107 夏。
でまぁ、月経が終わった頃には、すっかり暑くなっておりまして。
『あつぃ、水路が無かったら死んでましたよコレ』
《そうねぇ》
『足だけ漬けてるだけでも違いますからね』
「そりゃこんな暑いのに作業してたら死んじゃいますよ、うん、お昼休み大事」
家はまだまだ、でも暑さは日を増すばかり。
ただ間違っても死人を出すワケにはいかないので、最も暑い時間帯は建築は一切お休み、作業は早朝と日が傾いてから。
なので暑くなる時間帯には家に帰っても良いですし、私達が考案した休憩所を利用しても良い。
休憩所と言っても単なる日陰では無く、川床付きの休憩所。
コレは私の前世の知識なんですが、あまりに暑いので敷地内に水を引き入れ、水路の上に竹で川床を作って貰ったんです。
今は足だ顔だと漬け、涼んでいる最中で。
職人さん達には、九鼎龍潭、要するに山から湧き出る水が出る場所に休憩所が有り。
私達は家の敷地内に、向こうは主に男性陣用、それと職人さん達の奥さんや娘さん達が利用しています。
多分、ココに無い筈の知識なんですが。
まぁ、死人が出るよりは良いですよね、熱中症はマジで死ぬ。
『皆さん、西瓜が切れましたよ』
『食べましょ食べましょ』
《お疲れ様青燕、後は涼んでて》
『美味しい部分からどうぞ』
「そうですよ、暑い中で動き回ったんですから」
『では、遠慮なく』
何処も一緒なんですねぇ、川辺で西瓜、特に生活様式を少しでも寄せちゃうと本当に違いが無くなる。
でも、それが良い事なのかどうか。
いやまぁ、死人が出るよりは良いでしょう、生かす為の文化なんですし。
「ルーちゃんは涼しい時間帯の活動なんですよねぇ」
『お陰様で川床で寝かせて貰ってるので、暑い時間帯でも起きずに済んでます。凄いですね、川の上に作るだけで涼しいなんて』
『竹も放熱に一役買っているんだろうな、かなり助かってるぞ、コレでお前も天才の仲間入りだな』
「いや先人の知恵をパクっただけなんですけど」
「知ってるだけと生かすのには大きな差が有る、しかもどれだけ貢献出来るか、それでノーベル賞だとかは選ばれてるんだ。ココの場合は転移転生者が居るんで条件は変わるだろうが、環境に配慮し後世に悪影響を及ぼさない、且つ半永続的に人の役に立つ、それを容易く実践出来るかどうか。まぁ俺の役に立ってる時点で相当だろう」
「おぉ、役に立ったで賞」
「そう言う事だ」
「先生のお役に立てるとは」
「おう、コレからもどんどん俺の役に立て」
「はい、頑張ります」
「おう、じゃあ俺は表に出てるから好きにしてろ」
『はい、ありがとうございます』
「ん?どう言う事ですか?」
『ココでイチャイチャして良いって事です、なんせ暑いので』
「あ、あぁ」
耳まで真っ赤になって、凄く可愛い。
『耳を隠す文化って、何の意味が有るんだろうって思ってたんですけど、ちゃんと意味が有るんですね』
「あー、葉赫那拉様の国は北ですし、真っ先に耳が凍傷で捥げちゃうそうですからね」
『だけじゃなくて、どうして男に見せないのか、真っ赤になられると更に可愛く見えるんだなと思って』
「っぅう、手慣れてる」
『そうですか?』
「そう、そう言う事を平気で言えるのは、凄い、やっぱりお国柄?」
『向こうはあまり言わないんですか?』
「分からないですけど、何か、ドラマみたいで」
『僕、あまり見せて貰えなくて良く知らないんですよね、目と頭が悪くなるからって』
「あー、半分は正しいと思いますよ。ある意味では悪しき見本集みたいなもんですし」
『でも、良い情報だけ与えても、却って騙され易い人間になっちゃうんですよね』
「あー、ココって特にそうですもんね、善人の割合真逆かもって感じですし」
『でも花霞は良い子ですよね』
「親と周りに恵まれましたから」
『そう言える所も好きです』
「もう、何でも良く見え過ぎでは?」
『かもですね』
婚約式を終えても、ちゃんとイチャイチャ出来るのかなって心配だったけど。
前とは違って、距離を取られたり押し返される事は。
「あの、そう、あんまりイチャイチャされるとムラムラするんですが」
