討論会。
《では、また》
「はい、気を付けて行ってらっしゃいませ、春蕾さん」
私達より先に次の家に行くから、と。
白家への移動日より1週間前に挨拶に来てくれた。
そして朱家の四の宮様も行くかも、と。
なので嫌じゃないかの確認もしてくれた。
優しい。
《あーら、何をニマニマしてらっしゃるのかしら、枇杷》
「おはようございます薔薇姫様、本日もご機嫌麗しく」
『好きですねぇ、ご令嬢ごっこ』
《1周して今こそ面白いのよ、ねぇ?》
「ですよねぇ、子供の頃は何となくしてたごっこ遊びも、今理解した上でやると凄く楽しい」
《そうよ、恥ずかしがったら負け。小李子もやったら宜しいのに》
「そうですわよお嬢様」
『でも、枇杷がご令息だと、取り合いになるのでは?』
《そこは上手くやるわよね?》
「昔から大きかったので男の子役は慣れてますの、チョロいですわ」
『おはよう枇杷、今日もアナタは素敵ね』
《やるわね小李子》
「両手に花で僕は何て幸せ者なんだろう」
《本当に慣れてらっしゃる、流石私の枇杷ちゃん》
『あら私の枇杷ちゃんでも有りますのよ?』
いやぁ、こうして性格が出るんですねぇ。
葉赫那拉様は先ず自分のだと主張し、すかさず小鈴は共用なのが当たり前だろう、と応酬しました。
実に面白いですねぇ。
《ふふふ、見事に流行ったわねぇ》
『ですねぇ』
移動日前は、次の家への不安と期待で時におかしな事が流行る、とお姉様方に教えて貰ったのですけど。
見事に影響されてくれましたわね、皆さん。
「あ、四の宮様だ」
『それに奥様に、当主様も』
《コレは、大きな行事になりそうね》
『やぁやぁ諸君、今まで大変だったかな、楽しかったかな。そろそろ最後の〆に、当主の僕と妻から最後の話をするから、良く聞いて考えておくれね』
「では本を配りますので、目を通しながらでも構いませんので、静かに聞いて下さいね」
奥様が話して下さったのは、本にも書いて有る通り、愚か者を装っていた男に引っ掛かった女の話。
『先ずはどう思うか、4つの組に分けるよ』
最も愚か者の男に共感する者、引っ掛かった女に共感する者。
どちらにも共感出来無い者、どちらにも共感する者、と。
《ご機嫌よう》
そして私はどちらにも共感出来無い者の方へ。
少し偏ると思ったのですけど、意外にも殆どが均等ですわね。
小李子は引っ掛かった女の組へ。
そして枇杷ちゃんは、愚か者の男へ共感する組へ。
「では、討論会を初めて頂きますので、討論の約束事をお伝え致しますね……」
薔薇とも枇杷とも離れてしまったんですけど、コレはコレで面白い事になりそう。
コレは次の白家と、私達の為の予行演習。
討論や議論が盛んだとされているんですよね、白家。
《えーっと、代表者を決めるんですよね》
『私、西国に近い者でして、提案しても良いですか?』
「あ、はい、お願いします」
『先ずは私達の共通する考えを誰かに書いて貰うんです、代表より書記の方が自信の有る方、挙手を』
そこからはもうジャンケンで決めて、書記と書記候補者の名前を書いて貰ってから、感想の言い合いを始め。
そして有る程度出し合ったら、次は賛成票が少ない方へと議論して。
代表者を決めるのは書記と書記候補者、同数はジャンケンで。
そう、ココで言い出しっぺの法則が出てしまう事って、多いんですよね。
困る、話し合いは好きですけど、この場合の議論は別なんですよ。
「おー、向こうは小李子ちゃんかも、なら勝つかもですね」
コレ、その小鈴から聞いてたんですけど。
完全にディベートなんですよねぇ。
『纏まった組から休憩ね~』
似てる、声も顔も似てますねぇ、ご当主様と四の宮様。
けど体格が違う、四の宮様は私と同じ位か少し小さいか。
比べられて大変、とか有るんですかね。
無さそうだけど。
「じゃあ、1番多く感想が出た人が代表って事にしちゃうか、何か案は有ります?」
で、両手を使っての指差しで多く票が入った方へ。
うん、決まって良かった。
『では、討論を始める前に、ココに何人か来させるけど気にしないでね』
ぉお、観衆付きですか。
エグい。
「はい、お疲れ様でした」
『コレはあくまでも討論、個人への批判じゃないって事を改めて良く思い出してね。じゃ、解散』
「あ、お菓子は持って行って、茶器は置いておいてね」
結構、白熱しましたわね。
『はぁ、良い討論会でしたね』
「いやー、私が思ってたのと違う方向に行っちゃいましたねぇ」
《あら枇杷ちゃん、どう違ったのかしら?》
「あんまりにも少数意見そうなので止めたんですよ、言うの」
《あら、聞かせなさい?》
「アレ、前提として皆さん今を想定してたかと」
《まぁ、そうね》
『はい』
「私、アレ、もっと昔だと思うんですよ。それこそ四家出来立てホヤホヤ、愚か者って大昔だと示す寓意だって事も有るとも、聞いたので」
そうして花霞が語ったのは、神話の古代の王だった場合、多分に同情出来ると。
《まぁ、確かに少し愚かな描写も有ったと言えば有ったわね》
