四家巡り。
今は中つ国と呼ばれるその国は、昔は4人の王が統治しておりました。
東に青龍を祀る藍家、南に朱雀を祀る朱家。
西に白虎を祀る白家、北に玄武を祀る墨家。
そして4人の王しか知らぬ存在、姚家は麒麟を祀り、各王家の中央に位置する場所にひっそりと居を構え。
当主は中央の王であると民に知られる事も無く、普通の貴族として過ごしておりました。
ですが姚家の末娘、花霞の容姿は、少し変わっておられまして。
「どうして私は、金髪碧眼なんでしょうか」
《何代前かの方にいらっしゃいますので、はい》
「家系図には」
《御座います》
「前から思っていましたが、言い渋るとはつまり、そう言う事なんですよね」
《はい》
「はぁ」
《ですが、だからこそ、良いご容姿でらっしゃるかと》
「コレで四家を回って誰かが娶りたいと言い出しても、どうせ稀有さからでしょうよ」
《善きお方に巡り会えると良いですね》
中央を含め各地区の生娘が、四家を巡るのが通例となっております。
春に生まれた者は春に藍家から始まり、夏には朱家へ、秋には白家、冬には墨家へ。
生まれた季節に従い、季節が変わる毎に四家を周り、縁談が成立しなければ中央へ戻る。
全ては姚家が四家を見定める為の行事、花霞は選ばれるのでは無く選ぶ側。
ですが、コレから出会う王太子達は選ぶ側だ、と。
因みに、普通の者は中央へ戻っても評判は落ちません、寧ろ欲目に溺れぬ賢い娘として縁談が良く舞い込み。
四家の貴族に見初められた際には、親孝行者だと、どちらにしても良い方へ転がる様になっているのです。
「はぁ、行って参ります」
《はい、行ってらっしゃいませ》
私は転生者、しかも家族にはバレてはいない。
だからこそ四家巡りなどと言う行事に参加するしか無く、泣く泣く、王族と関わる事に。
バレたら終わる。
そう思い今まで目立たぬ様に、ひっそりと生きてきたと言うのに。
【見定めてこい】
とか親に言われているのです。
それがウチの役目なのだそうです。
凄い、面倒臭い。
「中央より参りました姚家の花霞と申しますが、コチラ東の藍家で宜しかったでしょうか」
迎えは無し、自力で現地集合しないといけないんです。
クソ面倒。
《玉牌をお見せ戴けますか》
「はい」
玉牌は身分証です。
上から地区、家、個人の3つの牌を持って無いと、生まれた地区意外は出歩けません。
私の場合は中央なら、個人のだけで良いんですけどね、個人の身分証と言えども地区と家は分かる様になってるんですし。
まぁ、地区と家も許可してますよ、の印しだからしょうがないと言えばしょうがないんですが。
《拝見させて頂きました、先ずはご記帳をお願い致します》
で、ココで字が書けるかどうかの確認です。
敢えてギリギリ読める程度の悪筆で通します、重用されても見初められても面倒なので。
いやまぁ、見初められ無いかもなんですけどね。
稀有過ぎて道中は見られるまくってましたし。
『では改めて玉牌をお願い致します』
「はい」
厳重。
まぁ、王族ですしね、仕方無い仕方無い。
『はい、ありがとうございました、では次にお進み下さい』
次に進んで渡されたのは、家訓。
《夕刻までコチラでお読みになってお待ち下さい》
今は春だから良いけれど、他家でも全てこうなのでしょうね。
冬の墨家、寒そう。
昼餉は豪華にも多種多様な飲茶だった、仕出しと自前とで用意したらしい。
そして夕餉は、粥と切り身の焼き魚と青菜炒め。
何処もこんな感じですし、後は寝るだけですし。
そしてお風呂、明日からは役回り毎に順番制なんですが、今日はココへ来場した順。
そうなんです、入れるんです、庶民でも普通に湯屋で入れる。
明らかに異世界ファンタジーなんですけど。
違うんです、歴史がガッツリ有って、少なくとも知ってる歴史には沿ってて。
でもかなり違う。
見知らぬ乙女ゲーか何かかと思ったんですけど、私、法術が殆ど使えないんです。
残念、魔力弱子な稀有外見の両性具有なんです。
すみません女性の皆さん、目立つモノも妊娠させる機能も無いので、どうか許して下さい。
『お名前を宜しいですか?』
「あ、姚・花霞です」
『はい、では木札をどうぞ、中で鍵として使えますから失くさないで下さいね』
「はい」
凄い、銭湯と同じ。
《わぁ》
『凄い』
ですよね、湯屋と同じ、お屋敷内に湯屋が有るんですもん。
「ありがとうございました」
《少々お待ち下さい、はい、姚・花霞さんですね》
「はい」
《コチラをどうぞ》
「あ、はい、どうも」
名札。
湯上がりに何を渡されるのかと思えば、字と役職入りの名札、それとお仕着せ。
ココの世界は滅多に字を使わないんですよね、外では特に。
まぁ玉牌が有りますしね、本当に最早、字。
《部屋は名札に描かれた植物と同じ紋様が描かれた棟です、コチラを真っ直ぐお進み下さい》
「はい、ありがとうございます」
うん。
広い、デカい。
あ、同じ印。
同じ、よね?
誰も居な。
いや、もう寝てるのかしら。
なら静かにしないと。
でもなぁ、厠の場所も何も分からないし。
うん、ちょっと戻って誰かに。
《ひゃっ》
「ひょぅ」
《あ、すみません、急に振り返ると思わず》
「コチラこそすみません、少し困ってて、考え事をしてまして」
《何か有ったんですか?》
「誰もいらっしゃらないので、厠等の場所が分からずでして」
《あぁ、案内しますね》
「ありがとうございます、私、姚・花霞と申します」
《どうもご丁寧に、春のつぼ、蕾のチュンレイと申します》
チュンレイ?春蕾?
「春蕾、さん、随分と藍家にお似合いのお名前で」
《ぁあ、ココでの字なんです》
「あ、私の字は、桂花です」
《お似合いのお名前で、ではコチラへ》
「はい、どうも」
私の見た目通り、字は金木犀。
コレ他家に行った時も伝えようかしら、一々考えるの手間でしょうし。
《どうぞ、コチラです》
「ありがとうございました」
《いえいえ》
お名前とは違って柔らかい物腰の方、どうして春の雷などと、男勝りな字を頂いちゃったんでしょうか。
アレですか、凄い足が早いとか。