朱雨。
扇で顔を隠した変態春蕾に見守られながら、小李子ちゃんから話を聞く事に。
つか女の子と並んでも遜色無いのがマジで怖いわ、春ちゃん。
あ、今は映ちゃんか。
『昨日、彼女にお世話になったのと、少し騒動が有ったって聞いて。大丈夫だった?』
『あの、物珍しさは分かるんです、私も珍しいモノは好きですから。けど枇杷は静かに暮らしたいだけなので、そっとしておいてくれませんか?』
義理堅い、真面目。
でも駆け引き慣れしてないのが勿体無い、もうちょっと世渡りを勉強した方が良い。
『だからこそ心配なだけだよ、当主の兄が興味を示さない様に、俺からも何を言うか、どうするかを考えたくて』
『私は聞いて貰ってばかりなので、薔薇に聞いて下さった方が宜しいかと。殆ど世間話ですし、愚痴と言えば下痢をし易いって事が殆どなので。すみません、お役に立てなくて』
意外とやるなぁ、友人の影響かな。
『じゃあ、あの処分には不満が無いって事で良いかな』
『はい』
この短期間にコレだけの友情が築けてるのは、凄い。
どんな手を使ったんだろうか。
《けんもほろろ》
『君の為なんだけど?』
《だけ、では無い時点で》
『薔薇姫は、もう少し先かぁ』
四の宮様が、私の事を小鈴に。
「えー?私、何をしちゃったと思います?」
《やっぱり、毛色かしらね》
『それと私が悪目立ちさせてしまった事かと、最初に聞かれたのがそこですから』
《いえ、それは多分些細な切っ掛け、口実でしょう。何か有能さを出してしまったのかしら、お掃除の手順は?》
「えーっと……」
多分、過不足無しにやったと思うんですけど。
《拭き掃除まで、そんなに汚れていたの?》
「いえ、けど埃は大敵ですし、折角ですから拭き掃除をと、綿は埃が出ますから」
《お咳はなさってたの?》
「はい、ただヒューヒュー言ってるのは聞きませんでしたけど、夏場ですし軽いのかなと」
《小鈴の見立てはどう?》
『確かに、喘鳴は聞きませんでした、それこそ咳は。私が席を立ってから聞こえましたね』
「咳だけに」
《喘鳴、咳の病でも、少し丁寧過ぎたかも知れないわね》
「えー」
《けど、もし仮に、仮病なら。何故なのか》
『あぁ、仮病』
「私なら当主争いを避ける為にですけど、既に新しい当主様が継いで安泰でらっしゃるなら、体が徐々に丈夫になったと示し、適当に暮らしちゃいますね」
《なら嫁探しかしらね?》
『そこが心配で近くの者に尋ねたのですけど、特に色を好むでも無く、お体が良くなったとも聞いて無いそうです』
《だからこそ、丁寧にし過ぎたのかも知れないわね》
「えー」
《仮病なら、よ》
『あぁ、私達が分かってしまったんですから、ご家族や使用人も分かっていたかも知れませんね』
《そこよ、中央からの者で稀有だから有能だ、と勘違いしてしまったのかも知れないわ》
『もしかしてお心に寄り添った事が関心を引いてしまったのでは?』
「何もしてませんよ?」
《寝具替えを頼んだのに、お掃除にお茶、どうせアナタの事だから汗水を気にせず働いたのでしょう?》
「えー、そこですか?」
《そこよねぇ》
『あ、もしかして、噂の、四家の性質ですか?』
「え、汗?」
《五液は汗、五情・五志は喜楽。汗水垂らして朗らかにしているアナタに惹かれたのかも知れないわね?》
「えー、だって病人に手抜きは出来ないでしょう?」
『花霞の五情・五志である思慮に対し、四の宮様の五主、血脈や視、故に惹かれたのかも知れませんね』
《視、温かい眼差しで人を見、物を見る。まぁ、有り得るわね》
「えー、そんな視線は送ってませんよ?何なら暑いから呆けて遠くで見てましたし」
《商家だって事を仰ったのよね?》
「んー、言いました。けど商家、としか言って無いですねぇ。でも婿探しはしてないってちゃんと伝えましたよ?」
《敢えて、そう言ったのかも、と思ってらっしゃるかも知れませんね》
「素直に受け取って欲しぃ」
『中央は視、澄んだ目で物事を見つめる、ですものね』
《次の白家の様に、傾聴、耳を傾け話を聴いて頂けないと困るわね》
「薔薇姫様、どうかお頼み申します」
《宜しくてよ》
『流石です』
私達の想定通り、次は私にお声掛けが掛った。
理由は礼の女の処罰について、今はどうなのか、と。
《処罰については満足しておりますわ。だからこそ一切の私情を挟んではおりません、ただ皮剥きだけをして頂いておりますが、独り言なのかどうか分からず気付かぬ間に無視してしまう事は有ったかも知れませんが。コチラに悪意も敵意も御座いませんわ、既に関わるべきでは無い、とコチラでは割り切っておりますから》
『そう』
《後は何か?》
『彼女の、枇杷の』
《対価は何を頂けますかしら?》
『対価』
《友人を売れと仰ってるんですわよね?》
『いや、そこまででは』
《では何が興味をお引きになったのか伺っても?》
『使用人として』
《それはご当主様がお考えになりお決めになる事、それとも朱家に何か問題でも?》
『いや』
《あの子は至って普通です、綿の商家の普通の子、アナタ様に目を掛けられては困るとご理解頂けておりますか?》