『大丈夫ですよ、ちゃんと先生にも許可は取ってます、向こうにもう幾つか川床が出来るまで、ですから』
「あぁ、成程」
単にしっかり線引きが出来てるだけ、単にしっかりしてるだけ。
好き、可愛い。
《随分と寛容じゃの》
「おう、下手にムラムラされてフラストレーションを溜められても、ヤってる最中に熱中症で死なれても困るしな」
《前世でならブチ切れてそうじゃけど》
「そら切れるだろ、宿に払う金が無いなら我慢しろ、つか自宅でしろって。だがココでは金を払ってどうこう出来る事は限られる、古式は寛容さありき、持ちつ持たれつだしな」
《ふむ、過ごし易い何かが有れば、じゃな》
「冷風機が、あぁ、成程な」
《おぉ、何か出せるんじゃな?》
「時代が合うか分からんが、手回しの送風機が無いもんか、とな」
《有るでな、ふむ、良かろう》
「厄介だな、一々問答しないと出せんとは」
《単に知恵を授けるだけでは身を滅ぼさせるでな》
「魚か釣り方か、まぁ、少し考えさせてくれ」
《うむ》
幾ら俺が天才でも、何でも知っているワケじゃない、だからこそ既にプールされている知恵を神々から引き出す必要が有る。
ただ条件が有る、明確には提示されていないが。
善人か、権力や金を持っても良い状態かどうか、様々な事が加味されているらしい。
それは神々が吟味しているのか、他の転移転生者が絡んでいるのか、俺には全く分からんが。
「コレでどうだ」
《直線は上手いんじゃよね》
「曲線は繊細さを必要とするんだ、俺には合わん」
《まぁ、良かろう。ただの、ココを、こう》
「あぁ、まぁ、そうか」
《で、こうじゃろう》
「成程な、水車か」
本当なら暑くなる前に構想、製造に入るんだろうが。
なんせココは中世だしな。
《うむ、じゃが既に近くの者が作ってるで》
「お前らの近く、は近く無い事が殆どなんだが」
《まぁまぁ、直ぐにルーに案内させるで、この町に住まわせる準備を頼むぞい》
「厄介事か」
《ちょびっとじゃよ》
少し、って言って平気で何キロも先を指したり、コイツらのスケール神々なだけにデカいんだが。
まぁ良い、才能を生かすのも俺らの役目だしな。
『あー、コレ良いわ』
新しく来た町民が作った水車式送風機、ヤバいわ、水浴びして川床に寝転がるとキンキンに冷える。
つかコレ長居すると風邪引くな、熱中症には良いだろうけど。
「包々、その格好はちょっと、色気が過ぎるわよ?」
『あぁ、流石に寒いわ、着る着る』
裸の方がマシだな。
いや着るか、夏に風邪引いて莫迦にされるのも癪だし。
「アンタ、何か本当に色気が出て来て無い?」
『そんな錯覚する程に溜まってんの?抜いたら?』
「いえ本当に、大人っぽくなると同時に何か出てるわよ、絶対」
『いや流石に大人だし、大丈夫か?頭冷やすと気持ち良いぞ?』
「嫌だわ自覚が無いって」
『自覚はしてるけど、どうせ家の事がバレただけじゃないの』
職人の娘だとかその友人だとかが現場に来て、差し入れだ何だ貰うんだけど、俺目当てらしいのは分かる。
でも朱家だってバレただけかもだし、単に興味本位が殆ど、でも俺の方が何も興味無いんだよね。
「だとしても」
『先生みたいにヤってみる、って出来無いからなぁ、合わなくても妊娠させたら終わりだし』
「その物騒な考えは止めなさい」
『しないしない』
現場で適当に人に合わせる付き合い程度が、一番楽なんだよね。
深く知り合いたいとか、それこそ自分のものにしたい、とか。
無い、それに無い方が楽そうだってのも分かってる。
現場で職人の本気の愚痴も聞いてるし、花霞達を見て来てるんだし。
「困ってからじゃ遅い、って言いたいけれど、アンタが困りそうに思えないのよね」
『まぁ、何か失敗したら困るんじゃない』
「誰も必要として無いのよね、アンタ」
『他が必要とし過ぎなんじゃない?死なないじゃん、一人でも困らない、死なないのに敢えて二人だとか三人になろうとする。その方が贅沢っぽいけど、常人はそれが当たり前なんだよね』
あ、眠くなってきた。
ずっと工程の調節してたからなぁ。
「眠そうね」
『調整してたから、ちょっと寝るわ』
「ちょっと冷え過ぎたんじゃない?」
