103 慰労会。
はい、ウムトさんが帰って来て早々に塀が出来ました。
昼夜問わずの作業は勿論なんですが、やっぱり分担作業と人海戦術って凄いですね。
「流石に一夜城とはいきませんでしたが、にしたって凄いですねぇ、こんなに早く出来ます?」
「僕の采配と職人の腕だね」
「それと法術だな」
「あー」
「僕の褒められる部分を吹き飛ばしたね?」
「おう、出来て当たり前だろ、なんせ海の商隊の長なんだからな」
「まぁね」
「いやでも凄いと思いますよ本当、このまま家が出来れば特に」
「出来るだろ」
「2ヶ所ずつならね、流石に監督するのに右往左往は厳しいから」
「そこで包々の出番ですね」
「他が使えんからな」
「いや1番使えないの私ですけどね?」
「いや、その考えは1番良くないね。何も現場で働く者だけが偉いワケじゃない、適材適所で役割分担をこなす、関わる者全てが凄いし偉いんだよ」
「建前上はな」
「君は本当に集団行動に向かないねぇ」
「俺の許容人数は最大3人までだ」
「最大最速最適効率人数ですね」
「三本の矢、先人は偉大だな、既に肌感で悟っていたんだからな」
「先生は何でも良く知ってるんですよねぇ」
「数字が好きだからな」
「あぁ、何か納得」
「実はな」
「お疲れ様でしたぁ、打ち上げに参りましょー」
「そうだねぇ」
節目節目でお祝いだ何だって、無駄だなと前世では思ってたんですが。
所謂ガス抜き、愚痴を聞いたり私的な事を相談したり賃金交渉してみたり、そうやって次も頑張るぞと思って貰う為の儀式でもある。
無駄って殆ど無いんですよねぇ、特に近代まで残ってた文化の殆どが理に適ってる。
ただ、運用をミスったり本分を見失うと、結局は形骸化してしまうんですが。
いや本当、前世でならこんなん考えもしませんでしたよ本当。
《金雉、蝦餃が大好評よ》
「ん?どっちの事ですか北朱雀」
《まぁまぁ、いらっしゃい》
はい、薔薇姫様に騙し討に遭いました。
宴会が盛り上がり、私をお披露目する事に。
だけ、なら良いんですが。
「意外と踊れるもんだな、お前でも」
「恥ずかしさ超えて屈辱に近いんですけど」
『大丈夫ですよぅ、皆さんが静まり返ってたのは綺麗で見惚れてたからですよ?』
「鍛えてるし体も柔らかいですからね」
『はいはい怒らない怒らない、本当に褒めてるんですから怒らないで下さい』
「お前が仕込んだのか金絲雀」
『はいー、流石にちゃんとした一芸も持っていた方が良いと、コレだけはしっかり習わせました』
「良い仕事をしたな、偉いぞ、褒めてやる」
『どうもどうも』
「一緒だから半額で良いって言うから、酷い、見世物にした」
『初めて見る仏像と一緒ですよぅ、拝む前に見惚れての事なんですから、どうどう』
「ぅう、恥ずか死ぃ」
『はいはい、よしよし』
いやー、花霞を宥めてるだけで視線が刺さる刺さる。
男性から視線がこうして刺さるのは久し振りですねぇ、うん、最高ですね男からの嫉妬って。
「やっぱり、お前は腹黒そうだな」
『良く言われますぅ』
「この腹黒雀、金絲雀の名は取り上げちゃいますからね」
『いや元は蝦餃様からの指示ですからね?』
「あぁ、だろうな」
「クソぉ」
あ、今コレ、バラした事がバレましたね。
けどまぁ、私の手元には花霞が居ますし。
うん、やっぱり花霞の近くは最高ですねぇ。
《先生、お酒は如何ですか》
「おう、態々俺らに機会を譲ってくれて助かったよ、蝦餃」
彼は面紗を付けており、相変わらず気配が殆ど読めない、けれど全く読めないワケでもない。
僅かに滲む気配からして、どうやら僕は、彼を怒らせてしまっていたらしい。
《誤解ですよ、お互いの領分は分けるべきだろう、と》
「そう余裕を見せる所が、俺は気に食わないんでな、売られた喧嘩として買わせて貰った」
《そんなつもりは無かったのですが、失礼しました》
「いや、その余裕を貫いてくれて構わないぞ。転々としながら住み着ける場所を探す案をアイツに敢えて提案してやらない、そうした余裕を今後も見せてくれて、俺は強者ぶった奴が負ける姿を見るのが本当に好物なんでな。頼むよ、若様」
何処から情報が。
いや、コレは周囲を入念に確認し、青燕にすら教えていない事で。
