105 期限。
まさかギリギリで迷うとはな。
「あの」
「改めて読んで怯んだか、春蕾」
《いえ、ですけど、すみません》
「何が引っ掛った、何が問題だと思う」
俺らが考えた婚約式では、赤い装束を纏い、宣誓書に署名し酒を酌み交わす。
それから初夜、なんだが。
ルーは難なく署名し、初夜を迎えた。
だがコイツは、春蕾は、改めて事の重さに気付いたのか。
3年、子が出来なければ離縁が嫌か。
そこだろうな、急に不安になったのは。
《やっぱり、離縁の期限を延期して頂けないでしょうか》
「ルーは貴族でも何でも無いからコイツは何も思わないだろうが、お前は違う、いざと言う時の予備の予備。あのトゥトクですら兄弟に何か有れば女と子作りするんだ、覚悟出来て無いなら今直ぐにも帰れ」
花霞はコイツらと子の為を考え、ハーレムを受け入れる事にした。
なら花霞の事を考え守るのは、俺らだろう。
《せめて5年に》
「その時にでも出来なかったら、その時は離縁出来るんだな」
《はい》
あぁ、死ぬ気か。
《じゃの》
厄介な性質だな。
「なら書き足せ。金絲雀」
『はいはい墨ですねぇ』
全く、どうしてこんな加護が有るんだか。
《元は四家を作る為じゃよ。じゃが介入は限られる、かと言って全く介入せんで直ぐに滅びても困るでな、各四家に制約を設けたんじゃよ》
四聖獣に準えた性質、か。
《すみません、ありがとうございます》
「あの、1度戻って熟考しません?」
《いや、コレでもう大丈夫》
「よし、次はお前だ」
「あ、はい」
《四聖獣に準えた性質もじゃが、賢き者に惹かれる。良かったのう、お前さんが出会わんで》
全くだな。
だが、いや、転移転生者を守らせる為か。
《じゃよ》
なら花霞への気持ちはどうなる。
「よし、次は酒だな」
『はいはい、お互いに注ぎ、お飲みになれば終了ですよぅ』
《惹かれる、だけじゃ。しかも庇護欲を軽く唆る程度、無視は十分に可能じゃ、それこそ平和なら余計に効果は薄いで》
だが2人は惹かれ2人は保護する側、強力過ぎたんじゃないか。
《いや、道で囀る小鳥の毛色が違った、そんな程度じゃよ》
愛好家には良いだろうが、あぁコイツらには白い烏に見えるのか、金髪碧眼が。
《転移転生者ではなくとも、保護すべきと思った、優しさと教育の賜物じゃろう》
成程な。
俺は見慣れてるせいも有ってさっぱりだが、やはり外見は重要だな。
《まぁ、じゃの》
「よし終わったな、だが少し問題が出た、来い花霞」
「あ、はい」
やっぱり、転移転生者だから惹かれちゃったんですね。
ちょっと残念。
「でだ、少しは残念だと思ったか?」
「ちょっと残念です」
「指差し的に半分に見えるんだが、まぁ残念だと思ったなら良い。更に追加で真実を伝える」
「えー、はぃー」
「平和な時代なら特に、微々たる影響だそうだ、それこそ保護が目的なんでな。だからこそ現に俺には全く惹かれてはいないだろ、その程度なんだが。やはり毛色だろうな、倍増してこの程度、俺がその毛色だったら大変だったろうがな」
「あぁ、凄いヤバそう」
「だとしてもこの顔面でこの程度、安心しろ」
「いやでも凄い躊躇われちゃったし」
「揉めるなら向こうと揉めろ、じゃあな」
いや、また急に事実の爆弾を落とされ放置って。
確かに性質については安心しましたけど、でも。
《すまなかった花霞、どうしても欲が出て、3年じゃ足りないと思ったんだ》
入って来るなり秒で土下座。
「でも2年足しただけで」
《もし5年出来なかったら死ぬ、だから3年じゃ足りないと思った》
私と居るか死か、って凄い極端。
「もしかして私が受け入れなかったら死んでたとか無いですよね?」
あ、目を逸らした。
《直ぐには、死なないつもりだった》
「どんだけ」
《それだけ欲しかった、何をしても、どんな事をしても欲しかった》
何か、人を殺しそうな目って、こんな感じなんですかね。
