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狂信 ~『敵地』へ~

「ふわあぁ……ったく、ねみぃなぁ…」


――翌朝、我々は潜入先の研究所へと向かっていた。まだ日が昇り始めている時間……車を運転する鬼島警部は、いまだに眠たそうに眼をこする。昨晩、私が作った夕食を食べた後はそのまま風呂に入ってもう一度眠りについたようだが、それでもこれだけ朝が早いと眠いらしい。かくゆう、私も少し寝不足気味だ。私は鬼島警部に、今日はお互いに寝不足気味が原因でボロが出ないようにしようと言った。


「わかってるよ、そんなこたぁ…」


 ダルそうにハンドルを握りながら、鬼島警部は答える。幸い、昨日も今日も尾行はされていないようなので、今だけは気を緩めてもいいだろう。もっとも、油断はできないが……。

 私達は今、昨日の高級住宅地を通り過ぎて国道を外れて県道を走っている…が、先ほどから少し田舎の風景が見えてきた。田んぼやあぜ道に混じって、新興住宅に代わって田舎のおばあちゃんの家といった住宅がチラホラ見えるようになる。


「おっ、見えてきたぞ?」


 鬼島警部の言葉に、私は思わず前を見る。

 前方には、林に囲まれるようにして例の研究所の建物が見えていた。建物全体は白を基調としており、屋根は群青色に塗られている。見た感じでは二階建てのようだ。しかし、施設自体はそれなりの広さがある。まるで、田舎にポツリとある老人ホームのようだ。窓にはカーテンが掛けられていて、外から中の様子が見えないようになっていた。

 私は鬼島警部に言って近くにある併設された駐車場に車を停めてもらってタブレットを確認すると、それほど山奥でもないのに圏外になっていた。

 そのことを鬼島警部に告げると、彼女も自分の携帯を取り出して『こっちもだ』と舌打ちする。

 気になって施設の周囲に目を向けるが、外壁の電流フェンスに等間隔で、何かの機械が設置されている。おそらく、あれのせいだろう。私がそのことを告げると、鬼島警部は眉間にシワを寄せた。


「ちっ! いったいここでなにやってんだ? あわよくば、施設の写真なんか撮ろうと思ったのに……」


 それは、私も同じ気持ちだった。どうやらこの研究所は、かなり厳重なセキュリティが施してあるらしい。まぁ、よく考えれば『組織』の下部機関なのだから、さもありなんか……だが、そのことが、周囲ののどかな風景とのミスマッチを生み出している。ハッキリ言えば、悪目立ちしているのだ。これは『組織』の隠密性を重視する気風に反している。それだけでも、目の前の施設や、そこで働いているであろう研究グループに対して、何か言い知れない不安や違和感を覚える。

 だが、今は潜入調査中だ。気持ちを切り替えよう……私はそう考えて、待ち合わせに遅れてはならないと鬼島警部に言って、彼女と共に車から降りた。それから、建物の入口へと向かう。幸い、重厚な外壁に比べて、施設の敷地に入るための正面出入り口は誰でも通れるようになっていた。私達はそのまま施設の正面玄関の自動ドアの前に立つと、ドアは機械音を立てて開く。


「……よし、行くか」


 鬼島警部は小声で呟いてから、研究所の中へと入って行った。私もその後に続く。

 中に入ると、すぐに受付があった。そこには、スーツを着た女性が仕事をしているようだった。


「あの……」

「はい。何か御用でしょうか?」


 鬼島警部に問われた女性は彼女に向かって、笑顔で話しかけた。鬼島警部はうなずく。


「はい……」


 彼女はさっそく『精神疾患のある田舎ヤンキーの女性』になった。私も彼女と同じように、『精神疾患のあるボサボサ・ボブカット三つ編み』になる。


「……はい、確かに承っております。こちらへどうぞ」


 女性はそう言うと、受付のカウンターテーブルに『外出中』の札を立てて我々を先導するように歩き始めた。我々は黙って彼女に付いていく。

 そのまま緑色のリノリウムで出来た廊下をしばらく歩くと、女性はある一室に入っていた。


「どうぞ」


 部屋の扉を開けたまま、女性が私達を招き入れる。

 そこに入ると、中は大きな部屋だった。部屋の中には長机がいくつか置いてあり、その上にはいくつかノートパソコンやプロジェクターが置かれている。


「どうぞ、おかけください」


 女性に言われて、我々は適当な椅子に腰かける。


「それでは、ご説明させていただきます。まずは自己紹介ですね。私は、この研究所で事務職員兼カウンセラーとして働いている黒石くろいしと言います。以後、よろしくお願いします」


