尚寝。
『すまないね、寝具替えだけを頼んだ筈なんだけれど』
「いえ、暑さで参ってる者も居ますから、なのでお菓子を追加で貰えるので、却ってありがたい限りです」
氷も沢山貰えましたし、四家巡りで初めて若様に会ったんですし。
こう言う時は軽くて助かるなと思います、生理。
『沢山飲んでね、汗をかいただろうし』
「はい」
けど冷たいモノをグイグイ飲むと、やられるんですよね、お腹。
コレはあくまでも涼を取る為、じゃないと下痢っちゃう、前世では便秘派だったんですけど。
『ぁあ、もう1つ扇が有るから貸すよ、頼めるかな』
《はい》
あ、もしかしてお2人ってかなり仲が宜しいんですかね、さっきも何か話してて殆ど途切れてませんでしたし。
『うん、それ』
《どうぞ》
「ありがとうございます」
尚寝だからって持って来なかったんですよね、あら素敵。
流石朱家、華やかで綺麗。
『ごめんね、ココまでして貰って』
「あ、いつもは違う手順でしたか?」
『いや、うん、いつもなら出てる時なんだけど、今日は寝汗を良くかいたから』
「あー、大変ですよね寝汗、私も偶にびっしょりかくので分かります」
どうやら男性ホルモンの作用みたいなんですよね、寝汗に下痢。
動き過ぎたりストレスで寝汗ガバガバ、何か有れば秒で下痢。
見た目ファンシーなのに、実態はこんなん。
夢を見れないんですよねぇ、この外見でも。
現実は厳しい。
《お代わりをどうぞ》
「ありがとうございます。あの、お2人は仲が宜しかったんですかね?」
『あぁ、まぁ、少し。話し相手になって貰ったんだ』
「成程」
綺麗ですもんね。
あ、もしかして女性だと思ってるんですかね、急に会話が止んでしまいましたし。
えっ、どうしよう。
いや、もしかしたら宦官だって分かってて。
えっ、もしかしてブロマンス?
えー、なら初めて生で見るなぁ。
となると、私、お邪魔では。
『えーっと、君はどの地区の子?』
「あ、中央です。けどお婿探しはしておりませんのでご安心下さい、商家の娘として世間を知れ、との事で送り出されましたのと。毛色の事も弁えておりますので」
『なら、どうして黒く染めたりだとかをしなかったんだろうか』
「そこですよねぇ、考えはしました。けど一時的に誤魔化しても、逆に騙されたと思う方も出るかも知れませんし。親兄弟は好きにしろとは言ってくれてますけど、好きなんですよこの色、日の出の雲海だって褒めてくれてるので」
『なら、嫁入りや婿の条件は?』
「大きい家は先ず無いですね、利用される心配をされてるので、それから小さ過ぎたり傾いてる所もダメ。なので中位の商家ですかね、程々のお家で、ご兄弟かご姉妹が居れば尚、良いなと」
『それはそれで苦労しそうだけどね』
「万が一にも大いに惚れて、なのに子が出来なかった場合が辛そうなので嫌なんです、思った通りにならないと私が体現しちゃってますから」
『その言い方だと』
「あ、いえ、祖先に居るんだそうです、先祖返りです」
ほんのりと母に似てるんですが、父とは体格と耳しか似てない。
それで疑わなかった父、ぐう聖過ぎる。
《四の宮様》
「あ、長居してすみません、直ぐに家具を戻しますね」
『ぁあ、うん、ありがとう』
コレが終わったら、1度お風呂に入らせて貰お。
あ、と言うか独身男性の部屋に初めて入ったんだ、自慢しよ。
「では」
『また来てくれるかな、話し相手に』
「お仕事が忙しくなければ叶うかも知れませんね、扇をありがとうございました、では」
《では私も失礼します》
「あ、お話は良いんですか?」
《はい、戻りましょう》
「あ、じゃあもう少し氷を良いですか?」
『あぁ、うん、どうぞ』
「ありがとうございます」
私の腰を摩すりながら自慢だなんて、やるじゃない花霞。
《アナタ、初めて入ったの?》
「血縁者じゃない男性の部屋は初めてですねぇ、扇を貸して頂いちゃって、やっぱり持ち歩いた方が良さそうですね」
『明日には大丈夫な筈なので、そうしますね』
私は腹痛。
小鈴は頭痛。
漢方を飲んでも、どんなに食事を気を付けても、コレ。
