四の宮。
「映さん」
《少し、良いですか?》
「あ、はい」
朱家の四の宮様が小李子や薔薇姫と話し合ってから、翌日の夜、やっと春蕾さんから声を掛けて貰えた。
本当に毛色の事だけで興味を引いてたのか心配だったんですよね、下手をすれば転生者だとか邪教の信者だ、とか疑われてるんじゃないかと。
《雨泽様がご迷惑をお掛けしました、と。何かお困り事は無いですか?》
「いえ、泰安に過ごせておりますので大丈夫ですよ」
本当は、何か有った時の為に、知らせる手段を知りたいんだけど。
連絡手段や方法を聞いても良いのかしら、必要になれば春蕾さんが教えてくれるだろうし。
だから言わないって事は、もしかしたら私の為に言わないのかもだし。
《本当ですか?》
あら、顔に出して無い筈だけど。
「あのー、もし会いたくなったら、お話したくなったらどうすれば良いか、聞こうか悩んでたんです。前とは事情が違うので」
《何か》
「いえ、何も無いし、何も無いと思うんですけど。今まで教えて貰えなかったって事を考えると、その必要性を感じて無いからかな、と」
あー、何この間。
余計な事だったかしら。
《花霞が、会って、話したい時の為の、連絡方法をと》
いや凄く嬉しそうだけど、多分、同性の先輩としてだよね。
『それで、方法は?』
《伝書紙を渡しておいた》
『アレ凄い高いのに』
《だから先触れ用だけの品を渡した、回収した紙は、会えた時に、渡す》
『照れるな照れるなその姿で、マジで頭がおかしくなりそうだ』
女の姿で恋する乙女の顔で微笑まないでくれ、俺の頭が混乱し続ける。
《あ、すまなかった、ありがとう》
『いや、本当に具合が悪くなられても嫌だし、そろそろ本気で次の手を考えないとなんだし』
この変態はマジで白家にも行くのか、そもそも受け入れて貰えるのか。
ぶっちゃけウチは面白そうだから受け入れたんじゃないのか、と思ってる。
けど白家の五徳は義、どちらかと言えば堅物だと噂される事が多い。
公私で言うところの公を大切にし、道徳と正義を重んじる。
五経は経典を意味する、礼。
国内外の宗教や習俗を集め翻訳し、管理もしている。
宗教とは律法。
謂わば民法、法律に関わる者を多く輩出しているとも聞く。
法で補えぬ部分は情で補う、とか表向きには言ってるけど。
賄賂まみれだとも聞いてて、本当かどうかは不明。
《白家か》
『金剋木、相克的には最悪じゃん?』
《そこを言われると、俺は木剋土で花霞と》
『そこはほら、木虚土侮、土侮木かもで。じゃあ関わるの止める?』
《いや》
『迷いねぇな。なら相手を育てれば良いじゃん、敬って培って、釣り合いが取れる様にすれば良いんじゃないの?』
《その前に、どう、受け入れて貰うえば良いのか》
『それ枇杷ちゃんの事だと思うけど、その前に白家でしょうよ』
《経典での関わりが有るので、多分、大丈夫だと思う》
『えー、賄賂?』
《いや、いや、まぁ、そうとも言うかも知れないが、融通は利かせて貰える宛ては有るんだ》
『俺も行きたいんだけど、どうなの?』
《男の姿でなら》
『男でだよ馬鹿野郎、君と同じにしないでくれ』
《似合うと思うが》
『嫌だよ、西洋の水仙の精霊みたいな事になったらどうしてくれんの?』
《取り敢えず、殴って正気に戻らないかを試す》
『俺、一応は病弱者なんだけど?』
《針は》
『試した、気功も試した。後はもう、国外のだけ』
《敢えて逃げ道を残しておいたのか》
『そらね』
《成程、本当に花霞が狙いじゃないなら協力する》
『おっ、何か良い案が?』
《道中で西洋の怪しげな薬を買い、飲み、効いた》
『あー、俺らだけで先に移動するしな。アリかもな』
《幻の薬売りか、夢で薬を得て飲んだ、か》
『周りに信じて貰えないなら、俺が実はちょっとアホだったって事で済むし。何でそんなに策士のクセに、どうして女装したまま関わるかね』
