顔を合わせないものね、尚宮で偶にお姿を拝見してたからよ》
「内緒よ、趣味だろ、って誂ってくる人を誂うのが趣味だから」
『はい』
「はーい」
「あぁ、コレからの時期は念慈蜜が良いわよ、隣の壺の黒いドロドロ」
『ですよね』
「私は更に隣の牛軋糖が良いなぁ?」
《胸を大きくしないとだものね》
「あら、大きくても小さくても宝、あまり偏った食生活はダメよ」
「はーい」
この光景も不思議。
仙界や天界って、こんな方達がいっぱいなんでしょうかね。
《羨ましい》
「正直で結構ね」
『この変態の扱いすら慣れてるの、凄い』
《変態じゃない、筈》
『はいはい』
「アンタ達、あの子の処方、知ってる?」
《いえ》
『ううん、機密事項だし見てないけど?』
「そう」
あの子、幼い頃から宦官になった者に近いのよね。
けど胸は僅かにでも有るし、月経休みも有って、他の子女に怪しまれてはいない。
まさか。
まさかよね、中央の子で毛色が違うからって、まさか半陰陽だなんて。
神々は何重苦を与えるの、って思っちゃうわ。
けど良い子に育ってるみたいだし。
『あ、あの女は?火棘、どうすんの?』
「どうもこうも無いわよ、無理に追い出す事はしないし、次へ行くのも止めはしないわ」
《どうして、呼んでくれないんだろう》
「慣れてるからじゃない?標的にされるのも、諍いも」
『まぁ、苦労してるだろうしね』
けど、本当にそれだけかしら。
それだけで、あそこまで落ち着いてられるかしら。
朱家が寄越した青燕ですら、話し合いの後に緊張が解け、震え出していたのに。
ただ毛色が違うだけで、あそこまで肝が据わるものかしら。
「だからこそ、確かに心配になるわね」
『煽ってる?』
「違うわよ、正直な感想よ。今は女の園で過ごしているけれど、そこに男が加わると摩訶不思議な現象が起こるのよ」
『魔羅不思議』
「そうそう、本当にそうなっちゃうのよね。ちょっと褒められたら体を明け渡しちゃったり、貢いだり、真実の愛だと思って信じちゃうのよね」
信じたいから信じてしまう。
そして過度に疑っても、同じ事。
冷静に、平静に、その者の子種を本当に宿すべきなのかを子女は見分けなくてはならない。
愚か者の子種では子が困り、果ては親族縁者にまで類が及ぶ。
例え王族で無くても、貴族で無くても。
真に子が困る事を避けるべき、その決定権を持つのは親、主に母親が負う事になる重責。
男に子を孕む事は出来無い、乳を与える事すらも出来無いのだから、任せるしか無い。
『どっちが好きなの?暁霧は』
「どっちだと思う?」
《両、方》
「何でよ」
『見た目』
「見た目が女装してるから何よ?」
『男に、好かれたい、とか?』
「なら宦官になってそうじゃない?」
『見て無いもん』
「あぁ、それもそうね、よっこいしょ」
『見ないよマジで、絶対』
「じゃあ触る?」
《丁重にお断りします》
「何でアンタまで目を閉じてんのよ春蕾」
《何か、見たらいけない気が、して》
「何でよ」
《雨泽が、俺のを見せようとした時、嫌がられたのが、成程、と》
『女装してる男の下半身見るのって、頭が混乱しそうって言うか、何かが壊れそう』
「意外とビビりよねぇ、雨泽」
《暁霧の暁は、立派だと思う》
『まだめくってんの?馬鹿じゃないの?』
「ビビり」
『変態2號』
「あら言ったわね、押し付けるわよ」
『助けて春蕾』
《暁霧の暁を拝んだ方が良いと思う、多分、御利益が有る》
「無いわよ、と言うか別に、普通の大きさだと、思うわよ?」
『勝った』
「アンタねぇ、その体格で、ちょっと見せなさいよ」
《こうして見る機会に恵まれる、成程》
『成程違う、助けろ』
《花霞に飴を送って頂いたので逆らえない》
「律儀ねぇ、あ、あの飴もダメみたいよ。黒飴を買ってたわ、陰虚か血虚で、陽を補いたくないみたいなのよ」
『あぁ、それで』
《食事も、確かに陽を補うと言うより、陰を補う食事が多かった》
「あの毛色だし、何か、少し不思議な体質なのかも知れないわね」
確かめるにしても、湯殿でバレて無いとなると。
本当に股を開いて貰うしか無くなるんだけど、そこまでする意味も理由も無いのよね、女の子に興味は無さそうだし。