本当は妊娠すれば済む話なのですけど、まだまだもっと学びたいし、何よりも相手が居ない。
《私ね、コレ、妊娠すれば軽くなるわよと、言われてるのよ》
「あー、ウチでも聞きますね、3人も産めば軽くなるって」
『でも産んでもあまり変わらないって人も居るって聞きますよ?』
《そこよね、産んでも、って。けど私、相手がね、居なくて》
「そこ不思議だったんですよね、大商家なのに居ないって」
《私が捨ててやったの、か弱く何も出来無い女が良いって言うから、捨ててやったの》
「賢い選択ですね、英断です」
『報復はどの様に?』
《万が一の違約金だけ、順調なら、次の白家で会えるわよ》
「凄い、面の皮が万枚張り」
『えっ、四家巡りを?』
《流石に向こうの、元婚約者の家はちゃんとしてるから、こなせなければ許さないって》
「程良く不器用にこなせるんですかね、私なら無理だなぁ」
『念の為にお名前をお伺いしても?』
《郁久閭・紗那隣のモンゴル共和国の、柔然族》
「どうやって殺そうか?」
『頭が回らないので素直に毒殺ですかね』
《良いの、私も聖人君主では無いから、老いて死ぬまで苦しむ様を見て、やるの》
「えー、せめて顔は焼きましょうよ、半分」
『右?左?』
「自慢の方」
《ふふふ、馬鹿ね本当、ダメよ、アナタ達の手を汚すまでも無いわ。ありがとう、次は小鈴をお願い》
「痒い所は御座いませんかぁ」
『あー、ありがとうございますぅ』
《はい小鈴、さすって》
『成程、コレで完璧ですね』
四家の四も好きだけど、三って数字、完璧よね。
「寝ちゃいましたね、小鈴のナデナデの方が上手なのかも」
『動物と同じにしてはアレなんですが、ウチに色々と居て、それのお陰かもですね』
「あぁ、それでラクダは食いたく無い、と」
『出されたら食べますよ、もうお料理にまでなったら生き返らないんですし。でもあの顔を思い浮かべると、どうにも』
「カエルも可愛いですよ、アマガエル」
『ですよねぇ、私も何になるか決まって無いんです、正確に言うと迷ってるんです』
「動物のお医者さん?」
『惜しい、学者です、動物の学者か植物か。どれもやりたいんですけど、四家巡りが終わるまでに決めなさい、って。でも、結婚となると、お相手に反対されたら嫌だな、と』
「それ言いました?ご両親に」
『言えて無いんですよね、心配しなくても大丈夫だって、好きして良いって。でもコレ以上迷惑を掛けたく無いし、欲を言うと同業者と結婚したいな、と』
「同業者かぁ、それはオススメしません。拘りから衝突して喧嘩になる事が多いし、幾ら夫婦でも私生活が疎かになりがちになる。従姉妹の家がそうで、途中から専門を鞍替えするか離縁か、ウチの両親が迫ったんです、子に良い状態では有りませんでしたから」
『それで?』
「専門を鞍替えしました、それこそ綿と絹、お陰で平和になりました」
『それは、どちらかが折れたのですよね?』
「いえ、ウチの両親が決めました、丁寧で器用な方を絹へ。嫌なら離縁だ、今直ぐ決めろと、だからこそ今は支え合って仲も良い。全く同じはオススメしません、少しズラした方が良い」
『でも、どれかに決める、決め手が無くて』
「何の為に学ぼうとしてます?富や名声?それとも好きだから?」
『好き、だから、ですけど』
「なら全部で、絶対に1つの専門しかダメじゃないと思うんですよ、綿しか知らないで布は語れませんから。ね?」
『でも、だって、凄い欲張りでは?』
「好きにして良いって言われてるなら、それが叶いそうなら、欲張りでも何でも無いのでは?」
『でも』
「誰かに言われましたか、欲張りって」
『はぃ』
「それは恵まれない人の言葉では?立場も富も違う者の筈ですよね?」
『ぐぅ』
「はい私の勝ちー、解決したからもう大丈夫、コレで安眠間違い無しですよぉ」
花霞の相談に乗るつもりだったのに、私が乗って貰ってしまった。
しかも、こんなにあっさり解決だなんて。
きっと多分、好きにして良いって、友人を作れってこの事だったんですね。
『ありがとう』
「いえいえ、おやすみなさい小鈴」
『おやすみなさい花霞』