『分かんないけど布団で寝るわ、何か有ったら教えて、おやすみ』
つい、食べちゃったのよね。
手元に道具も有ったし、つい。
「包々、その、大丈夫?」
『痛くないけど、違和感が凄い、下痢しまくった後みたい』
悔しいけど、何の爪跡もこの子に残せて無いのよね。
本当に、体を重ねただけ、で。
「ごめんなさい、本当」
『溜まってたんでしょ、良く有るみたいだし、怪我はしてないから大丈夫』
平然とされると死にたくなるわぁ。
「そう」
『じゃあ行って来るわ』
「あぁ、行ってらっしゃい」
手出ししたのはコッチなのに、私の方が傷付いちゃって。
莫迦みたい、莫迦みたいだわ本当。
本当、心持ちの伴わない行為って、こう傷付くのね。
「で、俺の所に来たのか」
「別に叱って欲しいとかじゃないのだけれど、ごめんなさい」
俺は別に男色家だとは未だに思っていないんだが、まぁコイツは顔見知りだし、そう相談も愚痴も言える事でも無いしな。
男が男に手を出したが向こうが平然としてて逆に傷付いた、そんな事、知り合いにこそ言えないだろうな。
「俺よりトゥトクだろうな、そうなったら嫌だから、と俺が乗り気になるまで全く手出しされなかったんでな」
「あぁ、そう、そうなのよ、私も。どちらかと言えば、もし手を出すなら、少しでも乗り気な時にって。なのに」
「寝起きに手を出した」
「そうなの、もー、どうしてこんな事しちゃったのかしら」
「嫉妬だろ、最近は女が寄って来るってトゥトクが言ってたぞ」
「そこもなのだけど、良い子が居れば良いわね、何て思ってたの。離れて、そう考えて落ち着いてたのよ」
「だが、いきなり一線を超えやがった」
「そうなのよぉ、だって凄い色気だったんだもの」
「貴様は発情期か」
「そ、違うのよ、あの子涼んでて、それこそ濡れた襦袢のままで寝転がってて。それで、着替えなさいよって、それがまた脱いでも色気が凄くて。もう、触りたい以外に考えられなくなっちゃって。あ、我慢したのよ、寝顔だけで良いのって、でも冷えたのか抱き着かれちゃって。でも、そこも耐えれたのよ、我慢出来てたのに」
「何処でタガが外れた」
「寝起きのアレが当たって、こう、全部吹っ飛んじゃったのよね」
「発情期だな」
「もー、本当、今は冷静過ぎて少し前の私に分けてやりたい位だわ」
俺はこんだけ人を傷付けてた、こうして、そう思うだろうと知っていても敢えて媚びなかったが。
アイツは、本当にサイコパスだ。
変わりたいとは言っていたが、結局は他人の色恋沙汰を目にし、今のままで居る事を選んだ。
俺も尊重するつもりで居たが、コレを見るとな。
「体だけでも得られたと思うか、心も得たいのか、お前はどうしたいんだ」
「出来るなら、私だけ、が良い」
「最悪は婚約者以下の扱い、女と婚姻を果たさなければいけなくなったら身を引く、そうした体だけの関係なら。だろうな」
「私が、軽薄で薄情過ぎる気がして」
「いやこの場合は少し違うだろ、最も苦しい道だと思うぞ、男色家のトゥトクが敢えて避けた道なんだしな」
「はぁ、未だに私、自らを罰したいだけなんじゃ」
「なら、コレで終わりにすれば十分だろう」
「被虐性癖が有るのかも知れないし」
「かもな、だがアレを煩わせたいかどうか、どうしたいんだ」
「ほんの少し、せめて体の関係は私だけで、偶に出来たら、良いな、と」
「ならそう動けば良いだろう、それとも最後までしてみてガッカリしたか?」
「いえそんな、いきなり最後までは無理ですもの、そこまでは」
「なんだ、してないのか、なら未だ引き返せる状況だろう。女がダメになる位でもあるまいに、流石に深刻に考え過ぎだ」
「ぶっちゃけ、最後まではしたいわ」
「まぁ、アイツさえ煩わせなきゃ暫くは大丈夫だろ」
「その、軟膏はどうでした?」
「微妙だな、逆に違和感が増す。ちゃんとしたの分けてやるから先ずは自分のを何とかしろよ、どっちか一方に負担を強いる奴は大嫌いなんでな」
「勿論ですよ先生、ありがとうございます」
トゥトク曰く、大体は自分のを開発する段階で冷静になるらしいが。
どうだかな、あれだけ好きだと。