少し怖いのに、泣きそうで、あまりに必死で。
ハーレム反対の人って、この人を殺しそうな春蕾さんと、殆ど何でも出来るルーちゃんを競わせれば気が済むんですかね。
良いですよ、冷静に終わるなら。
でもコレ、無事に済んだフリして、絶対に裏で殺し合いしますよこの目は。
「死なないで欲しいんですけど、手に入らないなら死んだ方がマシなんですよね?」
《うん》
「でも私は殺さないんですね?」
《花霞に俺しか居なかったら、死ぬ時は一緒に死ぬ》
ご家庭は普通なのにコレ。
情愛深過ぎで、普通なら溺れちゃいますよ、多分。
つか溺れる前にドン引きしそう。
あぁ、だから私なのかも。
成程。
「じゃあ、死ぬ気で手加減して下さいね」
《善処する》
あぁ、全身筋肉痛の日々が始まりますねコレ。
《私、もっと、こう、幸せそうな雰囲気に溢れるものだ、と思っていたのだけれど》
『私もです』
『疲労困憊、精疲力尽、最早満身創痍なのでは?』
「へぃ」
前回は、房中術の元祖とも言える道教の方がお相手だったから。
まぁ、そうなっても仕方が無いのかしら、と思ったのだけれど。
『あ、湯薬です、どうぞ』
「あ、どうもどうも」
《そんなに、大変、なのね?》
「まぁ、はぃ」
『と言うか新婚はこんなものかと』
『そうなんですか?』
『今回は飽きが来ない様に、そして痕跡が残らない様にと一日だけ、七日開けるワケですが。他の方は三日間は連続で楽しんでらっしゃいますからねぇ』
《は?》
「いやコレ三日は」
『半死半生どころか死んでしまうのでは?』
『はいー、ただお宿では手加減するのでまぁ、ココまでのは私も初めてですね』
念の為、金絲雀と青燕に交代で夜伽の見守りをお願いしていたのだけれど、既婚者の青燕すらドン引きして先生にご相談なさっていたのよね。
《それで、その、青燕、先生は何と仰ってたの?》
『過敏でらっしゃるのかも、と』
「えー?見世物小屋でもあんなもんでしたよ?」
『まぁ、そこですよねぇ。ただアレは大袈裟にやってらっしゃるのでは、と』
「あー、えー?」
『まぁまぁ、お相手との相性も御座いますでしょうし、そう他人様の事は気にせずお楽しみになるのが一番かと』
『はい、先生も気負わないのが一番だと仰ってましたから』
『そう言われましても』
《コレだものねぇ》
「まぁ、お待たせした代償、かと」
『《あぁ》』
『かもですねぇ、その点お2人は程良くお付き合いなさってるんですし、まぁ、大丈夫、かと』
『お相手が、まぁ、あの方達ですし』
《そう、そうね》
『けど、次が私にとってはちょっと、心配と言えば心配でして』
「あ、そこですよね、どうします?暫く離れてます?」
『んー』
《少し離れてみて、三日目にでも戻って来たらどうかしら?》
「しっかり手加減して下さるかもですし、気になるなら早めに戻って来ても良いんですし」
『あ、でしたら昆明まで行ったらどうです?買い足すモノも有るでしょうし、朱家でご相談なさっても良いですし』
『それ、そうします』
少しばかり煽る程度は問題無い、そう思っていたのだけれど。
もう少し、加減した方が良いのかも知れないわね。
『もう少し加減して欲しかったですね春蕾、僕の薔薇姫があまり触らせてくれなくなったんですが』
《すまん、浩然》
『そんなんなの?』
『あぁ、ちゃんと言い付けを守って見に行って無いんですね包々は』
『そらね、あらぬ疑いを掛けられても面倒だし。つかそんなに楽しいの?』
《うん》
『なに今の躊躇いは』
《楽しい、なのかと聞かれると少し違う気がして、ただ、夢中だったのは確かで》
『それで加減が難しかった、と』
《と言うか、いや、確かに反応は凄く楽しかった》
『あぁ、実に楽しみですね』
絶対、コイツも精根尽き果てるまでヤりそうなんだよなぁ。
けど臘月は手加減しそうだし、逆に、手加減すんのか?
