101 陰謀論。
ルーちゃんの寝顔を始めて見たんですが。
やっぱり可愛いですね、油断してる顔って特に可愛い。
「堪能させて頂いてる最中なんですが、何故ココで眠ってらっしゃるんでしょう?」
「お前の事で眠れず愚図ってたんでな、少し手を借りて眠らせた」
「おぉ、介入し過ぎでは?」
《道を正す為じゃったら多少は助力するでな》
『かなり悩まれてらっしゃったので、丁度良いかと』
「ですけどもう昼ですよ?寝過ぎでは?」
「魔力が多いと良く食うし良く眠るんだ」
『しかも今回はストレスが大きく掛ったので、回復が遅れているんです』
何をサラっと重要な事を言って下さいますかね。
「えー、先生は知ってて黙ってました?」
「そらお前への負担になるからな。だが、コイツから言わせるべきだった、他にも言わせるべき事が有るかも知れんな」
「ほう?」
「お前に興味を持って欲しかったらしい、自分が思うのと同じ様に。ガキっぽいと思ったが、トゥトクも似た様な事を言っててな」
「あー、突き放した様に感じてしまったままなんですね」
「かも知れないな、とな」
「難しいですね、良かれと思って、思い遣りからの言葉だったんですけど」
「睡眠不足は判断も何もかも鈍らせるからな。どうやら無茶して働いてたらしい」
「先生がジェノベーゼなんか頼むからですよ」
「いやアレは、いや、まぁ、要するに、働いて気を紛らわせてた。だがいつまで続けるのか、とな」
そりゃ嫌ですよね、ずっと好きだった相手が他の男に裸を見せるんですから。
でも。
でも、こんな風に色々と試しても、もしかしたら上手くいかないかも知れない。
と言うか、相手の気持ちを無視して、私の判断で断っていれば良かったのかも。
「私は間違ってるんでしょうか」
「いや俺は正解だと思うぞ、それこそ神々の力を使わない限り、お互いが傷付かない様にする事は難しい。しかもこうした事に限っては、傷は無い方が良い、後々になってどう響くか分からんからな」
「でも、コレも後々に」
「それは納得が浅い場合だ、しっかり納得すれば周りが問題だと思っても本人達は上手くやれる筈だろ、どんな関係性でもだ。金絲雀が良い例だろ」
確かに金絲雀との事は薔薇姫様達に警戒されていましたし、少し前までお互いに微妙な思い違いは有っても、結局は上手くいっていますし。
けどでも、それは友人知人だからなのでは、と。
本当に莫迦みたいに何も知らず、深く考えず、何となく生きてれば傷付かない。
私も、周りも、平穏で平和に生きられるんじゃ。
『花霞』
「あ、おそようござ」
凄い、マンガとかドラマみたい。
と言うか寝起きから凄いですね、抱き付く行動力と言うか、判断力?
あ、寝ぼけてます?
「おい、いい加減にしろ」
うわぁ、凄い音した、痛そう。
『大丈夫ですよ、先生は意外と優しいので』
「あぁ、寧ろ俺の手の方が痛いわ」
「あ、殴った方が痛い、まさに典型例」
「で、目が覚めたか」
『すみません、寝ぼけてて、夢かな、と』
あ、先生がガブちゃん睨んだら消えた。
成程、もしかしたら手を貸して下さったんですね。
「もう昼だぞバカガキが、さっさと身支度を整えろ」
『あ、え?あ、はい』
「すまんな、ちょっと助力をと思ってコレだ」
「対価は大丈夫なんですか?」
《そりゃ美味いメシじゃよね》
「ピザを食わせただろうが」
《うむ、アレも美味かったの》
「あ、パイとか食べたいですよねぇ」
「お前なぁ、アレクソ大変なんだからな?」
「そうなんですか?」
「何層にも折り重ねて、かつ冷蔵庫が有ってこそだ」
「あー、この気温ですもんねぇ」
《出来ぬワケでは無かろうよ》
「はぁ、アレに協力させるか」
「楽しみにしてますね」
《じゃの!》
「分かった、だが今日はお前のメシだ、その方がルーが喜ぶ」
「じゃあ、親子丼で」
また、僕は子供っぽい事をしてしまった。
『今考えると明らかに拗ねて駄々を捏ねてました、すみません』
「おう、全くだ」
「でも寝不足でしたし、事が事なので、もう少し配慮すべきでした、ごめんなさい」
『いえ、元は僕の自己管理が』
「本当にな、でどうするつもりだ」
「先生、短気が過ぎますって、今さっきご飯を食べたばっかりなんですから」
「食ってる間にも考えられるだろうが」
「いや食べる楽しみを大切にしましょう?どうでした?親子丼は美味しかったですか?」
『うん、はい』
「やっぱり出汁って凄い」