《いえ、それは本当に、今日にも言おうと思っていまして》
「そうか、すまんな、俺が既に言ったわ。精々頑張れよ、若様」
先生と呼ばれる彼が、どうして僕にだけ、こうなのか。
思い当たる節があり過ぎて、どうしたら良いのか。
「蝦餃様、大丈夫でしたか?」
《あぁ、叱咤激励を受けていただけだから大丈夫だよ》
「言葉は少しキツいんですけど、良い先生なので、誤解は無い、ですかね?」
《あぁ、けど君と先生が何も無いとは知っているけれど、少し妬けてしまうね》
「それは大丈夫ですからご心配無く、互いに致せないと言う事で早々に決着が着いておりますから」
《それは、見せての》
「いえいえいえ、その前の前ですよ、親しい親戚筋と同等ですから」
《兄妹では無いんだね》
「そうした近さは無いんですよね、どちらかと言えば指導係や伯父ですから」
《そう。なら、僕の感想が聞きたいんだけれど、良いだろうか》
断りの知らせが無い時点で、安心はしていたのだけれど。
「そ、お、ココでですか?」
《他へ移動しても良いけれど、人目が無いとなると、もしかしたら深く追求してしまうかも知れないね》
「お互いに安心出来る大きさ、かと」
《他には?》
「もー、深追いするじゃないですか」
《つい、赤くなるのが嬉しくてね》
麗江に着いてから、特に体を見せ合ってからは、花霞は変わり徐々に距離も近くなった。
けれど。
『はいはいはいー、お邪魔いたしますよぅ、そろそろ厨房へお戻り下さいませませ』
「あ、失礼しますね」
《あぁ、またね》
金絲雀は僕らの味方と言うワケでも、道士や先生の味方と言うワケでも無い動きを続けている。
けれども女性陣の一員かと言うと、そうでも無い、寧ろ常に半歩下がった位置に居る。
彼女は一体。
いや、まさか。
まさかそんな事は。
『蝦餃?』
《包子、少し兔子の様子を、ココは騒がしいし一緒にどうかな》
『あぁ、良いよ』
さぁ、どう確かめようか。
『お前、実は女色家なの?』
いや臘月が匂わせてて、有り得るかもな、と。
あ、コイツ、嫌な笑い方しやがった。
『成程、そう来ましたか』
『いや俺もそうなのかもなと、ほら大昔は、とか』
『あぁ、そうですね、はい』
いやコレちょっと分かんないわ、コイツの嘘が一番分かんないんだよなぁ。
『いや悪かったって』
『いえいえ、言う機会も無かったですし、折角ですからお伝えして下さい。昔から大好きですよ、とね』
あー、面倒な事に関わっちゃったなぁ。
裏で暁霧も聞いてるし。
いや、うん、任せるか。
「まさかねぇ」
『いやアレ冗談でしょ、多分』
「そう?」
『いや、分かんない』
『包々さんでも分からないって珍しいですね?』
《そうだね》
僕が見れば直ぐに分かるのだけれど、今回は直接対決を避けた結果が仇になった。
金絲雀から花霞へ肉欲が向けられていない事は分かっていたのだけれど、冗談半分で突いた巣が、まさか蜂の住処だとは。
「でも、肉欲が絡んでたりするワケでは無いのでしょう?」
《そうなんだけれど、所謂赤の姉妹愛の相談も聞いているからね》
『あー、赤の他人との姉妹ごっこな、けどアレ肉欲絡むじゃん』
《請われればね、ただ進んで求め合わないだけで、時にお互いを道具として楽しむらしい》
『けど、あぁ、確かに金絲雀さんと一番近いですもんね』
『幼馴染だからじゃないの?』
「アンタあんなにイチャイチャ出来る?」
『そこはほら、男と女じゃ違うじゃん』
「私の上で寝転んだり大猪ちゃんに抱き着いて寝てたじゃないの」
『それは逃げるのが面倒だったのと寒くて寝惚けてたからじゃん』
「そんな照れないの」
『酒臭い』
「そりゃ飲んだもの、美味しかったわねぇ枇杷ちゃんのお料理」
《うん》
「大猪ちゃんは、踊ってる姿を思い出してたのかしら」
《全員、見惚れてたと思う》
『いや先生は感心の方でしょうよ』
《そうだね、あの仲に間違いは無いよ》
『でも妬かないんですか?凄く親しげで仲が良さそうですよ?』
《彼には結果的に喧嘩を売る様な事になってしまったし、しかも負けたからね、寧ろ頭が上がらないよ》
「あっと言う間に庭の整備を終えてしまったものね」
『役割分担に人海戦術で、今回もだけどさ、そら海の商隊の人間が先生って言うだけは有るよね』