つか臘月が一番精力弱そうだけど。
いや、道士と春蕾が強過ぎんのかもだし。
でもなぁ、外見で全然分からないっぽいんだよなぁ。
大人しそうなのが意外と十何回ヌいた、とか言ってるの聞いたし。
分かんないんなぁ。
《何回、した事が有るか、ですか》
『いやさ、大人しそうなのに凄いのとか居るし、じゃあ臘月はどっちなんだろと思って』
『包々さんは?』
『ならお前は?兔子』
『えー、翠鳥に言いません?』
『言わない言わない』
『じゃあ先に教えて下さいよ』
『じゃ凄いから覚悟しとけって言う』
『えー』
『なに、何で躊躇うの』
『だって凄いなと思われるのも嫌だし、けどコイツ少ないって思われるも癪だし』
『じゃあ毎回か最高か』
『んー、それもそれで多いと思われも何か、精力旺盛だって思われるのって微妙じゃありません?』
《そんなに花霞に何か有ったのかい?》
『いや浩然が何回なら妥当なんだろって言っててさ』
『あー』
僕の能力は万能では無い、特に曖昧な言葉には真偽の区別が付き難くなる。
更に雨泽の気配は非常に読み取り難い、いや、読み取る事は出来れるのだけれど。
色合いで言うなら初春の空模様のような、淡い色が穏やかに混ざり合い激しい落差が無い。
偶に見られる非常に穏やかだと呼ばれる人物に近い、けれどそうした者は何処かで強い色や雰囲気を持つ、それこそ浩然が良い例。
けれど雨泽には、そんなに強い色合いが無い、全くと言って良い程に強い何かが無い。
『で?』
『仕方無いですねぇ』
先日暁兄が言っていた通り、紅先生と何処か性質が似ているとしても。
真逆、紅先生には強く刺す様な気配が有る、けれど雨泽には、全く。
《そう言えば、暁兄はまた紅先生の所に居るんだろうか》
『あぁ、うん』
『はい、言ったんですから教えて下さい』
『無い』
『は?』
『無い、マジで』
『えー、ズルい』
『臘月は?』
《加減する様には努力してみるよ》
何でコイツは俺に相談に来たんだ、大概の事は何とか出来るだろう。
白家の暁霧。
「で、何だ」
「勿論、雨泽ちゃんの事よ」
「あぁ、花霞の所は何とかなったんだな」
「そうなの、なら次はもう雨泽ちゃんじゃない?」
「まだ墨家が残ってた筈だが」
「良いのよ、どうせあの子は自力で何とかするわ」
「で、何で俺なんだ」
「だって男色家になったのでしょう?」
「アレにだけな」
「あはー、良いわねぇ他人様の幸せって最高だわ」
「お前の幸せは良いのか」
「たった1回、ちょっと打ちのめされた程度で引きずり過ぎだ、とは思うわ。けれど、罪悪感も混ざってしまうとね、どうしても少し逃げてしまうみたいなのよ」
四家の男が結婚詐欺に引っ掛かったんだからな、そら恥も有るだろう。
そこに罪悪感も、不信感も。
「俺は逃げで男に走ったワケじゃないぞ」
「分かってますって、運命のお相手に出会えたのでしょうから、逃げだなんて思ってもいませんよ」
「運命の相手、か。そんなもんが本当に居ると思ってるのか?」
「いえ、寧ろ、逆ね」
「あぁ、運命の相手だと思った相手に裏切られたからか」
「そうなのよ、本当、だから、私こそ男に逃げようとしてるんじゃないのかしら、と」
「お前、本気か?」
「ですから相談に来させて頂いたんですけど、そう、どうなのかしら、と」
「アレが女装した男でも、今と同じになっていたとは思う。だが幾ら中身が全く同じだとしても、もし女だったら、俺はこうはなっていない。非常に複雑な材料の配合で、確かにな、運命と言えば運命かも知れないな」
少しでも配合が違えば俺はココまで受け入れる事は無かった。
それこそ俺に起きた出来事、配合が少しでも違えば。
