113 裏事情。
「先生、どうしたらこうなりますかね?」
「さっぱり分からんが、雨泽がサイコパスだと考えるなら、刺激を欲するのは順当な反応だろうな」
『だからって女になろうだなんて、本当にサイコパスなんですね』
「ルーちゃんでも分かりませんか?」
『判別を付けようとする時は大概は嘘か本当かで、確かに罪悪感が殆ど無い罪人も居ましたけど、そこだけで言うと穏やかな人も似た気配なんですよね』
《じゃよ。穏やかな者と気配が非常に良く似ておるんじゃよ、博愛主義者と呼ばれる者じゃが、まさに表裏一体じゃな》
「成程な、だからこそ加護が必要なワケだ」
「うん?どう言う事でしょう?」
「かなり深い」
「止めときますぅ」
『僕は聞きたいのでお願いします』
向こうの世界では黄帝が有名らしいが、ココでは炎帝、神農の方が圧倒的に有名で信仰も厚い。
そして炎帝の姓は風、元は伏羲の姓とされ、謂わば神の直系とも言える。
片や黄帝は炎帝の子孫に碌な物が居なかった為に、血の繋がりが無いものの医術に特化していた姫 軒轅が黄帝として指名され、後に四家へと繋がるんだが。
当時は後宮が有り、転移転生者も居た筈。
なら、黄帝の代で一党独裁を崩す計画が最初から成されていた、とすればだ。
「朱家は南を司る炎帝の直系、かも知れん」
《じゃの》
「つまりは、向こうの神話を土台にした台本が、既に有ったんだろう」
《じゃの》
『えっ、じゃあ、コレも』
《いや、神代までの事じゃよ、人の世に移り変わってからは無手じゃ》
「無手では無いだろう、ルーが居るんだ。だが、成程な、辻褄合わせや帳尻合わせの必要が出たか」
《ほう、ついでじゃ、最後まで言うてみい》
「転移転生者が炎帝や黄帝となり国を動かしていた、だが監視装置の無い時代だ、どうしても子孫には監視と加護が必要となる。その方便は神の直系、炎帝の子孫だからこそ、だがその加護が子孫により悪用された」
《じゃの》
「そして政権分散の為の代替わりの合図としても、黄帝が出現、四家の整備が始まった。そして後宮解体に伴い四家へと皇子達を移動させ、その中に炎帝の子孫も居た、か」
《じゃの》
『先生、凄いですね本当に』
「何せ元は陰謀論者だと揶揄されていたからな、陰謀論者たるもの、こう考えて然るべきだろう」
『そこ自負するんですね』
「おう」
『でも、今の代まで加護する意味は』
「それこそ王家が無いと国が傾き易いんだ、治安維持の為、そして実際に四凶を出さない為。だろう」
《じゃの。遺伝なる要素が強くてのぅ、血筋に稀に出たんじゃよ、法力の容量が多く悪しき考えを持つ者が。じゃからこそ四凶とし、退治すべき悪としたんじゃが》
「途絶えさせる程でも無い、と言うか、だからこそだろう。介入の口実にしているんだろ、加護だと言い張らせて」
《じゃの》
『なら、コレから先も四凶が出るって事ですよね?』
《じゃの》
『そこは加護で抑えるワケにはいかないんですか?』
《今ではもう四家からだけ出るワケでは無い、しかも赤子の未来は不安定じゃ、どう育つかは人次第。さっさと取り上げては、更に先の未来を変えてしまうで》
「そうなれば介入度合いが過ぎる」
《じゃの。人は脆く不安定じゃ、じゃが同時に良く傾く場合も有る、複雑な者の未来は特に読み難いんじゃよ》
「何せ赤子だからな」
《じゃの》
『その、四凶を根絶させるワケには』
「抑止力だ、無理だろうな」
《じゃの、恐怖の対象も無くては困るでな、そのままにしておる》
『それは、麒麟が成すのでは?』
《お主の神獣と一緒じゃよ、転移者にのみ寄り添いたいと言うでな、その弊害じゃよね》
「動物にも意思が有ると言うしな、仕方無い」
『でも、四凶ですよ?』
「必要悪、この言葉で済ましても良いんだが、お前には妖怪の知識が必要そうだな」
《じゃの》