 職員の女は頭を下げた。私は無言のまま、女を見る。年齢は二十代後半くらいだろうか? 眼鏡をかけた、真面目そうな顔つきをした女性だ。髪は肩にかかる程度の長さで、後ろの方で束ねられている。服装は、普通のOL風だ。


「それではまず、これからの流れについてご説明したいと思います。よろしいでしょうか?」


 我々は同時にうなずいた。それを見た職員の黒石は、手元にあったリモコンを操作する。すると部屋の壁の一部が開いて、そこからスクリーンが現れた。そこにプロジェクターで映されていたのは、『サルス研究所』と書かれた地図だった。


「現在、この施設は『サルス研究所』という名前の元、様々な研究と治療が行われています。主に行っているのは、精神疾患の治療とその研究です」黒石は淡々と話す。

「この施設の主な目的は、病気によって心に傷を負ってしまった方々を癒すことにあります」


 画面には、研究所内の見取り図が表示されていた。どうやら、この研究所はかなり広いようだ。見た感じでは、一階は様々な目的の部屋に分かれており、二階は入院患者用の病室となっているらしい。


「また、ここの研究所には様々な精神疾患に関する書籍や、DVD、資料なども置かれており、自由に閲覧できるようになっています。それらのものは無料で見ることができますので、ぜひ一度足を運んでみてくださいね」そう言いながら、黒石は笑顔を見せた。

「続いて、ここからが重要なのですが、ここには通院されてくる方以外にも長期入院されている様々な患者さんが収容されています。皆さんも知っている通り、精神疾患は現代社会において深刻な問題となっております。しかし、まだ偏見なども多く、なかなか理解が得られにくい状況です。

 ですが、どうかそういった方々の言動について、あまり気にしないでください。もちろん、少しでも辛くなったらそのカウンセリングも無償で行っていますので、気軽に相談してみてください。また、もし不安や恐怖心を感じた場合は、近くのスタッフに話してみてください」


 黒石は、そこで一旦言葉を切る。それから彼女は、「以上がこの施設の説明になります。質問があればどうぞ」と言った。

 私は少し考えて、この施設での研究は、やはり精神病や精神障害に関することを専門的に研究しているのか尋ねた。


「はい、そうです。特にここでは、新しい治療法の確立を目指して、日々実験と臨床を並行して進めているんですよ」なにか、含みを持たせた言い方だな……。

「ちなみに、どのような実験をしているのですか?」鬼島警部が尋ねた。

「そうですね……たとえば、精神疾患の患者の脳波を測定したり、ストレスが引き起こす症状を調べたりといった感じです。他にも、脳の構造について詳しく調べて、精神疾患の原因となっている部分を解明しようと頑張っているところですよ」


 黒石は楽しそうな口調で言う。だが、そんな彼女の様子とは裏腹に、我々二人は彼女の言葉を素直に信じることができなかった。もっとも、それは事前にこの研究所について『その者』から色々と聞かされているからだが……。


「他には、どんな研究を行っているんですか?」鬼島警部がさらに尋ねる。

「そうですね……ここで行われている治療の一つに『薬物療法』というものがありまして……」


 そう言ってから、黒石は部屋の隅に置いてあった棚から、小さな袋を取り出した。そして、その中から錠剤を一つ摘まむと、我々の前に差し出す。


「これは、ある薬のサンプルなんですけど……」


 黒石はそう言うと、私たち二人を見つめる。それから彼女は、手の中にあるものを指差した。


「この薬を飲むと、服用者の身体の中にナノマシンが投与されます。その後、脳内にある特定の部分に働きかけることで、精神疾患による様々な症状を緩和させることが可能となります」