「そうして性別を変えて考える、何かしら目線を変えて考えるのって、やはり先生のお考えなんですね」
「思い遣るには最も簡単な方法だろう、単に相手の身になれと言っても、人は簡単に己の立場を捨て考える事は難しい。なら、お前が女ならどうだ、男ならどうだ、と」
「残念な事に、あの子が女なら良いのに、と思ってしまってるの」
「なら探せば良いんじゃないか?」
「それも考えたんですけど、逆にあの子に少しでも似ていないと、許せない気がして」
「お前、本気だな」
「いえ、まだ無理矢理にでも手に入れたいと思うまでには、至っていないので」
「はぁ、アレの何が良いのか全く分からん、面倒しか、それが良いのか」
「そこも、ですかしらね」
「手間の掛る者を構い続ける限り、忙しさも相まって己を振り返らんで済む、しかも他人からは褒められる。そうして自分無しではいられなくさせ、手間が掛かって大変だ、などと言えば同情すら買える。あまりにも姑息で卑怯だな」
「そうなのよね、ビビり過ぎて好いていると錯覚しているだけ、なんじゃないかしら、と思って」
「だがまぁ、他と違うのは、アレにはさほど手間が掛からなそうな所だな。寧ろ自分だけ、だろうと思える相手、で俺か」
「他意は無いんですけれど、まぁそうですわね」
「そこは誰でも良さそうな者よりは良いだろう、だが、アレは寧ろ、違う意味で誰でも良さそうだが。いや、情愛に目覚め他へと行かれる恐れが有るのか」
「ですので、どうにか先に情愛だけ、目覚めさせられるお知恵を借りられないかしら、と」
「未だに俺は情愛初心者なんだが」
「ですけど理屈や道理は分かってらっしゃるかと」
こう、専門外の事で頼られる事程、困る事は無いんだが。
「寧ろお前の方が専門だろう」
「年は私より上でらっしゃるかと」
ほんの少しだろうが。
「はぁ」
「あ、諦めさせる方向でも構いませんよ?」
「覚悟が無いなら諦めろ。情愛に目覚めるか肉欲に目覚めるか、誰かに何かしらの覚悟が必要にはなるんだ、そこまででも無いなら諦めた方が楽だぞ。それに苦悩が欲しいなら別の方法にしろ、誰かを巻き込むな」
私、崇めるべき方が二人に増えてしまったわ。
「ココまで鋭く指摘して頂く事って、あまり無くて、ありがとうございます」
「おい拝むな拝むな、なんの御利益も齎してやれんぞ」
「いえ、お言葉を頂けるだけで十分ですわ」
「そうやってお前は純粋だったからこそ、騙されたんだろうな」
「あん、私もそう思います」
「お前は被虐性癖か」
「あらやっぱりそうなのかしら」
「あー、なら相性は悪いだろうな、アレに加虐性癖は無いだろう」
「あー、やっぱりそうですわよねぇ」
「だが別に謗られたくは無いんだろ?」
「まぁ、あの子に言われたら寧ろ泣いちゃいそうですけど、ですわね」
あの子が苦言を呈する時は、相当の事か、最後通牒か。
あぁ、凹むわ。
「まぁ、好く事で相手を不幸にしないなら、何だって言いんじゃないか」
「ですけど、いざ自分がそうなると、やっぱり躊躇いますわね。子孫を残せない事は、凄く重くのしかかる」
もし子が成せないなら、身を引くしかない。
しかも私と雨泽ちゃんは成せなくて当たり前、身を引いて当たり前。
「子孫が途絶えて困るようなら身を引けば良い、その覚悟が持てないなら諦めるべきだ。だが、その手前、そもそも自分の中に有る好意を疑ってるんだな」
「はい」
「あぁ、やっぱり俺には無理だ、専門に相談しろ」
「どなたに、相談すれば」
「ウムトだろ」
「あぁ、でも忙しいでしょうし」
「アレも器用だから問題無い、差し入れのついでに尋ねてみれば良い。塩味の、何か柔らかい物なら何でも喜ぶ筈だ」
「ありがとうございます、先生」