「おい、もう良いぞ」
「はぁー、今回は随分と長かったですね?」
「おう、少しな。お前の国の妖怪について、少し頼めるか」
「あー、ご不浄に行ってからでも良いですかね?」
雨泽ちゃんが私を受け入れるかどうか。
の前に、こうなるなんて。
『女にしてくれる妖怪とか居ないの?』
「あー、どうなんでしょう?」
『僕は会った事は無いですけど、近い者なら、大事な部分を盗む妖怪は居るそうですよ』
『いや寧ろ大事な部分を与えて欲しいんだよなぁ』
「アンタ大事だとは思ってるのね、心持ちについて」
『まぁ、けどアレだよ、半ば反骨心。常人と同じ心持ちを得たら、本当に優しくなれんのか試したいんだよね』
「アンタ性格が悪いって、言われない様に黙ってただけなのね」
『うん』
「けどまぁ、性格が悪いって言うより、好奇心かしら」
『気になるじゃん、本当かどうか確かめられんの俺位だろうし』
「まぁ、そうねぇ」
「でも大変ですよ?月経前から気分や体調に変化が起こって、それこそ、いつ来るんでしょうね?暁霧さんの月経」
「あぁ、そこは、気を付けておくわね」
「念の為に下着を着けてた方が良いですよ、何も無しにいきなり来る場合も有るので」
『やっぱさぁ、そう山だ谷だって常に有るからかね、俺ら平坦と言えば平坦じゃん?』
『まぁ、そうですね』
「あら本当?道士様、ムラムラしてイライラしないの?」
『まぁ』
『あー、俺はそれも無いからなぁ』
「湯薬も針も試したんですよね?」
『それっぽいのは一通り、それこそ媚薬とかも試したけど、酒の方がまだマシ』
「ちょっと、それでムラムラしたらどうするつもりだったのよ」
『自慰』
「色気が無いわぁー」
『特製の物が有りますけど、使ってみますか?』
あら、これって良い機会に。
ならなかったら、もう、絶望よね。
実際にちょっと手を出したのに、相変わらずなのだし。
でも、あの時は男だから。
でも雨泽ちゃんとしては、男同士の方が楽でしょうし。
『この雰囲気、突っ込んで良い?』
「止めといて貰えますかね?」
『成程。試してみるわ』
「道士様、それって男と女だと、どちらの効きが良いのかしら」
私の質問の意図、分かってくれるかしら。
『どちらも、ですが、女性の方が効きが良いかも知れませんね』
「ルーちゃん」
『成程ね』
良い反応をありがとう、花霞ちゃん。
「ルーちゃん、どうして女色家は良いんですか?」
『良い、と言うワケでは無いんですけど。受け入れると言うか、受容するとなると』
「男は皆好きだろう」
「は?」
「女は男色家を、男は女色家を、各国共通だと思ったが」
「偏見が過ぎません?私は別に好きでも何でも無いですよ?」
「だが鶺鴒達に聞いたが、どちらかと言えば男色家を愛でる方が楽しいと、青燕に至っては多いとすら言っていたぞ」
「それは四家巡りをした者だからこそ、かもで、男性陣からは聞いたんですか?」
「おう、職人達に聞いたが殆どが」
「えー、男女の睦み合いを見るより、なんですか?」
「男は特にな、自分が下手だと思われたら敵わんからと、見世物小屋には一緒には行かないらしいぞ」
「あー、そこは何か分かる気がしますけど、それは女性も同じでは?」
「いや、寧ろ学ぶ為にもと行くらしい」
「へー、意欲的なんですね」
「まぁ、俺らとは知識の差も、男女差も色々と有るしな」
「あ、先生、本当に雨泽様に何も言って無いんですよね?」
「おう、関連する事項すら言って無いぞ」
「で、暁霧さんに興味を抱かず、女体化に興味を抱くだなんて予想出来ました?」
「いや、だが今思うと妥当だとは思うな」
「何が欠けて予想から外れたんですかね?」
「サイコパス自体の知識、だろうな」
「専門家が居れば良いんですけどねぇ」
『あの、居るんですか?実際に』