「いやお前の腕だろ、前世からか?」
「まさか、前は料理と呼べる様な事はしなかったですよ、皆が簡単にしてるし情報も直ぐに調べられる、だから私も簡単に出来るだろうって。基礎は全てココです、ココで生まれ育った様なもんです」
「怠惰の極みだな」
「そうなんですよねぇ、文明の利器って凄い」
「しかも女、クソ不便だろ」
「理屈が分かってるので何とも、手洗いは布が傷まず汚れが落とせるし、料理は出来立ての方が美味しい。精々家庭用の冷蔵庫が欲しいなって位ですかね、農民でも無いのでそんなに苦労してませんから」
「あぁ、今の時代の農民はエグいだろうな、アレは相当の知識が無いと耐えられんだろう」
「ですよねぇ、結局は何も知らない苦労を味わうだけ、無双する喜びを味わえるのって専門職の人だけでしょうね」
「でもお前は平気そうだったな、それなりに専門職と関わるだろ」
「究極に無知でしたからね、ココでの知識に比べたら、先生が2周なら私は1.3周程度ですよ」
「最早誤差の範囲だな」
「本当ですよ、私なんか転生させて勿体無い」
『僕は居てくれて良かったと、3人で暮らせたら、そう思ってた事が崩れて、考えたくなくて、何も考えて無かったんです。ずっと昼夜逆転したままで、働いて寝て、そう気を紛らわせ続けよう、そう考えてました』
「そんな、前の世界の最底辺みたいな生き方は止めましょうよ、怪我か過労で死んじゃいますよ?」
『加護が有るから少し丈夫なので大丈夫だ、と』
「精神まで加護されてはいないだろう、流石に介入が過ぎる」
『はい、でもちょっと位は眠くても』
「1日とかなら良いですけど、連続はダメですよ、飛び飛びもダメです」
「7日睡眠を取らないと幻覚を見るらしいしな、そうだよ、幻覚が見たいなら変な薬草なんぞ使わず断眠すりゃ良いんだよな」
「止めて下さいね?」
「するか、惰眠を貪るのこそ至高、しかも薬草で楽しくなっても結果的には後々までも思考を鈍らせる事になる。そんなの不都合が過ぎる、総合判断としては使用すべきじゃない、自分で落とし穴を何個も掘るのはアホ過ぎる。もし思考を鈍らせたいなら、食事と睡眠と風呂だ、熱い風呂は最高だぞ」
「引く位に真っ赤になりますもんね」
「おう、体に線がくっきり付く程な。蒸し風呂も良いぞ、それと猫も」
「あー、私には金絲雀ですかね、最早ラジオですもん」
「あぁ、ラジオが有ったらアイツは凄いだろうな」
『すみません、子供で』
「子供がどうして子供なのか、そら無知だからだ、大人が老人を敬うのも同じく、未だに知らない事を知っているからこそ敬う。それはココでも向こうでも同じ、どんなに情報が溢れていても、信用度の問題が出る。そして結局は身に付くかどうか、正しい知識を正しく蓄えさせる、それが本来の教師や大人の役目なんだが、分断工作の果ての結果だな」
「分断工作?」
「戦争をせずに他国を崩壊させる方法だ、先ずは国民同士を分裂させ、果ては全ての関係性で分断を起こさせる。内側がグズグズになれば、内部崩壊が始まるだろ」
「あぁ、学級崩壊的な」
「それは、まぁ、単位を小さく見ればな。そうした事を各所で起こす、そして自分を守ってくれている国を国民に攻撃させ、国を破綻へ追い込む。そこを影から乗っ取れば、だ」
「先生、陰謀論者だったんですね?」
「いやコレはマジだからな?」
「冗談ですよ、成程なとは思いましたけど。実際にその例って有りました?」
「俺ら市民、しかも外国の者が分かる様には動かないだろうよ。ただ各国の責任者が集まる会議が有っただろ、アレで、どうしてあの国に味方してるんだ、と思う国が。お前、見て無いな」
「すみましぇん」
「まぁ要するに、揉め事が有った時、無関係か変な味方関係が出来てるな、と思った時点で全てを疑うべきだって事だ」
「んー、私の周りで言うと、誰と誰ですかね?」
「白家の暁霧だな、アイツに利が無さ過ぎる」
『彼は花霞を崇拝しているので大丈夫かと』
「「崇拝」」
『はい、花霞を眺めては尊い、と』
「いやそれ何かちょっと違う気がする、アイドル化してるだけでは?」
「あぁ、偶像崇拝こそアイドルの語源だからな」
『でも花霞を尊重して守りたいとは思ってくれてますよ?』
「あぁ、なら暁霧と朱家の雨泽か」
「ん?」
「構うにしても理由が不明瞭だろう」
「そうですかね?サイコパスだからだと思いますよ?構いたがりには最高かと」
「アイツ、そんなにヤバいのか」