『そこは、すまない、迷惑を掛ける気は』
《であれば、もう関わらないで頂けますわね?》
『僕はただ、友人が』
《であれば先日の小李子がオススメですわ、知識の幅が広く尚儀にも務めておりますし、男慣れもしておりませんので殿方の好みかと》
流石、北域以北の文洲国の大商家の娘。
薔薇姫と呼ばれるだけはある、気迫が凄い。
けどなぁ、逆に有能かもって思わせかねないよね、コレ。
『何も、そこまで警戒しなくとも』
《そうですわね、下手をすれば逆に有能さを隠しているのか、と思われてしまう。でも私達の事をお分かりになってらっしゃらない、女子を分かってはおりませんね、四の宮様》
『何分、虚弱者でして』
《いえ、理、事の理ですわ。どうしてそこまで女同士が守り合うのか、簡単です、私達は簡単に男に命を奪われかねない。無理矢理でも子は成せる、そして子を成させられれば命を落とす事も有る、例え無事に生まれても以前とは同じとはいかない。殿方と関わる事は私達にとっては命懸けなのです、どうかご賢明な判断を、朱家の四の宮様》
枇杷の事から女性全体の事にすり替えられたし、ぐうの音も出ない。
しかも扇で顔を隠してるとは言えど、春蕾の顔は真っ青。
引くしか無い、あまりに分が悪い。
『そう警戒させたならすまないね、ただ中央の事が聞きたかっただけなんだ、本当に』
《他にもいらっしゃいますよね、中央の者は》
『他の者は目立つ事も噂も無く、却って声を掛ける機会が全く無くて、ただの興味本位だったんだ。すまない』
《でしたら一刻も早くお元気になられて市井に出られると、宜しいですわね》
ぁあ、やっぱり仮病だって疑われてるのか。
『ありがとうございます。処方を変えたからか、体が大分育ったからか、最近は良い日も有るんですが。どうにも長く続く日が無くて』
《そうですか、でも女子もですわよ、毎月の月の物が鬱陶しいったらありゃしない。孕めぬ男で良かったですわね、3度の呼吸の間に全てが終えられるんですもの、どんなに病弱者でも羨ましい限りですわ》
全く手加減の無い女だ。
春蕾が真っ青になって、今にも吐きそうじゃん。
『今後、より一層気を付けさせて貰うよ』
《はい、では、失礼しても?》
『ありがとう』
《では、失礼します》
藍家は分からないが、俺はそれなりに市井に出させては貰っている。
だからこそ、女子がこれ程までに怖い事は、理解はしているつもりだったけどさぁ。
凄い剣幕だった
『大丈夫か?』
《男とは、あんなにも子女を思い詰めさせてしま》
『いやいやアレは脅しだよ。物知らずの軟弱男が、か弱い女子を舐めたらアカンぜよって事』
《もう、花霞に男として会いたくない》
『おま、化粧が落ちるぞ』
《はぁ、いっそ宦官に》
『いや別に、男嫌いってワケじゃないんだし、もう少し様子を見ようよ?』
《なら、どうしたら》
『ほらほら手を握り込まない、本当に性質が出るんだなぁ』
ココで俺が興味を持ったのは、寧ろ四家の性質について。
本当に四家の全てで誰かしらが持っているのか、もしかしたら単に暗示なのか。
五行は誰もが知っている。
俺達は単に思い込んでいるだけなのか、生まれつきなのか、なら抑え込む事が本当に不可能なのか。
他家にその知識が無いのか、隠しているのか。
《すまん》
『俺も何か手は考えるからさ、もうちょっと頑張ってみようよ?』
《何故》
『興味が湧いた、花霞じゃなくて性質に』
《中央には代表する家は無いが》
『五行なのに四家だけなのは何故か、性質は抑えたり本当に直せないのか、もしかしたら他家が何か知ってるかもじゃん?』
《あぁ、でも、だとして》
『性質で惹かれただけとか嫌じゃない?操られてるみたいじゃん』
いつからか自分は周りの子供とは違う、と気付いていた。
興味も薄く、感情の起伏もなだらか、兄とも姉妹とも違う。
何故、どうして違うのか。
それは五行の性質が関係しているのだと知り、変われる様に湯薬も医食同源も全て試した。
でも変わらなかった。
俺は性質の悪い側面を発現させているとしか思えず、人と関わるのも最小限にした。
《雨泽は、変わりたかったのか》
『誰か何かに興味が湧いても、コレは本当に自分が好きなのか、血筋や性質に操られてるんじゃないのか。なら加護なんていら』
《それはいけない、加護は無くなって初めて守られていたと実感すると、だから口にでも出すべきじゃないと思う》
『兄様達か、普通になりたい、何にも良いと思えないまま抜け殻みたいに生きるのが嫌だから。うん、俺も白家に行く』
《女装が似合いそうだしな》
『いや男として行くよ、流石にバレるだろうし、趣味じゃないし』
《趣味じゃない》
『凄い嬉しそうに準備するじゃん』
《それは花霞に会えると思うと》
『他の日も、会えるとは限らない日でも鏡見てニヤニヤしてたし』
《もしかしたら会えるかもと、思って》
『あ、じゃあ俺の事を言いに行けば良いじゃん、良く言っておいたからもう大丈夫だって』
《ありがとう》
こんな風に、誰かや何かの事で頭がいっぱいになってみたい。