そう、確かにその通り。
寧ろ僕は彼に判断を仰ぐ位で良かったのかも知れない、扱いの難しい、敬うべき存在。
僕に欠けているものは、花霞だけじゃなかった。
「そうそう、折角なんだしアンタ商隊に入ったら?」
『無理無理、言葉が無理だもん、陸の商隊でも途中まで。つか仕事で遠出は面倒、金出して旅に出るだけで十分』
『次は建物の監督官になるんですよね?暑くなりますけど大丈夫なんですか?』
『そこは問題無し、つか職人が倒れない様に管理すんのも仕事だし、そこは得意だしね』
「病弱の履歴も役立つものね」
『それな』
『三叔?』
《僕は、敬い方を知らないんだと思う》
あら臘月様、先生に何か言われたのかしら。
「あらあら、それはどうしてかしら?」
《彼の見た目から、せめて僕と同じ程度だ、と何処かで認識していて。それが全く間違っていた事に、さっき、気付かせて貰ったんだ》
「それは深刻な問題ね」
《あぁ、僕に欠けているのは金雉だけだ、と。けれど、僕は敬う事を知らず、扱いを誤ってしまったんだと思う》
「先生、そんなに怒ってらっしゃったの?」
《いや、けれど敢えて挑発に乗ってやったんだ、と。僕には全くそんな考えは無かった、けれど敬いの心が無いのだから当然、譲る事で敬わない事に繋がるとは思いもしなかったんだ》
「あぁ、老人の扱いって大変よね」
『いや年寄りと一緒にする?』
「それだけ知恵を持ってらっしゃる方って事よ、だからこそ敢えて叱らず、挑発に乗ってやったと仰った」
『アレで老人並みの知恵って』
『まさか仙人様なんですかね?』
《ぁあ、かも知れないね、確かに》
『いやいやいや、偏食凄いし歩いてるしムキになる仙人って居る?』
「敢えて私達に合わせてらっしゃるのよ」
『いや金雉に影響され過ぎじゃね?』
「あら良い影響なら受けるべきじゃない?」
『にしたって、アレが仙人はちょっと、凄いのは分かるけどさ』
「そうあまりにも凄さを表に出す方が、寧ろ偽者っぽいじゃない?本当は霞だけでも十分、なのに私達に寄り添う為に、敢えてお食事も同じにして下さっている。そして仙人と悟られぬ様、俗物的な物言いをしたり」
『男色家を装うの?仙人って無私無欲なんじゃないの?』
「そこも、よ。今世で迷える者を救済する為、敢えてお体をお貸し下さっている」
『いや絶対に美化し過ぎだって』
《果たして本当にそうだろうか、もし本当にそうだったなら、侮る事になる。それとも、敬いたくないのかな?》
『んー、そんなつもりは無いけどさ、何か横柄な態度じゃん?』
「アナタね、逆に聞くけれど、じゃあ仙人様ってどんな感じだと思ってるのよ。媚び諂う腰の低い者こそ仙人様だとでも言うの?」
『あー、いや、そう言われるとそうなのかな、とは思うけど』
《少なくとも、仙人相当の知恵を持っているのかも知れない、とは思わないかな》
「それにあの美麗な容姿、まさに仙人様じゃない」
『それ仙女じゃね?』
「なら実は仙女様なのかも知れないわね、枇杷ちゃんを心配し、下界まで降りて来て下さった」
『あー』
「ほら、ね?」
《ふふふ、まぁ、良く知らないけれど信じても害が無さそうな者を、そう敬って然るべきなんじゃないのか、そう改めて思い知らされたと言う事だよ》
『あぁ、何だ、てっきり信じちゃったのかと思ったわ』
「あら私は敵か仙人様や神様か、見知らぬ方には常にそう思いながら過ごしているわよ?」
《包々は市井に慣れ過ぎているのかも知れないね、多少見知らぬ者でも人は人》
「仙人様や神様は万能だ、とかね」
『何でも出来るとは思わないけどさ、居るなら、もう少しどうにかしてくれたって良いじゃん』
《なら、暫くは仙人や神について考えてみようか、もし自分が神や仙人なら》
「そうね」
『いや金絲雀の事は良いの?』
『あ、そうだった、どうするんですか?』
《半分は冗談なのだろう、乗ってみてもどちらでも構わないと思うよ》
『あ、半信半疑なんですね』
『まぁ、半分も本気が残ってるけどね』
「愛の種類は人の数だけ有るんだもの、肉欲が絡まない時点で、そう心配する必要も無いだろうとは思うけれど。万が一、よね」
《もし僕らが金雉を追い詰め過ぎれば、だろうね》
『あぁ、頑張って我慢しろよ、大猪』
《うん》