「いや安全な方のです、無共感者って感じなだけで、ただ小動物を殺すとかは無いので絶対だとは言えないんですけど。頭の良さと、それこそ四家の加護で察して、上手く立ち回れてるっぽいな、と」
《じゃよ》
「だー、微妙に知るべきか悩んでた所を」
《どうして、何故言うたか、ワシらがお主ら転生者にまで関わる理由を考えてみると良かろう》
「お前らも関わりたいのか、人と」
《じゃよ、知られておるのと実際を知るとは大きな隔たりが有るじゃろ、しかも知られておる事と接する事には更に乖離が有るでな》
「あー、会えるアイドル」
「あぁ、成程な、偶に会えれば良いのか」
《いや滅茶苦茶に関わりたいんじゃけどね、介入の掟が有るでな》
「どんだけ」
「なら、懐く猫か、意思疎通が叶う僅かな者との接触」
《じゃの、敬われておると知ってはいても、こうして喋る事は叶わん。じゃから喋れとる時点で利益が発生しているも同義、そう思う者は少なくない》
「となると、ルーちゃんの奪い合いが起きてもおかしくないのでは?」
《じゃからこそ、本人が望む者としか関われぬのじゃよ》
「で、俺らがどんな神々が居るのか、の仲介役にもなるワケだな」
「おぉ、じゃあ知識の神様に安心安全な気の紛らわし方とか教えて貰っちゃいましょうよ」
『ハレムを解消する案は無いんですね』
「もし私がルーちゃんなら、そう願うのは分かります。けどじゃあ、春蕾さんだったら?先に接触して女装までして見守り続けたのに、後から来たけど古馴染みだからって素直に譲れますか?」
「あぁ、それこそコイツを前世から知るストーカーが来たら、お前は快く譲れるか?そうしろと言う花霞を本気で良いと思えるか?」
『いえ』
「ルーちゃんなりに執着と愛を見極めて下さい、私も手伝いますけど、真に見極められるのはルーちゃんだけだと思うので」
「つかそこだろうな、俺も違和感を覚えなかったんで今まで言わなかったが、お前はコレを愛せるのか?」
「いや私ってチョロいんで容易く誰でも好きになれる、筈、なんですよ」
「お前の前世は本当に残念だな」
「そうなんですよぉ、だからこそ、ご自分で見極めて欲しい。私だって愛を良く知らないし分からないんですよ、しかもアホだし容易いだろうし、本当に残念が過ぎる」
「どうだ、理想と違うか」
『いえ、理想とか特に無いので』
「あ、ちゃんと見比べました?本場の西洋の方とも」
『はい、そう言われるだろうと先生が言ったので』
「関わってみました?」
『いえ、どうしても、愚かだな、と。それに賢い人が居ても、殆ど既婚者ですから』
「あぁ、前の世界にしてみたらかなり早婚ですからねぇ」
「だな、まだまだそうした時代だしな」
「でも私、1.3倍程度ですよ?」
『でも花霞が良いんです』
「そもそも、ここ暫くは限られた関係の中でしか婚姻は果たされない。前の世界の様にネットで繋がる事も、直ぐに自由にあちこちに行く事も殆ど無い、だが国際離婚だなんだと揉めて子供が大変な事になるワケだ。結局は限られた範囲の中で選ぶ事が、最適解だと思うぞ」
「それは私達の場合で、ルーちゃんは自由じゃないですか」
必ずしも、自由かどうかで幸福度が左右されるワケじゃない。
そう言われた通り、僕は自由だからこそ、今まさに不幸を感じてる。
選べるんだから、自分じゃなくても良いんじゃないか、と。
『自由こそ正義、最強で最大の幸福だ、それって本当に幻想なんですね』
「おう、分断工作の一端だしな」
「どうにも陰謀論者臭いんですよねぇ」
「表立ってしないからこそ、陰の謀略、なんだろうが」
「まさに悪魔の証明ですねぇ」
『それです、僕は悪魔の証明を、神の証明を、すれば良いんですかね』
「叡智の神にコレで良いか聞くのか」
「相当の対価が必要では?目玉とか取られちゃうんですよね?」
『花霞がそこまでして欲しいならします』
「あー、いやー、対価が目玉確定でも、他の対価だったとしても凄い悩みますね。と言うか不幸しか無いと言われたらどうするんですか?」
『変える方法を聞きます』
「それこそ相当の対価が必要そうだけどな、それだけ介入度合いも高くなるんだ、寿命半分か?」
「えー、90から45になったとして、私が100まで生きたらどうするんですか?それで再婚無しはちょっと寂しいのでは?」
「そこがなぁ、誰か1人の願いを完璧に叶えられる様な世界じゃないからこそ、ココはこうして育ってるんだと思う。だからこそ、ルーが望む完璧な願いは叶わないんじゃないか、と思うんだかな」