 黒石の言葉を聞いた鬼島警部は、その表情を曇らせる。


「……あの、その『ナノマシン』というのは、本当に安全なんですか? 副作用とかはないんでしょうか? それに、その薬を飲んだ人間は、いったいどうなるのでしょうか? その薬を飲み続けたら、人体に影響が出るようなことはありませんよね?」


 鬼島の問いに対して、黒石は微笑を浮かべたまま答える。


「安心してください。この薬は安全で、副作用も一切ないと言われています。ただ……」黒石はそこで一瞬だけ黙り込む。

「この国…だけではないですが、投薬によるナノマシン治療はいまだ認可されたことがないんです。ですから、実際にこの薬が役に立つのはもうしばらく先ですね」黒石は、穏やかな声で言った。

「そうなんですね」鬼島はそう言うと、再び黒石の顔を見る。

「それでは、他にこの施設で行われている研究について教えてもらえますか?」

「えぇ、いいですよ。たとえば、こちらでは精神疾患の治療と並行して、精神疾患の予防について研究を行っています。その研究内容は多岐にわたっており、例えばストレスを軽減するための運動方法の開発や、脳の活性化を促すための勉強法や生活習慣の改善などについても取り組んでいます」

「へー、ずいぶんと色々な研究をされているんですね」


 鬼島警部が感心しながらつぶやくと、黒石は嬉しそうにうなずいた。


「ええ、そうなんです。人間の脳や精神はまだまだ把握されていない能力や機能がたくさんあると考えられています。一見、精神疾患と関係のないものでも、後々になって役に立つということもあり得ます」


 黒石は興奮気味に話す。そんな彼女を横目に見ながら、私は思った。


(もしかしたら、彼女はこの施設の事を褒めて欲しいのかもしれない)


 おそらく、彼女にとってこの研究所は自分の自慢の職場であり、誇りなのだ。だから、こうして胸を張って話をしているのだろう……黒石の話はまだ続く。


「それと、この施設には様々な診療科が併設されております。皆さんの体調に関する悩みや、心の病などは、ぜひ気軽に相談してみてください。一つだけ診療を受けただけでは分からなかったり、あるいは誤診なども起きたりする可能性がありますが、複数の診療科を受診することによって病状を正しく特定することができます。

 病状の特定が早まる分、治療に専念できますし、当然ながら、治療期間が早い方が回復にかかる期間も短くなりますから」


 私は黒石に、病院でもないのにそれだけのことができるなんてすごいと、彼女が好みそうなワードを使って返答した。すると案の定、彼女はとても嬉しそうに笑う。


「ありがとうございます。そう言っていただけると、私としても嬉しいです。ここでは患者さんに寄り添った医療の提供を第一に考えていますので、何か困っていることがあったらいつでも来てくださいね」

「そうですね……もし何かあれば、よろしくお願いします」


 鬼島警部はそう言うと、黒石に頭を下げる。


「はい、もちろん!」黒石は笑顔のまま答えたちょうどその時――。

「あら、もう来ていたんですね」

「あ、所長!」


 おそらく職員用と思われる出入り口から、昨日出会った白衣の女性が現れた。


「おはようございます。今日は良い天気ですね」女性は私たちに挨拶をする。

「おはようございます……」


 鬼島警部が返事をすると、白衣の女性は黒石と我々を交互に見やって言った。


「もう黒石さんからはだいたいのことは聞きましたか?」

「えぇ、聞きました……」


 鬼島警部に続いて、私がとても素晴らしいことをしている施設だと伝えると、白衣の女性は黒石と同じような笑みを浮かべる。


「そうですか。それでしたら、私の方からも説明させてもらいますね。この施設では、精神における様々な治療を実施、または研究しています。特に最近では、ナノマシンを用いた新しい治療法の確立に向けて頑張っているところです」


