吉祥果。
話し合いの場が持たれたのは、女官長や暁霧さんから呼び出された3日後。
凄いですねぇ、3日間も黙ってたんですか、凄い。
《注意された事が嫌で、アナタに言いました、ごめんなさい》
「ぁあ、はい」
「はい、じゃあコレで終わりで良いかしらね?」
《はい》
えー、私の3日間のモヤモヤタイムを返して欲しいんですけど。
「あのー、もう1つお伺いしたいんですが」
「どうぞ、何かしら?」
「何で3日間も掛かったんですかね?私、この3日間、私の何が悪かったのか合間合間に悩んでたんですよ」
あー、女官長さん、渋い顔してるぅ。
「答えられそうかしら」
《すみません、何でか分かりませんでした》
凄い、下唇噛んだら嘘だってバレちゃうのに。
どんだけ甘やかされて育ったんですかね、この子。
「だそうだけれど、他にも有る?」
面倒だし、もう良いかな。
「はい」
そう、嘘はこうして使うべき。
「そう、お疲れ様金雉、下がって良いわよ」
「はい、失礼致します」
そして復帰と同時に新しい名を与えられてたけど、石榴。
扶桑国の鬼子母神の吉祥果、柘榴。
コレ、教えてあげるべきなんですかねぇ。
《石榴が、扶桑国の鬼子母神の吉祥果》
「はぃ」
『ふふふふ、流石金雉、はい、そうです、ふふふ』
《ふふふふふふ、あははははははははっ、良いわ、凄く良い、うん、やっぱり自分で手を下すべきでは無いって本当ね。凄く良いわ、ふふふふふ》
お父様やお母様に、決して自分では手を下すな。
友人知人も決して巻き込むな、と言われて凄く不満だったのだけど。
はぁ、最高ね。
「で、言うべきだと思います?」
『そこは私に言わせて下さい』
《いえダメよ、決して関わるな、関わらせるなと言われてるのだから》
『いえ、今回は金雉を守る為です。また次も、言ってくれても良いじゃないか攻撃をかわす為、敢えてコチラから打って出るべきです』
「凄い時間の無駄が出るかもだよぉ?」
『私、黙る方って初めてなので、是非とも挑戦させて下さい』
《良いの?関わってしまう事になるのよ?》
『そこはお任せを、既に策は練ってあります。私の為、花霞の為に出撃の許可を』
コレはきっと、私と小鈴だけの仲だったなら、起こり得ない事。
私、とても友人に恵まれてしまって、結婚出来るかしら。
《宜しくてよ》
私、1度、対峙してみたかったんですよね。
『失礼します、字は石榴、モンゴル共和国、柔然族の郁久閭・紗那様でらっしゃいますでしょうか』
《はい、貴女は》
『字は翠鳥、玄・小鈴と申します』
《あの、何か》
『石榴の扶桑国での由来をご存知でしょうか』
あ、ざわついてるって事は、知ってらっしゃる方も居るのね。
《いえ》
『そうですか』
ココで聞きたいかどうか、選んで頂かないと。
善意の押し付けになってしまいますからね。
《あの、由来をお伺いしても?》
あぁ、ココで言って良いんですね。
『扶桑国では吉祥果とされています、鬼子母神の』
無学ならご存知無いでしょうが、他者の子を攫って食べる女神様。
そしてお釈迦様によって改心し、鬼子母神となった方。
《何も、こんな所で》
『ココでお聞きになったのは、石榴さんでは?』
あ、手を挙げる方なんですね。
私、初めて他人に叩かれる。
「せいっ」
危ない、顔はダメですよ顔は。
ボディにしないと。
『あ、金雉』
「何で打たれ様としますかね」
『私、他人に叩かれるのって初めてなので』
「でもダメですよ顔は、せめて体じゃないと、下手をすれば失神しちゃうんですからね?」
『そんなにですか?』
「そうですよ、特に顎先を掠っただけ、とか逆に危ないんですから。ヤられるなら慣れてる方にして貰っ、ダメです、真芯を捉えられても気を失うそうですから、兎に角顔はダメです」
『成程』
「そうですよ、全く」
『あ、何をしたんですか?』
「それは」
《どうして!何で私を虐めるの!》
「いや貴女が加害者にならない様に防いだんですよ?翠鳥の後ろ、机ですよ?頭を打ったら最悪は死ぬかも知れないのに、貴女は手を挙げた、殺人を防いだのが虐めってどう言う事ですかね?」