「あー、結局は独裁国家と同じ状態になりますもんね」
「そこは信じるんだな、独裁国家が有った、と」
「あ、え?それも仕組まれてた?」
「考えてもみろ、その国にどの国も欲しがる資源が有ったとする、となったら徒党を組んで国を共有財産にする為の陰謀だったのかも知れんぞ」
「わぁ、ちょっと有り得そうとか思った自分が怖い」
「最初に情報操作をし、後から国に入り情報通りに虐殺する、そして平定し資源を共有。そうする為、各国に諜報員を潜入させ、時に要人を脅す」
「それ裏でやられてたら分かりませんもんねぇ」
「情報が漏れた時点で消されるだろうしな、家族も何もかも、それこそ他人を大勢巻き込んでの墜落なんかもな」
「ヤバ、有り得そう」
『ココでは無いですよ、まだ』
「なんせ神々と転移者が居るからな」
「そうなると、私はルーちゃんに奉仕すべきですよね」
こうなるのが嫌だったんだろうな。
『知られて欲しい事と知って欲しくない事が有る、良く分かりました。絶対に嫌です、僕が転移者だから好きって、凄く嫌です』
「だろうな」
「でも逆に、その位は良くないですか?」
『本当に好きで、愛して欲しいんです』
「こう、魔法か何かで」
「だな、それに本当に好きか愛しているか、誰が判定するんだ?」
『それは』
「神々か?お前か?その両方か?だとしてどう神々が本当の事を言っていると証明される、どう信じる」
神々から人へ、そして人から神々へ精神に介入する魔法は、御法度だと聞いているが。
『それは』
「あーばばばば」
「よしお前はそのままで居ろ」
『盟約魔法と言うものが有りまして』
「それは俺も知っているが、神々が自らの体を操り指を落とす事など、本気で不可能だと思っているのか?」
『それは、いえ、はい、可能かも知れませんが、神によっては』
「俺は神が停止、一時的にでも死を迎える程でも無い限り、証明とするにはあまりに浅過ぎると思うがな」
不死を大前提とした場合。
だが次は生死を操る者が居るとして、その者を信用出来るかどうか、そもそも死す神と生死を操る神の利害関係はどうなのか。
じゃあ、一旦は事の全てが把握出来たとして、次はその情報をどう信用するか。
『そこは、証明の証明が更に必要で、そうなると無限に、はい』
ほらな、結局は信じるか信じないか。
相手は圧倒的な能力を持つ不老不死、そもそも死を偽装しているのかどうか、その確認はどうするのか。
短命で能力の低い俺らが、継続しつつも正確には観測出来ない相手。
本来なら、花霞が無力感を感じても良い相手こそ、神々なんだが。
東洋人だから、なのか、尊び敬う事で恐れを回避している様に思える。
こう考えると理屈立っているな、荒神への扱いなんかは特に。
「あのー、いつまでこうしてれば」
「まだだ」
「はいー、あーばばあばー」
「で、どうなんだ」
『それでも、出来る事を、限界までは、したいです』
「だな、なら境を先ずは決めろ、それから話し合え」
『はい、すみません』
「お前はまだ若いんだ、気にするな。言葉にならない思いや考えが有る事は分かる、それこそ俺は覚えているからな、そうした苦痛や苦悩した日々を」
俺の大嫌いな大人の見本は、子供心を全く忘れた大人だ。
貴様は記憶喪失か、と。
しかも大人が言っていた嫌な事を、そのまま子供に口にする奴はもう、俺の知らない間に1度死んで他人に生まれ変わったとして全て縁を切ったが。
本当に、どうして初心を本気で忘れるんだか。
何でだろうな、誰もが子供の頃の嫌な事をしっかり覚えているだけでも。
いや、嫌だと言っていた事が、そもそもコチラに合わせただけの嘘か。
成程な、切って正解だったな、前世の俺。
『僕も、はい、確かにそう思います』
「あぁ、確かにコレは便利だな」
「あばーばあばば」
「もう良いぞ」
「はぁ、お茶淹れますね」
「本当に豪胆だなお前は」
「それアホって言ってますよね?」
「半分な」
「はいはい、知ってます知ってますー」
性根が腐ったのも居るが、元から愚か者も居る、それこそ薬でも直せない程のバカ。
コイツは全く違うんだが、言ってもどうせ謙遜で終わるしな、下手に自惚れられても困る。
俺としてはコイツにこのままで居て欲しいが、お前はどう思う。
『はい、僕もそう思います』
「おう、実に便利だなコレは」