 そう言うと、彼女は手に持っていたカバンからタブレット端末を取り出して操作し始める。そして、それを私たちに見せてきた。


「こちらが現在研究中のナノマシンになります。このナノマシンは、脳内にある特定の部分を刺激することによって、精神疾患による症状を緩和することが可能となります。ただ、まだ研究段階なので、今のところは投薬によってしか治療を行うことができないんですけどね」


 私は感心したような声を漏らしながら、画面を見つめる。その画面には、私達が先ほど黒石に見せられた錠剤が写っていた。

 しかし画面が切り替わると、それとは別に直径1センチほどの小さなカプセル状の物体が映し出されていた。それは一見すると、市販されている風邪薬の錠剤に似ているように思える。

 私がこの薬の名前を尋ねると、白衣の女性は微笑む。


「これは『インフェクト・ワン』といいます。その名の通り、一粒で一つの効果を得られるナノマシンです。例えば、この薬を飲むと、身体の中に『免疫機能』が投与されます。その結果、ウイルスに対する抵抗力が高まるというわけです」

「なるほど……。つまり、インフルエンザとかの病気に感染しにくくなるということですか?」


 鬼島警部がそう言うと、白衣の女性はうなずく。


「そうですね。この薬は投薬することによって体内に抗体を生成するため、結果的に感染リスクが低下することになります。

 また、このカプセル薬の中身を別のナノマシンに変えることによって、ストレスによる精神的ダメージを和らげることも出来ます」

「へー、凄い! これがあれば、辛い病気も怖くなくなるんですね!」私は思わず声を上げた。

「はい! その通りです!」黒石は嬉しそうに答える。

「でも、どうしてこんな薬の研究をしているんですか? 今までのような薬剤ではダメなんですか……?」


 私も思っていた疑問を、鬼島警部はそのまま口にする。すると、白衣の女性は静かに口を開いた。


「実は……最近になって、我が国でもようやくナノマシンを使った治療が認められるようになったんですよ。この施設では、このナノマシンを有効活用するために優先的に研究開発を行っているんです」


 彼女はそう言うと、黒石の方を見る。


「それじゃ、黒石さん。あとは私に任せてください」黒石は元気よく返事をして立ち上がる。

「はい。院長。それじゃあ、皆さん。またお会いしましょう!」


 黒石はそう言い残すと、足早に部屋から出て行った。

 私は白衣の女性に、あなたは何者なのかと質問をした。


「私はここの施設の責任者である、高梨たかなしかなえと言います」彼女はそう名乗ると、軽く会釈をする。

「ここの施設は、今から15年ほど前に設立されたものです。当初は、精神疾患に関する研究が主だった目的でした。しかし時を経るにつれて施設の規模や質が拡大し、今に至ります」私が相槌を打つと、彼女は話を続ける。

「私自身について言えば、この施設の設立者である祖父の意思を継ぎたいと考えています。祖父は私にとって目標であり、憧れの存在でしたからね」

「そうなんですか……、立派な方ですね」鬼島警部がそう言うと、彼女は微笑んだ。

「ありがとうございます。さて、そろそろ施設の案内でもしましょうか。どうぞ、こちらへ」


 私たちは彼女の後に続いて、建物の中を見学することになった。

 建物の一階は通路に沿っていくつもの扉が設置されている。その中には、診察室と思われる場所もあった。


「皆さんは普段どんな生活を送っているんですか?」私はふと気になったので、彼女に尋ねてみた。

「私達、ですか?」高梨は意外そうな声を上げた。

「そうですねぇ……基本的にはこの研究所で仕事をしています。まだこれといった研究成果はないので学会への出席などはしていませんが……まぁ、やりがいはありますよ」


……なんだか、上手くはぐらかされた気がする。

 高梨と私達はそのまま歩き続け、目の前にあった部屋の扉を開ける。そこは、様々な種類の薬品が並ぶ棚が置かれた研究室のような場所であった。


「ここは主に薬剤を研究するための研究室となっています。ちなみにこの研究所では、製薬の他にも工学的にナノマシンを研究していたりします。先ほど見せたナノマシン入り錠剤も、その研究の一環で開発されたものなんですよ」