《私は、別に、そこまでは》
そこまでするつもりが無かった、のか。
そこまで考えて無かった、のか。
どっちなのか、又は両方なのか。
あ、黙りタイム始まっちゃったか。
「私、女官長さん達を呼んできますね」
『私は構いませんが、どうしますか、石榴さん』
《その字で呼ばないで!》
「そうですか、それで、呼びますか?呼びませんか?」
大事にしないか、するか。
判断を委ねるだけ優しいと思うんですけど、その優しさが、多分全く分かって無さそう。
勿体無い。
こんなに良い世界なのに。
『判断が付きませんか、郁久閭・紗那さん』
『私、呼んで来ます』
《そんな、待って下さい》
あ、前々回に関わった青燕さんだ。
『時間は有限、私達もこのままで良いとは思いません、部外者として敢えて女官長さんに。いえ、総女官長様と奥様に言わせて頂きます』
《貴女には関係無いじゃないですか!》
いや青燕さんは無関係とは言い難いかと、前々回に関わってて同じ尚食なんですし。
「いや尚食ですし無関係とは言えませんよ、刃物も有る調理場でのお仕事でシコリを残すのは良くないですし」
《貴女、私が》
『今さっき、実際に翠鳥に手を挙げて金雉に防がれたじゃないですか』
《それは、でも、手を出しては》
いや刺さって無いから刃物を振り回しても無罪、なワケ無いじゃないですか。
「いや」
「はいはい、あらあら凄く空気が悪いわね。関係者は総女官長室に来なさい、可及的速やかに」
「あー、お片付けがまだなのですが」
「近くの者に任せなさい」
「はい、すみません、宜しくお願い致します」
近くに居たのは金絲雀たん。
カナリアたん、私の幼馴染なんですよね、はぁはぁ。
『はいよ、お任せなさい』
良い子。
「はい、それで、誰が説明するのかしらね」
『字は翠鳥、玄・小鈴と申します、事の発端は私ですので、宜しいでしょうか』
「良いかしら、郁久閭・紗那さん」
《はぃ》
うん、理路整然としていて分かり易い。
大人しくて地味な雰囲気は有るけれど、媚びず怯まず、良い度胸だわ。
「はい、それで、不足分は有るかしら?」
《翠鳥さんも金雉さんも、北朱雀の、葉赫那拉・美雨の友人なんです》
「青燕さんは北朱雀とお知り合いですか?」
『いえ、ですが前回と前々回、そして今回、見過ごすワケにはいかないので割って入りました』
《どうして皆さん虐めるんですか?!》
「あのー、素直な疑問なんですけど、もし仮に虐められてたとして。本当に原因が分からないんですか?」
分からない。
と言えば馬鹿だと言うも同然、かと言って、改めて理由を説明するのも屈辱的。
だから黙るのよね。
どう言い逃れをすれば自分を守れるか。
そうした考えの中に、他人の時間までも気にする事は皆無。
要するに、思い遣りが無く自尊心しか無いのよね。
はぁ。
「分からないのかしら」
分かってても言えないのよね、自尊心が傷付けられるのが死ぬ程嫌い。
なのに自覚は無い。
《何で、どうして》
「論点ずらしは結構。退宮処分とさせて頂くわね」
《そんな、すみません、次こそはちゃんとします》
で、同じ事を繰り返すのよね。
「今回は徳を積む為、1度だけは見逃しても良いわよー、って子は居るかしら?」
あら、流石に無条件では厳しいわよね。
『失礼します、同じ尚食の青燕と申します』
「はい、どうぞ」
『尚食では火や刃物を使います、なので同じ尚食で働く事は難しいかと、かの大根事件も御座いますので。せめて金雉だけでも役職を変えて頂けます様、進言申し上げます』
うん、完璧ね。
《別に私は殺そうとしたワケじゃ》
「あ、それよそれ、何をしたの金雉ちゃん」
「ココのツボを狙って指を打ち込みました、外れたら肘当てをしようと思って、突っ込みました」
「で、見事に当たって蹲った、のね?」
《まだ、痺れてて、幾ら何でも》
「あら殺人犯になりたかったの?」
《そんな、違います》
「殺そうと思って相手が死ぬ事だけが殺人事件では無いのよ?そこは分かってるわよね?」
はい、だんまり。
『暁霧さん、私達の時間は有限です、ご処分が決まるまで下がっても宜しいですか』