「一応、ですけど私の考えはあくまでも、うろ憶えの知識から構築されてるので。実際の専門家の方の考えとは、かなり異なる可能性が高いかと」
「そこも、だな、ココには精度の高い嘘発見器が有るんだ。コレを活用し、是非にも細分化を頼みたいものだな」
「あ、話が逸れてる」
「まぁ、趣味は人其々って事だ」
「そこはそうでしょうけど、どうするんですか?」
「俺は見守るが」
《なんじゃ、お主は反対か?》
「いや反対と言うか、コレ、どう着地するのかな、と」
《知りたいか?》
「んー」
知っちゃったら、もし嫌な方向なら変えたくなっちゃうんですけど。
それって良い事かどうかって言うか、暁霧さんが喜ぶかどうか、で。
「俺は、聞かない方が良いと思うがな」
確かに、悪い結果になるとして、しかも何をしても結果を変えられないなら聞かない方が。
でも、もし何かして、どうにかなるなら。
「ルーちゃん、お願い出来ますか?」
『良いですよ』
すみません、根っからの他力本願で。
《何でも自力で全てを解決する必要は無いでな、良い良い、仲睦まじいからこそじゃよ》
「だがあまり甘えるなよ、何事も程々に、だ」
「はいー」
鈴探しと、重陽の節句の準備の為と、片付けの為に昆明の実家に帰ったんだけど。
家から用事を頼まれたり、先生から追加の買い物を頼まれたりで、鈴探す間が無くて。
縁が無いのか、とか思って麗江に帰って来て荷解きしてたら。
出て来たんだよね、見慣れない鈴。
『暁霧、コレ本物だと思う?』
「私が持ってた鈴とは違うけれど、偽物かどうかは分からないわね」
『勝手に鳴るの待つってさぁ、詐欺に丁度良いじゃん』
「そうなのよ、だから、どうしたら良いのかしらと思って」
『四つ写本して四家の書庫に紛れ込ませて、もし何か言って来たら禁書だから秘密にしろって言うか、禁書って書いておくとか』
「アナタ、天才過ぎじゃない?」
『いや四家に関わる場合だけだし、他は先生と相談したら良いんじゃない?』
「そうね、さ、聞きに行きましょ」
で、俺の案がそのまま通っちゃって。
「そのまま何ヶ所かに置けば何とかなるだろ」
『いや詐欺師の手に渡っても、良いのか』
「本の通りならな」
『いやでもさぁ、神様が何とかするにしても、一応は俺らも何かした方が良いんじゃないの?』
「なら何をしろって言うんだ」
『題とか表紙を変えたり、そもそも内容を変えた物とか、それは後か』
「追々な」
『何でそんな落ち着いてんの?』
「お前はどうしてそんなに慌てているんだ?」
『だってさ、もしかしたらマジで神様と関わるんだよ?』
「だな」
『慣れてる?』
「だな」
『じゃあ、他の本もマジ?』
「知りたいか?」
ただでさえ、ちょっと知って面倒な事になりそうな気配なのに。
コレで知ったら。
『いや、面倒が増えるなら止めとくわ』
「なら聞かん方が良いな」
『それがもう答えじゃんよ』
「どう思うかはお前の好きにしたら良い、実は何も変わらんからな」
『詐欺師っぽい』
「かも知れんな」
『あー、嘘であってくれって思うの、こんな感じなんだ』
「俺に関わればもっと味わえるぞ」
『絶対に面倒そう』
「おう、俺が既に面倒な存在だからな」
『そうでもなくない?』
「表は兎も角、実は面倒かも知れんぞ」
絶対素直っぽいからこそ、冗談でも突っ込めないんだよね。
マジで言われたら困るもん、マジで。
『そう言う事にしておくわ』
「それより玉 陽烏、どうするつもりだ、もう少しで重陽の節句だぞ」
「それが、実は少し体が変化していて」
「ほう、具合でも悪いのか?」
「いえ、その、羨ましいと言った事が神様に伝わってしまったのか。下半身が、こう、徐々に変化してまして」
「成程、観察させろ」
「えっ、あ、私は構わないんですけれど。その」
「あぁ、ならお前も立ち会え」
『えー、うーん、良いけど、暁霧は良いワケ?』