 私が感心していると、高梨が急に真面目な表情になる。そして、私の目を真っ直ぐに見つめてきた。


「日々の製薬研究もそうですが、ナノマシンは、医療における産業革命なんです。近い将来には、認知症などの治療にも応用できるかもしれません」


 彼女はそう言うと、真剣な眼差しのまま言葉を続けた。


「ただ残念なことに、この国ではありとあらゆるがんじがらめの法規制や許認可があるため、なかなか思うような研究や実験が出来ません。もう少し規制が緩和されれば、すぐにでも人々のためになる医療技術を開発できるのに……」

「それは素晴らしい考えですね! 是非とも頑張ってください!」


 私が興奮気味にそう伝えると、高梨は嬉しそうに微笑む。


「ありがとうございます。この研究所で、多くの人が幸せになれるよう努力します!」


 彼女は力強くそう宣言すると、再び歩き始めた。その後も施設内を見て回ったが、特に不審なものは見つからなかった。最後に、私は高梨に質問をしてみることにした。


「あの……一つだけ質問をしてもいいでしょうか?」私がそう言うと、彼女は笑顔でうなずく。

「はい、なんでしょう?」

「えっと、この施設って何人ぐらいの方が働いているんですか? あと、勤務体制とかも教えてもらえたら嬉しいです」


 私が注意深くそう言うと、彼女は少し考える素振りを見せる。


「そうですね……ざっくり計算すると、現在は職員を含めて100人ほどいると思います」

「100人もっ!? かなり大規模なんですね……」鬼島警部は驚いた様子でそう言う。

「はい。皆さんには、本当に感謝しています。祖父が亡くなった後も、こうして施設を維持してくれましたから」高梨は嬉しそうに話す。

「そうだったんですね。ちなみに、お祖父さんはどのような人物だったんですか?」鬼島警部がそう聞くと、高梨は目を細めて言った。

「祖父は優しくて強い人でした……誰よりも研究熱心で、常に自分の理想を追い求めていましたね。だからこそ、こんな立派な施設を作ることができたのだと思います。亡くなった今でも、祖父のことは尊敬していますよ」


 そう言って微笑む高梨の顔が、やけに印象的に私の脳裏に焼き付いた。

 こうして、私達は彼女の案内で施設内の見学を終えた。そして施設の外に出ると、辺りはすでに暗くなっていた。


「今日は色々と見学させていただき、ありがとうございました」鬼島警部がそう言うと、高梨も笑顔を浮かべる。

「いえいえ、こちらこそ。皆さんのお陰でとても楽しい時間を過ごすことができました。お二人の通院は来週からになりますので、またその時にお会いしましょう」彼女はそう言うと、軽く頭を下げる。

「それじゃあ、失礼いたします」


 鬼島警部の言葉に続いて、私は高梨に別れを告げると、その場を後にする。

 駐車場に停めてあった車に乗り、そのまま走り去ろうとすると、高梨がまだ笑顔で見送っていたので、私達は変わらす弱々しく会釈をする。そしてしばらく林道を走り、騒がしい国道に出てスマホを確認する……どうやら、もう使えるようだ。ここまでくれば、妨害電波の影響を受けないらしい。私は、運転中の鬼島警部に話しかける。


「……なに?」


 鬼島警部はなおも弱々しい態度で応えた。私はそのまま家に帰るように言った。


「うん……」


 そのまま、私達は例のアパートまで帰った。そして、駐車場にていつも通りに盗聴器の確認作業をした後、例のごとく鬼島警部が息を吐く。


「はぁ…どうやら、今回もなんか仕掛けられてはねぇみてぇだな。やっこさんの本拠地に車を停めたから、てっきりなんか仕掛けてるかと思ったのに…」


 私は、それは幸いであることを彼女に伝えて、そのままある場所へ向かうように言った。


「……ああ…ま、見張りはいねぇみたいだから、そのまま行くか」


 こうして、私達を乗せた車は街灯の光が届かない闇夜に消えていった。

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