「そうね、一先ずは仕事に戻ってて」
『はい』
『はい、失礼致します』
「失礼します」
「はい、で?」
《誤解なんです》
「そう、じゃあ部屋に戻って証言を提出し終えるまで謹慎とします、では」
《待って下さい!字を、お願いします、変えて下さい》
「コレで最後よ、火棘」
《そんな》
「はい、下がって。私達も貴女だけに掛ける時間なんて本当は僅かしか無いの、平等に接するのが基本だから、嫌ならお家に帰りなさい、お嬢さん」
また、謹慎。
何かちょっと羨ましいかも。
『金雉』
「はい?どうしました青燕さん」
あ、暁霧さんだ。
手招きしてる。
『お呼びでしょうか』
「怒られます?」
「あら、何を怒られと思ってるのかしら?」
「暴力ギリギリの行為で止めたので、そこかなと」
「打つ方の手も痛む、暴力が嫌なら暴力を振るわなければ良い、嫌なら手を挙げなければ良かったのよ。ただね、どうしてツボを狙ったの?」
「ココぞと言う時に狙えるか試しました。それと腕を引く、とか身を呈して庇う、とかも考えたんですけど。腕を引いて脱臼させても嫌ですし、庇った際に向こうが髪飾りで怪我をしたり、コッチがケガをするかもなので。一か八か、教えられた護身術を発動させました」
「護身術」
「はい、店番をしてるので、いざという時に教えられました」
「ご家族全員?」
「はい、特に兄弟や従兄弟はもっと凄いんですよ、商品とお金と身を守る為に親族の殆どが身に、付けて、ますけど、変ですか?」
「いえ、変と言うか、そんなに治安が悪く無いわよね、中央って」
「はい、ですけど治安は急速に悪化するものかと、そうなってからでは遅いですし。一応、私も子女なので、はい」
怪我をさせかねない大技は見て学ぶのも禁止されてたんですよ、危ないからって。
「中央って、大変なのね」
「あ、いえ、もしかしたら他の家は」
『金絲雀さんも学んでいるそうですよ』
「あ、お知り合いで?」
『少しですがお話させて頂く機会が有りましたので、はい』
「良い子なんですよぉ、えへへ」
『ふふ、そうですね』
「あ、そうそう、取り敢えずは火棘の字を授けておいたわ」
ピラカンサ。
ココの鬼子母神の吉祥果じゃないですか。
「それ殆ど変わって無いのでは?」
「石榴では無いわよ?」
「まぁ、そうですけど、大丈夫なんですか?流石に本格的に追い詰められ過ぎでは」
「別にココへ縛り付けてるワケでも、請うてるワケでも無いんだもの、嫌なら帰ったら良いのよ」
「いやー、婚約の条件が四家巡りだそうですし、意地でも居座るのでは?」
「ね、けれど真実の愛だか運命相手なのだから、苦難を乗り越え頑張れば良いだけ。と言うか自ら撒いた種に足を取られてるだけで、私達は何もしてないわよ、ねぇ?」
『そうですね』
「えー、あまりココが悪く言われるのは嫌なんですけど?」
「あら、私達はお釈迦様を見習って改心を促しているだけ、よね?」
『はい、仰る通りで』
「あー、まぁ、最初からそう思って然るべきだとは思いますけど。愚か者は何処までも愚かですから」
「そこも、親御さんにはしっかりお伝えするから大丈夫。あの子ね、祖父母に育てられた子らしいの」
「あー、白家の昔話と同じ感じですかね」
「あら良く知ってるわねぇ」
「西の都下でお土産屋を親戚が営んでまして、白家由来のお土産を売ってるんです、白虎に白菊と姑獲鳥が対峙している包袱や。石榴や火棘を持つ鬼子母神が白菊に囲まれている物等、義父母様へのお土産にと、儲けさせて頂いております」
「あら、ふふふ、それで」
「はい、初対面の際に持って行くと義父母と仲良くなれる、と好評なんです」
「ふふふ、良いご商売だわね」
「ありがとうございます」
「暫く人手が不足するだろうけれど、直ぐに入れるから待っていてね」
「はい」
『後は、何か』
「後で妖精さんの贈り物を届けるわね」
「えっ、あ、はい」
『ありがとうございます』
「はい、じゃあね」
飴ちゃん。
何味が来るんだろ。
『あの、金雉さん』
「あ、あのですね、どうやら四家には妖精さんが居て……」