「トゥトクちゃんに嫉妬されるよりは、まぁ」
「ならついでだ、お前が写生しろ、上手いんだろ模写が」
『いや青燕には敵わないからね?』
「構わん、俺は毎日立ち会え無いかも知れんから頼むぞ」
『あぁ、うん』
世話になるかもだし、実際に暁霧が世話になってるし。
まぁ、仕方無いか。
「コレ、死ぬ程恥ずかしいわね」
「まぁ、中身は男性ですもんね、陽烏さん」
元は先生の知り合いって事で、今でも家に住まわせて頂いているのよね。
だから、仕方無いとは思うわ、コレって稀有も良い所なんですもの。
でも、どうしても雨泽ちゃんと二人だけって、どうにも恥ずかしくて。
「本当、ごめんなさいね花霞ちゃん」
「いえいえ、似た方って初めてなので、ぶっちゃけじっくり見れて助かります」
「ぅう」
「あ、恥ずかしいですよね、すみません」
『どっちにしたって恥ずかしがるんじゃん』
「そりゃアンタの事を好いてるんだもの、見られたら恥ずかしいに決まってるでしょうよ」
『なんで?』
「あー、絶妙な質問ですねぇ」
「もう本当、これだから冷徹男は困るわぁ」
『好意を向けないからって冷徹なら、男の殆どが冷徹じゃん』
「確かに」
「そうねぇ、気を向けない程度で冷徹だなんて、アンタ本当に何も言って無いんでしょうね?」
『花霞』
「我こそは、って変なのを冷静に叩き返してるだけ、ですよねぇ?」
「穏便に、は済まなかったのね」
『未だ来るんだよねぇ、しかも母親付きで』
「ウチの娘に惚れないだなんて、どうかしてるわ。って、あんなの居るんだーと思って呆気に取られちゃいましたね」
「私の居ぬ間に、何か凄いのに絡まれてるわね」
私、未だに先生の家から全く出て無いのよね。
先生やトゥトクちゃんの評判に関わる事は勿論、知り合いに会ったら、うっかり話し掛けちゃいそうで。
「あ、偽装のお相手にどうです?」
『いや火に油を注ぎそうだから無理』
「あぁ、確かにそうね、稀に変な情熱を燃やす方って居るから」
『よし、終わり』
「あら早いわね」
「かなり簡易化されてますけど、上手ですね」
『だって毎日だし、最初と見比べて明らかに変化したなってなったら、その都度丁寧に描けって程度だから』
「でもコレ、多分、世には出ませんよ?」
『そこはほら、暁霧が世話になってる対価、みたいな』
この子だけ、とは言っても他に知っているのは先生と道士様だけ、なのだけれど。
ずっと、暁霧呼びのまま。
コレは本当、嬉しい誤算なのよね。
この姿でも、私を暁霧だって思ってくれてるんですもの。
「なら、やっぱりもう少し変化した状態も描くべきでは?」
『あー、コレもう勃つんだ』
「えっ、え?」
「いや深く突っ込まないでくれます?」
『あ、ごめんごめん。けど、まぁ、そっかぁ、成程ね』
「アンタ、成程ねって何よ?」
『いや先生が言ってたんだよね、他にも変化が有れば描けって』
「でもちょっと、こう、そう変化するかは」
「流石に私も通常での模写のみですからね、分かりますよ、恥ずかしいにも程が有りますし」
『なら俺にだけ見せれば良いんじゃね?』
嫌だわ本当、全くそんな気が無いにしても、グッと来る事言うじゃない。
やっぱり、好きだわぁ。
「アンタをそんな目で見てやるわよ?」
『まぁ模写の為だし』
コレよねぇ、上げて落とされるの。
私が本気だって事、全く伝わって無いのよね、この子に。
「えーっと、じゃあ、私は向こうの部屋に居ますね?」
「ごめんなさいね花霞ちゃん」
『つかメシでも作ってて貰ったら?そんな直ぐに勃つ?』
「あぁ、でも」
「あ、料理してますね、元から頼まれてたので」
「そう、ごめんなさいね、ありがとう」
コレが良い機会になれば。
あぁ、確か貰った媚薬が有ったわよね。
『冷えない?休憩する?』
「そうね、お茶を淹れるわね」