《ぅう》
『後悔何とかが立た、大丈夫だよな?使い物になるの?』
《痛みが無い方の貞操帯を付けて貰ってるんで、多分、使える筈》
『無いのかぁ』
《有るのか》
『無い無い、病気怖いし、それこそ遊びで名器に当たって嫁がガバガバとか悲惨過ぎるじゃん?』
《そこは、そこも育てるべきなんじゃないのか?》
『にしてもじゃん、男は大きさを変えられないし。男は目に見えて分かり易いから、容易くは誤魔化しが利かない、で初手でガッカリは相当クるらしいし』
《そうなのか》
『だから自信の無い男は体格が小さい女を選ぶんじゃん』
《実態は分からないらしいが》
『でも、だからでしょ』
《俺は別に自信が有るワケじゃないからな?》
『無いの?』
《ココには勃起したモノを比べる機会が有るのか?》
『いやー、無いけど、元の大きさってもんが有るじゃん。見せ、いや、いいや、コレで見たら本当に頭がどうにかなりそう』
《医者には、問題無い、とは言われている》
『勃起時に約13分有れば妊娠させられるらしい』
《その倍は有る》
『それ以下、23分から短小なんだって』
《いや、大丈夫》
『俺も』
《小さくて華奢な女が》
『愚か者演出だってば、簡単に御せる女しか無理とか逆に反吐が出る、虐げて操る気満々じゃんか』
《成程、巨女好きだっ》
『そうも言って無いよね?つかマジで何も無いから逆に困ってんの、誰がどんなに褒めても、へーって』
《俺もそうだった》
『深く知らないからだー、とか言われてもね、知ってみても大した事無いとか多いし』
《ノリが悪い、男色家か》
『それなー、冗談なら良いけどさ、本気で言われて友人辞めたの居るわ』
《分かる、俺も縁を切った》
『だよなぁ、説明が面倒になって直ぐに切ったわ、注意してやる義理も何も無いし』
《いや、言って切った。阿らないからと拗ねるヤツと一緒に居たくない、と》
『そこが仁かぁ』
変態だけど優しいなぁ。
「あの、春、映さんは」
《2人だけの時は春蕾で大丈夫ですよ》
「あ、はい」
《大丈夫ですよ、何でも言ってくれて》
「本当ですか?聞いても良いですか?」
《言えない事も有りますので、言える事だけですが》
俺の何を聞きたいんだろうか。
もしかして、女装なのがバレて。
「あの、春蕾さんは、次も、次の家に来てくれますか?」
《それは、良い意味で、でしょうか?》
「はい、勿論ですよ、やっぱり既知の方が居るかどうかで心持ちも変わりますし。でも、次はあまり関わってくれるな、とかが有れば、今のうちに聞いておこうかなと、心構えも必要なので」
可愛い。
慮ってくれるだけじゃなく、心の拠り所としてくれるだなんて、嬉しい。
けれどコレは女の春蕾への気持ち。
コレでもし男だとバラしたら、バレてしまったら。
幾ら優しい花霞でも嫌になる筈、嫌う筈。
やっぱり、本気で宦官の道も考えるべきかも知れない。
《寧ろ花霞がどうしたいかに合わせますよ》
「次で四の宮様みたいな事が有ったら、どうしようかな、と。本当なら私達だけで解決すべきだとは思うんですけど、何分、稀有な見目なので。あまり友人を憤らせても、アレだな、と」
《そこは本当に、すみませんでした、御せず》
「あ、いえ、寧ろ春蕾さんが関わってるって聞けただけでも安心で。なので、もし次も居てくれたら、助かるなーと」
《なら、私が花霞の事を良く知って、お伝えするのはどうでしょう?》
「お手間では?」
《いえいえ、ただ、もし嫌なら》
「いえいえいえ、とんでもない。けど、ウチの決まりで、春蕾さんの事も教えて貰えませんか?」
《では、交換で》
「はい、ありがとうございます」
それから花霞の好きな料理、果物、好きな色や花。
嫌いなモノ、縁起が悪いからとしない事、縁起を無視して行う事。
様々な事を知る事が出来た。
朱家の四の宮には、本当に礼をしなくちゃならなくなった。