『それに議論の大前提を決めませんでしたもんね』
「そうそう、だからまぁ、私は今なら女性側に同情しますけど。古代神話でなら男性側、異国ならどっちもどっちになりそうな話だな、と」
《はい有能》
「えー、きっと白家ならそこまでやるんじゃないかって考えての事なんですけど?」
『花霞、討論をした事が?』
「家で、家族とだけ、あ、親戚とも。しますけど、しません?」
《それ、全員が全員?》
「いえ、特に話し合う気が無い者は観客役で、途中参加有り。で観客からの投票が多いと、お菓子とかお金が貰えます、負が多いと参加禁止も有りますけど。コレ、普通じゃない?」
《観客有りは、ちょっと》
『もー、何で代表にならなかったんですかぁ、絶対にもっと面白かった筈なのにぃ』
「だって討論は血縁者以外はダメだって言われてるんですもん、ウチは個人への言及有りだし、一応の審判も立てますから」
『本格的だけど邪道』
「最初のお約束事を聞いて、あ、コレ無理だなと。絶対に出ますもん、悪い癖、個人批判」
《取っ組み合いの喧嘩になりそうなのだけど?》
「なのでお互いに裁定者を立てて、度が過ぎると注意、警告、即退場、向こう何回かの出場や参加禁止、罰金も有ります」
驚いた、まさに格闘技じゃない。
『凄い、荒々しそう』
「そうでも無いですよぉ」
ルール無用の残虐ファイト、に見えますけど。
もうアレです、京言葉で殴り合う感じですね。
良くお考えになったみたいですが→良く考えなかったなクソボケ、底が知れるわ、反論したろ。
本当にそれで宜しいんですね→論拠の穴が有るからコレからブチ落としますわね。
言い回し、語彙に気を付けたり学ぶ様になったので、本当に助かりました。
《その決まりで戦う枇杷を見るには、ご家族が居ないと無理かしらね》
「ですねぇ、惚れっぽいクセに一途を求めんなお前の付き合う相手に全部バラしてくぞクソが。って言ってもお咎め無しとかも有りの、私怨がバキバキに入った、ほぼ口喧嘩の時も有りますからねぇ」
従兄弟が従姉妹に言っててノーカンだったので、それもそれで晒し上げの一環になる、と言うかなっちゃうと言うか。
確かに、結構ルール無用だ。
《一体、何をなさったら、何を討論すればそうなるんですの?》
「ウチでは珍しく婚約者が居た者で、他に気になる者が出た事で、破棄前の討論ですね。運命で真実の愛とは何か」
『それで、それは、本当に口喧嘩では』
「まぁ、ですねぇ」
虚偽を言ってはならない、とは有りますが。
不名誉な事実を口にしてはならない、とは言われてませんからね。
《でも、仲は悪くないのよね?》
「悪いのも居ますけど、それで困るのは本人ですし、余程の事が無いと仲立ちは推奨されてません。寧ろ雰囲気を悪くしている2人への弾劾討論会が起こる事は有りますけど、まぁ、稀ですね」
『尊重して下さってるんですね』
「はい」
あー、本気でウチが普通じゃないって気付くの、初めてだ。
いや、でも、他の家もそうかもだし。
『他と違うな、と思う点は、もう、動物の多さですかね』
「あー」
《そうなると、ウチ、平凡かも知れないわ》
「えー?」
《だって、本家に蔵書が多いから良く入り浸ってた、とか》
『ウチが本家になるので、まぁ、ですね』
「何か、約束事とか」
《そこよねぇ、普通に話していて特に変わっていると思う部分は無いのだし》
『そうなんですよねぇ』
「まぁ、如何に気付けないかが分かりましたね」
《まぁ、そうね》
友人と討論をしてみたかったんですけど、多分、私は花霞に負けますね。
家族や知り合いに手加減して貰っての、謂わば練習しかしてこなかったんですし。
「あ、って言うか白家ってそんなに激しく無いんですかね、討論」
『具体的な明言を避ける様に言われてるそうなので、ただ、非常に面白い、としか聞いて無いんですよ』
《五行から整理してみましょうか》
『白家はですね……』
方位は西、白虎を祀り、五徳は義。
五麟は索冥、白い麒麟、五龍は銀龍。
五官は鼻、五事は言、温かく思い遣りの有る言葉で話し掛ける事。
《ぁあ、良い匂いをさせない方が良いわねぇ》
「もー、まだ1例だけじゃないですかぁ」
『でもキツい言葉遣いよりは楽では?』
「あー、確かにそうですけどぉ」
『しかも五主は皮毛ですし』
《次の次の墨家は髪、コレで2回も続けば次も、よねぇ》
「変な予言すんな?」
《あーら予言だなんて、予測よねぇ?》
『ですねぇ、あ、道中でお祓いなさっては?それか易者に占って貰うか』
「えー、お祓いはまだしも、占って信じて無いんですよねぇ」
《なら結果は私達だけ、お代は私が》
『なら2人で払いましょう、ふふふ』
「えー、それ気になるじゃーん」
《信じないんだし良いじゃない、ねぇ?》
『そうですよ、それでニマニマしない様に努力はしますし、お代を払ってくれたら聞かせますよ?』
「ぐぬぬ」
《なら各人でそうしましょうか》
『あ、良いですね、其々が知ってるけど本人は知らない。ふふふ、楽しみですねぇ』




